●
咎人たちを乗せた交易母艦「セントブルー」は陽の光が踊るように波立つ海の上。
「あれだね!」
コクリ・コロン(mz0061)が甲板で遠くを見遣る。
「うん。なんだか枝だけ張った大きな枯れ木が浮いてるように見えるけど」
深夜真世(mz0069)が隣でそう言った時だった。
「あの……真世さん? もしかしてその枯れ木、葉っぱが増えてないですか?」
隣にいる相澤 椛(ma0277)がまさかそんなことは、な感じで口元に手をやっている。
「もしかせずとも増えているな」
後ろにいる長身の伊吹 瑠那(ma0278)、きっぱり。
「あれは……まさか樹獣? 生き残りがいたんだね」
シアン(ma0076)、数年前の記憶を手繰りながらつぶやく。もちろんこの形とまったく同じ樹獣と戦ったわけではないが……
「こんな所にも居たなんて……なんだかちょっと懐かしいよね」
ケイウス(ma0700)も似た佇まいにそれと気付いた。
このとき波間から樹獣の全容が見て取れた。
「樹木が海に浮いてるんじゃなくて……島?」
「いえ、あれは島……ではなく、随分と大きく育ったタコの根城なのですね……」
氷雨 累(ma0467)が軽く驚き、フィリア・フラテルニテ(ma0193)が軽く呆れた通り。
「難破船を……タコの触手のような根っこがつなぎとめて浮島にしているようですね」
不破 雫(ma0276)が冷静に二人の話をまとめた。
「ん?」
間髪入れず麻生 遊夜(ma0279)が怪訝な声を上げる。
「見たか、響?」
「……ん。前に戦った半魚人みたいなのが……浮島から海に飛び込んだ」
問われた鈴鳴 響(ma0317)、こくりと頷く。
「大変なのだ。それじゃあコクリちゃん、僕はお空からどっかーんっと行ってくるね♪」
鳳・翼(ma0424)がスカイグライダーを準備しながらコクリに叫ぶ。
が、それだけではないッ!
「不味い! 浮島自体もこっちに向かっている」
ダイバ艦長の危機感に満ちた声が響いた。
島の調査が当初目的で、ある程度の戦闘は想定していたがまさか浮いてできた島がこちらに向かって来るとは考えてもいなかったのだ!
「アレとガチンコやったらこの船なんぞ木っ端みじんだ。至急、迎撃態勢に入ってくれ!」
防衛戦闘も想定しなくてはならなくなったのだ。
ここでフィリア、叫ぶ。
「夏衣の加護が必要な人はいますか? ……特にクルーの方は落ちないように注意してください」
残って船を守るつもりだ。
その前にすっと立つ人物、一人。
「あの亡霊船のような島が半魚人達の根城というわけですね。あの島を止めることができれば……」
その立ち姿の、なんと雄々しきことか。
「行くのですね、累……ご武運を」
フィリア、はっとして呼び捨て……いや、一人の一人前の男として扱った。
「行ってきます、フィリア」
意気に感じた累、背中越しに言って鬼鎧「五月雨」を纏い……
「私はこの船に残りますので、後ろは安心して累は破船島に専念してください」
「帰りは早く帰ってくるから」
累、それだけ言い残して飛び立った!
もちろんほかのメンバーも動く。
戦闘開始である。
●
ざざざ……と海面から出た背びれ多数が向かって来る。
「うわー、まるで魚雷なのだ♪」
スカイグライダーで急行した翼が眼下に広がる敵編隊が作る引き波の規律正しさに感心している。綺麗なV字型で乱れ一つなく、速い!
「もしかしてこれって……」
翼、振り向く。
もしかせずとも、セントブルーに向かって一直線に向かっていた。
「上陸を狙ってるんだよ、ね? これだけの数が船に甲板に上がろうとしたら沈んじゃう……かな?」
ひいふうと数えて蒼くなる。
敵の数、十体を越えている。
「ちょ……これは不味いんだよ!」
慌てて何かをプロットするとぐいんと高度を下げ波間に迫った。
するとすらりと刀を抜いた。
その一振りは、刀剣「光ノ一色」!
「コクリちゃんの方には行かせないんだよ!」
真っ白な光を跳ねる刀を振り魔法の斬撃を背びれ辺りに放つ。
――ざばっ、ぶっしゃー!
「うわわっ!」
食らった敵は顔を出して翼に反撃。高圧水流を見舞うのである。
「わたた!? 対空射撃もそれなりに濃密な感じ?? ……でも!」
びしゃびしゃになる翼だが怯まず反転。別の一体にまた斬撃を放つ。もちろんその敵も顔を出して高圧水流。まるで翼に向けられたサーチライトのようだ。
「うー、水着で来ればよかった……」
結構やられた翼だがグライダーは無事。このくるくるした飛行で敵右翼の一部は完全に隊列を乱した。
そしてプロットしていた魔法が時間となる!
「もう怒ったんだよ……どっかーん!」
引き付けた敵に向かってバニッシュをどーん。追撃で数体を消滅させた。
こちら、累。
「夏の海……ですが、今年1番目は戦場になってしまいましたね」
敵本陣である破船島を目指していたが……
「……見過ごすことはできませんね」
眼下を一直線に進む敵半魚人の群れに方針を変えた!
「島も近寄ってきますので……」
絶華氷刃丸を抜刀。
高度をガクンと落として半魚人に迫る。
波が大きく見える。
潮の香りが強くなる。
跳ねるしぶきが素肌を冷やす。
そして!
「接近してくる半魚人達を先に叩きます」
とん、と先を急ぐ半魚人の背を足場にして刃を突き立てる。
ざば、とすぐに沈んでしまうが、その時には再び飛び立っている。
途端に近くを泳ぐ半魚人が顔を出して高圧水流を吐き出した!
「大戦(おおいくさ)です……」
累、気概の翼を広げ急上昇。螺旋に飛び上がる周りに一直線の高圧水流がサーチライトのように右へ左へ。それらを縫って高度を取ると……
「これが終わったら、ゆっくりしましょう」
止まって一瞬浮遊すると、また急降下!
