君に会いに行こう_封魔
凪池シリル
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シナリオ形態
イベント
難易度
Very Easy
判定方法
カジュアル
参加制限
総合600以上
オプション
参加料金
50 SC
参加人数
1人~10人
優先抽選
50 SC
報酬
300 EXP
5,000 GOLD
5 FAVOR
封魔界ワールドロールで参加すると +30 EXP
相談期間
5日
抽選締切
2024/07/24 10:30
プレイング締切
2024/07/29 10:30
リプレイ完成予定
2024/08/15
関連シナリオ
-
  1. オープニング
  2. -
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ
「宇宙も世界も無事だけど……ここは、まだまだ忙しいみたいだね」
 まだ復興やこれからの暮らしの為にあちこちで人が動いている、そんな空気を感じ取りながらケイウス(ma0700)は呟いていた。
 宇宙の大きな運命を定める戦いが決着して、咎人たちは縁ある地へと戦勝報告に訪れている。ここ封魔界、フェディス (mz0132)たちの暮らす地もそうだ。
 さて、そのフェディスはどこだろうか。ここの暮らしの中心的人物だから、あちこちの作業を監督しているだろうことは想像に難くない。
「……ん、こっちの方に居ると……ボクの直感が言ってる」
 鈴鳴 響(ma0317)が、例によって麻生 遊夜(ma0279)の肩に乗りながらの移動の中、一つの方向を指し示した。やがて一行は、目的の姿を見つけ出す。
「お、いたいた。久しぶりだな、勝ってきたぞ!」
 遊夜が、響を肩に乗せたまま声を上げる。そうすれば、向こうも遠目にも誰だかはすぐに分かったのだろう。振り向いたフェディス はそのまま駆け寄ってくる。
「こんにちは、フェディスさん」
 シアン(ma0076)もここで、フェディスにまず挨拶する。
「ああ。来てくれたのか。となると、貴方たちの戦いは……」
「うん、勝ったよ。宇宙も天獄界も他の世界も、全部無事だよ」
「……ん、総力戦だったけど……きっちり勝ってきた、頑張った」
 フェディスの問いにシアンが応えると、響もフンスと鼻を鳴らしてそれに続く。
 理の神との闘いは、流れ次第では仲間が大きな代償を払うことになる可能性も予め示されていた。結果としては彼女にとって最良の形で事を為すことができ、彼女らにとって大切な友人も戻ってきた。理想的な終わり方に彼女は上機嫌で、戦勝報告も得意げだった。
「そうか……良かった。俺たちの未来を守ってくれた事、礼を言う」
 フェディスはそうして、流麗な所作で一同に頭を下げる。廃嫡された身とは言え、教え込まれた礼儀作法はそのままだ……という、だけでもない。
「……フェディスさんたちの近況も聞いていいかな」
 そこでシアンがそっと尋ねる。ここに来るまでに何となく、この場所の雰囲気もまた少し変わっていることを感じていた。ただ戦争が終わったというだけでなく、これまではただ必死でその日を生きるためだったのが、より前向きになった気がするというか。
「ああ。そうだな。実は……と、いい加減、立ち話もなんだな。うちに案内しよう」
 フェディスはそうして、一行を今彼が暮らす家へと案内する。
 最早仮設住宅とは言えない、しっかり整備された家屋だった。

 相変わらず、質素ではあるがもてなしの準備をすると、フェディスはかいつまんで今の自分とこの村の状況を説明する。成程先ほどの礼はそうすると、ただ頑張った友人に礼を尽くしたと言うだけでなく、領主としての態度でもあったのだろう。
「デュランダール自治領か、良いじゃないか」
「……ん、デュランダール……聖剣の名前にしたんだね、なるほど」
 遊夜と響が納得して頷いている。響は、離散させられて廃村に戻ることにならなくて良かったねぇと言い、流石は女神教団、合理的だと感心していた。
「この村の名前、決まったのですね。よい名ですね」
 川澄 静(ma0164)もここで、フェディスたちの現況を祝した。
「フェディスさま達のお力添えもあり、世界を守ることができました」
「俺は……大して貴方たちの力になれた覚えはないが」
