●鬼の昔と咎人の今
紫明(ma1226)は仲間達から話に聞いていた、この走馬灯が見られるという島へやって来た。
話を聞いたのは結構前で、それなりの興味を持ってはいたものの来たのは今日が初めてだ。
「走馬灯って言や今際の際に見るヤツでしょ?」
なのでここで走馬灯を見たら本当に死ぬこともあるのではと不安を示す者も何人かいるが、彼女自身は至って気楽である。
「まァ、話聞かせてくれたヤツは無事に帰って来たし、ダイジョーブでしょ、くはは」
いつもの浮遊島の探索のつもりで、紫明はどこまでも続く不思議な色の花畑を見回しながら歩を進めた。
なぜ今になってここに来る気になったのかと言えば、微妙に繋がっている侍衆――仲間達――との縁、その始まりが見られるかもしれないと思ったからだ。
大詰めを迎えようとしている今、仲間達との関係を改めて感じたくなったのかもしれない。
そうしてしばらく歩いて、とうとう花畑を分断する川までやって来た。
これも仲間から聞いていた通りだ。
川の水は綺麗で、そんなに深くはなさそう。渡ったらどうなるのだろうなどと思っていたら、急な眠気に襲われた。
これか、と紫明は反射的に思う。
強烈な眠気に抗う間もなく、その場に倒れ込んで眠ってしまったのだった……。
紫明の目の前にはいつの間にか合戦場が広がっていた。
緑の山と田畑と荒れた平野という昔の日本っぽい景色の中、戦っているのは鬼と人間だった。景色が昔なら戦っている者達も昔風で、皆刀や槍、弓などの武器を持ち、甲冑を着けている。
大勢が入り乱れて戦いを繰り広げていた。
「ここは――……」
覚えがある。生前に何度も、こういう場で戦ってきたのだから。
そう思っていたら、生前の紫明が人間達の中へ飛び込んで行き、躊躇なく人を斬り倒していくのが見えた。
そう、紫明は鬼で、人間は敵だったのだ。
合戦する鬼の一党、その武者だった。角も二本、立派なものが額に生えている。
大将は大金棒を振るう、体格は小さかったけれど勇猛な鬼だ。
相棒もいた。
戦う紫明の隣で、全身を人の血で赤く染め浮かされたように斬りまくる鬼の姿がある。
二人はいつも共に戦った。
負けることなど考えたこともない合戦の日々の中、その日はやって来た。
或る日の戦いで、大将が人間との一騎打ちで逝ってしまったのだ。
「大将は望んだ一騎打ちの果てに逝った。そりゃ衝撃的だったわ」
今の紫明が見守る前で、事切れた大将を囲み皆が悲しむ場面が展開する。一党の誰もが信じられない思いで、皆の動揺は大きかった。
皆大将を慕っていたためか代わりに全員をまとめる者など居らず、結果大将の死と共に一党は瓦解、紫明は相棒と一緒に落ちぶれていくことになる。
生きるために、紫明達は泥に塗れた。
数多の人を手に掛けて、金や食料、その他金になりそうな物なら何でも奪う、野盗となったのだ。
自分でも満足していた訳ではない。生きて行くために仕方なくやっていたことだ。
そう言い訳したところで生き汚いのは変わらず、ますます心が荒んでいた時――、或る人間と鬼に出会ったのだった。
人は方士で、従護の鬼とやらを連れていた。紫明と相棒を討つために来たらしい。
ああそうだ――と、走馬灯を見る紫明も思い出す。
「従護の鬼は着飾った真面目な赤目の鬼で、打ち合いは楽しかったわ」
本人の語る通り、走馬灯の中の紫明と従護の鬼は刃を交じえ打ち合っていた。紫明達は何度も従護の鬼とまみえその度に打ち合って――、何度目かの交戦で相棒が斬られ、紫明も討たれたのだった。
倒れた紫明を、赤い目の鬼が見下ろす。
己を討った相手だが不思議と紫明の心に恨みなどはなく、むしろ安堵のようなものがあった。
「これでいい。煙管ひとつ喫うのに、命の遣り取りするなんて馬鹿らしいだろう? 強盗なんてしょうもない、どっかで幕引きを欲しがってたんだ」
