何てことない日常
久遠由純
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シナリオ形態
ショート
難易度
Very Easy
判定方法
カジュアル
参加制限
総合600以上
オプション
参加料金
100 SC
参加人数
1人~2人
優先抽選
50 SC
報酬
500 EXP
10,000 GOLD
10 FAVOR
相談期間
2日
抽選締切
2024/04/03 10:30
プレイング締切
2024/04/05 10:30
リプレイ完成予定
2024/04/16
関連シナリオ
-
  1. オープニング
  2. -
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ
●きみを迎えるsunny day
 どこを見ても花、花、花……赤や黄色、オレンジにピンク、白や水色、青、紫、緑……あらゆる色彩の広がる海。
 ここは季節関係なく、花という花が常に咲いている島だ。

 魅朱(ma0599)は淡い桃花色の髪をふうわりと波打たせながら、花畑島に降り立った。
 その後ろからは美味しそうなおはぎ色をした毛並みの黒パジャモの幼体、すあまがてこてこと付いて来る。
「すあま、足下気を付けてね……?」
「がー!」
 母と慕う魅朱とのお出かけに、パジャモリュックを背負ったすあまは上機嫌。まるで『るんるん♪』という擬音がその体から出ているようだ。
「ここに来るのも久しぶりだね……。でも相変わらず花で一杯……」
 花の香りがする空気を、魅朱は深呼吸する。
 すあまも魅朱の真似をして深呼吸。いつもと違う匂いの空気を味わった。
 魅朱とすあまの後ろからは、貴族然とした背の高い人物がやって来る。
「ここが花畑島か……。確かに見渡す限りの花畑だな」
 驚きの混じる声音で言ったのは、ルナール・レルム(ma0312)だ。実際過去には貴族であり、今も公爵として振る舞っている。
「遅れず来い」
 ルナールがちらと後ろに顔を向けると、そこにはルナールの神獣、ルグラヴィがいた。
 まだ幼体ゆえに子犬のような外見ではあるが、毅然とした姿勢でクールな雰囲気がある。
「るぐー……」
 若干不服そうにしながらも、ルグラヴィはルナールのすぐ傍まで歩みを進めた。

 魅朱とルナールは友人同士であり、以前に魅朱がすあまをルナールに紹介した際、ルナールも神獣と出会えたら紹介して欲しいと言っていたのだ。
 その後ルナールが神獣を迎えたので、今回お花見も兼ねたお披露目の場を設けようということになり、その場所にこの花畑島が選ばれたのだった。

 魅朱はルナールのルグラヴィの前に目線を合わせるように屈み、
「はじめまして……私、魅朱……。ご主人のお転婆な友人をしています……」
 微笑みながら自己紹介をした。
「お前は……ツヴィシェンツークだ」
 今ここで初めて名付けをするかのように、もしくは改めてその名をしっかりと分からせるかのように、ルナールは神獣に告げる。
「聡明さと勇気を持ち合わせていないと指せないチェスの差し手を由来とする名だ。その名に見合う優秀な働きをすることを期待している」
「……るぐぅ」
 神獣ルグラヴィはルナールの目を見つめ、それを了承したかのように一声鳴いた。
「ツヴィシェンツーク……。ツヴィちゃんって呼んでも、いい……?」
 魅朱も神獣の名と由来を了解しながら、ツヴィシェンツーク本人へと尋ねる。
 ツヴィシェンツークは迷うように少し視線と首をさ迷わせてから、仕方ないとばかりに魅朱と目を合わせて許可した。
「ふふ、ありがとう……。あ、この子はすあまだよ……。今日はよろしくね……?」
「が!」
 魅朱に紹介されたすあまは元気良く手を上げてご挨拶。
「るぐ」
 ツヴィシェンツークはすあまにもクールに短く返したが、すあまはあまり気にしておらず『一緒に行こう!』と朗らかな笑顔で、ツヴィシェンツークの周りをぱたぱたと飛んでいた。
 気高く一匹狼的に振る舞っているツヴィシェンツークだが、実は寂しがり屋を隠しているのをすあまは同じ神獣として見抜いているのかもしれない。

「それじゃあ、桜の咲いてる所まで行こうか……。私が案内するね……」
 魅朱は早速ルナール達を連れて歩き出す。
「魅朱嬢の護衛だ」
 先を行く魅朱を示しながら、ルナールはツヴィシェンツークに指示した。
 ここでは特に護衛などは必要ないが、その名に期待されている通りに働けるよう、練習のつもりなのかもしれない。
 ツヴィシェンツークはまだそういう指示に慣れないながらも、指示に納得し魅朱の傍に付いた。
 するとそのお返しなのか、すあまがルナールの周りを飛び周囲を見回しては、『大丈夫!』と言うふうに『が!』と鳴く。
 ルナールは魅朱が心から信頼している友人であり、すあまも彼のことは知っていた。
 すあまのルナールの認識は『おーじさま』だ。なぜなら、長い金の髪、堂々とした立ち姿、フリルの付いた服……絵本で見た王子様にそっくりだから。
「俺を護衛してくれているのか? とても心強いな、ありがとう」
 健気なすあまに微笑み、礼を述べるルナール。
「えらいね、すあま……」
 そんなすあまを誇らしく思いながら、魅朱はルナール達を桜の木が生えている所まで連れて来たのだった。

