●始まりと終わりは単なるつがいに過ぎず、大した意味はないのだ
想い出はあなたの心を編んだ。
心こそがあなたの存在を肯定する。
●背負う必要はない
天獄界の海中に存在する『混沌の海』という異空間内で、全てを賭した戦いが始まった。
「あは☆ 私の相手は一体だあれ?」
アルテュール・マルスを駆るnavi(ma1483)は機体の中より対戦相手を目視できると、固まった。
「……ラスボスかよぉぉぉ!」
naviの叫び通り、これから咎人達が戦うのは理の神『エンブリオ』。
ニエンテとオルファが『ニエンテ優位』で統合され、収穫者(ハーベスター)として覚醒し、今の状態になった。
「もー。ユナちゃんも皆も召喚準備中? 仕方ないなあ」
機体の中からnaviが後方に視線を向けると、後方では星空 雪花(ma1479)が葉山 結梨(ma1030)や鳳・美夕(ma0726)と共に、他の仲間達より世界武装の顕現をずらす形で『準備』を続けていた。
「いえいいえい。ナヴィタクシーにお任せあれ!」
破れかぶれの表情でnaviはタンクフォームを起動し、雪花を保護すると共に安全と思われる場所まで牽引する。
「雪花さん、無理だけは……ううん、頑張ろうか、お互いに」
鞍馬 雪斗(ma1433)はそれ以上の言葉を飲み込むと、『語り継がれし勇者の花』へのカウントを開始する。
「全員せめて無事に、それさえ叶えば言うことはないよ」
その一方で雪斗は祈られた弾丸「タナトス」を雪花に向けて発動し、特殊な弾丸を雪花に打ち込むことでそのシールドを強化することも忘れない。
「持ち堪える、絶対に。……今はまだ倒れてなんていられないから……!」
naviと雪斗からの援護を受けた雪花は2人に感謝を伝えると、自身は想煌の星華を発動し、その効果を自身に付与することで『準備』を続けていた。
ウェンディ・フローレンス(ma0536)は聖樹剣カリブルヌスを顕現すると、クルハ(mz0014)を守るため最適な位置に陣取っていた。
「クルハちゃん! 何度でも言いますわ!」
ウェンディは自身の心を謡いあげる。
「わたくしも、クルハちゃんと会えてよかった!」
叫びと共にウェンディはアビスの流星を発動し、エンブリオのもとに流星めいた光弾が降り注ぎ、エンブリオのシールドを削り取る。
続けてウェンディは喪われし蒼穹の花の発動へと移行し、蒼光の斬撃が直線上にいたエンブリオを斬り裂き、シールドを1つ斬り割った。
「嬉しんだけど、あまり大きな声で言わないでくれるかな……」
一方クルハはこのような状況なので、ウェンディに対し嬉しさと困惑が混ざる表情を向ける。
「ま、クルハを死なせないためにもパパっと片付けようぜ」
ウォードス・キングダムに搭乗するラファル・A・Y(ma0513)は、女神の勅令によって無明陣を発動すると足元に魔法陣を設置し、魔法の効果が高まり自機を守る空間を展開させる。
そのままラファルは星神砲・超過大出力へのカウントを続け、発動に備えていた。
「ライフを大量に失って倒しきれればクルハを使わなくて済むからな」
ラファルもクルハにロンギヌスを使わせるつもりはないようだ。
「最後まで付き合うよ」
桜庭愛(ma1036)はクルハの近くで貴き者の旗Ⅱを発動し、自身を中心とした守護結界を展開していた。
(無事に帰ったらプロレスピンナップ撮ろうか)
別の角度から見ると、愛の考えは死亡フラグめいたものだった。
「……クルハさん。ロンギヌスは……出来得ることなら、使わずに」
そしてアウルゲルミル・デスクロウを召喚していた氷鏡 六花(ma0360)もまた、クルハに対して可能な限りロンギヌスを使わないよう要請していた。
「……一緒に、生きて帰れるよう……このデスクロウと氷城で……護ります……ね」
クルハを守ると確約しながら六花は氷城へのカウントを終わらせて発動し、クルハやその周囲を六花氷の結界で包み込む。
「わかった。お願いするね」
クルハもこくりと頷きを返す。
「最後だからこそ、あたしらしい戦いをするの」
【喫茶衆】所属のラクス・カエルム(ma1196)も聖樹剣カリブルヌスを顕現すると、『天の光はすべて星』を発動して自身の能力を底上げする。
――イデアの小さな輝きは、いつか大きな願いへと変わる。
――誰に見送られることもなく深淵に消えようとする者たちに、せめてわたしの力を貸そう。
「ちょっとした悪戯が、歴史を動かす瞬間になることもあるの」
続けてラクスは『ささやかな悪戯』を発動し、エンブリオの『絶対存在(真)』を無視してその効果を付与することに成功した。
「そして、いまこそそのときなの」
ラクスは『天の光はすべて星』の効果を使うことで、フェアリーガーデンへのカウントを短縮して発動し、『ささやかな悪戯』の強度を増すことで呪いを爆発させ、エンブリオのシールドを1つブレイクさせた。
なおエンブリオのシールドは3つあり、あと1つ残っている。
「この時の為だけに用意したアビスリーパー……存分に扱わせてもらう」
【喫茶衆】に属し、蒼月の騎士を駆る高柳 京四郎(ma0078)も動き出す。
『蒼月の騎士』は京四郎の専用機としてカスタマイズされたアルテュール・ロウダーでもある。
共鳴剣「荒鷲」を起動し、浮遊させた神滅剣「ザイン」と三又槍「アストラビ」によって自機を中心とした結界を展開する。
「終わりっていうのは誰かが決める物でもない、自分自身も含めてな」
京四郎はプリズムウォールを起動することで魔法による光の壁を味方の前面に作り出すと、シャインブラストへのカウントを続けながら自身の考えを口にする。
――それはいつか来るだろう。でもそういうのは自然と訪れるものだろう。
京四郎にとって『終わり』とはそういうものになる。
「京四郎も支援主体か。一緒に頑張ろう」
同じ【喫茶衆】所属の葛城 武蔵介(ma0505)は阿頼耶識を顕現すると、京四郎と歩調を合わせる形で動く。
「簡単には終わらせないよ」
武蔵介は不退転の決意で永久不変と反響する賛歌Ⅱへのカウントを続け、その間にも咎人達がエンブリオに攻撃を集中させる。
【喫茶衆】と連携するロゼリッタ=エトワール(ma1190)は、自身が搭乗するプロセルピナを前面に押し出す。
「巨神機の大きさをいかしますわ」
既にロゼリッタは今も召喚準備中の味方を守るため、プロセルピナを味方とエンブリオの間に自機を配していた。
「いきますわよ、プロセルピナ。皆で帰る為に」
決意と共にロゼリッタは女神の勅令を駆使してカバーゾーンを発動し、特に【喫茶衆】の仲間達を庇うことができるようにした。
さらにロゼリッタは女神の落涙へのカウントを続け、合わせて集魔障壁も起動することで、魔法の詠唱と同時にその余剰魔力で機体周囲に結界を展開する。
「おお、エンブリオちゃんや。あたしらの長年の因縁もこれまでぞ」
ゴールデンドラゴンに騎乗するグリーンアイス(ma1255)も、今回エンブリオとの戦いに加わっている。
「おかしい。なんでこんな働かされてるんだ。こき使いすぎやぞ」
グリーンアイスは不満をこぼしつつもエンブリオに向けて均等時間を発動し、エンブリオの行動権を自分と同じ回数まで減らす。
「やっぱこれ効くんだろ?」
手ごたえを感じたグリーンアイスに、エンブリオが感情のない視線を向ける。
「それで終わりか?」
呟きと共にエンブリオの攻撃が始まった。
「実行。『オルファモード』」
まずエンブリオは『オルファモード』となろうとしたが、グリーンアイスが『忘我の一刻』によってエンブリオの『時』に干渉し、エンブリオの『オルファモード』を忘れさせることに成功する。
「実行。『エゲリアモード』」
だがエンブリオの行動は続き、『エゲリアモード』になったエンブリオは5つの場所に特殊なオブジェクト『ビット』を1つずつ設置し、『ビット』はエンブリオとは異なる動きで咎人達を攻撃し始める。
「実行。『スサノオモード』」
そしてエンブリオは『スサノオモード』になり、射程内にいる咎人達へと『理』による近接攻撃が連続で叩きつけられる。
「やらせはしませんわ!」
ロゼリッタはカバーゾーンと集魔障壁の効果を駆使して、範囲内にいる味方を庇い続ける。
『スサノオモード』の攻撃はクルハにも及んでいたが、六花の展開する氷城がクルハを守っていた。
「……スサノオ様。其処に……いらっしゃるのですね」
氷城の効果でクルハへの攻撃を自身に向けさせた六花は、結界の向こう側にいるエンブリオを見据え、そのような呟きを漏らす。
「……貴方の眷属として……その猛攻、虚ろなる闇を以て……受け止めて、みせ……ます」
そのまま六花は虚闇を駆使することで、強力な防御障壁で『スサノオモード』の攻撃を防ぎ、無効化すると共に自身のライフを回復した。
●ただ、『あったもの』として受け入れればいい
エンブリオの攻撃を凌ぎ切った咎人達は反撃に移り始める。
「クルハ様、支援致します。無理は為さらずに」
その中で、祈灯杖プロメテウスを顕現したエイリアス(ma0037)はクルハの防衛に回る。
「エンブリオ様には申し訳ありませんが、妨害させて頂きます」
エイリアスは霧消透過を発動して、一瞬で周囲を霧で包み込む。
霧はすぐ晴れたが、霧消透過の効果を受けた咎人達は第三者から感知できない状態となる。
「これが世界の答えだったとしても、私が諦める理由にはなりません」
――希望はあきらめない限り微笑みかけると私は信じております。
そのままエイリアスは、物体総破壊の発動へと移行し、エイリアスの周囲に存在していた『ビット』が砕け散り、一掃された。
なおも攻防が続き、処理しきれずに残る『ビット』や『オベリスクG』の空間が、徐々にその数を増しつつあった。
(最後まで変わらず……善処するよ、彼女の為にね)
雪斗は『語り継がれし勇者の花』へのカウントを終わらせて発動し、効果範囲内にいた仲間達のライフを回復すると共に、そのシールド強度も向上させた。
このとき愛は『オベリスクG』の1つに接近すると、貴き者の旗Ⅱの空間と接触させることで、守護結界の消失と引き換えにオベリスクGの空間も解除することに成功する。
「えーと、死神ちゃん(mz0018)。これ終わったら、プロレスピン撮ろうか。この世界再生の記念に」
「再生などない。あるのは終わりだけだ」
愛の言葉にエンブリオは平坦な、感情のない呟きで応じていた。
「随分と働かせるね。戦闘はわたしの趣味ではないのだけれど」
【喫茶衆】と連携するユーノー(ma1472)は召喚準備中の味方を守りながら、ネルガルの中でそのような呟きを漏らす。
【喫茶衆】への防衛を優先した結果、機体の各所は大きく損傷していたが、次の召喚に合わせる形でユーノーはネルガルを帰還させ、生身となる。
そのままユーノーは自身に祈願の暁を発動し、女神アルビオンに祈る。
――誰も倒れないよう。
――最後まで諦めず、戦い抜くことができるように。
祈願の暁の効果がある内に、ユーノーは少しの間を置いてから絶対真理の時計へのカウントを始め、短縮する。
「最初は完璧でも長く続ければ、歪みは蓄積し上手く行かなくなるものだ」
天上天下唯我独尊を召喚した天魔(ma0247)は、エンブリオの行動理由に一定の理解を示していた。
「今がその時だ。君は間違ってない。ただ生まれた時が悪かった」
天魔はエンブリオを否定しない。
けれどその目的を達成させるつもりはない。
(ここまで来て誰かを犠牲にしての勝利とか認めねーっすよ)
「だから今は家族の元に退け。そして長き時の果てに我等のやり方が上手く行かなくなった時に來るといい」
超誇大する幻想を発動することで、天魔は最強の幻想、その究極系を体現し、無双の力を手に入れる。
「その時は他のハーベスター達も来たまえ。出来れば理に従うのではなく家族を手伝うためにな」
超誇大する幻想の効果で行動権を増した天魔は、雨へと変わる雪の発動に移り、自身の状態を保存する。
その上で天魔は真世界の創造を発動し、エンブリオが纏う『理』の効果1つを一時封じ込めると共に、咎人達が与えるダメージを大幅に増幅させる。
「『理』にゃ無力だがそれ以外には耐えてみせよう。ライフを削ってでもな」
ここでアルテュール・マルスに搭乗する麻生 遊夜(ma0279)も、『詩琴のマビノギオン』を召喚していた鈴鳴 響(ma0317)と共に、クルハの防衛を本格化させる。
既に遊夜はクルハや響たちを庇うことのできる位置へと自機を配していた。
「だがそう簡単に俺を落とせると思わないことだ!」
――ようやくだ。ようやく死神ちゃんを助けられる……気張らねばなぁ!
