●
クレセント短編映画祭の会場たる大ホールには、ツインフィールズの主に短編映画に関わる人たちが詰めかけていた。歴史を重ねている映画祭なので、この賞をきっかけに大きく育った監督や俳優なども集まっている。
「いやあ、私が受賞したころは……」
「お懐かしいですわね」
「短編映画を撮影することはなくなったが、やはり実験や採算度外視作品をやれるのが楽しいからのぅ」
「まあ、こうして年に一度集まることができてホッとするよ」
どうやら登竜門的意味合いもあるようで、関わった人たちの思い入れもあるようだ。
そんな中、中央のレッドカーペットでは昨年に短編映画を世に放ち輝いた作品関係者の入場が続いている。
「お次は大所帯ですよ。幕間のスポンサー広告枠を連続短編劇場にして異彩を放った方々の入場です」
司会進行役がそう紹介し、海上に正装したピック・トレイル監督が現れた。
「連作『大荒野旅館の開拓者たち』の皆さんです。温かい拍手をどうぞ」
「さあ。ゼンゼン、行くぞ」
義足松葉杖のピック監督が一歩前に踏み出す。
「……ああ、ピックのおっさんの晴れ舞台だ」
右に控えるゼンゼン、続く。
「ボクがこんな位置でいいのかな?」
華やかにめかしこんだコクリ・コロン(mz0061)がピックの左で支える。
「ほう、主役の二人……」
「なるほど、家族客受けしますわね~」
この三人に大きな拍手が送られる。
ここからは出演した咎人が次々と入って来る。
「おお……」
観客がどよめいたのが、魅力的な女性が続いたから。
「……ん、たまにはラフな格好で……印象変えるのも楽しそいね」
まずは3話から登場の鈴鳴 響(ma0317)が黒いオフショルダーのドレスを纏い入場した。スレンダーなシルエットで、深いスリットから白い脚をチラつかせる姿に多くの視線が集まる。
「響は何時にも増して華やかだな。うむ、可愛い可愛い」
隣には、8話から登場の麻生 遊夜(ma0279)。エスコートする響に視線を落とし甘やかせる。
「……ん、ふふっ……ありがとう、ユーヤもかっこいい……よ?」
視線を返す響、微笑。甘々の雰囲気である。
なお遊夜の衣装はいつもと同じ。黒の上下に黒ネクタイ、そして黒手袋……
「遊夜さんももっとオシャレしても良かったのに~」
前を行くコクリが振り返って言った。
「何時もと大して変わらんが……ま、良いんじゃないか? 正装は正装だ」
そう言って大物感を見せる。飾らず堂々としている。よりそう響、にっこり。静々と控えめに歩いているが、遊夜とセットで絵になる。多くのフラッシュを浴びる所以だ。
続いては6話から登場のロザーリア・アレッサンドリ(ma0458)だ。
「いやー、あたしも有名になっちゃったなー」
白とオレンジのドレスを纏って入場だ。
「おお。悲しむ女の子の味方役だ!」
「プレゼントロッド使い役だったな、確か」
覚えている人もいるようでそんな声が聞こえる。
「イエーイ、みんな見てるー?」
これに気を良くしてプレゼントロッドを振ってこたえるロザーリアである。
一方、控え目な人も。
「な、なんだか慣れないなあこういう場……」
12話からのシアン(ma0076)である。しきりに青いネクタイに手を当てている。瞳や黒髪を後ろで束ねたリボンと同じ色でコーディネートし晴れ舞台に相応しくしている。
「お、確か動物使い役だったはず」
「見せ方を変えて観客を飽きさせなかったよなぁ」
周りからは一貫した出演スタイルへの評価が呟かれている。
「よっしゃー。あたしもついに何かもらえるんだぜ?」
すぐ後ろにはアティーヤ(ma0735)もいる。13話からの出演だ。
「謎シスターもいるぞ」
「チョコシスターじゃなかったか?」
「いや、巨大化じゃろ?」
そんな声が飛んでいるところ……
「トークンちゃんも受賞するぞー」
気分よくチョコレートトークンを発生させてサービスしたり。
「もちろんカメ戦車にパンダハウスもといパンダ戦車で襲いかかったんだ。うむうむ。他の回と比べて明らかに出来がいいよね」
ひらひら手を振ってアピールする。
さらに相澤 椛(ma0277)。
「たくさんの人がいますね……権威を感じます」
黒を基調としたドレスで参加し、きょろきょろ。
「よく見た女優さんですね」
16話から出演し、計六回の最多出演を誇るため来場者の覚えもいい。
「水着の人じゃったはず」
「うむ、水着」
一番水着を着た人でもあったり。
「ちゃんと戦闘もしたんですけどね……」
椛、恥ずかしがる。
そしてブルームーン(ma1254)は。
「おう。ブルームーンちゃん受賞は当然よ」
大女優の風格を纏い……って、大女優はもうちょっとおしとやかに……
「おおん? 私は魔界ドームをいっぱいにしたブルームーンちゃんよ?」
あ。
こっち向いて地の文に突っ込んだ。って、ふんぞり返って胸を張るのはちょっと……
「しっかし、アイドルとしては爆破までやっときたかったわ」
アイドル!