「天獄界が襲撃された折は、大変助かりましたよ」
 静のその言葉に、フェディスはまだ、戦力として大した役に立った訳ではないし、世界を守る一助が出来たかどうかは……といった様子だったが。
「そうだね。それに……こうしてフェディスさんたちが前に進めていることも嬉しい」
 シアンがそう言うと、ケイウスもその隣でパッと顔を明るくして頷いていた。
 自身は何も変わらずに戦い続ける咎人にとって。こうやって、未来へと進んでいる世界を感じることが喜びで、戦う力になっているのかもしれない。
 終わらない戦いはしかし、決して不毛なものではないのだと。
 ただ勝利を祝し労ってもらうだけではなく、こうして互いに喜び合うことでそう思える。
「今後の方針はどうなってるんだ、支援が入るんだろう? 色々捗るようになるよな」
「……ん、支援で今までより……出来る事が増える、忙しくなるね」
 そんな空気の中、遊夜と響はこれからの話に花を咲かせた。
「そうだな。正式に、一時避難所でなく定住する場所とするなら、インフラ整備からもっと本格的にやっていく必要があるだろう。それから……」
 答えながら、フェディスは二人を見る。話しかけてくる言葉は楽し気だ。まだまだ大変な状況なことが分かっていないわけではないだろう。それでも、支援も入るならキッチリ治めていけばあとは上がるだけ、と響は考えている。
「暫くは、あまり魔法の技術を導入して頼ることは考えずにやっていこうと思っている」
 そんな彼らの反応を伺うように、フェディスは切り出した。
 戦争が終結した今、アース帝国の魔法技術は各地へと拓かれている。
 そんな情勢の中、フェディスの「無神格」という事実をどう向き合っていくか、というのは変わらぬ課題として残ることにもなっていた。
 まず、そのこと自体に領主としての求心力が危ういか、と言うとそうはなっていない。既に言われた宗教観に則れば、この世界の人々が「女神の土地を管理する」に相応しいと考えるのは、「勇者の血筋」であるかどうかだ。
 フェディスは廃嫡されたとはいえ血筋は勇者に連なるものであると確認されているし、何より今ここに住む者のほとんどはフェディスに救助された者たちだ。聖剣を振るい人々を助ける、その姿に彼の資質を疑うものは居なかった。
 ……そして、実のところ、世界の全ての人々が、これからまた魔法が使われていくことを前向きに受け止めているわけでもない。
 先進国こそその導入に積極的だが、魔法は本来「神の威光」であり、また長らく大憲章によって「神が禁じていた手段」だ。それを人間が好き勝手することに忌避感を覚える者も実は少なくない。
「世界は変わっていく。それは当然のことだとは思う。だが、急速な変化についていけない者だっているだろう。そうした者たちが一息付けるような場所になれたら、と」
 この地に残る事を選んだ人の中には、アース帝国の侵攻の中、刻印による格差というものを改めて考えさせられた、と言う者も居た。ならば初代領主であるフェディスが無神格であることはむしろ、ここでならこれからも格差に捉われない暮らしが出来るのではないかと思った、と。
「なるほどな。あえてこれから、大憲章下の生活や価値観を継続する地、として特色を出していこうというわけか」
 フェディスの話を咀嚼して、遊夜はゆっくり頷きながら言う。
「……ん、観光地や保養地として人を呼ぶなら……もう少し何か必要かもだけど……」
「そうだな。元々は果樹園があったそうだから、再生が可能かなんかも検討中だ」
 続く響の発言にはフェディスはそう答える。
「……ん、時間はかかりそうだけど……今後が楽しみだね、色々な意味で」
 そうしてそれに響がそう応じると、フェディスは微苦笑と共に頷いた。楽観的に考えられる状況ばかりでもないが、ネガティブに考えすぎても仕方ない。
 一先ず今現在の今後の見通しとしては、こんなところだった。

「妹さんとは話せた?」
 話が一段落したところで、シアンがまた控えめに切り出した。
「そう……だな。家族として、蟠りもなく……とは、いかなかったが」
 フェディスはその問いには、これまでで一番歯切れを悪くしながらも正直に答えた。近郊の領主として根回しと言う題目で顔を合わせはした、と。
「家族だけど敵対してて、今はご近所さん……色々複雑そうだなぁ」