不敵な笑みと共にナイトフォームを起動した遊夜は、エンブリオからの攻撃に備える。
「泣いても笑ってもこれが最後だ。後悔ない様にいくぜ!」
やや離れた場所では、チーム「春風」に所属するアストルバル・ガルシア(ma1104)もアルテュール・マルスの中で気合を入れ、防戦に努めていた。
「こちらも理の影響を受けるが、足しにはなるだろう」
ナイトフォームを起動することで、アストルバルは同じ「春風」に属する仲間達を庇う。
「何時かは全て無くなってしまうとしても、今はまだ」
同じ「春風」に属するトリス・マリアンデール(ma0751)は、かなり前から『独り歩きする奇跡』へのカウントを続け、合わせて発動していた高速詠唱によってそのカウントを短縮していた。
「俺が行く!」
そして【喫茶衆】に属する歩夢(ma0694)も、召喚『準備』を進めている味方を守るため、キックスターターを発動することで瞬時に『蒼き翼のウラノス』の召喚を完了していた。
やがてエンブリオが再び反撃に乗り出し、『オルファモード』で『オベリスクG』の空間を複数展開すると、『エゲリアモード』によって設置された新たな『ビット』からの攻撃が咎人達へと殺到する。
さらにエンブリオの『アイシスモード』によって召喚された大地が咎人達に襲いかかると、歩夢がランパート・オールを駆使して対抗する。
「俺達に力があるというなら……ここでこそ頼むぜ!」
歩夢の意志と共に、鉄壁と化した風の守りが『アイシスモード』によるエンブリオの攻撃を完全に無効化する。
エンブリオの攻撃はさらに続き、『スサノオモード』のエンブリオからの連続攻撃がアストルバルにも襲いかかる。
「手数の差は如何ともしがたいか!」
ライフでその攻撃を受け止めた結果、アルテュール・マルスは大きく生命を削られ、機体の中でアストルバルは歯噛みする。
「我が信念と矜持の楯は堅牢なり! さぁ、全て受け止めてやろう!」
一方遊夜は機体の中で護り抜く姿勢を示し、ナイトフォームを駆使することでエンブリオからの攻撃を全て受け止め、クルハや仲間達を守り抜いていた。
さらに攻防は続き、六花も長く続けていた虹の落涙へのカウントを終わらせる。
「……虹の涙よ、流星よ……どうか……私達に……この宇宙に……この先の……未来を……」
六花の祈りと共に『虹の落涙』は発動し、範囲内にいる仲間に降り注いだ虹の光が仲間達に強力な加護と戦闘不能にならない不屈の力を与える。
「ニエンテに移動されるとマズイな」
マスティマⅡを駆るウガツ ヒョウヤ(ma1134)はスキルトレースを使うことでカラーミックスの発動を可能にし、主に『スサノオモード』からの攻撃を防いでいた。
その一方でヒョウヤは敵が移動すると味方も移動する手間が増え、攻撃の手数が減る事態になることを警戒していた。
後方に控える咎人達が召喚の『準備』を終えた頃、速やかにエンブリオのもとへ移動させる必要があることから、ウガツはそのタイミングに移動を支援できるようにプライマルシフトへのカウントを続けていた。
ここで『天の光はすべて星』などを駆使して防戦にあたっていた響は、言い知れぬ不安に襲われる。
「……ん、とても嫌な予感がする」
響は自身の直感に従い周囲にいる仲間達へ警戒を呼びかけると、いち早くウェンディやラクスが呼応した。
「大丈夫、わたくしが死なせませんもの」
――決してあなたを手離さない。ここまでたどり着いたのだから。
ウェンディもクルハに笑いかけると、クルハを守るため楽園別れの歌での対抗姿勢を見せる。
「やらせないの――みんなで一緒に帰るって、そういう約束なの」
ラクスも『慈悲なき叛逆』と『楽園別れの歌』が発動できるよう、エンブリオとの間合を詰めた。
「他も痛いけど仕方ない、ラクスさんと連携して対処しよう」
響もラクスに協調する形でエンブリオが『慈悲なき叛逆』の射程内になるよう距離を縮める。
そして『ニエンテモード』になったエンブリオから、『ワールズエンド・スパイラル』が解き放たれた。
「……最優先で、無効化しないと……」
「最後の戦いをあたしらしく悪戯で飾るの」
響とラクスはそれぞれ『慈悲なき叛逆』と『楽園別れの歌』を発動し、『ワールズエンド・スパイラル』に対抗する。
「出会って。一緒に過ごして。これからも一緒ですもの!」
決然とした意思のもとに、ウェンディは『楽園別れの歌』による絶対的な防御魔法でクルハを守る。
そして『楽園別れの歌』は『ワールズエンド・スパイラル』を無効化すると共に、エンブリオが纏う『理』の効果も1つ無効化し、『慈悲なき叛逆』はエンブリオに威力を増した一撃を与えてそのシールドを1つ打ち破ると、エンブリオの命にもそのダメージが及び、命を削り続けていた。
●大切なのは今だ。そして
エンブリオの『ワールズエンド・スパイラル』は阻止され、咎人達が全員問答無用で戦闘不能になる事態はひとまず避けることができた。
「まだ……いけます!」
アストルバルに庇われたことで、エンブリオの攻撃を受けずに済んだトリスは、ここで『独り歩きする奇跡』へのカウントを終わらせて発動し、アストルバルや周囲にいる味方に向けて、オーラとして人幻を憑依させる。
「少なくとも私達はこんな終わり方は望んでいません!」
トリスの『独り歩きする奇跡』は、味方に付与されていた様々な状態異常を解除すると共に、仲間達を死から遠ざける加護となった。
「一度、今のシステムを見直す時が来たのですよ」
同じ「春風」に属し、『昼と夜の翼』を顕現していたアルティナ(ma0144)も仲間達の援護に動いている。
「なんにしても、今は止めさせていただきます」
『エゲリアモード』に対する防御として、アルティナはミラリスシェルを発動し、鏡の極限回廊を模した光の結界が周囲に展開され、エンブリオからのダメージや弱体化を無効化する。
――貴方にこんな事はさせたくありませんから。
続けてアルティナは破天一閃の発動へと移行し、一点に集中した神力を天をも貫く光の矢と化してエンブリオに命中させ、エンブリオが纏う『ニエンテモード』を無効化すると共に、直接そのライフへとダメージを与えた。
やがて後方にいる咎人達の『準備』が終わり、第二陣の召喚が行われ始める。
通信術式を介して敵味方の配置を把握していたヒョウヤは、その咎人達を援護できる位置まで自機を飛ばしていた。
『プライマルシフトで総火力を引き上げるぜ』
ヒョウヤから移動支援の打診を受けた咎人達は、通信術式を介して承諾の意を返してくる。
(ロンギヌス未使用での勝利を目指し、特異点を確保する。たしか、特異点に願えば死んだ者も蘇るンだよな)
内心そのようなことを考えながらも、ウガツはプライマルシフトへのカウントを終えて起動し、マスティマⅡより大精霊の持つ空間転移能力が拡大され、効果範囲内にいた咎人達を瞬時にワープさせる。
――エンブリオを捕捉できる配置へと。
「護封神いっきまーす!」
回天のエウドクソスを顕現した紫微(ma1282)は【喫茶衆】との連携を軸にして動く。
「俺は思うわけよ、これ前回もやったなって」
そう言いながら紫微は現状を確認すると、護封神の発動へと移行する。
「はい、バーーリア! 絶対無敵の護封神ってね」
ダメージを0にする絶対的な防御結界が紫微の周囲へと展開され、仲間達を守る。
ヒョウヤのプライマルシフトで転移した咎人達の内、【喫茶衆】が転移した先にはユーノーがいた。
そのユーノーも『絶対真理の時計』へのカウントを終わらせようとしている。
「ここからは皆さんにお任せします。絶対勝利の道標をここに!」
ユーノーは絶対真理の時計を発動し、範囲内にいる【喫茶衆】の時を加速させることで三倍のスピードで動くことができるようにすると、自身はそう言い残して異空間へと姿を消した。
それまで暗殺術「闇帳」を駆使して身を隠していた不破 雫(ma0276)も、蒼き翼のウラノスを顕現してラファルの支援に回る。
「生憎と生前に神との戦闘は嗜んでいるですよ」
雫は先制の陣を発動することで、味方が先制しやすい陣形を構築していた。
「これで本当の終わりにしましょう」
暗殺術「鴟梟」を発動した雫は身を潜めて気配も殺し、エンブリオの観察を行うことで確保できた情報をラファルに伝え、的確な行動へと繋げていく。
一方ラファルも星神砲・超過大出力へのカウントが終わりつつあったので、事前に周囲の仲間達に向け射線上から退避するよう警告を出していた。
「どぶに落ちた犬は沈める」
女神の勅令を使うことで混沌の刃の発動を可能にしたラファルは、星神砲に「理」を貫通する力を与えていた。
「ディキシイを聞かせてやるぜー」
そしてラファルは星神砲・超過大出力へのカウントを終わらせて発動し、全エネルギーを集中させた一射が迸る。
最大出力で放たれた一射はエンブリオを貫き、雫からの援護と混沌の刃による効果も相まって、その圧倒的な威力がエンブリオの頑強なシールドを打ち破った。
【喫茶衆】所属のリラ(ma0970)は天上天下唯我独尊を顕現すると、近くで召喚を終えた美夕への支援を開始した。
「美夕さん。支援します」
――貴女に何物にも負けぬ信念を。
リラは信念付与を発動し、理の守りを突破する力が美夕へと付与される。
「では、みなさん。よろしくお願いいたします」
そう言い残すとリラはエンブリオへと切り込んでいく。
――未熟でも世界武装を預かる身。がんばります!
「よし、いくよ!」
エンブリオを捕捉できたところでリラは雪雫の一撃を発動し、『花を受け取った者の不幸を願う』という言い伝えから生じた一撃がエンブリオに突き刺さり、2つ目のシールドを破砕した。
「来てよね、ワールドエンズ!」
同じ【喫茶衆】に属し、OVS-ワールズエンドを顕現した優夜(ma0725)は、召喚を終えた結梨への支援に乗り出す。
「あなた達に私の想いをたくすわ」
――だから必ず終わらせて!