確かに青黒のドレスはふんわりフリフリでアイドル衣装ではあるがふんぞり返って以下略はちょっと……
「んで。金色の像と主演女優賞と山みたいな賞金はどこよ。えっ、無いの? 無いわー」
聞いてない。
余談だが、18話初登場で五回出演の常連である。
さらに行進は続く。
「ふふ、依り代の子が映画の授賞式が懐かしいって言っています」
川澄 静(ma0164)である。19話からの登場で、五回出演。白地に水色の胸当てや装飾を散りばめたロングドレスで登場だ。
と、ここでカーペットの先を見た。
壇上は狭くこの大所帯を収め切れるわけがない。
(と言うことは監督と主演以外は待機でしょう)
慣れている。
そこまで流れを見切った時。
「いろいろな戦いを見せてくれた人だな」
「最新映像では動物を使っていたはずだ」
周りの声に気付いた。
「ペソソくんもお疲れさまだよ~」
幻獣「ダイトウリョウペンギン」を呼び出して労い、一緒に行進した。これに大いに沸く会場。
「本当はゴールデンドラゴンちゃんも一緒に行進したかったんですが……」
さすがに幻獣ではないし混乱を懸念し自粛してたり。
21話から登場のフィオナ・アルマイヤー(ma1253)もいるぞ。
「まさか爆破で締めとは」
黒く闇のようで、それでいて深く青い色のロングドレスで粛々と続いている。たまには真っ当で平穏に過ごしてみたい、という思いがあるのだが叶ったためしはないのである意味、納得の締めだとは感じているようだが。
それよりも。
「四連剣や超機械科学銃を乱射したり,好き勝手した気がしますが、あれでよかったのでしょうか」
そう。
四話に出演し、手数や武器など多彩に暴れていた。
「お。知的ながら激しい戦いを演じた女優さんじゃの」
周囲からの声が飛ぶ。
「……助演なんとか賞とか、小さい賞が来てたりするのでしょうか」
あ。
落ち着いたようだ。でも欲を張ってはいけませんよ?
続いては、蒼い肩出しロングドレスのウェンディ・フローレンス(ma0536)。
「最優秀作品賞……?」
上品に口元に手をやり、半信半疑で歩いている。
40話からとやや終盤からの出演だったが……
「おお、見た目と裏腹にワイルドなお嬢さん役だ」
そんな声が聞こえてくる。ちゃんと憶えてくれている人がいるのだ。
これに猫耳が、ピクン。
「まあ。わたくしもついに本格銀幕デビューかしら」
ウェンディ、自信を持った!
(ならばセレブたる者……)
前を見据える目線。
そして運ぶ足が確かになった!
「レッドカーペットは一度くらい歩いておきませんと」
悠然と進む。
やがて先頭は壇上に近くなる。
と、ここで。
「監督をはじめ、あちこちで、拝見したことがある方ばかりです」
氷雨 累(ma0467)が駆け付けていた。レッドカーペットの端でピック監督の晴れ姿を見ている。
「本当に、授賞式はとても華やかできらめいています」
フィリア・フラテルニテ(ma0193)も出迎えるために此処にいた。
これにピック監督が気付く。
「おお、来ておったか。ジレサイダーの撮影以来じゃの」
「御案内頂きありがとう御座います」
駆け寄り握手を求める監督。累ががっしりと手を取った。
「懐かしいです、ジレサイダーとかホラー映画とか撮りましたものね」
フィリアも握手。
「ふふ、ホラー映画で襲われちゃう役もしましたね?」
「そうそう。ホラー映画も撮ったの……あれから出演してくれんから寂しく思っておったぞ?」
累も憶えていることを強調。監督は額を叩いて反省しつつまくしたてる。
「咎人は忙しいんだから仕方ねぇよ。な?」
ゼンゼンが間を取り持った。
「ピックさんもゼンゼンくんも、本当に良かった。さあ……」
「司会の方が待ちわびていますね……主役の登壇を」
再会を喜んでいた累とフィリアが身を引き行く手を開ける。
その先は、晴れの舞台。
いま、司会の紹介する口上が述べられ監督とゼンゼン、そしてコクリが登壇。一緒に行進してきた出演咎人は人数的に無理なので周囲で待機する。
その目の前で、ピック監督に最優秀作品賞たる「三日月の天使賞」の受賞が高らかに述べられ、監督に贈られる副賞「三日月の天使像」が手渡された。続いてゼンゼンに主要出演者に贈られる副賞「三日月の銀指輪」が贈られた。
舞台下で見守っていた咎人――「大荒野旅館の開拓者たち(原題:パイオニア・チェック・アウト・オブ・ザ・ウィルダネスイン)」に出演した開拓者たちは拍手を贈るのであった。
●
一通り式次第が進むと、飲食歓談となる。
「映画誌の記者です。記念撮影のほかにロングドレスの女優さんで集まってもらえれば……」
というわけで白の静、青のウェンディ、黒愛もとい黒藍のブルームーン、黒青のフィオナ、白橙のロザーリアが集められた。いずれもふわっと広がるドレス姿で華やかである。
中でもロザーリアはキリッとしている。
「ロザーリアさん、カッコいいよ」
コクリから声が飛んだ。
「そりゃあ、あたしはいつでもカッコいいからね。イニシャル刻みとエクストーラスのコンボとか」
すっと構える姿。もちろんフラッシュを浴びた。
この時、ブルームーン。
「いい? 私は全米が泣いて、蜘蛛のヒーローがビームソードみたいなの振って歩くネズミとかアヒルとかが出てくるような大作に出るの。そんでスタンディングオベーションで興行収入第一位なの!!」
記者たちに希望というか確定間違いなし(と思っている)の将来像を堂々と語っている。
「アイドルがご入用ってんでもいいわよ。そこのフィオナも一緒に連れてって。フリフリとか超大好きだから」
あ。
くるっとフィオナの方を向いて巻き込んだぞ?!