自らの身を囮に足止めした敵陣中央部の半魚人に向かって突進するのである。
こうした攻撃隊の奮戦を抜け、爆撃隊が先を急ぐ。
「タコだった痕跡が見受けられますね」
鬼鎧「殺戮女王」を纏った雫が破船島を観察しながら先頭を飛んでいる。
「船が外殻代わりになっているみたい……でしょうか?」
敵の本体たる大樹の根元が丸くタコの頭部のようになっていた。もっとも、それは沈没船で囲まれちらっと見える程度である。
ちなみに船は。
「木造船で構成……ですか」
すっと何かを取り出した。
「延焼の危険はありますが、燃やしてしまいましょう」
スサノオの地酒である。火炎瓶仕様にしているようだが……
「ん?」
島の端に近付くと小さな樹皮が飛んできた。
「この程度……」
一笑。
そのまま進み島に達した雫だが、ここからは樹皮の対空砲が数を増して来た。大きなのが一発交じると厄介なことになるぞ?
とはいえ雫に無理を押し通すつもりはない。
「上手く行けば消火する為に人手を割くかもしれません」
ひょい、と火炎瓶を中心部へ投げた。
そう。
投げればいいのだ。一撃離脱。
しかし!
「……燃えませんか」
肩越しに確認すると火炎瓶は中に入っていたアルコールを燃焼しただけ。海中から姿を現し本体にたっぷり海水を吸い込んだ木材には効き目はまったくなかった。
「と、いうことは……」
たっぷり海水を含んでなぜ浮くのか?
理由は、空気層をどこかに作っているとしか思えない。
「それなら」
方向を変え腐食病魔貫通槍で沈没船を攻撃。空気層ができて浮き輪代わりになっていると判断し次々穴を開けていく。
そう。
破壊目的ではなく、穴を開けることを目的に暴れまわるのである。
その少し前。
「……それにしても、樹獣かぁ」
半魚人の迎撃を味方に任せて飛ぶケイウスが記憶を手繰りながら呟く。
「あの時は……」
ケイウスのナビゲーションで一緒に飛ぶシアンが言葉を継いだ。
あの時の戦場は違うが、変わらず隣にケイウスがいた。
一緒に戦った。
そしていまも横にいる。
変わったとすれば……
「倒すには骨が折れそうだけど、今の私達なら大丈夫だね」
「うん。俺達だって強くなったんだ。シアンと一緒なら絶対に大丈夫!」
視線に気づき頷くケイウス。
そう。
変わったのは強さ。
そして。
「行こう!」
シアンの、信頼に満ちた声。
絆も、あの時よりさらに強くなっているかもしれない。
やがて雫の憑りついた破船島空域へと到着。
「俺の力、全部渡すよ。シアンになら任せられる!」
ケイウス、飛行しながら光纏の羽翼、白光の祝福をシアンへ。
「ケイウスの力、使わせて貰うよ!」
しっかり小鳥の姿をした光のイデアや祝福を受けつつ、シアンは双剣技と混沌の刃で戦闘準備。絶対領域もその身に受け万全の態勢となる。
が、ここで樹獣から攻撃。
張り巡らされた根っこから樹皮が飛んで来たのだ。威力は小さいがつまらないところでスキルの無駄遣いにつながる可能性もある。
「スポットワープで一気に詰めるよ!」
「その方がいいよね」
ケイウス、敵の対空攻撃を嫌ってシアンを一気に破船島中央部へ運んだ。
ちょうど雫の投げた火炎瓶が炎を上げ表面だけ焼いた後である!
「行ってくるよ!」
シアン、スポットワープからさらにフェイタルスラッシュ発動!
一気に上空から島に着地し抜刀した大剣「蒼光の剣」をひらめかせ――
ダウンスイング!
サイドスイング!
大きく踏み出し渾身の突き!
刀身に刻まれた意匠の太陽が、月が、そして星が蒼い光を纏い樹獣の表皮を散らし根を砕き、幹に突き立つ。
それぞれが敵の反撃や防御を無視するが……
「くっ!」
その後に全周の表皮から爆発的な攻撃に晒されることになる!
「シアン!」
ケイウス、もみくちゃになったシアンのそばに降り立つ。
「ケイウス?!」
これに目を大きくしたシアン。守りの騎士ですぐさま庇う。
これで無事に二人とも上空へ避難できた。
「ありがとう。これでまだまだ頑張れるよ」
「シアンが一緒なら、俺は大丈夫なんだよ」
シアンは回復してもらい、そしてケイウスはかばってもらいそれぞれ喜ぶ。
しかし。
「いきなり中央は危険かな?」
「そうだね。少し根を減らした方がいいかもしれないね」
ケイウスの見立てに頷くシアンである。
●
一方、セントブルーでは。
「翼君、頑張ってくれてる! 累さんも戦ってる」
「ただ、全部を食い止めることはできんだろうな」
コクリの歓声にダイバ艦長が唸っている。
その横で、遊夜。
「半魚人の接近を確認……全部で十体未満って所か、結構な数が来てんな」
半魚人の航跡から敵の数を判断。数体は攻撃隊が食い止めたようだ。
「……ん、対象を目視……全部こっちに来てる、船しか見てないのかな?」
響も敵の動きから視線を切っていない。遊撃的な行動はないようだ。
「もしかしてこの船を沈めるつもりかも!」
真世が不安がる。
「こっちに取りつけば拿捕、潜れば撃沈狙い。……船を集めた島なら鹵獲するつもりだろう。浮いたんだからわざわざ沈める必要もない」
艦長の見立て。
つまり、戦場は艦上。
「セントブルーを破壊しようとしないのがまだ幸いですね」
フィリア、両手を胸元で合わせた。持った蒼銀の魔書「葬送銀」と、反対の指にはめた蒼銀の指輪「逢魔銀」が合わさる。戦闘の予感に皆の無事を祈る。
「堂々と喧嘩を売りに来たな、半魚人共が」
それまで静観していた瑠那、前に出る。手にはもちろん戦鬼刀「摩耶」と鬼哭刀「羅刹女王」。翼のように両構えだ。
ここで椛が振り返る。
「真世さん、コクリさん、セントブルーを守りましょう!」
「うんっ」
真世が返事をしたとき、敵は射撃戦闘の間合いに入ろうとしていた。
「まずは遠距離での迎撃かね、乗り込まれるまでにどれだけ削れるか」
一応やってみるか、と遊夜。廻らぬ星の逆さ花を展開。とはいえ船単位でみると範囲は狭い。
「……ん、速いからどこまで有効か……分からないけれど、ね」
響がはふぅ、とため息をつき歌う。チョーカー「葬送の鈴」の音が響き天の光はすべて星を行き渡らせる。
これらの支援で真世がライフルを撃つが敵は海に潜って回避もしくは威力軽減。敵も移動阻害を受けるので妥当な行動。
とはいえ敵の展開範囲は広い。
「……ん、廻らぬ星の逆さ花展開……接敵までは、これで凌げるかな?」
「私も迎撃します」
新たに響も足止め。今度は椛がガトリング「カルペ・ディエム」で弾を集める。
が、やはり水に潜ってやり過ごされた。
それだけではない!