優夜は結梨に向けて信念付与を発動し、一時的に理の守りを突破できる力が結梨へと付与される。
「喫茶衆、まかりとおるわ!」
優夜はアビスの流星を発動することで、流星の如き光弾がエンブリオへと降り注ぎ、残るシールドを大幅に削り取る。
「さあ、いくわよ!」
優夜はアビスの流星をもう一度発動し、新たな光弾をエンブリオに叩きつけ、シールドを打ち破った。
「今だ。殴れる奴は全力で殴れ。死神ちゃんを袋叩きにしろ!」
ここで紫微より周囲の仲間達に向けて、エンブリオがシールドブレイク状態になったことを報せたことで、咎人達は一斉攻撃を開始した。
●最後に何を記すのかは、自分が決めていい
「死神ちゃんを返してもらいに来ました」
チーム「春風」に属する夕凪 春花(ma0916)は、誓槍アルスマグナを顕現してからエンブリオに告げる。
「そのような存在などいない」
機械的な仏頂面でそう応じたエンブリオに、春花は決然とした口調で言った。
「ならば、戦って勝ち取るまでです!」
春花はエンブリオのシールドが失われている間にブロークンワールドを発動し、神速の追撃を3度繰り出した。
立て続けに攻撃を浴びたエンブリオは大きなダメージを受けると共に、受けたダメージの分だけライフの最大値が削り取られる。
さらに春花は通常攻撃とアビスの流星を駆使して攻撃を畳みかけ、エンブリオの損傷を地区させさせていく。
それまでカウントを終えたシャインブラストを駆使し、召喚中の仲間達を守っていた京四郎も一斉攻撃に加わる。
「少なくとも……強要されて終わるなんてものは本当の終わりじゃない」
既に京四郎はかなり前から女神の勅令によって大憲章をプロットし、そのカウントを続けていた。
「『終わらせよう』って時点でそれはお前のエゴなんだよ、理とやら」
そして京四郎は大憲章へのカウントを終わらせて発動すると、かつて女神アルビオンが理の力を持つ者たちを縛りつけるため生み出した術がエンブリオにその効果を発揮し、エンブリオの『絶対存在(真)』が無効化された。
「何があろうと最後まで足掻くだけだ」
少し前まで『反響する賛歌Ⅱ』や『永久不変』を駆使して味方を支援していた武蔵介も、京四郎の大憲章に続く形で『真世界の創造』を発動する。
「もう少し頑張れるか? 存分に暴れるといいさ」
理の力を封じ込め、与えるダメージが大幅に増幅させる効果をエンブリオに付与した武蔵介は、ユーノーから受けた『絶対真理の時計』の効果を利用して『反響する神韻』の発動へと移行し、範囲内にいた仲間達のライフを完全回復すると共に、あらゆる破滅への『備え』も付与していく。
この段階でnaviや雪斗からの援護でこの場まで持ちこたえてきた雪花も、『星想心光・エトワール』を顕現していた。
「感じるよ、皆の想い……。皆と一緒なら、負ける気なんて全然しない!」
『星想心光・エトワール』は雪花の想いによって構築された世界武装であるため、雪花の想いを通じて、自由自在にありとあらゆる姿を形取る。
――心為、解放。無垢の理の許、光差す未来への道を示します。
優夜など【喫茶衆】の援護を受けた結梨も、『心為崩神・フィンブル』の召喚を完了している。
――それは聖樹のイデアが結梨とフィンブルのイデアと共鳴し、崩神の再現へと至った姿。
今の『心為崩神・フィンブル』は法衣を想わせる装束を纏い、青い光を従える。
「やろう、結梨ちゃん、雪花ちゃん。ハッピーエンドを掴み取ろう!」
そして『華包心衣・リュミナス』を顕現した美夕は、結梨や雪花に声をかける。
この『華包心衣・リュミナス』は回天のエウドクソスが美夕のイデアに触れ、美夕にあわせて変化した世界武装でもある。
「うん、やろう。みんなで光差す未来を迎えるために」
「これがあたしたちの最後の戦い……幸せな未来を絶対掴み取ろうね!」
結梨や雪花は心強い返事を美夕に届け、3人は攻勢に乗り出す。
「新技の出番はないよ、クルハ。いつも通りでがんばろう!」
美夕はロンギヌスの出番はないとクルハに伝え、自身は妖気収束Ⅱを発動することで、高い集中力によって体内の霊力を研ぎ澄ませる。
「取りこぼした思いもある。力が足りなくて悔しい思いをした事も」
さらに美夕はリラから『望まれた蒼薔薇』の援護を受けることで、『鏡花水月・千理』へのカウントを一気に短縮して発動し、輝きを身にまとって臨む自身に自らを近づけた。
「だから、今この時だけはキミを諦めない! 死神ちゃん!」
行動権を増やした美夕は、リラから受けた信念付与の効果がある内に『奉舞「布都御魂」』と『蒼華爛漫』両方のカウントを続けながら、『咲き乱れる蒼月・繚乱』へのカウントを妖気収束Ⅱの効果で短縮し、発動に至る。
『咲き乱れる蒼』を強化したスキル効果が周囲の仲間達へと付与される中、美夕は間髪入れず『天真の極光・百花』を発動して仲間達に与えた光の分だけ、自身の武器へと光を集めて収束し――。
「帰ろう。私達のエンブリオに。君がそうなるんじゃなくてさ」
美夕はエンブリオにもう一つの『極光』を咲かせ、その威力を炸裂させた。
「何が何でもハッピーエンド! それ以外は認めない!」
美夕は自身の思いを『紫苑の花言葉』と共にエンブリオへと叩きつけ、さらに損傷を負わせていく。
「願いの数だけ道が在って、それがいつだって重なるとは限らない」
結梨も生命発火を発動することで、瞬間的に自身の命を炎に変えて武器に宿し、守りを貫く力や連続攻撃の精度を高めていた。
「同じ想いを。願いを抱いても。同じ道を往けるとは限らない」
優夜から受けた『信念付与』が効果を発揮している間に、結梨は美夕とは別の方向へと回り込むとその場で死を発動し、血潮のように赤い彼岸花を一瞬咲かせ、散った花びらが結梨を飾り付けてその能力を向上させる。
「ただ、それだけの事。だけど、だからこそ。まだ「道」が在る」
そして結梨はエンブリオに複数回斬撃を浴びせ、そのライフを削りにかかる。
「心を為すのなら、どんなに傷付け合っても、共に歩む事は出来る」
さらに結梨は『信念付与』の効果がある内にチェーンストライクとチェインアタックをそれぞれ発動し、追撃と化した斬撃がエンブリオへと食らいつき、さらに損傷を蓄積させる。
「皆には生きて幸せ未来を掴んで欲しいから、あたしだって戦うよ」
雪花は絶対領域へのカウントを続けながら、少し前に時間切れで解除された想煌の星華を再び発動し、自身へ向けられた仲間からの想い、敵からの想い、その全てを受け止めて、己の輝きへと昇華させる。
「これがあたしの願い、あたしの想い! 皆と一緒に帰るんだから!」
叫びと共に雪花はオルトストレインを発動し、頭上より無数の光が降り注ぐとエンブリオへの攻撃と仲間達の回復を同時に行った。
「望まれるから産まれ、望まれないから終わるのですよ。ひとも、世界も」
ソテル(ma0693)は『OVS-ワールズエンド』の召喚作業を終えると、自身の考える『終わり』をエンブリオに告げる。
――世界のおわりを見届けに。それはどんな結末でも眩く輝くはず。
なおソテルもユーノーから『絶対真理の時計』を付与されていたため、自身に行動権を増やしていた。
「むかしむかしのことはみんな知らないけれど、すべての出会いと別れに祝福を」
いまソテルは『むかしむかし』と『絶対領域』へのカウントをそれぞれ続け、次の場面に備えていた。
「第二部曲、【喫茶衆】推参! 最後の戦い、華々しく参りましょう」
ここでを召喚したマイナ・ミンター(ma0717)も【喫茶衆】として攻勢に加わる。
「貴方の裡にある力に、私の仲間たちの力は決して劣りません」
「イエス、ユア、マジェスティ。仰る通りです、お嬢様」
【喫茶衆】所属のマリエル(ma0991)も、マイナの近くで少し前から『並び立つ二輪草』へのカウントを続けていた。
そしてマリエルは『祈灯杖プロメテウス』の召喚を終えると、マイナに付き従う。
「絶対真理の時計、預かります。勝利の約束を未来に――霊極装『真月』」
マイナはユーノーより付与された『絶対真理の時計』がある内に、霊極装「真月」へのカウントを『盈月当空の理』によって一気に短縮して発動し、秘めた霊力を開放することで真の力を発揮する。
「――コキュートス、守りを貫け! ライトニングクロス!」
叫びと共にマイナはライトニングクロスを発動し、エンブリオとの距離を一気に詰めると氷の刃と雷を纏った連撃が繰り出され、立て続けに斬り裂かれたエンブリオはライフを削られると常に、その身を守る力も一時的に封じられる。
「マリエルはどこまでもお嬢様についていきます」
マイナのキャリー&シュートによって随伴していたマリエルも、『並び立つ二輪草』へのカウントを終わらせて発動し、赤い糸状のイデアをマイナへと伸ばすことで、マイナとの間で不変の契約を行った。
「でも、どうせならハッピーエンドで飾りましょう。死神ちゃんには帰ってきてもらいます!」
ユーノーより付与された『絶対真理の時計』がある内に、マリエルは続けて物体総破壊を発動して周囲の『ビット』をまとめて排除する。
続けてマリエルは『聖母の抱擁』を発動して自らの命を呪詛に代えて放つ魔弾がエンブリオに突き刺さり、そのライフを削ったところで『慈悲なき審判』による追撃をエンブリオに叩き込んだ。
「さあ、乗せて参りますよ! 技巧の三位一体、トリニティフォース!」
マイナはマリエルから『並び立つ二輪草』を受けた状態からトリニティフォースを発動し、複数の攻撃種別を使い分けての乱舞攻撃が周囲を席巻し、エンブリオにそれぞれの威力が炸裂した。
さらに霊極装「真月」の効果でマイナからの追撃がエンブリオに命中すると、ナイトリッパーも駆使しての連撃がエンブリオを複数回斬り裂き、追撃のチェインアタックでエンブリオは損傷をさらに深めていく。
「此処こそ虹之煌き。儚くも美しい虹之宙は今此処に在り」
【喫茶衆】に属する山神 水音(ma0290)は『虹之宙・虹之煌きは此処に在り』の召喚を完了すると、自身も攻撃に加わる。
「此処は僕に任せてよ! どんなに強くても引きはしないよ!」
水音は『灰は灰に、塵は塵に』を発動すると、自らのイデアを自身に憑依させ、無理矢理力を引き出していた。
「最後の戦いだからね。最後まで戦わせてもらうよ!」
ユーノーより付与された『絶対真理の時計』の効果がある内に、水音は『地を駆けるもの』も発動し、大地の精霊――正確にはその力を肉体に憑依させることで自身の能力を強化していく。
「どうなろうとも最後まで戦うだけだよ!」
既にエンブリオがシールドブレイクになっていることから、水音は『猛る精霊王の牙』を発動し、精霊イクタサの力を風の刃に変えてエンブリオを複数回斬り裂いた。
「よっしゃ最後だ。ド派手に行こう!」
竜胆 咲斗(ma0626)も味方の攻勢に加わり、エンブリオを捕捉する。
「弱くても頭を使ってやるんだ。雑魚でも世界は救うんだよバーカ!」
今行動すること。戦うことはその次の場面に生きる自分のためにある。
この戦いで自身の価値を証明すると覚悟を固めた咲斗は黒戒の影へのカウントを終わらせて発動し、自らの姿を隠すと共に、ダブルクロスや黒紋縄も駆使してエンブリオへ様々な状態異常の付与を試みる。
「互いの使命と望みをかけて……エンブリオ、貴女に勝ちます」
天下冥凍・絶華氷刃丸『累式』の召喚を完了させた氷雨 累(ma0467)は、小山内・小鳥(ma0062)やフィリア・フラテルニテ(ma0193)と連携しながら、エンブリオに挑む。
「皆……大切な人がいてくれたから、僕の旅は此処まで来ることができた」
氷刻を発動した累より青白いオーラが放たれ、残像が現れる程の圧倒的な速さを累は確保する。
「そして、終わりにはさせない。まだ前を向いて歩みたい!」
続けて累は動の構えをとり、構えた累の体を今度は赤い霊力のオーラがうっすらと包み込んだ。
「今この身は天下冥凍改め、絶華氷刃丸累式……推して参る!」
――抜刀。氷刃絶華、廻天蒼嵐斬り!