紫明の言葉を聞いた従護の鬼の瞳にうっすら見えたのは、同情だろうか。もはや紫明に確かめる術はなく――。
己の終わりを見た紫明は改めて思う。
堕ちた身だったが、打ち合っている間は合戦を思い出して楽しかった。己はつくづく戦場に生きる鬼だったのだと痛感する。
結局討たれたのは必然だったのかもしれない。あのまま野盗をしていても、己の中の何かが腐って行くだけだったから。
「まァ打ち合って死ねたのは唯一の救いだったのかもね」
紫明がそう納得すると――
「――!」
ハッと目覚めた。
そこはもう昔の光景ではなく、七色に輝く花畑と川の風景だ。
やけにはっきりした夢――走馬灯を思い返しながら、紫明は立ち上がった。
侍衆との縁、そして共に戦い共に討たれた相棒のこと。
「相棒はツララみたいな角を生やした血狂いの鬼、玄那だったのね」
思い出した今は、前よりも強く仲間や玄那との繋がりを感じる。
何も残せず、何も遺せず此処に辿り着いたと失望を覚えていたけれど、それはそれで良かったと今なら思える。
「侍衆の仲間にも、JJみたいに楽しいヤツにも出逢えたんだしね。何事も経験ね。死ぬ事すらも。なんつってね」
いつもの紫明らしく笑いで今を包んで。
紫明は仲間達の待つ侍屋敷へと帰って行くのだった――。
●戦と血の鬼、夢に何を思う
玄那(ma1251)は、この走馬灯が見られる島に来るのを楽しみにしていた。
自分の過去が見られると侍衆――仲間の子に聞いて、興味があったのだ。
玄那は生前の全てを忘れてしまっていて、過去のことは今でも何も思い出せない。そんな自分がどんな走馬灯を見るのか、常々来てみたいと思っていた。
「何が見られるのかしら、楽しみね、楽しみなのよ」
独特な言い回しで浮き立つ気持ちを表しながら、玄那は淡く虹色に輝く花畑が広がり霞がかった幻想的な風景の中を、確かな足取りでどんどん進んで行った。
景色が変わらないのでどれだけ進んだのかよく分からないが、やがて花畑を分断する川に辿り着く。
川はさらさらと、穏やかに流れていた。
この川のことも仲間の話で知っていたので、その場に留まり次の現象を待つ。
すると、突然強烈な眠気がやって来て――、しかし玄那は抗わずに眠気に身を委ね、ゆっくりと花の上に横たわり眠ったのだった。
気が付くと、玄那は合戦のさ中にいた。
草木もまばらなだだっ広い土地に、鬼と人が入り乱れて戦い合っている。皆刀や槍などの武器を持ち甲冑を付け、古風で和風な格好だ。
鬼も人も、敵とみなした相手に斬り付け、刺し貫き、殺していた。
周囲には相手を罵る声、怒号、雄叫び、武器の打ち合う音――そして、強い血と戦の匂いが満ちていて。
一瞬玄那は驚いたが、それらに昔の感覚が蘇って来た。
(これが夢ならば覚めないで欲しい)
そう強く思い、夢なのか現実なのか曖昧になる。
不意に背後から斬られそうになり、玄那は振り返りざまそいつに一太刀浴びせた。
返り血が頬に飛び散り――、それから玄那は何人もの敵を斬り伏せた。
生前の玄那は小さな大将が率いる鬼の一党の一員で、人間との合戦を繰り返す日々を送っていたのだ。そうすることに何の疑問も抱かず、敵を斬り刻み血に酔った。
「戦と血に酔う……剣戟と血、合戦さえあれば、あたしは満たされた」
それで良かった。それ以外は何も望まなかったのに。
そんな生活にも終わりが来た。
とある合戦で小さな大将が逝ってしまって、一党は簡単にバラバラになった。寄る辺を無くした玄那は、相方と共に落ちぶれていく。
脆弱な人を斬って物を奪い、生きたのだ。
やり方は当然、合戦の時に感じていたような高揚感も満足感もなく物足りないと思っていたが、厳しく貧しい世の中で他にどうしようがあっただろうか?