ちょうど映画評論家と話をしていた時だったが……
「ええっ!? もっと映画に出ろ!? 女性博士の役は当たり役……って、だまらっしゃい」
勧められていたイメージと乖離した振りに、思わずブルームーンに突っ込んだり。
そんなフィオナだが。
「そういえばフリフリ……こほん、ドレス姿率が結構高いですね、私。最近はユグドラシルの学士の制服でいることも多いですが」
フィオナ、自らの胸元に手をやっている。自覚はあるようで。
なお、乖離と言えば。
「やっぱり、流行の最先端は女子高生ですわね」
なにやら評論家と話している。
「何でもむやみやたらにサメやエイリアンを出すとポイント高いとか。……いやですわ、私はそんな映画には……あらあら、どんどんお撮りになって」
自ら話題を振ってイヤだとか言いつつ、身を捩るさまが受ければどんどんポーズを取って行く。
「これは……映画にたがわずお転婆な……」
映画のお転婆娘は当たり役だったのだなぁ、と汗たら~な評論家たち。
そんな「次に出たい映画? 剣劇・アクション・女の子いっぱい嫁いっぱい!!」(ロザーリア談)、「武力!! 暴力!! 破壊!! アイドル!!」(ブルームーン談)といったいやっふー、なノリをよそに。
「このような名誉ある賞をいただき、光栄に思います」
優等生の静、ちゃんと真面目にインタビューを受けていた。
そしてちゃんと主役を立てる。
「ピック監督、受賞おめでとうございます。さぁ、一献どうぞ」
ピック監督が近付くとノンアルコール飲料(注:闇掟界なので酒類ご法度)をお酌する。
「おお、皆も乾杯といこう」
こうして再び巻き起こる乾杯の音頭。
その姿をよそに。
「指輪指輪ー。左手薬指ー♪」
副賞を手にしたアティーヤがさっそく……右手中指に装着。
「……。悲しいなぁ」
悲しむな、アティーヤ。君は「いない歴4000年、享年4000歳」ではあるが……
「……ではあるが、なんだよ?」
あ。
こっち向いた。
ごめんなさい。続きはないです。中途半端に慰めてごめんなさい。
とはいえ、きょうはちゃんと記者とかが来てくれてるぞ。
「すみませーん、その衣装は次回出演作関係ですか?」
「そーじゃねーけど……」
ここでアティーヤ、ハッとした。
「よっしゃ、次は実写版ロボット映画に出るぞ。実写版ボルテ何とかみたいなやつ。アニメじゃないんだぜ。実写(ルビ:ほんと)のことさ♪」
調子を取り戻して口は絶好調!
「アティーヤちゃんの次回作にご期待ください」
締めもバッチリ。
なお、スレンダーなドレスを纏っていた響は先のグループに入っていない。
「……ん、ユーヤ。料理、いろいろ……」
ビュッフェからローストビーフなどを小皿に取り分けていた。
「そうだな。特に売り込むつもりもないし、美味しい物でも食ってりゃいいな」
遊夜とともに一歩引いて目立たないようにしていたのだ。
「普通に戦っただけだしね」
おっと。
シアンもこっちに逃れている。
役者としてまったく売り込む気のない三人である。
「へえ」
お。
そんなシアンの顔がちょっと意外そうな顔をしたぞ。
「ホットドッグやハンバーガーがあるね」
珍しい、と手を伸ばすシアン。
「……ん、普通ならサンドイッチ、かな?」
かくりと首を傾げる響。
それに気付いた記者が寄って来る。
「ああ、映画関係者の癖でね。ほら、手早く腹を満たさないといけないときは重宝するんだよ。特に記者や裏方はね」
「なるほど、そう言った人向けか……どれ」
遊夜、せっかくだからとハンバーガーをパクリ。
「サンドイッチよりお腹はいっぱいになるね、確かに」
シアンも納得してパクリ。
「ところで、今後出演の予定は?」
その記者が聞いてきた。
「……ん、ボクとしては……恋愛映画も良いと思うけど」
ハンバーガーを手にした響、遊夜をちらり。
「これからか……やはりカーチェイスや格闘系のアクションがアツいな」
はぐらかす遊夜。隣の響、そこから恋愛に持っていく内容は、と悪だくみしているのは内緒だ。
「まあ本格的な俳優になるつもりは無いけど」
シアンが纏めた時だった。
「累様……見てください。あそこに美味しそうなお食事が並んでますよ」
「あは、美味しそうな料理が沢山並んでますね。……お言葉に甘えて遠慮なく……僕も一緒に食べましょう」
フィリアと累がやってきた。
……あれ、フィリアさんがこっち向いてる?
「いま『美味しい物の傍にフィリアあり』とか書こうとしませんでしたか?」
ぎくり。
そ、そんなことは……
「フィリアお姉さん、そんなこと言ったら可愛そうですよ」
累さん、ありがとうございます。
というわけでお二人ともハンバーガーを……
「椛さん、ゼンゼン君、こっちこっち!」
ここでコクリがやってきた。
「コクリさん、そんなに急がなくても……」
「やれやれ、お子様だね」
椛とゼンゼンも一緒だ。
「お、そっちでも乾杯せねばな」
ピック監督もやってきた。
「改めまして、ピック様、ゼンゼン様もお久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「ピックさんもゼンゼンくんも、本当に良かった」
フィリアと累から祝福の言葉が贈られる。
で、累が話題を変えた。
「そういえば……新団体立ち上げおめでとう御座います、微力ながら協力しますよ」
「ピックアクションクラブ……でしたか、素敵ですね。もちろん成功を祈っております」
フィリアの言う通り略称で「PAC」という俳優団体だ。
「ああ……そういや最初に『この街を出るのか』って聞かれたけど、それは止めにした。この団体を俺たちの仲間の新たな故郷にするんだ」
最初の出会いを思い返しながらゼンゼンが累に言った。
「成る程、そんな想いで……仲間と共に新たな夢に向かって進み続けているんですね」
累、眩しそうに返す。
「というわけで、引き続き協力してもらえると嬉しい」
続きはピック監督が引き取った。
これに遊夜が反応。
「このメンバーで撮る映画ならやっぱ身のこなしを活かしてパルクールとか銃撃戦とかが映えそうだと思うんだが、どうだろうか?」
「……ん、まずは得意分野の…身のこなしが使える、アクション系撮って……あとはそこから、興味持った分野に……手を伸ばすのが良いかも」
響も同調。恋愛ものへの道のりは諦めていないが。
「ええと、コクリさんはどうされるんです?」
「うーん。協力はしたいよね」
聞いた椛に迷いながら答えるコクリ。
「そういう椛さんは?」
「私はコクリさんを手伝いたかっただけですから……」
「いいんだよ。主役取られても問題だし、そのくらいの方がいいんじゃないか?」
肩をすくめるゼンゼン。おどけた様子に笑いが起こる。
「そうだね。咎人の身体能力が必要なら、いつでも呼んでね」
そういうことなら、とシアンも同調するのだった。
が、話はここで終わらない。
「今後の作品でしたら、時代劇や極道ものはどうでしょう? 私のの故郷にあった映画のジャンルなんですけど」
静がやって来て言う。
「この世界の人にとっては新鮮なものに映って人気が出るかもしれませんよ? もちろん私も新団体に参加します」
いつものようにまっすぐな瞳である。
「PACってなんだぜ?」
アティーヤもこっちに。
「Pがぷるぷるの略だってとこまでは知ってる。あたしすごい」
「それだと『ぷるぷるあくしょんくらぶ』に……あら、それはそれでいいかも? 可愛いですし」
フィオナもやってきた。
「アティーヤさん……フィオナさんまで」
コクリ、ががん。
「おおん? 私より可愛いやつがいないわね」
あー。
可愛いに反応してブルームーンまでこっちに。
「あら……次はこちらで記者会見でしょうか? あらあら、見栄えのする姿? 構いませんわ。どんなポーズをご所望でして?」
ああああ。
さらにウェンディが記者やカメラマンを引き連れてやってきたではないか!