「第二波も最接近。来るぞ!」
遊夜の叫び。
敵の脚並みはむしろそろってしまったのだ。
次の瞬間!
――ざばあッ!
いったん身を沈めた半魚人が跳ねあがって甲板の上空に姿を現した。
その数、五体!
「おかしいよ。数が足りない!」
「水面下の攻撃音はクルーに確認させる。甲板に専念してくれ!」
敵の確認に集中してたコクリが叫び、艦長が避難しながら言い放った。
「島を破壊する間、私達はこの船を守り抜きましょう」
その艦長への攻撃はフィリアがセンチネルガード。一瞬で移動し半魚人の強烈な爪攻撃を受けきるのである。
「んあっ!」
「真世さん!」
真世も狙われたが、椛がローレライの範囲に収めている。OPR「イージス」で守り切り自身はカルペ・ディエムの長い銃身を取り回しガトリングをド派手にぶっ放す。
「分断させた方がいいかも!」
ローレライ内に引いたコクリ、椛の戦い方を見て周りに叫ぶ。
「それはそうだが……」
「必要ない!」
砕けぬ矜持の右腕と折れぬ信念の左腕の両盾構えの遊夜がニヤリとすると、青彼岸花を足元に咲かせた瑠那が言い切った。
なぜなら……
「半魚人ども!」
叫んだ瑠那がコクリから遠く離れているように、すでに各個撃破のため戦場は広がりむしろ味方は分断されているから。
ただし、瑠那の戦闘意欲はむしろ高まるだけ高まっている!
「私に喧嘩を売った以上は戦場に命を捧げてもらうぞ」
薔薇の棘を纏う。
生への渇望に身をゆだねる。
びしゃっ、と敵の高圧水流を受けるが、瑠那の凄惨な笑みを見せるのみ。
なぜならそのタイミングで死への渇望をプロットしていたから。
次の瞬間、右の戦鬼刀「摩耶」が、左の鬼哭刀「羅刹女王」がッ!
「覚悟を見せろ、半魚人ども!」
瑠那自らの血で朱色に染まり、朱き刃と成りぶおんと半円を描く。右が、左がそれぞれクリティカル。殺到して一体を蹴散らすとまた次に甲板へ跳ね上がってきた一体を吹っ飛ばす。
そうッ!
敵の第二陣の三体が新たに甲板に飛び上がってきているのだ!
「不意打ちはさせませんよ」
移動した瑠那の背後にはするするっとフィリアが入り天声陣形を張る。これで瑠那は前だけを見て戦うことができる。
「っと、悪いが何かやりたきゃまずは俺を倒してからにして貰おうか」
中央では遊夜が仁王立ち。
敵の高圧水流を防御すると……
「……ん、逃がさないよ……ふふっ、うふふ……さぁ、遊ぼう?」
フォローガードで遊夜の背後に隠れるように姿をチラ見セする響がきらきらパーティクルで敵を誘引。なお響、クスクスと悪戯っぽい猫笑みを浮かべていたり。
ともかく遊夜、響に釣られ……もとい、キラキラパーティクルで寄ってきたどデカい敵を壮絶なシールドバッシュで……
「我が信念と矜持の楯は堅牢なり!」
ずずん、と派手にノックアウト。
「この程度じゃ倒れてやれんなぁ!」
遊夜の煽り文句に別の敵が近寄ってくるが、今度は響がスフィアバーストⅡで倒れた敵も含めてどーん!
見事な連携を見せている。
なお、真世。
「きゃん!」
「え?」
突然の悲鳴を聞いた椛、振り返った。
「後ろから、第三波?」
椛のガトリングのタイミングを計り下がっていたコクリが先に叫んだ。
そう。
敵の残り二体がセントブルーの船体下を潜行し、反対側から姿を現していたのだ。
もちろんローレライ・透狐の射程は長いので真世は範囲内。
「ちょ、ちょっと狙われて滑っただけ……」
どうやら驚いて尻餅をついただけの様子だ。
が、椛の視界にはその真世に近付く半魚人が映っている。
「真世さん!」
ローレライを張り直し怒りのガトリングが火を噴く。
とはいえ、今度はその反対から第四波が!
「え? なんでこんなに?」
驚くコクリ。
「慌てるな!」
瑠那の一喝。
「ただの残り物だ。数は少ない」
そう。
攻撃隊からの足止めを掻い潜ってやってきた半魚人数体である。
だから!
「僕のコクリちゃんに手出しする奴はお仕置きなのだ!」
攻撃隊の翼もここまで戻っている。やはり逃げ場の多い海上でのトドメは難しかったようだ。
とはいえ、もうその敵も甲板に。
「空から地上へ援護砲撃なのだ♪」
豪快にフェニックスダイブ。
「翼君!」
焔の翼を広げ敵に止めを刺した翼の雄姿に、コクリも目を輝かせた。
「そんなところだろう」
瑠那が手出しをしなかったのも、敵にダメージが蓄積していたからである。
ただし、甲板は広い!
「あっ!」
戦場を走り回り敵を振り分けていたフィリアがいち早く気付いた。
「そちらには……」
最後の半魚人が、艦長の入った扉に向かっていることに!
不味いことに半開きのままになっている。
「行かせません!」
フィリア、再び移動防御。身を挺して止めた!