生前の自分を追体験する玄那と相方の前に、鬼を連れた方士がやって来た。
その鬼は人に仕え、着飾って――だけど無様な鬼だ。
玄那はそう思っていた。
自分達を誅するためにやって来たその鬼に、玄那は躊躇なく剣を向ける。
着飾った鬼は強かった。そして刃を振るう姿が美しかった。
「嗚呼、そう……、死と花で彩った鬼……!」
人に仕える彼女を嘲りたいのに、彼女の鮮烈なまでの美しさから目を離せない。
同じ鬼なのになぜこうも違うのか。野盗にまで落ちぶれた自分が急に惨めに思えて。
そうして玄那は彼女と激しく戦った末、討たれたのだった。
不思議なほど、玄那は彼女に対して何の遺恨もなかった。
それはきっと、堕ちて汚れた己を呪いながら、何時か彼女のように生まれ変わることを欲していたから。
「唯々欲して、真紅の瞳の彼女に斬られたのよ。きっと、きっとそうね」
自分の中でようやく整理がついたと感じたその時――、
「……」
玄那は目覚めた。
そこは淡く虹色に輝く花畑と川、天獄界の浮遊島だ。
「夢を見たわ。あれが走馬灯なのね」
走馬灯の中にいた、小さな大将。
自分を斬った従護の鬼。
今はもうそれが誰なのか分かっている。
それから一緒に戦い一緒に討たれた相方――は、紫明だった。
座り込んだまま走馬灯を反芻する玄那の胸の中で、昔の面影と今の紫明が重なる。
「紫明と縁が深く感じられるのは、一緒に居たからだったのね」
玄那の顔に微笑みが浮かんだ。
「出逢いは、必然だったのかしら」
きっとそうなのだろう。紫明との出逢いも侍衆との出逢いも。
それならば。
「最期の最後に、願いは叶ったのね、叶ったのよ」
玄那は喜びを噛み締めるようにつぶやいて、立ち上がった。
「走馬灯と呼ぶには、見られて嬉しいような、不思議な体験だったわ」
隣を歩く紫明に玄那がそう言うと、紫明も同意してうなずいた。どうやら彼女も似たような走馬灯を見たらしい。
紫明は走馬灯について思う所を話してくれて、その話の中にJJの名前が出て来たのを玄那は聞き逃さなかった。
「ふふ、JJちゃんの事を話す紫明は走馬灯でも見た事のない顔をしてるわ」
からかうような玄那の言葉に、紫明は楽し気な笑いを返す。
確かに今の玄那と紫明は、生前とは変わった。でもその変化は嫌じゃない。
「あたしも紫明も、ここで大切な何かを手に入れたみたい。ふふふ」
玄那は満足気に微笑んで、相方と共に、仲間の待つ屋敷へ帰るのだった――。
紫明(ma1226)は仲間達から話に聞いていた、この走馬灯が見られるという島へやって来た。
話を聞いたのは結構前で、それなりの興味を持ってはいたものの来たのは今日が初めてだ。
「走馬灯って言や今際の際に見るヤツでしょ?」
なのでここで走馬灯を見たら本当に死ぬこともあるのではと不安を示す者も何人かいるが、彼女自身は至って気楽である。
「まァ、話聞かせてくれたヤツは無事に帰って来たし、ダイジョーブでしょ、くはは」
いつもの浮遊島の探索のつもりで、紫明はどこまでも続く不思議な色の花畑を見回しながら歩を進めた。
なぜ今になってここに来る気になったのかと言えば、微妙に繋がっている侍衆――仲間達――との縁、その始まりが見られるかもしれないと思ったからだ。
大詰めを迎えようとしている今、仲間達との関係を改めて感じたくなったのかもしれない。
そうしてしばらく歩いて、とうとう花畑を分断する川までやって来た。
これも仲間から聞いていた通りだ。
川の水は綺麗で、そんなに深くはなさそう。渡ったらどうなるのだろうなどと思っていたら、急な眠気に襲われた。
これか、と紫明は反射的に思う。
強烈な眠気に抗う間もなく、その場に倒れ込んで眠ってしまったのだった……。
紫明の目の前にはいつの間にか合戦場が広がっていた。
緑の山と田畑と荒れた平野という昔の日本っぽい景色の中、戦っているのは鬼と人間だった。景色が昔なら戦っている者達も昔風で、皆刀や槍、弓などの武器を持ち、甲冑を着けている。
大勢が入り乱れて戦いを繰り広げていた。
「ここは――……」
覚えがある。生前に何度も、こういう場で戦ってきたのだから。