名乗りと共に累は氷刻の効果で蒼穹願いし百万色へのカウントを終わらせて発動し、世界武装のクローンが複数顕現して周囲を連続で薙ぎ払い、エンブリオを3度斬り裂き、追撃として発動したブロークンワールドによって、累はエンブリオに3度斬撃を浴びせてその生命を削り取る。
「最後でも漁師の心は……忘れないのですよー」
小鳥も『氷双刃コキュートス』を顕現すると、累の後に続く。
「世界武装を身に着けた……漁師・神は無敵ですー」
オーシャンスタジアムを発動し、自身にその効果を付与した小鳥は『漁船イルカ丸』の発動に移る。
「イルカ丸が戦場を……かけていきますよー」
小鳥の呟き通り、どこからともなく現れた漁船が自身や近くにいたフィリアや累を乗せ、移動する。
「これから先も……皆と過ごすため……今、全力全開ですー」
続けて魚群大遊泳を発動した小鳥の漁船イルカ丸が全速力で走り、『海』を泳ぐ回遊魚と一緒にエンブリオへと突っ込んだ。
交錯の一瞬、小鳥からの一撃がエンブリオへと撃ち込まれ、『漁船イルカ丸』の効果で一本釣り攻撃もあわせて叩き込む。
「これが……私達の神様なのですね。凄い威圧感です……」
聖樹剣カリブルヌスの召喚を完了させたフィリアも、改めてエンブリオを見据えていた。
現在フィリアは次の『ワールズエンド・スパイラル』を警戒しながら、『廻らぬ星の逆さ花』へのカウントを続けている。
「ニエンテ様……参ります。私達の願いをお見せしますっ」
決意と共にフィリアはライフシェルの発動に移り、自分のシールドを減少させ、味方のシールドを強化する。
「そう簡単には落とさせませんっ。ヒーラーとしての意地ですっ」
フィリアが抱擁領域を発動して癒しの光が放たれると、範囲内にいた仲間達のライフが回復すると床に、更に身を護る加護を与えていく。
「ベヒーモス出航。今回の母艦は俺だ」
ベヒーモスを動かす白鐘 吟(ma1560)は【ドン・キホーテ】の母艦兼足場として提供していた。
『ドン・キホーテ出撃。……目標、エンブリオ撃破』
その【ドン・キホーテ】を率いる三糸 一久(ma0052)は、吟のベヒーモス上に陣取ると、通信術式を介して作戦開始を告げた。
『BOX伍長、作戦行動を開始するであります。いつも通りですな』
BOX-D型(ma0284)は『絶対真理の時計』へのカウントを続けていたが、終わりが近づいたので通信術式を介し、周囲の味方に発動のタイミングを報せていく。
『絶対真理の時計であります。しばしの別れ、グッドラック!』
そしてBOX-D型は絶対真理の時計を発動し、効果範囲内にいる味方の時を加速し、三倍のスピードで動くことができるようにすると、自身は味方の健闘を祈りながら異世界へと消え去り姿を消した。
『あの邪魔者は俺が引き受ける。皆はエンブリオに集中してくれ』
吟は味方に向けて強襲指示を起動すると、通信術式を介してオベリスクGを排除すると伝えた。
――どうせ沈むなら一発でも多く撃つ。今回は逃げる気は無いからな。
やがて吟の操作でベヒーモスよりキャリアー艦載ミサイルが連続で射出され、展開されたオベリスクGの1つに到達すると立て続けにその威力を炸裂させた。
『各位、我が隊は全力での一斉攻撃を仕掛ける。陣形を密に。相互防御と持続攻撃の同時進行だ。撃て! 守れ!』
『ドラゴンファング』を顕現した一久は通信術式を介して仲間達へ指示を飛ばし、【ドン・キホーテ】所属の咎人達が動き出す。
「行こう。友よ!」
一久の『ドラゴンファング』はかつて一久に力を貸してくれた月光龍が名の由来となり、一久が最初と最後に手にした切り札でもある。
まず一久は再演された奇跡を発動し、周囲にいる仲間達にあらゆることがクリティカルとなる『幸運』を付与していく。
続けて一久は『真世界の創造』を発動すると、理の力を封じ大幅にダメージを増幅させる効果をエンブリオに付与すると共に、『絶対真理の時計』による効果があるうちに連撃を叩き込み、さらにエンブリオの生命を削っていく。
「さあさあご奉仕ですわ。わたくしのメイド力を見て頂きます!」
【ドン・キホーテ】所属のマリィ=オネット(ma0016)は明日へのアンコールを発動して自身の行動権を増やすと共に、ロングアクションスキルの発動を迅速にしていく。
――この想い。この歌を世界に届けるために。さぁ歌おう。それは明日(ミライ)へのアンコール。
「メイドの舞をご覧あれ!」
その効果とBOX-D型から受けた『絶対真理の時計』による効果の両方がある内に、マリィは月の妖鉄舞へのカウントを短縮して発動し、味方に付与されている加護がスキルによって解除されない空間を構築していく。
――真実を覆う偽りがいつしか真となり、真なるものが時を経て偽りとなる。
――偽りの太陽は沈みて不夜は終わりを告げ、神無き月が昇りて新たなるヒトを遍く照らす。
「ふれっふれいちごちゃん、ふれっふれ、みなさま! 旦那様!」
続けてマリィは明日へのアンコールによる効果でチアリーディングへのカウントを短縮して発動し、声援や踊りで応援しながら同じ【ドン・キホーテ】に属する宇木 いちご(ma0800)の行動回数を増加させた。
「あと白雨・偽りもどうぞ」
――最後まで一久様と一緒に戦いますわ!
そのままマリィは望みの白雨・偽りを発動し、自らのイデアを赤い光の雨と変え、味方に降り注ぐことで力を与えていく。
「感謝があります!」
マリィの援護を受けた既に『Chekhov’s gun』召喚を完了していたいちごは、マリィたちの援護に礼を述べる。
「いちごが皆さんを守るがあります! 無敵シマ・ガード!」
いちごはBOX-D型から受けた『絶対真理の時計』が効果を発揮している間に『シマ・ガード』と『レイムディアーソング』をそれぞれ発動し、周囲の仲間達に自身の幻影を憑依させると共に、聖地より授かった精霊の力でその場に癒しと守護の結界を展開していく。
ここでマリィがエリアプロテクションを発動し、いちごの展開した『レイムディアーソング』の結界にマリィの力が上乗せされた。
「龍氣来来の輝きとホープスガンが撃ち抜く……があります!」
続けていちごは龍氣来来で全身に黄金のオーラを纏うと、『Chekhov’s gun』の一射を連続で叩き出し、切り裂くような火線がエンブリオへと突き刺さり、そのライフを削っていく。
「強化は万全だ。殴るだけに特化したが、その分強烈だ。行くぞ」
【ドン・キホーテ】に所属するグリード(ma1015)は、マスティマⅡに搭乗して出撃する。
グリードは第二陣の召喚が行われるよりも前から、『ブレイズウィング』やスキルトレースを併用した『廻らぬ星の逆さ花』へのカウントを続けていた。
『初手の守りを固める。油断せずに各々防御は警戒しろよ』
通信術式を介して周囲の仲間達にそう伝えると、グリードは『廻らぬ星の逆さ花』へのカウントを終わらせて発動し、幻影のアクシャ・ヤバタがその場に召喚される。
その力によって周囲に強力な結界を展開したグリードは、BOX-D型から受けた『絶対真理の時計』の効果とスキルトレースを駆使して『ワイルドアクション』の発動へと移行し、自身の素早い身のこなしとスタミナで行動権を増やしつつ、敵の攻撃に身構え、大胆な行動を可能にした。
「仕事の時間だ。一番の大仕事だ。気合入れていくぞ」
マスティマⅡを飛翔させ、エンブリオや周囲に残る『ビット』を可能な限り捕捉したグリードは『ブレイズウィング』のカウントを終わらせる。
「どうだ」
そしてグリードが『ブレイズウィング』を起動すると、機体に付属していたブレイズソードユニットが無数の剣閃を煌めかせ、捕捉できたエンブリオや『ビット』を切り刻む。
「これがラストバトルか……。今まで色々あったけど楽しかったな」
青柳 翼(ma0224)は開戦から続けていたカウントを終え、葬滅のコールブランドを顕現すると攻勢に加わる。
「死神ちゃん! もし意識が少しでも残っているなら理に抗ってくれ!」
エンブリオの中に残っていると思われる死神ちゃんへの呼びかけを続けながら、翼は『葬滅のコールブランド』が顕現している間にその一射をエンブリオに命中させた。
「恐らく好機はそう回ってこない。ここで削れるだけ削る!」
BOX-D型から受けた『絶対真理の時計』によって、翼はさらにエンブリオへ『葬滅のコールブランド』を撃ち続け、閃き飛んだ矢状イデアは文字通り矢継ぎ早にエンブリオへと突き刺さる。
(例えここで記憶を失うことになったとしても、明日が続いて行く限り思い出はまた作れる。なら最後まで戦うだけさ……)
決意を胸に秘め、翼はエンブリオの生命を削り続ける。
「死神ちゃんどんにそんな顔は似合わぬのじゃ。世界を終わらせる死神になどさせぬのじゃ」
『昼と夜の翼』を召喚したカナタ・ハテナ(ma0325)は、BOX-D型から受けた『絶対真理の時計』が効果を発揮している間にエンブリオへの攻勢を強める。
「ここで倒してもとの死神ちゃんどんに戻してみせるのじゃ」
ミラリスシェルを発動し、鏡の極限回廊めいた光の結界を展開したカナタはアビスの流星を発動すると、エンブリオに流星のような光弾が降り注ぎ、その威力でエンブリオの生命を抉り取る。
「そしてまたみんなで楽しく笑って過ごせるような、そんな世界を作れるように……」
――世界を終わらせない。敵を倒して死神ちゃんを取り戻す。
そのような願いを込めて、カナタは『昼と夜の翼』の一射を文字通り矢継ぎ早に放ち、エンブリオへと撃ち込み続ける。
そして透夜(ma0306)はクルハを庇うことのできる位置で、『氷双刃コキュートス』の召喚を完了していた。
「集合無意識はそうだとしても、『それでも』と有意識で言うよ」
いま透夜は無明陣を発動し、足元に魔法陣を展開しながらエンブリオに向けて自身の心情を語る。
「願いを伝え、想いを託し、意志を繋ぐ。それが可能性の光だよ」
あらゆる世界を旅した。
それぞれの世界を見聞きしてその世界で暮らす人々と触れ合った。
「我々だって宇宙に生きる意志さ。だから続きを望むんだ。君とのね」
その上で透夜は『続くこと』を望む。
透夜は『混沌の刃』を発動することで、自身の武器に「理」を貫通する力を与える。
「何が正しいかじゃない。これは互いのわがままのぶつかり合いだよ」
大切だと思うものが違う。
優先して守りたいものが違う。
だからぶつかりあう。
透夜はエンブリオと争う理由をそう評していた。
「理の責任を全て背負う必要はない。世界存続の責なら我々も背負う」
そう言いながら透夜はオルトストレインを発動して頭上より無数の光を降り注がせ、エンブリオに一撃を加えると共に範囲内にいた味方のライフを回復する。
「だから、新しい物語を皆で紡ぐんだよ。共に行こうニエンテ」
さらに透夜はブロークンワールドを発動することで、神速の3連撃がエンブリオに叩き込まれ、ダメージと同じ分だけその生命も減少させた。
「実行。『オルファモード』」
一斉攻撃で倒れるかに見えたエンブリオだったが、『オルファモード』を維持したまま自己回復に務め、まだ倒れない。
「さいごはいちばん輝かないと! 撃って撃って、撃ちまくりましょう!」
その中でソテルは『むかしむかし』へのカウントを終わらせて発動し、味方に偽りの物語を与えることで、その能力を向上させていた。
「物語の結末は、めでたしめでたし。そうでしょう?」
『むかしむかし』を味方に付与したところで、ソテルは『終わらない物語』の発動へと移り、新たな効果を上乗せしていく。
――むかしむかしの後に続く、知らない言葉。
――それは、叶えられるはずのない夢が、叶えられてしまうこと。あるはずのない未来。終わりのない物語。
ほぼ同じころ【ドン・キホーテ】所属の咎人達も、マリィが発動した『闇の人幻舞』による援護を受け、周囲の咎人達と共にエンブリオへの攻撃を集中させていった。
エンブリオのシールドが再び全て打ち砕かれ、エンブリオのライフが急速に削られていく中、ソテルはエンブリオに問いかけた。
「でも、もしひとつだけ許されるのなら。あなたはなにを願うのでしょうか?」
『理』は――『神』は何も願わない。
願いとは、希求すること。まだこの宇宙のどこにも存在しないIFを編み、想像を現実に変えんとする者が抱く野望。神は成長しないし変わらない。もしも何かを願ったのなら、それはもう『神』ですらない。
「余は何も願わない。余は宇宙の為に――『みんな』の為に終わりを齎す。ただそれだけのシステム。だというのに否定するのか、お前たちは。『終わり』とは、そうまでしても拒絶されるものなのか?」
咎人の猛攻が続き、回復は最早追い付かない。これを押し返せないのなら、趨勢は最早決まった。ただの時間稼ぎ、それだけの為に傷を癒す時間の中で、『理』が漏らした言葉。聞き届けたのはクルハだった。
「みんなが否定しているのは『終わり』じゃないよ」
終わりはいつか訪れる。それは魂の安らぎでもある。
『永遠』も、『逃避』も、『再生』も、『輪廻』も、『無限』も、『不屈』も、『運命』も、あるいは『楽園』でさえ、ヒトはきっと否定し立ち向かうだろう。その願いが、言葉が、仮に救済を願ったものであったとしても、『与えられた結末』には何の意味もないと知っているから。
「今、宇宙が続いたとしても……私たちも、この宇宙も、いつかはきっと消える。それはみんな分かってる。この時間はずっと続かない。でも、いつかやってくるその終わりは、自分で選んだものであってほしいんだ。自分が想った形で、願った想いで、自分らしく終わりにしたいから。それが――『自由』だから!」
エンブリオは空を見た。
真っ暗闇の中に浮かぶ星空ではなく、どこまでも青く、自由な空を。
何かを決められるということは、『決めなければならない』ということ。