「さすがにあそこまでは動けんな……響?」
これを見た遊夜。
「……ん」
ボディガードで響を連れて移動後、響が自力移動。
そして。
「……これでひとまずは安心?」
マジックドレインからスフィアバーストⅡ。
「もちろん私の担当範囲です」
さらに椛がガトリングをばら撒き事なきを得た。
●
ひと段落して。
「そういえば翼君、累さんは?」
「あっちに行ったよ、コクリちゃん♪」
見上げるコクリに遠くを指差す翼。
「え?」
真世がそちらを見ると!
「破船島が……」
「かなり近寄っているな」
椛が行きを飲み、遊夜が声を絞り出した。
「……ん、まだまだ問題、あった」
新たな問題にジト目をする響。
ここで半開きの扉からダイバ艦長が戻ってきた。
「すんだか? 舷側や船底は無事だ」
「ちょうどいい……取り込まれん程度に寄せてほしい」
瑠那、不敵に振り返る。
殺る気だ。
「っていうか、不味い。回避だ、回避~!」
迫る島に大慌ての艦長。
図らずも瑠那の希望は叶うことになる。
時は若干遡り、累。
「僕はこのまま敵の本拠地へ攻め込みます。セントブルーの防衛、宜しくです」
敵の半魚人を追って戻っていく翼と別れ、破船島に向かった。
とん、と島の根に着地。上空では雫が別の根からの対空砲火を誘うように飛んでいた。さらにケイウスがシアンを連れて中央部から外れた位置で根を削る戦いを展開していた。
そう。
中央が空いているのである。
「この根からは樹皮が発射されませんね……一本道です。行きましょう」
中央へ、と走り出すが罠だった。
足元や四方八方から樹皮のクロスファイヤを食らったのである。
が、むしろそれは……
「見切った!」
一本道から外れればいいだけのこと。とんと根からジャンプし難破船の側面あおりを足場にすると宙に浮き……
「……一刀、両断!」
氷刻をフル活用。大きく移動し戦槍・剛仂架を即・発動!
咬斬により力強く叩きつける一撃は、絶華氷刃丸に全体重を乗せた強烈な一撃となった!
――ばきぃ……。
が、しかし!
「……傷跡を残すのみ、ですか」
振り切った構えで手ごたえをかみしめる累だが、島は崩れず樹獣は倒れず。
やはり大きすぎるのだ。一撃で何とかなる敵ではない。
と、ここで地響き。
「さあ、これだけ船を破壊すれば攻撃も良く通る筈」
根を切断し難破船一隻を切り離した雫が誘導式霊力爆弾をぶっ放した。つづけて地響きが起こるが船をまた切り離しただけ。
「きりがないね」
ほかの場所ではシアンが船を切り離していた。
「とはいえ、島がどんどん小さくなるのは見てて気持ちがいいね。シアンの攻撃の成果だし」
神別れの歌でシアンを守るケイウスはあくまで前向きだ。
ここで瑠那も上陸成功!
「ただの巨体というわけではなかろう。息の根を断つ手応えを見せろ」
根を伝い接近している。
累と同じ行動だ!
「瑠那さん! ……くっ」
累、これに気付いて引いた。
本体側からの嵐のような樹皮射撃の攻撃から逃れるためでもある。
そちらに集中砲火が向く間に瑠那が駆け抜けた!
すでに希望導く彼岸花はブロット済みだ。
「脳に響くぞ、こいつの一撃は」
タコ型となっている根元に光の槍を取り出し、先端にありったけのフォゾンエネルギーを収束させ、一息に敵を貫く。震える大樹。それでも傷がついただけ。
さらに!
「どうだ、気持ちいいか?」
誰そ彼の夢――朱葬!
続けて月季の連発。
が、傷をつけるだけ。樹皮は激しく飛び散っているが――
「そうか」
累、背中越しに見ながら気付いた。
「大打撃を与えた後、攻撃は来ませんでした。僕の時も――」
つまり、ダメージを樹皮に分けて逃がしている。その時、もちろん樹皮の攻撃はない。
「ふん」
そこへ瑠那が引いてきた。
「つまらんが、削って小さくしていくしかなさそうだな」
不服そうではあるが、タコ型にまるまると太っていた根元は小さくなっていた。
「どこかに座礁させて、あとはじっくりと料理でいいですかね?」
累も同意。
すでにシアンとケイウス、雫の頑張りで島は小さくなっている。
この情報を基に。
「計画的に島の形を変えて方向を調整……か」
「……ん、セントブルーに向かってたんじゃなく、あの漁村の浜を目指してた、の?」
遊夜と響の声。
セントブルーに全員が戻って作戦会議中だ。破船島に半魚人は残っておらず、近付かなければ攻撃はない。
「私が削った方へ島の進路がずれているようですね」
大きく難破船を離脱させた雫が戦闘中に得た手ごたえを話す。
「水の抵抗が変わった、ってことだね」
ケイウスが納得したように言う。
「といっても、島で微調整はしているとは思う」
もともと意志を持っていたのなら、とシアン。
「漁村の砂浜に到達するまでに倒せないでしょうか?」
慌てて椛が言う。
「それは倒せるだろう。ただし、その前に沈むかもしれん」
難破船を手放してな、と瑠那。
「半魚人も海に潜ってダメージ軽減してたしねー」
翼が頭の後ろで腕を組む。
「そうなると……うーん、海に沈んでいてはぐれ樹獣になっていたんですし……」
「また海に沈むと厄介ではありますね」
累とフィリアが困ったような声を出す。
「危険はあるが……どこかの浜に座礁させてから倒すのが一番のようだな」
ダイバ艦長がまとめた。
「あ。それだったら」
ここで真世がピンとくる。
「この船の港にしようとしている岩場に座礁させて攻撃すれば、海底の岩も崩れて一石二鳥なんじゃない?」
無茶な話である。
「ま、漁村からは遠くなるしな」
その線でやってみよう、とまとめるダイバ艦長だった。
結果、この作戦が図に当たる。
破船縞はセントブルー母港に整備する予定の岩場地帯に座礁した。すぐに香騎士が岸壁に包囲網を敷き監視体制を整える。これで人の往来が活発化して道ができ、物資置き場の土地も整えられた。破船島の突入により海底の岩もすでに削られるという幸運にも恵まれた。