「な、なんだか話が変な方に行ってますね……」
「お? なんだ椛さん。ハンバーガーなんぞもって。こっちのビーフステーキが焼き上がってるぞ?」
困惑する椛にピック監督ががははと声を掛ける。
「配膳した方がいいかな?」
シアンが気を利かせて小皿にとりわけ仲間に配っていく。
「そうですね、シアンさん」
椛も一緒だ。
「わ、美味しい。みんなも食べて食べて~」
一口食べたコクリが振り返る。
「お呼ばれしたからには食べないともったいないです。累様、一緒に食べましょうっ」
「これは……肉厚で切り分けた断面も見事なレアで……美味しいですっ」
フィリアと累もきゃいきゃい。
「お、それは楽しみだな」
「……ん。ユーヤ、もらってきたよ」
遊夜と響もさっそく味わう。
と、そんな感じでみなパクリとやってもきゅもきゅ。しゃべれないので必然的に場は落ち着く。
「で、なんの話でしたっけ?」
集まった記者が落ち着いたところで聞いた。
「なーにーなーにー。次の映画の相談? あたし出るよ? 頑張るよ?」
ロザーリアがやってきた。一斉に記者が「そうそう」とペンやカメラを取り直しピック監督を囲む。
一方、コクリ。
「ロザーリアさん、どこに行ってたの?」
「いやー、子役の可愛いコがいてねー。すっかり話し込んでそのコも懐いて……」
「あは、モテモテだね」
ここで見上げるコクリに気付く。
「もちろんコクリも可愛い可愛い♪」
なでなでするロザーリア、幸せそうである。
その向こうでピック監督とゼンゼン。
「次回作はまだ決まっとらんが……出演者に恵まれてここまで来たんじゃ。まずはそうした関係者と歩んでいきたい気持ちはあるよ」
記者にそう答えるピック監督。
「俺……自分は何でもいいんだけど、皆がなんていうかなぁ?」
ゼンゼンは皆を見る。
「ん? ……もちろんPACには参加するつもりだ。まずはやはりド派手なアクション映画が良いだろうな」
遊夜が静かに頷く。
「……ん。あとはそこから、興味持った分野に……手を伸ばすのが良いかも」
響も遊夜と同じ思い。
「あとは、キレイドコロを生かさんとな」
ピック監督がほかのメンバーを見る。
「ええっ!? もっと映画に出ろ!?」
フィオナ、ビクッ。
「そりゃあ、あたしはいつでもキレイでカッコいいからね。技の見た目なら任せろー」
ロザーリアは、ビシリ。
「累様、時代劇を推しましょう」
「え? 静さん? そ、それじゃあ……」
静は累を焚きつける。累に鞘入りの絶華氷刃丸を前に出させ、自らも鞘入りの守り刀「白鞘巻」を構えて和風をアピールする。
「……失敗しましたね」
これを見たフィリア、しゅん。本日はコーギーのぬいぐるみを持参していなかったり。
「武力!! 暴力!! 破壊!! アイドル!!」
「剣劇・アクション・女の子いっぱい嫁いっぱい!!」
あー。
これで再びブルームーンとロザーリアが謎の盛り上がりを見せ始めた。
ここでゼンゼンがぶち上げる!
「とにかくみんな盛り上がってる。……この映画界に、新しい風を吹き込んでくぜ。話題に乗りたきゃついてこい。記者も裏方も飲食・販売、なんでもいい。新しい街を……日常生活に疲れたら戻ってきてホッとできる新しい故郷を作ってくぜ!」
周りの反応は!