そう思っていたら、生前の紫明が人間達の中へ飛び込んで行き、躊躇なく人を斬り倒していくのが見えた。
そう、紫明は鬼で、人間は敵だったのだ。
合戦する鬼の一党、その武者だった。角も二本、立派なものが額に生えている。
大将は大金棒を振るう、体格は小さかったけれど勇猛な鬼だ。
相棒もいた。
戦う紫明の隣で、全身を人の血で赤く染め浮かされたように斬りまくる鬼の姿がある。
二人はいつも共に戦った。
負けることなど考えたこともない合戦の日々の中、その日はやって来た。
或る日の戦いで、大将が人間との一騎打ちで逝ってしまったのだ。
「大将は望んだ一騎打ちの果てに逝った。そりゃ衝撃的だったわ」
今の紫明が見守る前で、事切れた大将を囲み皆が悲しむ場面が展開する。一党の誰もが信じられない思いで、皆の動揺は大きかった。
皆大将を慕っていたためか代わりに全員をまとめる者など居らず、結果大将の死と共に一党は瓦解、紫明は相棒と一緒に落ちぶれていくことになる。
生きるために、紫明達は泥に塗れた。
数多の人を手に掛けて、金や食料、その他金になりそうな物なら何でも奪う、野盗となったのだ。
自分でも満足していた訳ではない。生きて行くために仕方なくやっていたことだ。
そう言い訳したところで生き汚いのは変わらず、ますます心が荒んでいた時――、或る人間と鬼に出会ったのだった。
人は方士で、従護の鬼とやらを連れていた。紫明と相棒を討つために来たらしい。
ああそうだ――と、走馬灯を見る紫明も思い出す。
「従護の鬼は着飾った真面目な赤目の鬼で、打ち合いは楽しかったわ」
本人の語る通り、走馬灯の中の紫明と従護の鬼は刃を交じえ打ち合っていた。紫明達は何度も従護の鬼とまみえその度に打ち合って――、何度目かの交戦で相棒が斬られ、紫明も討たれたのだった。
倒れた紫明を、赤い目の鬼が見下ろす。
己を討った相手だが不思議と紫明の心に恨みなどはなく、むしろ安堵のようなものがあった。
「これでいい。煙管ひとつ喫うのに、命の遣り取りするなんて馬鹿らしいだろう? 強盗なんてしょうもない、どっかで幕引きを欲しがってたんだ」
紫明の言葉を聞いた従護の鬼の瞳にうっすら見えたのは、同情だろうか。もはや紫明に確かめる術はなく――。
己の終わりを見た紫明は改めて思う。
堕ちた身だったが、打ち合っている間は合戦を思い出して楽しかった。己はつくづく戦場に生きる鬼だったのだと痛感する。
結局討たれたのは必然だったのかもしれない。あのまま野盗をしていても、己の中の何かが腐って行くだけだったから。
「まァ打ち合って死ねたのは唯一の救いだったのかもね」
紫明がそう納得すると――
「――!」
ハッと目覚めた。
そこはもう昔の光景ではなく、七色に輝く花畑と川の風景だ。
やけにはっきりした夢――走馬灯を思い返しながら、紫明は立ち上がった。
侍衆との縁、そして共に戦い共に討たれた相棒のこと。
「相棒はツララみたいな角を生やした血狂いの鬼、玄那だったのね」
思い出した今は、前よりも強く仲間や玄那との繋がりを感じる。
何も残せず、何も遺せず此処に辿り着いたと失望を覚えていたけれど、それはそれで良かったと今なら思える。
「侍衆の仲間にも、JJみたいに楽しいヤツにも出逢えたんだしね。何事も経験ね。死ぬ事すらも。なんつってね」
いつもの紫明らしく笑いで今を包んで。
紫明は仲間達の待つ侍屋敷へと帰って行くのだった――。
●戦と血の鬼、夢に何を思う
玄那(ma1251)は、この走馬灯が見られる島に来るのを楽しみにしていた。
自分の過去が見られると侍衆――仲間の子に聞いて、興味があったのだ。
玄那は生前の全てを忘れてしまっていて、過去のことは今でも何も思い出せない。そんな自分がどんな走馬灯を見るのか、常々来てみたいと思っていた。
「何が見られるのかしら、楽しみね、楽しみなのよ」
独特な言い回しで浮き立つ気持ちを表しながら、玄那は淡く虹色に輝く花畑が広がり霞がかった幻想的な風景の中を、確かな足取りでどんどん進んで行った。
景色が変わらないのでどれだけ進んだのかよく分からないが、やがて花畑を分断する川に辿り着く。
川はさらさらと、穏やかに流れていた。