後は、侵攻能力を失い防衛力だけある、小さくなった破船島の止めだけである。
咎人たちを乗せた交易母艦「セントブルー」は陽の光が踊るように波立つ海の上。
「あれだね!」
コクリ・コロン(mz0061)が甲板で遠くを見遣る。
「うん。なんだか枝だけ張った大きな枯れ木が浮いてるように見えるけど」
深夜真世(mz0069)が隣でそう言った時だった。
「あの……真世さん? もしかしてその枯れ木、葉っぱが増えてないですか?」
隣にいる相澤 椛(ma0277)がまさかそんなことは、な感じで口元に手をやっている。
「もしかせずとも増えているな」
後ろにいる長身の伊吹 瑠那(ma0278)、きっぱり。
「あれは……まさか樹獣? 生き残りがいたんだね」
シアン(ma0076)、数年前の記憶を手繰りながらつぶやく。もちろんこの形とまったく同じ樹獣と戦ったわけではないが……
「こんな所にも居たなんて……なんだかちょっと懐かしいよね」
ケイウス(ma0700)も似た佇まいにそれと気付いた。
このとき波間から樹獣の全容が見て取れた。
「樹木が海に浮いてるんじゃなくて……島?」
「いえ、あれは島……ではなく、随分と大きく育ったタコの根城なのですね……」
氷雨 累(ma0467)が軽く驚き、フィリア・フラテルニテ(ma0193)が軽く呆れた通り。
「難破船を……タコの触手のような根っこがつなぎとめて浮島にしているようですね」
不破 雫(ma0276)が冷静に二人の話をまとめた。
「ん?」
間髪入れず麻生 遊夜(ma0279)が怪訝な声を上げる。
「見たか、響?」
「……ん。前に戦った半魚人みたいなのが……浮島から海に飛び込んだ」
問われた鈴鳴 響(ma0317)、こくりと頷く。
「大変なのだ。それじゃあコクリちゃん、僕はお空からどっかーんっと行ってくるね♪」
鳳・翼(ma0424)がスカイグライダーを準備しながらコクリに叫ぶ。
が、それだけではないッ!
「不味い! 浮島自体もこっちに向かっている」
ダイバ艦長の危機感に満ちた声が響いた。
島の調査が当初目的で、ある程度の戦闘は想定していたがまさか浮いてできた島がこちらに向かって来るとは考えてもいなかったのだ!
「アレとガチンコやったらこの船なんぞ木っ端みじんだ。至急、迎撃態勢に入ってくれ!」
防衛戦闘も想定しなくてはならなくなったのだ。
ここでフィリア、叫ぶ。
「夏衣の加護が必要な人はいますか? ……特にクルーの方は落ちないように注意してください」
残って船を守るつもりだ。
その前にすっと立つ人物、一人。
「あの亡霊船のような島が半魚人達の根城というわけですね。あの島を止めることができれば……」
その立ち姿の、なんと雄々しきことか。
「行くのですね、累……ご武運を」
フィリア、はっとして呼び捨て……いや、一人の一人前の男として扱った。
「行ってきます、フィリア」
意気に感じた累、背中越しに言って鬼鎧「五月雨」を纏い……
「私はこの船に残りますので、後ろは安心して累は破船島に専念してください」
「帰りは早く帰ってくるから」
累、それだけ言い残して飛び立った!
もちろんほかのメンバーも動く。
戦闘開始である。
●
ざざざ……と海面から出た背びれ多数が向かって来る。
「うわー、まるで魚雷なのだ♪」
スカイグライダーで急行した翼が眼下に広がる敵編隊が作る引き波の規律正しさに感心している。綺麗なV字型で乱れ一つなく、速い!
「もしかしてこれって……」
翼、振り向く。
もしかせずとも、セントブルーに向かって一直線に向かっていた。
「上陸を狙ってるんだよ、ね? これだけの数が船に甲板に上がろうとしたら沈んじゃう……かな?」
ひいふうと数えて蒼くなる。
敵の数、十体を越えている。
「ちょ……これは不味いんだよ!」
慌てて何かをプロットするとぐいんと高度を下げ波間に迫った。
するとすらりと刀を抜いた。
その一振りは、刀剣「光ノ一色」!
「コクリちゃんの方には行かせないんだよ!」
真っ白な光を跳ねる刀を振り魔法の斬撃を背びれ辺りに放つ。
――ざばっ、ぶっしゃー!
「うわわっ!」
食らった敵は顔を出して翼に反撃。高圧水流を見舞うのである。
「わたた!? 対空射撃もそれなりに濃密な感じ?? ……でも!」
びしゃびしゃになる翼だが怯まず反転。別の一体にまた斬撃を放つ。もちろんその敵も顔を出して高圧水流。まるで翼に向けられたサーチライトのようだ。
「うー、水着で来ればよかった……」
結構やられた翼だがグライダーは無事。このくるくるした飛行で敵右翼の一部は完全に隊列を乱した。
そしてプロットしていた魔法が時間となる!
「もう怒ったんだよ……どっかーん!」
引き付けた敵に向かってバニッシュをどーん。追撃で数体を消滅させた。
こちら、累。
「夏の海……ですが、今年1番目は戦場になってしまいましたね」
敵本陣である破船島を目指していたが……
「……見過ごすことはできませんね」
眼下を一直線に進む敵半魚人の群れに方針を変えた!
「島も近寄ってきますので……」
絶華氷刃丸を抜刀。
高度をガクンと落として半魚人に迫る。
波が大きく見える。
潮の香りが強くなる。
跳ねるしぶきが素肌を冷やす。
そして!
「接近してくる半魚人達を先に叩きます」
とん、と先を急ぐ半魚人の背を足場にして刃を突き立てる。
ざば、とすぐに沈んでしまうが、その時には再び飛び立っている。
途端に近くを泳ぐ半魚人が顔を出して高圧水流を吐き出した!
「大戦(おおいくさ)です……」
累、気概の翼を広げ急上昇。螺旋に飛び上がる周りに一直線の高圧水流がサーチライトのように右へ左へ。それらを縫って高度を取ると……
「これが終わったら、ゆっくりしましょう」
止まって一瞬浮遊すると、また急降下!