何かを信じれば、信じぬくことを。愛したなら、愛しぬくことを。
人が願い、同時に背負う責務と、だからこそ遠ざけてしまう『決断』を。
ただ――代わってあげたかった。
誰もが言えないのなら。誰もが願えないのなら。自分が代わってあげたかった。
『仕方のないことだから』と、そっと肩を叩いて、赦しを与えたかった。
そう。死と罰の本質は『赦し』だ。それは相手を苦しめる為ではなく、魂を赦し、罪を消し去る為にあった。もう誰も苦しまなくていいように。誰も思い悩むことも、引きずることもないように。諦めさせるために、『罰』は存在する。
「――ああ、そうなのですね。『咎人』よ……あなた達は罪と、罰と、自らの心で向き合っていく。誰かに代わってもらうことなく、自分の意志で……自由に……」
青い空を、青い鳥が飛んでいる。
幸せを運ぶ鳥を思い出したのは、きっと彼女がそうなのだと気づいたから。
憎しみではなく、恨むでもなく、ただ解放するために。肩の荷を下す為に。
諦めて、負けを認めて、代わりに笑ってみる。
(どうしようもなかったら……泣いたり、笑ったり……ジタバタしてみよう)
ちゃんと諦める為に。赦す為に。
クルハの世界武装(ロンギヌス)がエンブリオを貫いた。
(執筆:岩岡志摩)
想い出はあなたの心を編んだ。
心こそがあなたの存在を肯定する。
●背負う必要はない
天獄界の海中に存在する『混沌の海』という異空間内で、全てを賭した戦いが始まった。
「あは☆ 私の相手は一体だあれ?」
アルテュール・マルスを駆るnavi(ma1483)は機体の中より対戦相手を目視できると、固まった。
「……ラスボスかよぉぉぉ!」
naviの叫び通り、これから咎人達が戦うのは理の神『エンブリオ』。
ニエンテとオルファが『ニエンテ優位』で統合され、収穫者(ハーベスター)として覚醒し、今の状態になった。
「もー。ユナちゃんも皆も召喚準備中? 仕方ないなあ」
機体の中からnaviが後方に視線を向けると、後方では星空 雪花(ma1479)が葉山 結梨(ma1030)や鳳・美夕(ma0726)と共に、他の仲間達より世界武装の顕現をずらす形で『準備』を続けていた。
「いえいいえい。ナヴィタクシーにお任せあれ!」
破れかぶれの表情でnaviはタンクフォームを起動し、雪花を保護すると共に安全と思われる場所まで牽引する。
「雪花さん、無理だけは……ううん、頑張ろうか、お互いに」
鞍馬 雪斗(ma1433)はそれ以上の言葉を飲み込むと、『語り継がれし勇者の花』へのカウントを開始する。
「全員せめて無事に、それさえ叶えば言うことはないよ」
その一方で雪斗は祈られた弾丸「タナトス」を雪花に向けて発動し、特殊な弾丸を雪花に打ち込むことでそのシールドを強化することも忘れない。
「持ち堪える、絶対に。……今はまだ倒れてなんていられないから……!」
naviと雪斗からの援護を受けた雪花は2人に感謝を伝えると、自身は想煌の星華を発動し、その効果を自身に付与することで『準備』を続けていた。
ウェンディ・フローレンス(ma0536)は聖樹剣カリブルヌスを顕現すると、クルハ(mz0014)を守るため最適な位置に陣取っていた。
「クルハちゃん! 何度でも言いますわ!」
ウェンディは自身の心を謡いあげる。
「わたくしも、クルハちゃんと会えてよかった!」
叫びと共にウェンディはアビスの流星を発動し、エンブリオのもとに流星めいた光弾が降り注ぎ、エンブリオのシールドを削り取る。
続けてウェンディは喪われし蒼穹の花の発動へと移行し、蒼光の斬撃が直線上にいたエンブリオを斬り裂き、シールドを1つ斬り割った。
「嬉しんだけど、あまり大きな声で言わないでくれるかな……」
一方クルハはこのような状況なので、ウェンディに対し嬉しさと困惑が混ざる表情を向ける。
「ま、クルハを死なせないためにもパパっと片付けようぜ」
ウォードス・キングダムに搭乗するラファル・A・Y(ma0513)は、女神の勅令によって無明陣を発動すると足元に魔法陣を設置し、魔法の効果が高まり自機を守る空間を展開させる。
そのままラファルは星神砲・超過大出力へのカウントを続け、発動に備えていた。
「ライフを大量に失って倒しきれればクルハを使わなくて済むからな」
ラファルもクルハにロンギヌスを使わせるつもりはないようだ。
「最後まで付き合うよ」
桜庭愛(ma1036)はクルハの近くで貴き者の旗Ⅱを発動し、自身を中心とした守護結界を展開していた。
(無事に帰ったらプロレスピンナップ撮ろうか)
別の角度から見ると、愛の考えは死亡フラグめいたものだった。
「……クルハさん。ロンギヌスは……出来得ることなら、使わずに」
そしてアウルゲルミル・デスクロウを召喚していた氷鏡 六花(ma0360)もまた、クルハに対して可能な限りロンギヌスを使わないよう要請していた。
「……一緒に、生きて帰れるよう……このデスクロウと氷城で……護ります……ね」
クルハを守ると確約しながら六花は氷城へのカウントを終わらせて発動し、クルハやその周囲を六花氷の結界で包み込む。
「わかった。お願いするね」
クルハもこくりと頷きを返す。
「最後だからこそ、あたしらしい戦いをするの」
【喫茶衆】所属のラクス・カエルム(ma1196)も聖樹剣カリブルヌスを顕現すると、『天の光はすべて星』を発動して自身の能力を底上げする。
――イデアの小さな輝きは、いつか大きな願いへと変わる。
――誰に見送られることもなく深淵に消えようとする者たちに、せめてわたしの力を貸そう。
「ちょっとした悪戯が、歴史を動かす瞬間になることもあるの」
続けてラクスは『ささやかな悪戯』を発動し、エンブリオの『絶対存在(真)』を無視してその効果を付与することに成功した。
「そして、いまこそそのときなの」
ラクスは『天の光はすべて星』の効果を使うことで、フェアリーガーデンへのカウントを短縮して発動し、『ささやかな悪戯』の強度を増すことで呪いを爆発させ、エンブリオのシールドを1つブレイクさせた。
なおエンブリオのシールドは3つあり、あと1つ残っている。
「この時の為だけに用意したアビスリーパー……存分に扱わせてもらう」
【喫茶衆】に属し、蒼月の騎士を駆る高柳 京四郎(ma0078)も動き出す。
『蒼月の騎士』は京四郎の専用機としてカスタマイズされたアルテュール・ロウダーでもある。
共鳴剣「荒鷲」を起動し、浮遊させた神滅剣「ザイン」と三又槍「アストラビ」によって自機を中心とした結界を展開する。
「終わりっていうのは誰かが決める物でもない、自分自身も含めてな」
京四郎はプリズムウォールを起動することで魔法による光の壁を味方の前面に作り出すと、シャインブラストへのカウントを続けながら自身の考えを口にする。
――それはいつか来るだろう。でもそういうのは自然と訪れるものだろう。
京四郎にとって『終わり』とはそういうものになる。
「京四郎も支援主体か。一緒に頑張ろう」
同じ【喫茶衆】所属の葛城 武蔵介(ma0505)は阿頼耶識を顕現すると、京四郎と歩調を合わせる形で動く。
「簡単には終わらせないよ」
武蔵介は不退転の決意で永久不変と反響する賛歌Ⅱへのカウントを続け、その間にも咎人達がエンブリオに攻撃を集中させる。
【喫茶衆】と連携するロゼリッタ=エトワール(ma1190)は、自身が搭乗するプロセルピナを前面に押し出す。
「巨神機の大きさをいかしますわ」
既にロゼリッタは今も召喚準備中の味方を守るため、プロセルピナを味方とエンブリオの間に自機を配していた。
「いきますわよ、プロセルピナ。皆で帰る為に」
決意と共にロゼリッタは女神の勅令を駆使してカバーゾーンを発動し、特に【喫茶衆】の仲間達を庇うことができるようにした。
さらにロゼリッタは女神の落涙へのカウントを続け、合わせて集魔障壁も起動することで、魔法の詠唱と同時にその余剰魔力で機体周囲に結界を展開する。
「おお、エンブリオちゃんや。あたしらの長年の因縁もこれまでぞ」
ゴールデンドラゴンに騎乗するグリーンアイス(ma1255)も、今回エンブリオとの戦いに加わっている。
「おかしい。なんでこんな働かされてるんだ。こき使いすぎやぞ」
グリーンアイスは不満をこぼしつつもエンブリオに向けて均等時間を発動し、エンブリオの行動権を自分と同じ回数まで減らす。
「やっぱこれ効くんだろ?」
手ごたえを感じたグリーンアイスに、エンブリオが感情のない視線を向ける。
「それで終わりか?」
呟きと共にエンブリオの攻撃が始まった。
「実行。『オルファモード』」
まずエンブリオは『オルファモード』となろうとしたが、グリーンアイスが『忘我の一刻』によってエンブリオの『時』に干渉し、エンブリオの『オルファモード』を忘れさせることに成功する。
「実行。『エゲリアモード』」
だがエンブリオの行動は続き、『エゲリアモード』になったエンブリオは5つの場所に特殊なオブジェクト『ビット』を1つずつ設置し、『ビット』はエンブリオとは異なる動きで咎人達を攻撃し始める。
「実行。『スサノオモード』」
そしてエンブリオは『スサノオモード』になり、射程内にいる咎人達へと『理』による近接攻撃が連続で叩きつけられる。
「やらせはしませんわ!」
ロゼリッタはカバーゾーンと集魔障壁の効果を駆使して、範囲内にいる味方を庇い続ける。
『スサノオモード』の攻撃はクルハにも及んでいたが、六花の展開する氷城がクルハを守っていた。
「……スサノオ様。其処に……いらっしゃるのですね」
氷城の効果でクルハへの攻撃を自身に向けさせた六花は、結界の向こう側にいるエンブリオを見据え、そのような呟きを漏らす。
「……貴方の眷属として……その猛攻、虚ろなる闇を以て……受け止めて、みせ……ます」
そのまま六花は虚闇を駆使することで、強力な防御障壁で『スサノオモード』の攻撃を防ぎ、無効化すると共に自身のライフを回復した。
●ただ、『あったもの』として受け入れればいい
エンブリオの攻撃を凌ぎ切った咎人達は反撃に移り始める。
「クルハ様、支援致します。無理は為さらずに」
その中で、祈灯杖プロメテウスを顕現したエイリアス(ma0037)はクルハの防衛に回る。
「エンブリオ様には申し訳ありませんが、妨害させて頂きます」
エイリアスは霧消透過を発動して、一瞬で周囲を霧で包み込む。
霧はすぐ晴れたが、霧消透過の効果を受けた咎人達は第三者から感知できない状態となる。
「これが世界の答えだったとしても、私が諦める理由にはなりません」
――希望はあきらめない限り微笑みかけると私は信じております。
そのままエイリアスは、物体総破壊の発動へと移行し、エイリアスの周囲に存在していた『ビット』が砕け散り、一掃された。
なおも攻防が続き、処理しきれずに残る『ビット』や『オベリスクG』の空間が、徐々にその数を増しつつあった。
(最後まで変わらず……善処するよ、彼女の為にね)
雪斗は『語り継がれし勇者の花』へのカウントを終わらせて発動し、効果範囲内にいた仲間達のライフを回復すると共に、そのシールド強度も向上させた。
このとき愛は『オベリスクG』の1つに接近すると、貴き者の旗Ⅱの空間と接触させることで、守護結界の消失と引き換えにオベリスクGの空間も解除することに成功する。
「えーと、死神ちゃん(mz0018)。これ終わったら、プロレスピン撮ろうか。この世界再生の記念に」
「再生などない。あるのは終わりだけだ」
愛の言葉にエンブリオは平坦な、感情のない呟きで応じていた。
「随分と働かせるね。戦闘はわたしの趣味ではないのだけれど」
【喫茶衆】と連携するユーノー(ma1472)は召喚準備中の味方を守りながら、ネルガルの中でそのような呟きを漏らす。
【喫茶衆】への防衛を優先した結果、機体の各所は大きく損傷していたが、次の召喚に合わせる形でユーノーはネルガルを帰還させ、生身となる。
そのままユーノーは自身に祈願の暁を発動し、女神アルビオンに祈る。
――誰も倒れないよう。
――最後まで諦めず、戦い抜くことができるように。
祈願の暁の効果がある内に、ユーノーは少しの間を置いてから絶対真理の時計へのカウントを始め、短縮する。
「最初は完璧でも長く続ければ、歪みは蓄積し上手く行かなくなるものだ」
天上天下唯我独尊を召喚した天魔(ma0247)は、エンブリオの行動理由に一定の理解を示していた。
「今がその時だ。君は間違ってない。ただ生まれた時が悪かった」
天魔はエンブリオを否定しない。
けれどその目的を達成させるつもりはない。
(ここまで来て誰かを犠牲にしての勝利とか認めねーっすよ)
「だから今は家族の元に退け。そして長き時の果てに我等のやり方が上手く行かなくなった時に來るといい」
超誇大する幻想を発動することで、天魔は最強の幻想、その究極系を体現し、無双の力を手に入れる。
「その時は他のハーベスター達も来たまえ。出来れば理に従うのではなく家族を手伝うためにな」
超誇大する幻想の効果で行動権を増した天魔は、雨へと変わる雪の発動に移り、自身の状態を保存する。
その上で天魔は真世界の創造を発動し、エンブリオが纏う『理』の効果1つを一時封じ込めると共に、咎人達が与えるダメージを大幅に増幅させる。
「『理』にゃ無力だがそれ以外には耐えてみせよう。ライフを削ってでもな」
ここでアルテュール・マルスに搭乗する麻生 遊夜(ma0279)も、『詩琴のマビノギオン』を召喚していた鈴鳴 響(ma0317)と共に、クルハの防衛を本格化させる。
既に遊夜はクルハや響たちを庇うことのできる位置へと自機を配していた。
「だがそう簡単に俺を落とせると思わないことだ!」
――ようやくだ。ようやく死神ちゃんを助けられる……気張らねばなぁ!