この川のことも仲間の話で知っていたので、その場に留まり次の現象を待つ。
すると、突然強烈な眠気がやって来て――、しかし玄那は抗わずに眠気に身を委ね、ゆっくりと花の上に横たわり眠ったのだった。
気が付くと、玄那は合戦のさ中にいた。
草木もまばらなだだっ広い土地に、鬼と人が入り乱れて戦い合っている。皆刀や槍などの武器を持ち甲冑を付け、古風で和風な格好だ。
鬼も人も、敵とみなした相手に斬り付け、刺し貫き、殺していた。
周囲には相手を罵る声、怒号、雄叫び、武器の打ち合う音――そして、強い血と戦の匂いが満ちていて。
一瞬玄那は驚いたが、それらに昔の感覚が蘇って来た。
(これが夢ならば覚めないで欲しい)
そう強く思い、夢なのか現実なのか曖昧になる。
不意に背後から斬られそうになり、玄那は振り返りざまそいつに一太刀浴びせた。
返り血が頬に飛び散り――、それから玄那は何人もの敵を斬り伏せた。
生前の玄那は小さな大将が率いる鬼の一党の一員で、人間との合戦を繰り返す日々を送っていたのだ。そうすることに何の疑問も抱かず、敵を斬り刻み血に酔った。
「戦と血に酔う……剣戟と血、合戦さえあれば、あたしは満たされた」
それで良かった。それ以外は何も望まなかったのに。
そんな生活にも終わりが来た。
とある合戦で小さな大将が逝ってしまって、一党は簡単にバラバラになった。寄る辺を無くした玄那は、相方と共に落ちぶれていく。
脆弱な人を斬って物を奪い、生きたのだ。
やり方は当然、合戦の時に感じていたような高揚感も満足感もなく物足りないと思っていたが、厳しく貧しい世の中で他にどうしようがあっただろうか?
生前の自分を追体験する玄那と相方の前に、鬼を連れた方士がやって来た。
その鬼は人に仕え、着飾って――だけど無様な鬼だ。
玄那はそう思っていた。
自分達を誅するためにやって来たその鬼に、玄那は躊躇なく剣を向ける。
着飾った鬼は強かった。そして刃を振るう姿が美しかった。
「嗚呼、そう……、死と花で彩った鬼……!」
人に仕える彼女を嘲りたいのに、彼女の鮮烈なまでの美しさから目を離せない。
同じ鬼なのになぜこうも違うのか。野盗にまで落ちぶれた自分が急に惨めに思えて。
そうして玄那は彼女と激しく戦った末、討たれたのだった。
不思議なほど、玄那は彼女に対して何の遺恨もなかった。
それはきっと、堕ちて汚れた己を呪いながら、何時か彼女のように生まれ変わることを欲していたから。
「唯々欲して、真紅の瞳の彼女に斬られたのよ。きっと、きっとそうね」
自分の中でようやく整理がついたと感じたその時――、
「……」
玄那は目覚めた。
そこは淡く虹色に輝く花畑と川、天獄界の浮遊島だ。
「夢を見たわ。あれが走馬灯なのね」
走馬灯の中にいた、小さな大将。
自分を斬った従護の鬼。
今はもうそれが誰なのか分かっている。
それから一緒に戦い一緒に討たれた相方――は、紫明だった。
座り込んだまま走馬灯を反芻する玄那の胸の中で、昔の面影と今の紫明が重なる。
「紫明と縁が深く感じられるのは、一緒に居たからだったのね」
玄那の顔に微笑みが浮かんだ。
「出逢いは、必然だったのかしら」
きっとそうなのだろう。紫明との出逢いも侍衆との出逢いも。
それならば。
「最期の最後に、願いは叶ったのね、叶ったのよ」
玄那は喜びを噛み締めるようにつぶやいて、立ち上がった。
「走馬灯と呼ぶには、見られて嬉しいような、不思議な体験だったわ」
隣を歩く紫明に玄那がそう言うと、紫明も同意してうなずいた。どうやら彼女も似たような走馬灯を見たらしい。
紫明は走馬灯について思う所を話してくれて、その話の中にJJの名前が出て来たのを玄那は聞き逃さなかった。
「ふふ、JJちゃんの事を話す紫明は走馬灯でも見た事のない顔をしてるわ」
からかうような玄那の言葉に、紫明は楽し気な笑いを返す。
確かに今の玄那と紫明は、生前とは変わった。でもその変化は嫌じゃない。
「あたしも紫明も、ここで大切な何かを手に入れたみたい。ふふふ」
玄那は満足気に微笑んで、相方と共に、仲間の待つ屋敷へ帰るのだった――。