自らの身を囮に足止めした敵陣中央部の半魚人に向かって突進するのである。
こうした攻撃隊の奮戦を抜け、爆撃隊が先を急ぐ。
「タコだった痕跡が見受けられますね」
鬼鎧「殺戮女王」を纏った雫が破船島を観察しながら先頭を飛んでいる。
「船が外殻代わりになっているみたい……でしょうか?」
敵の本体たる大樹の根元が丸くタコの頭部のようになっていた。もっとも、それは沈没船で囲まれちらっと見える程度である。
ちなみに船は。
「木造船で構成……ですか」
すっと何かを取り出した。
「延焼の危険はありますが、燃やしてしまいましょう」
スサノオの地酒である。火炎瓶仕様にしているようだが……
「ん?」
島の端に近付くと小さな樹皮が飛んできた。
「この程度……」
一笑。
そのまま進み島に達した雫だが、ここからは樹皮の対空砲が数を増して来た。大きなのが一発交じると厄介なことになるぞ?
とはいえ雫に無理を押し通すつもりはない。
「上手く行けば消火する為に人手を割くかもしれません」
ひょい、と火炎瓶を中心部へ投げた。
そう。
投げればいいのだ。一撃離脱。
しかし!
「……燃えませんか」
肩越しに確認すると火炎瓶は中に入っていたアルコールを燃焼しただけ。海中から姿を現し本体にたっぷり海水を吸い込んだ木材には効き目はまったくなかった。
「と、いうことは……」
たっぷり海水を含んでなぜ浮くのか?
理由は、空気層をどこかに作っているとしか思えない。
「それなら」
方向を変え腐食病魔貫通槍で沈没船を攻撃。空気層ができて浮き輪代わりになっていると判断し次々穴を開けていく。
そう。
破壊目的ではなく、穴を開けることを目的に暴れまわるのである。
その少し前。
「……それにしても、樹獣かぁ」
半魚人の迎撃を味方に任せて飛ぶケイウスが記憶を手繰りながら呟く。
「あの時は……」
ケイウスのナビゲーションで一緒に飛ぶシアンが言葉を継いだ。
あの時の戦場は違うが、変わらず隣にケイウスがいた。
一緒に戦った。
そしていまも横にいる。
変わったとすれば……
「倒すには骨が折れそうだけど、今の私達なら大丈夫だね」
「うん。俺達だって強くなったんだ。シアンと一緒なら絶対に大丈夫!」
視線に気づき頷くケイウス。
そう。
変わったのは強さ。
そして。
「行こう!」
シアンの、信頼に満ちた声。
絆も、あの時よりさらに強くなっているかもしれない。
やがて雫の憑りついた破船島空域へと到着。
「俺の力、全部渡すよ。シアンになら任せられる!」
ケイウス、飛行しながら光纏の羽翼、白光の祝福をシアンへ。
「ケイウスの力、使わせて貰うよ!」
しっかり小鳥の姿をした光のイデアや祝福を受けつつ、シアンは双剣技と混沌の刃で戦闘準備。絶対領域もその身に受け万全の態勢となる。
が、ここで樹獣から攻撃。
張り巡らされた根っこから樹皮が飛んで来たのだ。威力は小さいがつまらないところでスキルの無駄遣いにつながる可能性もある。
「スポットワープで一気に詰めるよ!」
「その方がいいよね」
ケイウス、敵の対空攻撃を嫌ってシアンを一気に破船島中央部へ運んだ。
ちょうど雫の投げた火炎瓶が炎を上げ表面だけ焼いた後である!
「行ってくるよ!」
シアン、スポットワープからさらにフェイタルスラッシュ発動!
一気に上空から島に着地し抜刀した大剣「蒼光の剣」をひらめかせ――
ダウンスイング!
サイドスイング!
大きく踏み出し渾身の突き!
刀身に刻まれた意匠の太陽が、月が、そして星が蒼い光を纏い樹獣の表皮を散らし根を砕き、幹に突き立つ。
それぞれが敵の反撃や防御を無視するが……
「くっ!」
その後に全周の表皮から爆発的な攻撃に晒されることになる!
「シアン!」
ケイウス、もみくちゃになったシアンのそばに降り立つ。
「ケイウス?!」
これに目を大きくしたシアン。守りの騎士ですぐさま庇う。
これで無事に二人とも上空へ避難できた。
「ありがとう。これでまだまだ頑張れるよ」
「シアンが一緒なら、俺は大丈夫なんだよ」
シアンは回復してもらい、そしてケイウスはかばってもらいそれぞれ喜ぶ。
しかし。
「いきなり中央は危険かな?」
「そうだね。少し根を減らした方がいいかもしれないね」
ケイウスの見立てに頷くシアンである。
●
一方、セントブルーでは。
「翼君、頑張ってくれてる! 累さんも戦ってる」
「ただ、全部を食い止めることはできんだろうな」
コクリの歓声にダイバ艦長が唸っている。
その横で、遊夜。
「半魚人の接近を確認……全部で十体未満って所か、結構な数が来てんな」
半魚人の航跡から敵の数を判断。数体は攻撃隊が食い止めたようだ。
「……ん、対象を目視……全部こっちに来てる、船しか見てないのかな?」
響も敵の動きから視線を切っていない。遊撃的な行動はないようだ。
「もしかしてこの船を沈めるつもりかも!」
真世が不安がる。
「こっちに取りつけば拿捕、潜れば撃沈狙い。……船を集めた島なら鹵獲するつもりだろう。浮いたんだからわざわざ沈める必要もない」
艦長の見立て。
つまり、戦場は艦上。
「セントブルーを破壊しようとしないのがまだ幸いですね」
フィリア、両手を胸元で合わせた。持った蒼銀の魔書「葬送銀」と、反対の指にはめた蒼銀の指輪「逢魔銀」が合わさる。戦闘の予感に皆の無事を祈る。
「堂々と喧嘩を売りに来たな、半魚人共が」
それまで静観していた瑠那、前に出る。手にはもちろん戦鬼刀「摩耶」と鬼哭刀「羅刹女王」。翼のように両構えだ。
ここで椛が振り返る。
「真世さん、コクリさん、セントブルーを守りましょう!」
「うんっ」
真世が返事をしたとき、敵は射撃戦闘の間合いに入ろうとしていた。
「まずは遠距離での迎撃かね、乗り込まれるまでにどれだけ削れるか」
一応やってみるか、と遊夜。廻らぬ星の逆さ花を展開。とはいえ船単位でみると範囲は狭い。
「……ん、速いからどこまで有効か……分からないけれど、ね」
響がはふぅ、とため息をつき歌う。チョーカー「葬送の鈴」の音が響き天の光はすべて星を行き渡らせる。
これらの支援で真世がライフルを撃つが敵は海に潜って回避もしくは威力軽減。敵も移動阻害を受けるので妥当な行動。
とはいえ敵の展開範囲は広い。
「……ん、廻らぬ星の逆さ花展開……接敵までは、これで凌げるかな?」
「私も迎撃します」
新たに響も足止め。今度は椛がガトリング「カルペ・ディエム」で弾を集める。
が、やはり水に潜ってやり過ごされた。
それだけではない!