不敵な笑みと共にナイトフォームを起動した遊夜は、エンブリオからの攻撃に備える。
「泣いても笑ってもこれが最後だ。後悔ない様にいくぜ!」
やや離れた場所では、チーム「春風」に所属するアストルバル・ガルシア(ma1104)もアルテュール・マルスの中で気合を入れ、防戦に努めていた。
「こちらも理の影響を受けるが、足しにはなるだろう」
ナイトフォームを起動することで、アストルバルは同じ「春風」に属する仲間達を庇う。
「何時かは全て無くなってしまうとしても、今はまだ」
同じ「春風」に属するトリス・マリアンデール(ma0751)は、かなり前から『独り歩きする奇跡』へのカウントを続け、合わせて発動していた高速詠唱によってそのカウントを短縮していた。
「俺が行く!」
そして【喫茶衆】に属する歩夢(ma0694)も、召喚『準備』を進めている味方を守るため、キックスターターを発動することで瞬時に『蒼き翼のウラノス』の召喚を完了していた。
やがてエンブリオが再び反撃に乗り出し、『オルファモード』で『オベリスクG』の空間を複数展開すると、『エゲリアモード』によって設置された新たな『ビット』からの攻撃が咎人達へと殺到する。
さらにエンブリオの『アイシスモード』によって召喚された大地が咎人達に襲いかかると、歩夢がランパート・オールを駆使して対抗する。
「俺達に力があるというなら……ここでこそ頼むぜ!」
歩夢の意志と共に、鉄壁と化した風の守りが『アイシスモード』によるエンブリオの攻撃を完全に無効化する。
エンブリオの攻撃はさらに続き、『スサノオモード』のエンブリオからの連続攻撃がアストルバルにも襲いかかる。
「手数の差は如何ともしがたいか!」
ライフでその攻撃を受け止めた結果、アルテュール・マルスは大きく生命を削られ、機体の中でアストルバルは歯噛みする。
「我が信念と矜持の楯は堅牢なり! さぁ、全て受け止めてやろう!」
一方遊夜は機体の中で護り抜く姿勢を示し、ナイトフォームを駆使することでエンブリオからの攻撃を全て受け止め、クルハや仲間達を守り抜いていた。
さらに攻防は続き、六花も長く続けていた虹の落涙へのカウントを終わらせる。
「……虹の涙よ、流星よ……どうか……私達に……この宇宙に……この先の……未来を……」
六花の祈りと共に『虹の落涙』は発動し、範囲内にいる仲間に降り注いだ虹の光が仲間達に強力な加護と戦闘不能にならない不屈の力を与える。
「ニエンテに移動されるとマズイな」
マスティマⅡを駆るウガツ ヒョウヤ(ma1134)はスキルトレースを使うことでカラーミックスの発動を可能にし、主に『スサノオモード』からの攻撃を防いでいた。
その一方でヒョウヤは敵が移動すると味方も移動する手間が増え、攻撃の手数が減る事態になることを警戒していた。
後方に控える咎人達が召喚の『準備』を終えた頃、速やかにエンブリオのもとへ移動させる必要があることから、ウガツはそのタイミングに移動を支援できるようにプライマルシフトへのカウントを続けていた。
ここで『天の光はすべて星』などを駆使して防戦にあたっていた響は、言い知れぬ不安に襲われる。
「……ん、とても嫌な予感がする」
響は自身の直感に従い周囲にいる仲間達へ警戒を呼びかけると、いち早くウェンディやラクスが呼応した。
「大丈夫、わたくしが死なせませんもの」
――決してあなたを手離さない。ここまでたどり着いたのだから。
ウェンディもクルハに笑いかけると、クルハを守るため楽園別れの歌での対抗姿勢を見せる。
「やらせないの――みんなで一緒に帰るって、そういう約束なの」
ラクスも『慈悲なき叛逆』と『楽園別れの歌』が発動できるよう、エンブリオとの間合を詰めた。
「他も痛いけど仕方ない、ラクスさんと連携して対処しよう」
響もラクスに協調する形でエンブリオが『慈悲なき叛逆』の射程内になるよう距離を縮める。
そして『ニエンテモード』になったエンブリオから、『ワールズエンド・スパイラル』が解き放たれた。
「……最優先で、無効化しないと……」
「最後の戦いをあたしらしく悪戯で飾るの」
響とラクスはそれぞれ『慈悲なき叛逆』と『楽園別れの歌』を発動し、『ワールズエンド・スパイラル』に対抗する。
「出会って。一緒に過ごして。これからも一緒ですもの!」
決然とした意思のもとに、ウェンディは『楽園別れの歌』による絶対的な防御魔法でクルハを守る。
そして『楽園別れの歌』は『ワールズエンド・スパイラル』を無効化すると共に、エンブリオが纏う『理』の効果も1つ無効化し、『慈悲なき叛逆』はエンブリオに威力を増した一撃を与えてそのシールドを1つ打ち破ると、エンブリオの命にもそのダメージが及び、命を削り続けていた。
●大切なのは今だ。そして
エンブリオの『ワールズエンド・スパイラル』は阻止され、咎人達が全員問答無用で戦闘不能になる事態はひとまず避けることができた。
「まだ……いけます!」
アストルバルに庇われたことで、エンブリオの攻撃を受けずに済んだトリスは、ここで『独り歩きする奇跡』へのカウントを終わらせて発動し、アストルバルや周囲にいる味方に向けて、オーラとして人幻を憑依させる。
「少なくとも私達はこんな終わり方は望んでいません!」
トリスの『独り歩きする奇跡』は、味方に付与されていた様々な状態異常を解除すると共に、仲間達を死から遠ざける加護となった。
「一度、今のシステムを見直す時が来たのですよ」
同じ「春風」に属し、『昼と夜の翼』を顕現していたアルティナ(ma0144)も仲間達の援護に動いている。
「なんにしても、今は止めさせていただきます」
『エゲリアモード』に対する防御として、アルティナはミラリスシェルを発動し、鏡の極限回廊を模した光の結界が周囲に展開され、エンブリオからのダメージや弱体化を無効化する。
――貴方にこんな事はさせたくありませんから。
続けてアルティナは破天一閃の発動へと移行し、一点に集中した神力を天をも貫く光の矢と化してエンブリオに命中させ、エンブリオが纏う『ニエンテモード』を無効化すると共に、直接そのライフへとダメージを与えた。
やがて後方にいる咎人達の『準備』が終わり、第二陣の召喚が行われ始める。
通信術式を介して敵味方の配置を把握していたヒョウヤは、その咎人達を援護できる位置まで自機を飛ばしていた。
『プライマルシフトで総火力を引き上げるぜ』
ヒョウヤから移動支援の打診を受けた咎人達は、通信術式を介して承諾の意を返してくる。
(ロンギヌス未使用での勝利を目指し、特異点を確保する。たしか、特異点に願えば死んだ者も蘇るンだよな)
内心そのようなことを考えながらも、ウガツはプライマルシフトへのカウントを終えて起動し、マスティマⅡより大精霊の持つ空間転移能力が拡大され、効果範囲内にいた咎人達を瞬時にワープさせる。
――エンブリオを捕捉できる配置へと。
「護封神いっきまーす!」
回天のエウドクソスを顕現した紫微(ma1282)は【喫茶衆】との連携を軸にして動く。
「俺は思うわけよ、これ前回もやったなって」
そう言いながら紫微は現状を確認すると、護封神の発動へと移行する。
「はい、バーーリア! 絶対無敵の護封神ってね」
ダメージを0にする絶対的な防御結界が紫微の周囲へと展開され、仲間達を守る。
ヒョウヤのプライマルシフトで転移した咎人達の内、【喫茶衆】が転移した先にはユーノーがいた。
そのユーノーも『絶対真理の時計』へのカウントを終わらせようとしている。
「ここからは皆さんにお任せします。絶対勝利の道標をここに!」
ユーノーは絶対真理の時計を発動し、範囲内にいる【喫茶衆】の時を加速させることで三倍のスピードで動くことができるようにすると、自身はそう言い残して異空間へと姿を消した。
それまで暗殺術「闇帳」を駆使して身を隠していた不破 雫(ma0276)も、蒼き翼のウラノスを顕現してラファルの支援に回る。
「生憎と生前に神との戦闘は嗜んでいるですよ」
雫は先制の陣を発動することで、味方が先制しやすい陣形を構築していた。
「これで本当の終わりにしましょう」
暗殺術「鴟梟」を発動した雫は身を潜めて気配も殺し、エンブリオの観察を行うことで確保できた情報をラファルに伝え、的確な行動へと繋げていく。
一方ラファルも星神砲・超過大出力へのカウントが終わりつつあったので、事前に周囲の仲間達に向け射線上から退避するよう警告を出していた。
「どぶに落ちた犬は沈める」
女神の勅令を使うことで混沌の刃の発動を可能にしたラファルは、星神砲に「理」を貫通する力を与えていた。
「ディキシイを聞かせてやるぜー」
そしてラファルは星神砲・超過大出力へのカウントを終わらせて発動し、全エネルギーを集中させた一射が迸る。
最大出力で放たれた一射はエンブリオを貫き、雫からの援護と混沌の刃による効果も相まって、その圧倒的な威力がエンブリオの頑強なシールドを打ち破った。
【喫茶衆】所属のリラ(ma0970)は天上天下唯我独尊を顕現すると、近くで召喚を終えた美夕への支援を開始した。
「美夕さん。支援します」
――貴女に何物にも負けぬ信念を。
リラは信念付与を発動し、理の守りを突破する力が美夕へと付与される。
「では、みなさん。よろしくお願いいたします」
そう言い残すとリラはエンブリオへと切り込んでいく。
――未熟でも世界武装を預かる身。がんばります!
「よし、いくよ!」
エンブリオを捕捉できたところでリラは雪雫の一撃を発動し、『花を受け取った者の不幸を願う』という言い伝えから生じた一撃がエンブリオに突き刺さり、2つ目のシールドを破砕した。
「来てよね、ワールドエンズ!」
同じ【喫茶衆】に属し、OVS-ワールズエンドを顕現した優夜(ma0725)は、召喚を終えた結梨への支援に乗り出す。
「あなた達に私の想いをたくすわ」
――だから必ず終わらせて!