「映画が、故郷か……」
「あり、だな」
「映画好きなら、そういう作品は大抵、一本以上あるからな」
映画関係者――映画好きたちの心に刺さった。
「ここにいる全員で、作ってくぞ!」
「おお!」
周囲を巻き込むゼンゼン。
「……これじゃ。このカリスマ性にワシはほれ込んだんじゃ……」
俳優時代、敵を作らせたら右に出る者はいないと称され大けがしたあとに干されたピック監督。ナーナ・ハミングの下宿にゼンゼンを訪ねて俳優になるよう説得した時代を思い出しながら涙を浮かべるのであった。
クレセント短編映画祭の会場たる大ホールには、ツインフィールズの主に短編映画に関わる人たちが詰めかけていた。歴史を重ねている映画祭なので、この賞をきっかけに大きく育った監督や俳優なども集まっている。
「いやあ、私が受賞したころは……」
「お懐かしいですわね」
「短編映画を撮影することはなくなったが、やはり実験や採算度外視作品をやれるのが楽しいからのぅ」
「まあ、こうして年に一度集まることができてホッとするよ」
どうやら登竜門的意味合いもあるようで、関わった人たちの思い入れもあるようだ。
そんな中、中央のレッドカーペットでは昨年に短編映画を世に放ち輝いた作品関係者の入場が続いている。
「お次は大所帯ですよ。幕間のスポンサー広告枠を連続短編劇場にして異彩を放った方々の入場です」
司会進行役がそう紹介し、海上に正装したピック・トレイル監督が現れた。
「連作『大荒野旅館の開拓者たち』の皆さんです。温かい拍手をどうぞ」
「さあ。ゼンゼン、行くぞ」
義足松葉杖のピック監督が一歩前に踏み出す。
「……ああ、ピックのおっさんの晴れ舞台だ」
右に控えるゼンゼン、続く。
「ボクがこんな位置でいいのかな?」
華やかにめかしこんだコクリ・コロン(mz0061)がピックの左で支える。
「ほう、主役の二人……」
「なるほど、家族客受けしますわね~」
この三人に大きな拍手が送られる。
ここからは出演した咎人が次々と入って来る。
「おお……」
観客がどよめいたのが、魅力的な女性が続いたから。
「……ん、たまにはラフな格好で……印象変えるのも楽しそいね」
まずは3話から登場の鈴鳴 響(ma0317)が黒いオフショルダーのドレスを纏い入場した。スレンダーなシルエットで、深いスリットから白い脚をチラつかせる姿に多くの視線が集まる。
「響は何時にも増して華やかだな。うむ、可愛い可愛い」
隣には、8話から登場の麻生 遊夜(ma0279)。エスコートする響に視線を落とし甘やかせる。
「……ん、ふふっ……ありがとう、ユーヤもかっこいい……よ?」
視線を返す響、微笑。甘々の雰囲気である。
なお遊夜の衣装はいつもと同じ。黒の上下に黒ネクタイ、そして黒手袋……
「遊夜さんももっとオシャレしても良かったのに~」
前を行くコクリが振り返って言った。
「何時もと大して変わらんが……ま、良いんじゃないか? 正装は正装だ」
そう言って大物感を見せる。飾らず堂々としている。よりそう響、にっこり。静々と控えめに歩いているが、遊夜とセットで絵になる。多くのフラッシュを浴びる所以だ。
続いては6話から登場のロザーリア・アレッサンドリ(ma0458)だ。
「いやー、あたしも有名になっちゃったなー」
白とオレンジのドレスを纏って入場だ。
「おお。悲しむ女の子の味方役だ!」
「プレゼントロッド使い役だったな、確か」
覚えている人もいるようでそんな声が聞こえる。
「イエーイ、みんな見てるー?」
これに気を良くしてプレゼントロッドを振ってこたえるロザーリアである。
一方、控え目な人も。
「な、なんだか慣れないなあこういう場……」
12話からのシアン(ma0076)である。しきりに青いネクタイに手を当てている。瞳や黒髪を後ろで束ねたリボンと同じ色でコーディネートし晴れ舞台に相応しくしている。
「お、確か動物使い役だったはず」
「見せ方を変えて観客を飽きさせなかったよなぁ」
周りからは一貫した出演スタイルへの評価が呟かれている。
「よっしゃー。あたしもついに何かもらえるんだぜ?」
すぐ後ろにはアティーヤ(ma0735)もいる。13話からの出演だ。
「謎シスターもいるぞ」
「チョコシスターじゃなかったか?」
「いや、巨大化じゃろ?」
そんな声が飛んでいるところ……
「トークンちゃんも受賞するぞー」
気分よくチョコレートトークンを発生させてサービスしたり。
「もちろんカメ戦車にパンダハウスもといパンダ戦車で襲いかかったんだ。うむうむ。他の回と比べて明らかに出来がいいよね」
ひらひら手を振ってアピールする。
さらに相澤 椛(ma0277)。
「たくさんの人がいますね……権威を感じます」
黒を基調としたドレスで参加し、きょろきょろ。
「よく見た女優さんですね」
16話から出演し、計六回の最多出演を誇るため来場者の覚えもいい。
「水着の人じゃったはず」
「うむ、水着」
一番水着を着た人でもあったり。
「ちゃんと戦闘もしたんですけどね……」
椛、恥ずかしがる。
そしてブルームーン(ma1254)は。
「おう。ブルームーンちゃん受賞は当然よ」
大女優の風格を纏い……って、大女優はもうちょっとおしとやかに……
「おおん? 私は魔界ドームをいっぱいにしたブルームーンちゃんよ?」
あ。
こっち向いて地の文に突っ込んだ。って、ふんぞり返って胸を張るのはちょっと……
「しっかし、アイドルとしては爆破までやっときたかったわ」
アイドル!