「第二波も最接近。来るぞ!」
遊夜の叫び。
敵の脚並みはむしろそろってしまったのだ。
次の瞬間!
――ざばあッ!
いったん身を沈めた半魚人が跳ねあがって甲板の上空に姿を現した。
その数、五体!
「おかしいよ。数が足りない!」
「水面下の攻撃音はクルーに確認させる。甲板に専念してくれ!」
敵の確認に集中してたコクリが叫び、艦長が避難しながら言い放った。
「島を破壊する間、私達はこの船を守り抜きましょう」
その艦長への攻撃はフィリアがセンチネルガード。一瞬で移動し半魚人の強烈な爪攻撃を受けきるのである。
「んあっ!」
「真世さん!」
真世も狙われたが、椛がローレライの範囲に収めている。OPR「イージス」で守り切り自身はカルペ・ディエムの長い銃身を取り回しガトリングをド派手にぶっ放す。
「分断させた方がいいかも!」
ローレライ内に引いたコクリ、椛の戦い方を見て周りに叫ぶ。
「それはそうだが……」
「必要ない!」
砕けぬ矜持の右腕と折れぬ信念の左腕の両盾構えの遊夜がニヤリとすると、青彼岸花を足元に咲かせた瑠那が言い切った。
なぜなら……
「半魚人ども!」
叫んだ瑠那がコクリから遠く離れているように、すでに各個撃破のため戦場は広がりむしろ味方は分断されているから。
ただし、瑠那の戦闘意欲はむしろ高まるだけ高まっている!
「私に喧嘩を売った以上は戦場に命を捧げてもらうぞ」
薔薇の棘を纏う。
生への渇望に身をゆだねる。
びしゃっ、と敵の高圧水流を受けるが、瑠那の凄惨な笑みを見せるのみ。
なぜならそのタイミングで死への渇望をプロットしていたから。
次の瞬間、右の戦鬼刀「摩耶」が、左の鬼哭刀「羅刹女王」がッ!
「覚悟を見せろ、半魚人ども!」
瑠那自らの血で朱色に染まり、朱き刃と成りぶおんと半円を描く。右が、左がそれぞれクリティカル。殺到して一体を蹴散らすとまた次に甲板へ跳ね上がってきた一体を吹っ飛ばす。
そうッ!
敵の第二陣の三体が新たに甲板に飛び上がってきているのだ!
「不意打ちはさせませんよ」
移動した瑠那の背後にはするするっとフィリアが入り天声陣形を張る。これで瑠那は前だけを見て戦うことができる。
「っと、悪いが何かやりたきゃまずは俺を倒してからにして貰おうか」
中央では遊夜が仁王立ち。
敵の高圧水流を防御すると……
「……ん、逃がさないよ……ふふっ、うふふ……さぁ、遊ぼう?」
フォローガードで遊夜の背後に隠れるように姿をチラ見セする響がきらきらパーティクルで敵を誘引。なお響、クスクスと悪戯っぽい猫笑みを浮かべていたり。
ともかく遊夜、響に釣られ……もとい、キラキラパーティクルで寄ってきたどデカい敵を壮絶なシールドバッシュで……
「我が信念と矜持の楯は堅牢なり!」
ずずん、と派手にノックアウト。
「この程度じゃ倒れてやれんなぁ!」
遊夜の煽り文句に別の敵が近寄ってくるが、今度は響がスフィアバーストⅡで倒れた敵も含めてどーん!
見事な連携を見せている。
なお、真世。
「きゃん!」
「え?」
突然の悲鳴を聞いた椛、振り返った。
「後ろから、第三波?」
椛のガトリングのタイミングを計り下がっていたコクリが先に叫んだ。
そう。
敵の残り二体がセントブルーの船体下を潜行し、反対側から姿を現していたのだ。
もちろんローレライ・透狐の射程は長いので真世は範囲内。
「ちょ、ちょっと狙われて滑っただけ……」
どうやら驚いて尻餅をついただけの様子だ。
が、椛の視界にはその真世に近付く半魚人が映っている。
「真世さん!」
ローレライを張り直し怒りのガトリングが火を噴く。
とはいえ、今度はその反対から第四波が!
「え? なんでこんなに?」
驚くコクリ。
「慌てるな!」
瑠那の一喝。
「ただの残り物だ。数は少ない」
そう。
攻撃隊からの足止めを掻い潜ってやってきた半魚人数体である。
だから!
「僕のコクリちゃんに手出しする奴はお仕置きなのだ!」
攻撃隊の翼もここまで戻っている。やはり逃げ場の多い海上でのトドメは難しかったようだ。
とはいえ、もうその敵も甲板に。
「空から地上へ援護砲撃なのだ♪」
豪快にフェニックスダイブ。
「翼君!」
焔の翼を広げ敵に止めを刺した翼の雄姿に、コクリも目を輝かせた。
「そんなところだろう」
瑠那が手出しをしなかったのも、敵にダメージが蓄積していたからである。
ただし、甲板は広い!
「あっ!」
戦場を走り回り敵を振り分けていたフィリアがいち早く気付いた。
「そちらには……」
最後の半魚人が、艦長の入った扉に向かっていることに!
不味いことに半開きのままになっている。
「行かせません!」
フィリア、再び移動防御。身を挺して止めた!