優夜は結梨に向けて信念付与を発動し、一時的に理の守りを突破できる力が結梨へと付与される。
「喫茶衆、まかりとおるわ!」
優夜はアビスの流星を発動することで、流星の如き光弾がエンブリオへと降り注ぎ、残るシールドを大幅に削り取る。
「さあ、いくわよ!」
優夜はアビスの流星をもう一度発動し、新たな光弾をエンブリオに叩きつけ、シールドを打ち破った。
「今だ。殴れる奴は全力で殴れ。死神ちゃんを袋叩きにしろ!」
ここで紫微より周囲の仲間達に向けて、エンブリオがシールドブレイク状態になったことを報せたことで、咎人達は一斉攻撃を開始した。
●最後に何を記すのかは、自分が決めていい
「死神ちゃんを返してもらいに来ました」
チーム「春風」に属する夕凪 春花(ma0916)は、誓槍アルスマグナを顕現してからエンブリオに告げる。
「そのような存在などいない」
機械的な仏頂面でそう応じたエンブリオに、春花は決然とした口調で言った。
「ならば、戦って勝ち取るまでです!」
春花はエンブリオのシールドが失われている間にブロークンワールドを発動し、神速の追撃を3度繰り出した。
立て続けに攻撃を浴びたエンブリオは大きなダメージを受けると共に、受けたダメージの分だけライフの最大値が削り取られる。
さらに春花は通常攻撃とアビスの流星を駆使して攻撃を畳みかけ、エンブリオの損傷を地区させさせていく。
それまでカウントを終えたシャインブラストを駆使し、召喚中の仲間達を守っていた京四郎も一斉攻撃に加わる。
「少なくとも……強要されて終わるなんてものは本当の終わりじゃない」
既に京四郎はかなり前から女神の勅令によって大憲章をプロットし、そのカウントを続けていた。
「『終わらせよう』って時点でそれはお前のエゴなんだよ、理とやら」
そして京四郎は大憲章へのカウントを終わらせて発動すると、かつて女神アルビオンが理の力を持つ者たちを縛りつけるため生み出した術がエンブリオにその効果を発揮し、エンブリオの『絶対存在(真)』が無効化された。
「何があろうと最後まで足掻くだけだ」
少し前まで『反響する賛歌Ⅱ』や『永久不変』を駆使して味方を支援していた武蔵介も、京四郎の大憲章に続く形で『真世界の創造』を発動する。
「もう少し頑張れるか? 存分に暴れるといいさ」
理の力を封じ込め、与えるダメージが大幅に増幅させる効果をエンブリオに付与した武蔵介は、ユーノーから受けた『絶対真理の時計』の効果を利用して『反響する神韻』の発動へと移行し、範囲内にいた仲間達のライフを完全回復すると共に、あらゆる破滅への『備え』も付与していく。
この段階でnaviや雪斗からの援護でこの場まで持ちこたえてきた雪花も、『星想心光・エトワール』を顕現していた。
「感じるよ、皆の想い……。皆と一緒なら、負ける気なんて全然しない!」
『星想心光・エトワール』は雪花の想いによって構築された世界武装であるため、雪花の想いを通じて、自由自在にありとあらゆる姿を形取る。
――心為、解放。無垢の理の許、光差す未来への道を示します。
優夜など【喫茶衆】の援護を受けた結梨も、『心為崩神・フィンブル』の召喚を完了している。
――それは聖樹のイデアが結梨とフィンブルのイデアと共鳴し、崩神の再現へと至った姿。
今の『心為崩神・フィンブル』は法衣を想わせる装束を纏い、青い光を従える。
「やろう、結梨ちゃん、雪花ちゃん。ハッピーエンドを掴み取ろう!」
そして『華包心衣・リュミナス』を顕現した美夕は、結梨や雪花に声をかける。
この『華包心衣・リュミナス』は回天のエウドクソスが美夕のイデアに触れ、美夕にあわせて変化した世界武装でもある。
「うん、やろう。みんなで光差す未来を迎えるために」
「これがあたしたちの最後の戦い……幸せな未来を絶対掴み取ろうね!」
結梨や雪花は心強い返事を美夕に届け、3人は攻勢に乗り出す。
「新技の出番はないよ、クルハ。いつも通りでがんばろう!」
美夕はロンギヌスの出番はないとクルハに伝え、自身は妖気収束Ⅱを発動することで、高い集中力によって体内の霊力を研ぎ澄ませる。
「取りこぼした思いもある。力が足りなくて悔しい思いをした事も」
さらに美夕はリラから『望まれた蒼薔薇』の援護を受けることで、『鏡花水月・千理』へのカウントを一気に短縮して発動し、輝きを身にまとって臨む自身に自らを近づけた。
「だから、今この時だけはキミを諦めない! 死神ちゃん!」
行動権を増やした美夕は、リラから受けた信念付与の効果がある内に『奉舞「布都御魂」』と『蒼華爛漫』両方のカウントを続けながら、『咲き乱れる蒼月・繚乱』へのカウントを妖気収束Ⅱの効果で短縮し、発動に至る。
『咲き乱れる蒼』を強化したスキル効果が周囲の仲間達へと付与される中、美夕は間髪入れず『天真の極光・百花』を発動して仲間達に与えた光の分だけ、自身の武器へと光を集めて収束し――。
「帰ろう。私達のエンブリオに。君がそうなるんじゃなくてさ」
美夕はエンブリオにもう一つの『極光』を咲かせ、その威力を炸裂させた。
「何が何でもハッピーエンド! それ以外は認めない!」
美夕は自身の思いを『紫苑の花言葉』と共にエンブリオへと叩きつけ、さらに損傷を負わせていく。
「願いの数だけ道が在って、それがいつだって重なるとは限らない」
結梨も生命発火を発動することで、瞬間的に自身の命を炎に変えて武器に宿し、守りを貫く力や連続攻撃の精度を高めていた。
「同じ想いを。願いを抱いても。同じ道を往けるとは限らない」
優夜から受けた『信念付与』が効果を発揮している間に、結梨は美夕とは別の方向へと回り込むとその場で死を発動し、血潮のように赤い彼岸花を一瞬咲かせ、散った花びらが結梨を飾り付けてその能力を向上させる。
「ただ、それだけの事。だけど、だからこそ。まだ「道」が在る」
そして結梨はエンブリオに複数回斬撃を浴びせ、そのライフを削りにかかる。
「心を為すのなら、どんなに傷付け合っても、共に歩む事は出来る」
さらに結梨は『信念付与』の効果がある内にチェーンストライクとチェインアタックをそれぞれ発動し、追撃と化した斬撃がエンブリオへと食らいつき、さらに損傷を蓄積させる。
「皆には生きて幸せ未来を掴んで欲しいから、あたしだって戦うよ」
雪花は絶対領域へのカウントを続けながら、少し前に時間切れで解除された想煌の星華を再び発動し、自身へ向けられた仲間からの想い、敵からの想い、その全てを受け止めて、己の輝きへと昇華させる。
「これがあたしの願い、あたしの想い! 皆と一緒に帰るんだから!」
叫びと共に雪花はオルトストレインを発動し、頭上より無数の光が降り注ぐとエンブリオへの攻撃と仲間達の回復を同時に行った。
「望まれるから産まれ、望まれないから終わるのですよ。ひとも、世界も」
ソテル(ma0693)は『OVS-ワールズエンド』の召喚作業を終えると、自身の考える『終わり』をエンブリオに告げる。
――世界のおわりを見届けに。それはどんな結末でも眩く輝くはず。
なおソテルもユーノーから『絶対真理の時計』を付与されていたため、自身に行動権を増やしていた。
「むかしむかしのことはみんな知らないけれど、すべての出会いと別れに祝福を」
いまソテルは『むかしむかし』と『絶対領域』へのカウントをそれぞれ続け、次の場面に備えていた。
「第二部曲、【喫茶衆】推参! 最後の戦い、華々しく参りましょう」
ここでを召喚したマイナ・ミンター(ma0717)も【喫茶衆】として攻勢に加わる。
「貴方の裡にある力に、私の仲間たちの力は決して劣りません」
「イエス、ユア、マジェスティ。仰る通りです、お嬢様」
【喫茶衆】所属のマリエル(ma0991)も、マイナの近くで少し前から『並び立つ二輪草』へのカウントを続けていた。
そしてマリエルは『祈灯杖プロメテウス』の召喚を終えると、マイナに付き従う。
「絶対真理の時計、預かります。勝利の約束を未来に――霊極装『真月』」
マイナはユーノーより付与された『絶対真理の時計』がある内に、霊極装「真月」へのカウントを『盈月当空の理』によって一気に短縮して発動し、秘めた霊力を開放することで真の力を発揮する。
「――コキュートス、守りを貫け! ライトニングクロス!」
叫びと共にマイナはライトニングクロスを発動し、エンブリオとの距離を一気に詰めると氷の刃と雷を纏った連撃が繰り出され、立て続けに斬り裂かれたエンブリオはライフを削られると常に、その身を守る力も一時的に封じられる。
「マリエルはどこまでもお嬢様についていきます」
マイナのキャリー&シュートによって随伴していたマリエルも、『並び立つ二輪草』へのカウントを終わらせて発動し、赤い糸状のイデアをマイナへと伸ばすことで、マイナとの間で不変の契約を行った。
「でも、どうせならハッピーエンドで飾りましょう。死神ちゃんには帰ってきてもらいます!」
ユーノーより付与された『絶対真理の時計』がある内に、マリエルは続けて物体総破壊を発動して周囲の『ビット』をまとめて排除する。
続けてマリエルは『聖母の抱擁』を発動して自らの命を呪詛に代えて放つ魔弾がエンブリオに突き刺さり、そのライフを削ったところで『慈悲なき審判』による追撃をエンブリオに叩き込んだ。
「さあ、乗せて参りますよ! 技巧の三位一体、トリニティフォース!」
マイナはマリエルから『並び立つ二輪草』を受けた状態からトリニティフォースを発動し、複数の攻撃種別を使い分けての乱舞攻撃が周囲を席巻し、エンブリオにそれぞれの威力が炸裂した。
さらに霊極装「真月」の効果でマイナからの追撃がエンブリオに命中すると、ナイトリッパーも駆使しての連撃がエンブリオを複数回斬り裂き、追撃のチェインアタックでエンブリオは損傷をさらに深めていく。
「此処こそ虹之煌き。儚くも美しい虹之宙は今此処に在り」
【喫茶衆】に属する山神 水音(ma0290)は『虹之宙・虹之煌きは此処に在り』の召喚を完了すると、自身も攻撃に加わる。
「此処は僕に任せてよ! どんなに強くても引きはしないよ!」
水音は『灰は灰に、塵は塵に』を発動すると、自らのイデアを自身に憑依させ、無理矢理力を引き出していた。
「最後の戦いだからね。最後まで戦わせてもらうよ!」
ユーノーより付与された『絶対真理の時計』の効果がある内に、水音は『地を駆けるもの』も発動し、大地の精霊――正確にはその力を肉体に憑依させることで自身の能力を強化していく。
「どうなろうとも最後まで戦うだけだよ!」
既にエンブリオがシールドブレイクになっていることから、水音は『猛る精霊王の牙』を発動し、精霊イクタサの力を風の刃に変えてエンブリオを複数回斬り裂いた。
「よっしゃ最後だ。ド派手に行こう!」
竜胆 咲斗(ma0626)も味方の攻勢に加わり、エンブリオを捕捉する。
「弱くても頭を使ってやるんだ。雑魚でも世界は救うんだよバーカ!」
今行動すること。戦うことはその次の場面に生きる自分のためにある。
この戦いで自身の価値を証明すると覚悟を固めた咲斗は黒戒の影へのカウントを終わらせて発動し、自らの姿を隠すと共に、ダブルクロスや黒紋縄も駆使してエンブリオへ様々な状態異常の付与を試みる。
「互いの使命と望みをかけて……エンブリオ、貴女に勝ちます」
天下冥凍・絶華氷刃丸『累式』の召喚を完了させた氷雨 累(ma0467)は、小山内・小鳥(ma0062)やフィリア・フラテルニテ(ma0193)と連携しながら、エンブリオに挑む。
「皆……大切な人がいてくれたから、僕の旅は此処まで来ることができた」
氷刻を発動した累より青白いオーラが放たれ、残像が現れる程の圧倒的な速さを累は確保する。
「そして、終わりにはさせない。まだ前を向いて歩みたい!」
続けて累は動の構えをとり、構えた累の体を今度は赤い霊力のオーラがうっすらと包み込んだ。
「今この身は天下冥凍改め、絶華氷刃丸累式……推して参る!」
――抜刀。氷刃絶華、廻天蒼嵐斬り!