確かに青黒のドレスはふんわりフリフリでアイドル衣装ではあるがふんぞり返って以下略はちょっと……
「んで。金色の像と主演女優賞と山みたいな賞金はどこよ。えっ、無いの? 無いわー」
聞いてない。
余談だが、18話初登場で五回出演の常連である。
さらに行進は続く。
「ふふ、依り代の子が映画の授賞式が懐かしいって言っています」
川澄 静(ma0164)である。19話からの登場で、五回出演。白地に水色の胸当てや装飾を散りばめたロングドレスで登場だ。
と、ここでカーペットの先を見た。
壇上は狭くこの大所帯を収め切れるわけがない。
(と言うことは監督と主演以外は待機でしょう)
慣れている。
そこまで流れを見切った時。
「いろいろな戦いを見せてくれた人だな」
「最新映像では動物を使っていたはずだ」
周りの声に気付いた。
「ペソソくんもお疲れさまだよ~」
幻獣「ダイトウリョウペンギン」を呼び出して労い、一緒に行進した。これに大いに沸く会場。
「本当はゴールデンドラゴンちゃんも一緒に行進したかったんですが……」
さすがに幻獣ではないし混乱を懸念し自粛してたり。
21話から登場のフィオナ・アルマイヤー(ma1253)もいるぞ。
「まさか爆破で締めとは」
黒く闇のようで、それでいて深く青い色のロングドレスで粛々と続いている。たまには真っ当で平穏に過ごしてみたい、という思いがあるのだが叶ったためしはないのである意味、納得の締めだとは感じているようだが。
それよりも。
「四連剣や超機械科学銃を乱射したり,好き勝手した気がしますが、あれでよかったのでしょうか」
そう。
四話に出演し、手数や武器など多彩に暴れていた。
「お。知的ながら激しい戦いを演じた女優さんじゃの」
周囲からの声が飛ぶ。
「……助演なんとか賞とか、小さい賞が来てたりするのでしょうか」
あ。
落ち着いたようだ。でも欲を張ってはいけませんよ?
続いては、蒼い肩出しロングドレスのウェンディ・フローレンス(ma0536)。
「最優秀作品賞……?」
上品に口元に手をやり、半信半疑で歩いている。
40話からとやや終盤からの出演だったが……
「おお、見た目と裏腹にワイルドなお嬢さん役だ」
そんな声が聞こえてくる。ちゃんと憶えてくれている人がいるのだ。
これに猫耳が、ピクン。
「まあ。わたくしもついに本格銀幕デビューかしら」
ウェンディ、自信を持った!
(ならばセレブたる者……)
前を見据える目線。
そして運ぶ足が確かになった!
「レッドカーペットは一度くらい歩いておきませんと」
悠然と進む。
やがて先頭は壇上に近くなる。
と、ここで。
「監督をはじめ、あちこちで、拝見したことがある方ばかりです」
氷雨 累(ma0467)が駆け付けていた。レッドカーペットの端でピック監督の晴れ姿を見ている。
「本当に、授賞式はとても華やかできらめいています」
フィリア・フラテルニテ(ma0193)も出迎えるために此処にいた。
これにピック監督が気付く。
「おお、来ておったか。ジレサイダーの撮影以来じゃの」
「御案内頂きありがとう御座います」
駆け寄り握手を求める監督。累ががっしりと手を取った。
「懐かしいです、ジレサイダーとかホラー映画とか撮りましたものね」
フィリアも握手。
「ふふ、ホラー映画で襲われちゃう役もしましたね?」
「そうそう。ホラー映画も撮ったの……あれから出演してくれんから寂しく思っておったぞ?」
累も憶えていることを強調。監督は額を叩いて反省しつつまくしたてる。
「咎人は忙しいんだから仕方ねぇよ。な?」
ゼンゼンが間を取り持った。
「ピックさんもゼンゼンくんも、本当に良かった。さあ……」
「司会の方が待ちわびていますね……主役の登壇を」
再会を喜んでいた累とフィリアが身を引き行く手を開ける。
その先は、晴れの舞台。
いま、司会の紹介する口上が述べられ監督とゼンゼン、そしてコクリが登壇。一緒に行進してきた出演咎人は人数的に無理なので周囲で待機する。
その目の前で、ピック監督に最優秀作品賞たる「三日月の天使賞」の受賞が高らかに述べられ、監督に贈られる副賞「三日月の天使像」が手渡された。続いてゼンゼンに主要出演者に贈られる副賞「三日月の銀指輪」が贈られた。
舞台下で見守っていた咎人――「大荒野旅館の開拓者たち(原題:パイオニア・チェック・アウト・オブ・ザ・ウィルダネスイン)」に出演した開拓者たちは拍手を贈るのであった。
●
一通り式次第が進むと、飲食歓談となる。
「映画誌の記者です。記念撮影のほかにロングドレスの女優さんで集まってもらえれば……」
というわけで白の静、青のウェンディ、黒愛もとい黒藍のブルームーン、黒青のフィオナ、白橙のロザーリアが集められた。いずれもふわっと広がるドレス姿で華やかである。
中でもロザーリアはキリッとしている。
「ロザーリアさん、カッコいいよ」
コクリから声が飛んだ。
「そりゃあ、あたしはいつでもカッコいいからね。イニシャル刻みとエクストーラスのコンボとか」
すっと構える姿。もちろんフラッシュを浴びた。
この時、ブルームーン。
「いい? 私は全米が泣いて、蜘蛛のヒーローがビームソードみたいなの振って歩くネズミとかアヒルとかが出てくるような大作に出るの。そんでスタンディングオベーションで興行収入第一位なの!!」
記者たちに希望というか確定間違いなし(と思っている)の将来像を堂々と語っている。
「アイドルがご入用ってんでもいいわよ。そこのフィオナも一緒に連れてって。フリフリとか超大好きだから」
あ。
くるっとフィオナの方を向いて巻き込んだぞ?!