「さすがにあそこまでは動けんな……響?」
これを見た遊夜。
「……ん」
ボディガードで響を連れて移動後、響が自力移動。
そして。
「……これでひとまずは安心?」
マジックドレインからスフィアバーストⅡ。
「もちろん私の担当範囲です」
さらに椛がガトリングをばら撒き事なきを得た。
●
ひと段落して。
「そういえば翼君、累さんは?」
「あっちに行ったよ、コクリちゃん♪」
見上げるコクリに遠くを指差す翼。
「え?」
真世がそちらを見ると!
「破船島が……」
「かなり近寄っているな」
椛が行きを飲み、遊夜が声を絞り出した。
「……ん、まだまだ問題、あった」
新たな問題にジト目をする響。
ここで半開きの扉からダイバ艦長が戻ってきた。
「すんだか? 舷側や船底は無事だ」
「ちょうどいい……取り込まれん程度に寄せてほしい」
瑠那、不敵に振り返る。
殺る気だ。
「っていうか、不味い。回避だ、回避~!」
迫る島に大慌ての艦長。
図らずも瑠那の希望は叶うことになる。
時は若干遡り、累。
「僕はこのまま敵の本拠地へ攻め込みます。セントブルーの防衛、宜しくです」
敵の半魚人を追って戻っていく翼と別れ、破船島に向かった。
とん、と島の根に着地。上空では雫が別の根からの対空砲火を誘うように飛んでいた。さらにケイウスがシアンを連れて中央部から外れた位置で根を削る戦いを展開していた。
そう。
中央が空いているのである。
「この根からは樹皮が発射されませんね……一本道です。行きましょう」
中央へ、と走り出すが罠だった。
足元や四方八方から樹皮のクロスファイヤを食らったのである。
が、むしろそれは……
「見切った!」
一本道から外れればいいだけのこと。とんと根からジャンプし難破船の側面あおりを足場にすると宙に浮き……
「……一刀、両断!」
氷刻をフル活用。大きく移動し戦槍・剛仂架を即・発動!
咬斬により力強く叩きつける一撃は、絶華氷刃丸に全体重を乗せた強烈な一撃となった!
――ばきぃ……。
が、しかし!
「……傷跡を残すのみ、ですか」
振り切った構えで手ごたえをかみしめる累だが、島は崩れず樹獣は倒れず。
やはり大きすぎるのだ。一撃で何とかなる敵ではない。
と、ここで地響き。
「さあ、これだけ船を破壊すれば攻撃も良く通る筈」
根を切断し難破船一隻を切り離した雫が誘導式霊力爆弾をぶっ放した。つづけて地響きが起こるが船をまた切り離しただけ。
「きりがないね」
ほかの場所ではシアンが船を切り離していた。
「とはいえ、島がどんどん小さくなるのは見てて気持ちがいいね。シアンの攻撃の成果だし」
神別れの歌でシアンを守るケイウスはあくまで前向きだ。
ここで瑠那も上陸成功!
「ただの巨体というわけではなかろう。息の根を断つ手応えを見せろ」
根を伝い接近している。
累と同じ行動だ!
「瑠那さん! ……くっ」
累、これに気付いて引いた。
本体側からの嵐のような樹皮射撃の攻撃から逃れるためでもある。
そちらに集中砲火が向く間に瑠那が駆け抜けた!
すでに希望導く彼岸花はブロット済みだ。
「脳に響くぞ、こいつの一撃は」
タコ型となっている根元に光の槍を取り出し、先端にありったけのフォゾンエネルギーを収束させ、一息に敵を貫く。震える大樹。それでも傷がついただけ。
さらに!
「どうだ、気持ちいいか?」
誰そ彼の夢――朱葬!
続けて月季の連発。
が、傷をつけるだけ。樹皮は激しく飛び散っているが――
「そうか」
累、背中越しに見ながら気付いた。
「大打撃を与えた後、攻撃は来ませんでした。僕の時も――」
つまり、ダメージを樹皮に分けて逃がしている。その時、もちろん樹皮の攻撃はない。
「ふん」
そこへ瑠那が引いてきた。
「つまらんが、削って小さくしていくしかなさそうだな」
不服そうではあるが、タコ型にまるまると太っていた根元は小さくなっていた。
「どこかに座礁させて、あとはじっくりと料理でいいですかね?」
累も同意。
すでにシアンとケイウス、雫の頑張りで島は小さくなっている。
この情報を基に。
「計画的に島の形を変えて方向を調整……か」
「……ん、セントブルーに向かってたんじゃなく、あの漁村の浜を目指してた、の?」
遊夜と響の声。
セントブルーに全員が戻って作戦会議中だ。破船島に半魚人は残っておらず、近付かなければ攻撃はない。
「私が削った方へ島の進路がずれているようですね」
大きく難破船を離脱させた雫が戦闘中に得た手ごたえを話す。
「水の抵抗が変わった、ってことだね」
ケイウスが納得したように言う。
「といっても、島で微調整はしているとは思う」
もともと意志を持っていたのなら、とシアン。
「漁村の砂浜に到達するまでに倒せないでしょうか?」
慌てて椛が言う。
「それは倒せるだろう。ただし、その前に沈むかもしれん」
難破船を手放してな、と瑠那。
「半魚人も海に潜ってダメージ軽減してたしねー」
翼が頭の後ろで腕を組む。
「そうなると……うーん、海に沈んでいてはぐれ樹獣になっていたんですし……」
「また海に沈むと厄介ではありますね」
累とフィリアが困ったような声を出す。
「危険はあるが……どこかの浜に座礁させてから倒すのが一番のようだな」
ダイバ艦長がまとめた。
「あ。それだったら」
ここで真世がピンとくる。
「この船の港にしようとしている岩場に座礁させて攻撃すれば、海底の岩も崩れて一石二鳥なんじゃない?」
無茶な話である。
「ま、漁村からは遠くなるしな」
その線でやってみよう、とまとめるダイバ艦長だった。
結果、この作戦が図に当たる。
破船縞はセントブルー母港に整備する予定の岩場地帯に座礁した。すぐに香騎士が岸壁に包囲網を敷き監視体制を整える。これで人の往来が活発化して道ができ、物資置き場の土地も整えられた。破船島の突入により海底の岩もすでに削られるという幸運にも恵まれた。
後は、侵攻能力を失い防衛力だけある、小さくなった破船島の止めだけである。