名乗りと共に累は氷刻の効果で蒼穹願いし百万色へのカウントを終わらせて発動し、世界武装のクローンが複数顕現して周囲を連続で薙ぎ払い、エンブリオを3度斬り裂き、追撃として発動したブロークンワールドによって、累はエンブリオに3度斬撃を浴びせてその生命を削り取る。
「最後でも漁師の心は……忘れないのですよー」
小鳥も『氷双刃コキュートス』を顕現すると、累の後に続く。
「世界武装を身に着けた……漁師・神は無敵ですー」
オーシャンスタジアムを発動し、自身にその効果を付与した小鳥は『漁船イルカ丸』の発動に移る。
「イルカ丸が戦場を……かけていきますよー」
小鳥の呟き通り、どこからともなく現れた漁船が自身や近くにいたフィリアや累を乗せ、移動する。
「これから先も……皆と過ごすため……今、全力全開ですー」
続けて魚群大遊泳を発動した小鳥の漁船イルカ丸が全速力で走り、『海』を泳ぐ回遊魚と一緒にエンブリオへと突っ込んだ。
交錯の一瞬、小鳥からの一撃がエンブリオへと撃ち込まれ、『漁船イルカ丸』の効果で一本釣り攻撃もあわせて叩き込む。
「これが……私達の神様なのですね。凄い威圧感です……」
聖樹剣カリブルヌスの召喚を完了させたフィリアも、改めてエンブリオを見据えていた。
現在フィリアは次の『ワールズエンド・スパイラル』を警戒しながら、『廻らぬ星の逆さ花』へのカウントを続けている。
「ニエンテ様……参ります。私達の願いをお見せしますっ」
決意と共にフィリアはライフシェルの発動に移り、自分のシールドを減少させ、味方のシールドを強化する。
「そう簡単には落とさせませんっ。ヒーラーとしての意地ですっ」
フィリアが抱擁領域を発動して癒しの光が放たれると、範囲内にいた仲間達のライフが回復すると床に、更に身を護る加護を与えていく。
「ベヒーモス出航。今回の母艦は俺だ」
ベヒーモスを動かす白鐘 吟(ma1560)は【ドン・キホーテ】の母艦兼足場として提供していた。
『ドン・キホーテ出撃。……目標、エンブリオ撃破』
その【ドン・キホーテ】を率いる三糸 一久(ma0052)は、吟のベヒーモス上に陣取ると、通信術式を介して作戦開始を告げた。
『BOX伍長、作戦行動を開始するであります。いつも通りですな』
BOX-D型(ma0284)は『絶対真理の時計』へのカウントを続けていたが、終わりが近づいたので通信術式を介し、周囲の味方に発動のタイミングを報せていく。
『絶対真理の時計であります。しばしの別れ、グッドラック!』
そしてBOX-D型は絶対真理の時計を発動し、効果範囲内にいる味方の時を加速し、三倍のスピードで動くことができるようにすると、自身は味方の健闘を祈りながら異世界へと消え去り姿を消した。
『あの邪魔者は俺が引き受ける。皆はエンブリオに集中してくれ』
吟は味方に向けて強襲指示を起動すると、通信術式を介してオベリスクGを排除すると伝えた。
――どうせ沈むなら一発でも多く撃つ。今回は逃げる気は無いからな。
やがて吟の操作でベヒーモスよりキャリアー艦載ミサイルが連続で射出され、展開されたオベリスクGの1つに到達すると立て続けにその威力を炸裂させた。
『各位、我が隊は全力での一斉攻撃を仕掛ける。陣形を密に。相互防御と持続攻撃の同時進行だ。撃て! 守れ!』
『ドラゴンファング』を顕現した一久は通信術式を介して仲間達へ指示を飛ばし、【ドン・キホーテ】所属の咎人達が動き出す。
「行こう。友よ!」
一久の『ドラゴンファング』はかつて一久に力を貸してくれた月光龍が名の由来となり、一久が最初と最後に手にした切り札でもある。
まず一久は再演された奇跡を発動し、周囲にいる仲間達にあらゆることがクリティカルとなる『幸運』を付与していく。
続けて一久は『真世界の創造』を発動すると、理の力を封じ大幅にダメージを増幅させる効果をエンブリオに付与すると共に、『絶対真理の時計』による効果があるうちに連撃を叩き込み、さらにエンブリオの生命を削っていく。
「さあさあご奉仕ですわ。わたくしのメイド力を見て頂きます!」
【ドン・キホーテ】所属のマリィ=オネット(ma0016)は明日へのアンコールを発動して自身の行動権を増やすと共に、ロングアクションスキルの発動を迅速にしていく。
――この想い。この歌を世界に届けるために。さぁ歌おう。それは明日(ミライ)へのアンコール。
「メイドの舞をご覧あれ!」
その効果とBOX-D型から受けた『絶対真理の時計』による効果の両方がある内に、マリィは月の妖鉄舞へのカウントを短縮して発動し、味方に付与されている加護がスキルによって解除されない空間を構築していく。
――真実を覆う偽りがいつしか真となり、真なるものが時を経て偽りとなる。
――偽りの太陽は沈みて不夜は終わりを告げ、神無き月が昇りて新たなるヒトを遍く照らす。
「ふれっふれいちごちゃん、ふれっふれ、みなさま! 旦那様!」
続けてマリィは明日へのアンコールによる効果でチアリーディングへのカウントを短縮して発動し、声援や踊りで応援しながら同じ【ドン・キホーテ】に属する宇木 いちご(ma0800)の行動回数を増加させた。
「あと白雨・偽りもどうぞ」
――最後まで一久様と一緒に戦いますわ!
そのままマリィは望みの白雨・偽りを発動し、自らのイデアを赤い光の雨と変え、味方に降り注ぐことで力を与えていく。
「感謝があります!」
マリィの援護を受けた既に『Chekhov’s gun』召喚を完了していたいちごは、マリィたちの援護に礼を述べる。
「いちごが皆さんを守るがあります! 無敵シマ・ガード!」
いちごはBOX-D型から受けた『絶対真理の時計』が効果を発揮している間に『シマ・ガード』と『レイムディアーソング』をそれぞれ発動し、周囲の仲間達に自身の幻影を憑依させると共に、聖地より授かった精霊の力でその場に癒しと守護の結界を展開していく。
ここでマリィがエリアプロテクションを発動し、いちごの展開した『レイムディアーソング』の結界にマリィの力が上乗せされた。
「龍氣来来の輝きとホープスガンが撃ち抜く……があります!」
続けていちごは龍氣来来で全身に黄金のオーラを纏うと、『Chekhov’s gun』の一射を連続で叩き出し、切り裂くような火線がエンブリオへと突き刺さり、そのライフを削っていく。
「強化は万全だ。殴るだけに特化したが、その分強烈だ。行くぞ」
【ドン・キホーテ】に所属するグリード(ma1015)は、マスティマⅡに搭乗して出撃する。
グリードは第二陣の召喚が行われるよりも前から、『ブレイズウィング』やスキルトレースを併用した『廻らぬ星の逆さ花』へのカウントを続けていた。
『初手の守りを固める。油断せずに各々防御は警戒しろよ』
通信術式を介して周囲の仲間達にそう伝えると、グリードは『廻らぬ星の逆さ花』へのカウントを終わらせて発動し、幻影のアクシャ・ヤバタがその場に召喚される。
その力によって周囲に強力な結界を展開したグリードは、BOX-D型から受けた『絶対真理の時計』の効果とスキルトレースを駆使して『ワイルドアクション』の発動へと移行し、自身の素早い身のこなしとスタミナで行動権を増やしつつ、敵の攻撃に身構え、大胆な行動を可能にした。
「仕事の時間だ。一番の大仕事だ。気合入れていくぞ」
マスティマⅡを飛翔させ、エンブリオや周囲に残る『ビット』を可能な限り捕捉したグリードは『ブレイズウィング』のカウントを終わらせる。
「どうだ」
そしてグリードが『ブレイズウィング』を起動すると、機体に付属していたブレイズソードユニットが無数の剣閃を煌めかせ、捕捉できたエンブリオや『ビット』を切り刻む。
「これがラストバトルか……。今まで色々あったけど楽しかったな」
青柳 翼(ma0224)は開戦から続けていたカウントを終え、葬滅のコールブランドを顕現すると攻勢に加わる。
「死神ちゃん! もし意識が少しでも残っているなら理に抗ってくれ!」
エンブリオの中に残っていると思われる死神ちゃんへの呼びかけを続けながら、翼は『葬滅のコールブランド』が顕現している間にその一射をエンブリオに命中させた。
「恐らく好機はそう回ってこない。ここで削れるだけ削る!」
BOX-D型から受けた『絶対真理の時計』によって、翼はさらにエンブリオへ『葬滅のコールブランド』を撃ち続け、閃き飛んだ矢状イデアは文字通り矢継ぎ早にエンブリオへと突き刺さる。
(例えここで記憶を失うことになったとしても、明日が続いて行く限り思い出はまた作れる。なら最後まで戦うだけさ……)
決意を胸に秘め、翼はエンブリオの生命を削り続ける。
「死神ちゃんどんにそんな顔は似合わぬのじゃ。世界を終わらせる死神になどさせぬのじゃ」
『昼と夜の翼』を召喚したカナタ・ハテナ(ma0325)は、BOX-D型から受けた『絶対真理の時計』が効果を発揮している間にエンブリオへの攻勢を強める。
「ここで倒してもとの死神ちゃんどんに戻してみせるのじゃ」
ミラリスシェルを発動し、鏡の極限回廊めいた光の結界を展開したカナタはアビスの流星を発動すると、エンブリオに流星のような光弾が降り注ぎ、その威力でエンブリオの生命を抉り取る。
「そしてまたみんなで楽しく笑って過ごせるような、そんな世界を作れるように……」
――世界を終わらせない。敵を倒して死神ちゃんを取り戻す。
そのような願いを込めて、カナタは『昼と夜の翼』の一射を文字通り矢継ぎ早に放ち、エンブリオへと撃ち込み続ける。
そして透夜(ma0306)はクルハを庇うことのできる位置で、『氷双刃コキュートス』の召喚を完了していた。
「集合無意識はそうだとしても、『それでも』と有意識で言うよ」
いま透夜は無明陣を発動し、足元に魔法陣を展開しながらエンブリオに向けて自身の心情を語る。
「願いを伝え、想いを託し、意志を繋ぐ。それが可能性の光だよ」
あらゆる世界を旅した。
それぞれの世界を見聞きしてその世界で暮らす人々と触れ合った。
「我々だって宇宙に生きる意志さ。だから続きを望むんだ。君とのね」
その上で透夜は『続くこと』を望む。
透夜は『混沌の刃』を発動することで、自身の武器に「理」を貫通する力を与える。
「何が正しいかじゃない。これは互いのわがままのぶつかり合いだよ」
大切だと思うものが違う。
優先して守りたいものが違う。
だからぶつかりあう。
透夜はエンブリオと争う理由をそう評していた。
「理の責任を全て背負う必要はない。世界存続の責なら我々も背負う」
そう言いながら透夜はオルトストレインを発動して頭上より無数の光を降り注がせ、エンブリオに一撃を加えると共に範囲内にいた味方のライフを回復する。
「だから、新しい物語を皆で紡ぐんだよ。共に行こうニエンテ」
さらに透夜はブロークンワールドを発動することで、神速の3連撃がエンブリオに叩き込まれ、ダメージと同じ分だけその生命も減少させた。
「実行。『オルファモード』」
一斉攻撃で倒れるかに見えたエンブリオだったが、『オルファモード』を維持したまま自己回復に務め、まだ倒れない。
「さいごはいちばん輝かないと! 撃って撃って、撃ちまくりましょう!」
その中でソテルは『むかしむかし』へのカウントを終わらせて発動し、味方に偽りの物語を与えることで、その能力を向上させていた。
「物語の結末は、めでたしめでたし。そうでしょう?」
『むかしむかし』を味方に付与したところで、ソテルは『終わらない物語』の発動へと移り、新たな効果を上乗せしていく。
――むかしむかしの後に続く、知らない言葉。
――それは、叶えられるはずのない夢が、叶えられてしまうこと。あるはずのない未来。終わりのない物語。
ほぼ同じころ【ドン・キホーテ】所属の咎人達も、マリィが発動した『闇の人幻舞』による援護を受け、周囲の咎人達と共にエンブリオへの攻撃を集中させていった。
エンブリオのシールドが再び全て打ち砕かれ、エンブリオのライフが急速に削られていく中、ソテルはエンブリオに問いかけた。
「でも、もしひとつだけ許されるのなら。あなたはなにを願うのでしょうか?」
『理』は――『神』は何も願わない。
願いとは、希求すること。まだこの宇宙のどこにも存在しないIFを編み、想像を現実に変えんとする者が抱く野望。神は成長しないし変わらない。もしも何かを願ったのなら、それはもう『神』ですらない。
「余は何も願わない。余は宇宙の為に――『みんな』の為に終わりを齎す。ただそれだけのシステム。だというのに否定するのか、お前たちは。『終わり』とは、そうまでしても拒絶されるものなのか?」
咎人の猛攻が続き、回復は最早追い付かない。これを押し返せないのなら、趨勢は最早決まった。ただの時間稼ぎ、それだけの為に傷を癒す時間の中で、『理』が漏らした言葉。聞き届けたのはクルハだった。
「みんなが否定しているのは『終わり』じゃないよ」
終わりはいつか訪れる。それは魂の安らぎでもある。
『永遠』も、『逃避』も、『再生』も、『輪廻』も、『無限』も、『不屈』も、『運命』も、あるいは『楽園』でさえ、ヒトはきっと否定し立ち向かうだろう。その願いが、言葉が、仮に救済を願ったものであったとしても、『与えられた結末』には何の意味もないと知っているから。
「今、宇宙が続いたとしても……私たちも、この宇宙も、いつかはきっと消える。それはみんな分かってる。この時間はずっと続かない。でも、いつかやってくるその終わりは、自分で選んだものであってほしいんだ。自分が想った形で、願った想いで、自分らしく終わりにしたいから。それが――『自由』だから!」
エンブリオは空を見た。
真っ暗闇の中に浮かぶ星空ではなく、どこまでも青く、自由な空を。
何かを決められるということは、『決めなければならない』ということ。
何かを信じれば、信じぬくことを。愛したなら、愛しぬくことを。
人が願い、同時に背負う責務と、だからこそ遠ざけてしまう『決断』を。
ただ――代わってあげたかった。
誰もが言えないのなら。誰もが願えないのなら。自分が代わってあげたかった。
『仕方のないことだから』と、そっと肩を叩いて、赦しを与えたかった。
そう。死と罰の本質は『赦し』だ。それは相手を苦しめる為ではなく、魂を赦し、罪を消し去る為にあった。もう誰も苦しまなくていいように。誰も思い悩むことも、引きずることもないように。諦めさせるために、『罰』は存在する。
「――ああ、そうなのですね。『咎人』よ……あなた達は罪と、罰と、自らの心で向き合っていく。誰かに代わってもらうことなく、自分の意志で……自由に……」
青い空を、青い鳥が飛んでいる。
幸せを運ぶ鳥を思い出したのは、きっと彼女がそうなのだと気づいたから。
憎しみではなく、恨むでもなく、ただ解放するために。肩の荷を下す為に。
諦めて、負けを認めて、代わりに笑ってみる。
(どうしようもなかったら……泣いたり、笑ったり……ジタバタしてみよう)
ちゃんと諦める為に。赦す為に。
クルハの世界武装(ロンギヌス)がエンブリオを貫いた。
(執筆:岩岡志摩)