走馬灯疑似体験 
久遠由純
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シナリオ形態
ショート
難易度
Very Easy
判定方法
カジュアル
参加制限
総合600以上
オプション
参加料金
100 SC
参加人数
1人~2人
優先抽選
50 SC
報酬
500 EXP
10,000 GOLD
10 FAVOR
相談期間
2日
抽選締切
2024/04/26 10:30
プレイング締切
2024/04/28 10:30
リプレイ完成予定
2024/05/10
関連シナリオ
-
  1. オープニング
  2. -
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ
●過ぎし日の後悔と剣を得た現在
 走馬灯が見られるという島を訪れたクレア(ma0732)は、不思議な色を放つ花を踏みしだいて、花畑を分断する川までやって来た。
 どこまで行けばいいのか分からず、心細げに周囲を見回す。
 川を渡れそうな橋はどこにも架かっておらず、どこまでも花畑が広がっているだけ。
 どうすべきか、それともしばらくここに留まっていれば走馬灯が見られるのか……などと考えているうち、クレアは強烈な眠気でまぶたが重くなるのを感じた。
 これかと察し、眠気に抗わずそのまま身を任せる。体から力が抜け、がくりと花の中に倒れ込んだ。

 そしてクレアは落ちていく。
 走馬灯が見られる眠りの中へと……。


 クレアの意識は心地良さの中を漂っていた。
 ずっとこのままでいたいような、何か考えるのも億劫になるようなどこか。
 まどろみの中、ぼんやりと何かが見えてくる。
 それは次第に輪郭をはっきりさせていき――、やがてどこか城のような屋内と人とが判るようになる。
 人は後ろ姿だった。
 見覚えのない……けれど不思議と、自分だと分かる背中。
「あれは私……?」
 小さな驚きと共に、クレアはその光景に目を奪われる。
 その後ろ姿の自分は今のように鎧をまとっておらず、ドレスをまとっていた。
「じゃああれは……」
 ドレス姿の自分と一緒に、もう一人誰かがいる。
 今の自分が常にまとう鎧と、同じデザインの鎧を着こんだ男性だ。

 覚えがある。それはクレアの知っているひと。

 鎧の男性はドレス姿のクレアを自分の後ろに庇い、前を見据えたまま剣をしっかりと握り直し身構えた。
 直後二人の前に何人もの男達が現れる。
 彼らは皆兵士なのか、同じ鎧を着て手にはそれぞれ剣や槍などの刃物を持っていた。兵士達は有無を言わさず鎧の男性に襲い掛かる。
 鎧姿の男性はクレアを庇いながら、兵士達を迎え撃った。
 剣を突き刺し、槍を受け止め、蹴り倒し、薙ぎ払い、切り掛かられ、突き飛ばす。
 その壮絶な戦闘に、今のクレアは恐ろしさと焦燥を感じずにはいられない。
「どうして、私は庇われるだけなの」
 こんなに鎧姿の戦士に力を貸したい歯がゆさで一杯なのに、ドレスのクレアは庇われているだけ、身を縮こまらせているだけで、戦闘の邪魔でしかない。
 それがどうしようもなく不甲斐ない。
「どうして……彼の隣で剣をとらないの……?」
 なぜ自分は彼と共に戦わないのか。
 何故。
 飛び出して行きたい気持ちで見守っているクレアの目の前で、鎧の戦士は傷ついてゆく。腕を斬られ、足を刺され、頭を殴打され。体のあちこちから血を流し。
 それでも彼は懸命に立ち向かい、たった一人で何人も打ち倒してはいたが、結局多勢に無勢だった。
 ほどなく鎧の戦士は反撃する力を失い、倒れる。

 ドレス姿のクレアが倒れた鎧の戦士に縋り付いて、その名前を呼んだ。
 何度も、何度も。
 まるでたくさん呼べば彼が立ち上がるとでも言うように。
 しかしそのクレアの呼びかけも空しく彼は倒れたまま、そして彼を切り倒した男が自分に近づいて来た。
「――!!」
 二人のクレアは目を見張り――。


「!」
 クレアは目覚めた。
 虚ろに見開く目から、つーっと一筋、涙が流れ頬を伝った。
「……」
 それを無言で拭い、クレアはおもむろに立ち上がる。
 ここは走馬灯の島。自分は眠り、走馬灯を見ていたのだと理解する。

 あの時鎧の戦士を倒した男がクレアに近づいて……その後、どうなったのかは覚えていない。
 察しはつくが。
(あれは私が私になった経緯)
 辛くて忘れたくて、自ら封印した最後のシーンだ。
 クレアはふっと小さく息をついて、空を仰ぐ。
(私は、神様の言う通り世界を滅ぼしたのだろうか。あんな無力な小娘にそんなことができたとは思えないけれど……)
 けれど、だからどうだというのだ。今更どう思うのかは関係ない。
 実際、自分の無力が世界を終わらせてしまったのは間違いないのだから。
 強大な力は世界を終わらせることができるかもしれないが、為せる立場にありながら無力であることも、世界を終わらせるのだ。
 だからクレアは咎人になってしまった。

「泣くだけでは、何も変えられない。一番私がよく知っていました……」
 痛いほど、胸が張り裂けるほどに思い知ったこと。
「もう二度と繰り返さない。そう、思い出せました」
 走馬灯で見たのは過去の幻影。
 もうあんな後悔はしない。
 弱い自分を覆い隠すように鎧をまとい、剣を取ったのだから。無力であることを止めたのだから。

 クレアは真っ直ぐ前を見つめた。
 その紫の瞳は、覚悟を決めた者のそれだ。
(今度は、世界を守ります)
 迷いを無くし決意を新たにしたクレアは歩き出す。

 決然と歩を進めるクレアの長い紫の髪を、風がさらっていった――。

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