ちょうど映画評論家と話をしていた時だったが……
「ええっ!? もっと映画に出ろ!? 女性博士の役は当たり役……って、だまらっしゃい」
勧められていたイメージと乖離した振りに、思わずブルームーンに突っ込んだり。
そんなフィオナだが。
「そういえばフリフリ……こほん、ドレス姿率が結構高いですね、私。最近はユグドラシルの学士の制服でいることも多いですが」
フィオナ、自らの胸元に手をやっている。自覚はあるようで。
なお、乖離と言えば。
「やっぱり、流行の最先端は女子高生ですわね」
なにやら評論家と話している。
「何でもむやみやたらにサメやエイリアンを出すとポイント高いとか。……いやですわ、私はそんな映画には……あらあら、どんどんお撮りになって」
自ら話題を振ってイヤだとか言いつつ、身を捩るさまが受ければどんどんポーズを取って行く。
「これは……映画にたがわずお転婆な……」
映画のお転婆娘は当たり役だったのだなぁ、と汗たら~な評論家たち。
そんな「次に出たい映画? 剣劇・アクション・女の子いっぱい嫁いっぱい!!」(ロザーリア談)、「武力!! 暴力!! 破壊!! アイドル!!」(ブルームーン談)といったいやっふー、なノリをよそに。
「このような名誉ある賞をいただき、光栄に思います」
優等生の静、ちゃんと真面目にインタビューを受けていた。
そしてちゃんと主役を立てる。
「ピック監督、受賞おめでとうございます。さぁ、一献どうぞ」
ピック監督が近付くとノンアルコール飲料(注:闇掟界なので酒類ご法度)をお酌する。
「おお、皆も乾杯といこう」
こうして再び巻き起こる乾杯の音頭。
その姿をよそに。
「指輪指輪ー。左手薬指ー♪」
副賞を手にしたアティーヤがさっそく……右手中指に装着。
「……。悲しいなぁ」
悲しむな、アティーヤ。君は「いない歴4000年、享年4000歳」ではあるが……
「……ではあるが、なんだよ?」
あ。
こっち向いた。
ごめんなさい。続きはないです。中途半端に慰めてごめんなさい。
とはいえ、きょうはちゃんと記者とかが来てくれてるぞ。
「すみませーん、その衣装は次回出演作関係ですか?」
「そーじゃねーけど……」
ここでアティーヤ、ハッとした。
「よっしゃ、次は実写版ロボット映画に出るぞ。実写版ボルテ何とかみたいなやつ。アニメじゃないんだぜ。実写(ルビ:ほんと)のことさ♪」
調子を取り戻して口は絶好調!
「アティーヤちゃんの次回作にご期待ください」
締めもバッチリ。
なお、スレンダーなドレスを纏っていた響は先のグループに入っていない。
「……ん、ユーヤ。料理、いろいろ……」
ビュッフェからローストビーフなどを小皿に取り分けていた。
「そうだな。特に売り込むつもりもないし、美味しい物でも食ってりゃいいな」
遊夜とともに一歩引いて目立たないようにしていたのだ。
「普通に戦っただけだしね」
おっと。
シアンもこっちに逃れている。
役者としてまったく売り込む気のない三人である。
「へえ」
お。
そんなシアンの顔がちょっと意外そうな顔をしたぞ。
「ホットドッグやハンバーガーがあるね」
珍しい、と手を伸ばすシアン。
「……ん、普通ならサンドイッチ、かな?」
かくりと首を傾げる響。
それに気付いた記者が寄って来る。
「ああ、映画関係者の癖でね。ほら、手早く腹を満たさないといけないときは重宝するんだよ。特に記者や裏方はね」
「なるほど、そう言った人向けか……どれ」
遊夜、せっかくだからとハンバーガーをパクリ。
「サンドイッチよりお腹はいっぱいになるね、確かに」
シアンも納得してパクリ。
「ところで、今後出演の予定は?」
その記者が聞いてきた。
「……ん、ボクとしては……恋愛映画も良いと思うけど」
ハンバーガーを手にした響、遊夜をちらり。
「これからか……やはりカーチェイスや格闘系のアクションがアツいな」
はぐらかす遊夜。隣の響、そこから恋愛に持っていく内容は、と悪だくみしているのは内緒だ。
「まあ本格的な俳優になるつもりは無いけど」
シアンが纏めた時だった。
「累様……見てください。あそこに美味しそうなお食事が並んでますよ」
「あは、美味しそうな料理が沢山並んでますね。……お言葉に甘えて遠慮なく……僕も一緒に食べましょう」
フィリアと累がやってきた。
……あれ、フィリアさんがこっち向いてる?
「いま『美味しい物の傍にフィリアあり』とか書こうとしませんでしたか?」
ぎくり。
そ、そんなことは……
「フィリアお姉さん、そんなこと言ったら可愛そうですよ」
累さん、ありがとうございます。
というわけでお二人ともハンバーガーを……
「椛さん、ゼンゼン君、こっちこっち!」
ここでコクリがやってきた。
「コクリさん、そんなに急がなくても……」
「やれやれ、お子様だね」
椛とゼンゼンも一緒だ。
「お、そっちでも乾杯せねばな」
ピック監督もやってきた。
「改めまして、ピック様、ゼンゼン様もお久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「ピックさんもゼンゼンくんも、本当に良かった」
フィリアと累から祝福の言葉が贈られる。
で、累が話題を変えた。
「そういえば……新団体立ち上げおめでとう御座います、微力ながら協力しますよ」
「ピックアクションクラブ……でしたか、素敵ですね。もちろん成功を祈っております」
フィリアの言う通り略称で「PAC」という俳優団体だ。
「ああ……そういや最初に『この街を出るのか』って聞かれたけど、それは止めにした。この団体を俺たちの仲間の新たな故郷にするんだ」
最初の出会いを思い返しながらゼンゼンが累に言った。
「成る程、そんな想いで……仲間と共に新たな夢に向かって進み続けているんですね」
累、眩しそうに返す。
「というわけで、引き続き協力してもらえると嬉しい」
続きはピック監督が引き取った。
これに遊夜が反応。
「このメンバーで撮る映画ならやっぱ身のこなしを活かしてパルクールとか銃撃戦とかが映えそうだと思うんだが、どうだろうか?」
「……ん、まずは得意分野の…身のこなしが使える、アクション系撮って……あとはそこから、興味持った分野に……手を伸ばすのが良いかも」
響も同調。恋愛ものへの道のりは諦めていないが。
「ええと、コクリさんはどうされるんです?」
「うーん。協力はしたいよね」
聞いた椛に迷いながら答えるコクリ。
「そういう椛さんは?」
「私はコクリさんを手伝いたかっただけですから……」
「いいんだよ。主役取られても問題だし、そのくらいの方がいいんじゃないか?」
肩をすくめるゼンゼン。おどけた様子に笑いが起こる。
「そうだね。咎人の身体能力が必要なら、いつでも呼んでね」
そういうことなら、とシアンも同調するのだった。
が、話はここで終わらない。
「今後の作品でしたら、時代劇や極道ものはどうでしょう? 私のの故郷にあった映画のジャンルなんですけど」
静がやって来て言う。
「この世界の人にとっては新鮮なものに映って人気が出るかもしれませんよ? もちろん私も新団体に参加します」
いつものようにまっすぐな瞳である。
「PACってなんだぜ?」
アティーヤもこっちに。
「Pがぷるぷるの略だってとこまでは知ってる。あたしすごい」
「それだと『ぷるぷるあくしょんくらぶ』に……あら、それはそれでいいかも? 可愛いですし」
フィオナもやってきた。
「アティーヤさん……フィオナさんまで」
コクリ、ががん。
「おおん? 私より可愛いやつがいないわね」
あー。
可愛いに反応してブルームーンまでこっちに。
「あら……次はこちらで記者会見でしょうか? あらあら、見栄えのする姿? 構いませんわ。どんなポーズをご所望でして?」
ああああ。
さらにウェンディが記者やカメラマンを引き連れてやってきたではないか!