「着いたよ……。これが、桜……」
 魅朱が見上げる木を、ルナールも見上げた。
 頭上に広がる枝には、たくさんの淡いピンク色の花が咲き誇っている。
 そして花びらがはらはらと散っている様は、どこか現実感が希薄になるような美しさがあった。
「成程。アーモンドの花と似てるが確かに違う……これは、見事だ」
 ルナールは素直に感心し、その光景に見入る。
 桜は、いつか魅朱が見せてくれると約束していたのだ。その約束が、今果たされた。
「ルナは桜を見たことがないと言っていたから……何時か見せてあげたくて……。約束……叶えられて、よかった……」
「初めて見るが……立派なものだ。貴女(きじょ)のように、美しく儚い」
「……ふふ、春の花と一緒にしてもらえるなんて、光栄……」
 二人は桜の下に座って休憩することにした。
 もちろんすあまとツヴィシェンツークも二人の対面に座って、おやつタイムだ。
 ルナールはこの日のためにと持って来たものを取り出す。
「これも……約束の、落雁だ。貴女の為に作った」
 と魅朱の前に広げたのは、桜と蝶、月と薔薇の形をした和菓子だった。
「これ……私が前に食べたいって言ったから……? ……なんて、綺麗……」
 美しく丁寧に手作りされた落雁を、魅朱は一つ手に取ってみる。
 現在の魅朱は、自分でも気づかないうちに心労が重なり、食欲不振になっていた。食べても美味しい、不味いも分からない状態。
 それでも、前世で双子の兄が誕生日などの特別な日に作ってくれた落雁は、魅朱にとって生前から特別な食べ物であり、故に味が分からなくても、いや、そういう状態だからこそ、食べたいと願ったのかもしれない。
 ルナールはそんな魅朱を慮って、せめてもの慰めになればと落雁を作って来たのだった。
 そのルナールの心づくしの落雁を、魅朱はじっくりと形を眺め、香りを堪能する。
「…………」
 それだけで記憶が蘇って来て、ひどく懐かしい。
「型も特注だ。桜と蝶の形のものは、キルシュヴァッサーで香り付けした。月と薔薇の方は、ローザリキュールで香り付けしたものだ。味が分からずとも香りで楽しめればと、想いを込めた。和菓子は初めてだが……どう、だろうか?」
 若干緊張気味に、ルナールが魅朱の反応を窺った。
「うん……形も、香りも……すごく素敵……」
 その答えにルナールはほっとし、続く魅朱の行動を待つ。
 魅朱はおもむろに、桜の形をした落雁を口に運んだ。
 噛むごとに味や食感、舌ざわりなど、感じられること全てを確認するかのようにしっかりと味わい、時間を掛けて食し……。
「…………。……やさしい、味……。あまく……とけ、て……おいしい……」
 ぽろりと一粒、涙がこぼれた。
 それは悲しい涙ではなく、『美味しい』を感じられた涙だ。
「……! 魅朱嬢、今、『美味しい』と……? ……そうか……良かった……っ」
 ルナールも魅朱が美味しさを感じられたこと、そして自分の作った物を美味しいと言ってもらえたことがとても嬉しい。
 魅朱は一個の落雁を、噛み締めるように、美味しさを心に刻み込むように、ゆっくりと食べた。

 すあまは魅朱が涙をこぼしたのを見て一瞬びっくりしたが、すぐに嬉しそうな顔になったので自分もおやつを食べることにする。
 いそいそと、パジャモリュックから大好物のいちごめろんぱんを出した。それを半分こにして、ツヴィシェンツークに差し出す。
「がー、がー!」
 ツヴィシェンツークはにこにことパンをこちらの鼻先に付き出しているすあまを見て、一瞬どうしようか小さく首を揺らした後、やれやれと言いたげにいちごめろんぱんにかじりついた。
「がー!」
「……るぐ」
 『おいしいね!』『……まあな』とか言ってるみたいな、微笑ましい二匹の様子を見ながら、ルナールは言う。
「また魅朱嬢とこうして過ごせる穏やかな日を、心待ちにしている」
「私の方こそ……“美味しい”を思い出させてくれたお礼……したいな……」
 桜の木の下で、新たな『約束』が交わされた。

 辺りに舞う桜の花びらが、晴れ渡る空の背景に映える。
 その光景は儚いかもしれないけれど、儚さの中には美しさがあり――、その美しさは心を慰めてくれる。
 ツヴィシェンツークのお披露目も無事に済み、お花見も思った以上に喜びをもたらすものとなった。
 ルナールと魅朱の心も晴れやかだ。
 二人と二匹はもうしばらく、時の止まったかのようなこの島で、穏やかな時間を過ごすのだった――。

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