「な、なんだか話が変な方に行ってますね……」
「お? なんだ椛さん。ハンバーガーなんぞもって。こっちのビーフステーキが焼き上がってるぞ?」
困惑する椛にピック監督ががははと声を掛ける。
「配膳した方がいいかな?」
シアンが気を利かせて小皿にとりわけ仲間に配っていく。
「そうですね、シアンさん」
椛も一緒だ。
「わ、美味しい。みんなも食べて食べて~」
一口食べたコクリが振り返る。
「お呼ばれしたからには食べないともったいないです。累様、一緒に食べましょうっ」
「これは……肉厚で切り分けた断面も見事なレアで……美味しいですっ」
フィリアと累もきゃいきゃい。
「お、それは楽しみだな」
「……ん。ユーヤ、もらってきたよ」
遊夜と響もさっそく味わう。
と、そんな感じでみなパクリとやってもきゅもきゅ。しゃべれないので必然的に場は落ち着く。
「で、なんの話でしたっけ?」
集まった記者が落ち着いたところで聞いた。
「なーにーなーにー。次の映画の相談? あたし出るよ? 頑張るよ?」
ロザーリアがやってきた。一斉に記者が「そうそう」とペンやカメラを取り直しピック監督を囲む。
一方、コクリ。
「ロザーリアさん、どこに行ってたの?」
「いやー、子役の可愛いコがいてねー。すっかり話し込んでそのコも懐いて……」
「あは、モテモテだね」
ここで見上げるコクリに気付く。
「もちろんコクリも可愛い可愛い♪」
なでなでするロザーリア、幸せそうである。
その向こうでピック監督とゼンゼン。
「次回作はまだ決まっとらんが……出演者に恵まれてここまで来たんじゃ。まずはそうした関係者と歩んでいきたい気持ちはあるよ」
記者にそう答えるピック監督。
「俺……自分は何でもいいんだけど、皆がなんていうかなぁ?」
ゼンゼンは皆を見る。
「ん? ……もちろんPACには参加するつもりだ。まずはやはりド派手なアクション映画が良いだろうな」
遊夜が静かに頷く。
「……ん。あとはそこから、興味持った分野に……手を伸ばすのが良いかも」
響も遊夜と同じ思い。
「あとは、キレイドコロを生かさんとな」
ピック監督がほかのメンバーを見る。
「ええっ!? もっと映画に出ろ!?」
フィオナ、ビクッ。
「そりゃあ、あたしはいつでもキレイでカッコいいからね。技の見た目なら任せろー」
ロザーリアは、ビシリ。
「累様、時代劇を推しましょう」
「え? 静さん? そ、それじゃあ……」
静は累を焚きつける。累に鞘入りの絶華氷刃丸を前に出させ、自らも鞘入りの守り刀「白鞘巻」を構えて和風をアピールする。
「……失敗しましたね」
これを見たフィリア、しゅん。本日はコーギーのぬいぐるみを持参していなかったり。
「武力!! 暴力!! 破壊!! アイドル!!」
「剣劇・アクション・女の子いっぱい嫁いっぱい!!」
あー。
これで再びブルームーンとロザーリアが謎の盛り上がりを見せ始めた。
ここでゼンゼンがぶち上げる!
「とにかくみんな盛り上がってる。……この映画界に、新しい風を吹き込んでくぜ。話題に乗りたきゃついてこい。記者も裏方も飲食・販売、なんでもいい。新しい街を……日常生活に疲れたら戻ってきてホッとできる新しい故郷を作ってくぜ!」
周りの反応は!
「映画が、故郷か……」
「あり、だな」
「映画好きなら、そういう作品は大抵、一本以上あるからな」
映画関係者――映画好きたちの心に刺さった。
「ここにいる全員で、作ってくぞ!」
「おお!」
周囲を巻き込むゼンゼン。
「……これじゃ。このカリスマ性にワシはほれ込んだんじゃ……」
俳優時代、敵を作らせたら右に出る者はいないと称され大けがしたあとに干されたピック監督。ナーナ・ハミングの下宿にゼンゼンを訪ねて俳優になるよう説得した時代を思い出しながら涙を浮かべるのであった。