 その様子に、ケイウスが気づかわし気に言う。心配そうに覗き込んでくる赤い瞳に、フェディスはふっと力無く笑って、緩く首を振った。
「とりあえずは、これから対立するということはないだろう。……親父殿が俺を廃嫡した事も、今なら理屈が分からないわけでもない」
 領主の家に生まれながら無神格であった自分を快く思っていなかったことは確かだろう。だが追放という処分が感情的なものだけで行われたかと言うと、あの父も領主として計算高い部分もあっただろうとフェディスは見ている。
 一気に台頭したアース皇帝は当時、神格原理主義者であり、魔法の才能がない者を見下しているとされていた。
 勝ち馬に乗るためには時に拙速とも言える機敏さも必要だろう。刻印が無ければ息子すら排して見せるというのは、皇帝の意向を強く支持するつもりであることを示せる。そして、そんなやり方は後追いになるほどデメリットの割りに効果は薄れていく。
 だから。
 今の「勝ち馬」はユーフォリア公国だろう。終戦、復興ムードの中、神格者としての誇りを掲げて潰しに来る……なんてのは下策だとは分かるはずだ。
「そっか、これからはご近所さんなんだね。……敵対したままじゃなくて良かった。ずっと気になってて」
 帝国兵として相対した時から、複雑な感情はあるものの心から憎しみあっているようではないとシアンは感じていた。いつか色々な柵を乗り越えて仲良くできたら良い、と。
「私は、家族のことなんて何も覚えていないからね」
「……」
 苦笑と共にシアンが言うと、フェディスは一旦、押し黙るよりなかった。
 正直なところシアンの言う「色々な柵」のうちいくつかは、乗り越えたというよりは状況が動く中有耶無耶になってしまった、と言う感じだ。お互い、自分が何かを改善したという認識はない中、倒れた柵を挟んで顔を合わせてもどうしていいか分からない。
 ……が。
(蟠りがあるということは、そう、何かしなければならない、とは思っているのだろう)
 思えば、神格が無いという負い目をどうにかしなければということで精一杯で、その傍で妹がどんな気持ちで居たかをきちんと見ようとしたことなどなかった。もっと話をしていれば現状は何か違ったのだろうか……と、悔んではいるのだと。
 だが、後悔と言うにはまだ早いのだろう。
「……うん、今は敵じゃない。きっとこれから、変わっていけるよね」
 そこでケイウスもそう言って微笑んだ。そう、まだ取り返しがつかないという事もない。
 それを彼らの前で無碍にすることも出来ないだろう。きっと彼らにはもう……手を伸ばそうにも出来ない存在も居るのだろうから。
「そうだな。まだこれから時間はある。……何が出来るか、思考を止めることはしないことにしよう」
 一先ずはそう約束して、フェディスは顔を上げて二人を見た。
 二人も、きっと大丈夫だよと言う風に頷き返す。兄妹の事だけじゃない、この先色々大変だろうとは思うけど、それも、フェディスなら、と。
「何かあれば助けに来るから、いつでも呼んでね」
「何かあったら、俺もシアンと一緒に助けに来るよ!」
 シアンに続いたケイウスの言葉、そこで特に「一緒に」が強調されていた気がして、フェディスは一度しっかりとケイウスと視線を合わせた。
 ケイウスは真っ直ぐにその視線を受け止めると、「任せて!」と言うように笑みをさらに明るくして見せる。
 ああそうか、と、フェディスは理解する。
 ケイウスとの面識はまだ決して深くはない。それでも、シアンの雰囲気が以前知るものとは随分と変わったのは、間違いなく彼の存在が大きいのだろうと。
 ああ。成程。
 もう、自分が案ずることは何もないのだろう。
 そして、シアンがここまで変われたことは、フェディスにとっても希望だと感じられた。

「これからは咎人も希望する人しかなれないので、天獄界も変わっていくと思います」
 移り変わっていく話題の中で、その事を切り出したのは静だった。
「フェディスさま。おそらくフェディスさまならば、死後、咎人になることも可能でしょうとはお伝えしておきます」
 彼女がそう言うと同時に、遊夜もピクリと反応した。ただの興味本位ではあるが、彼もどうするのか聞きたいとは思っていたらしい。
 フェディスはと言えば、ただキョトン、と瞬きをしていた。
「考えても見なかった……な。今はこの村をどうしていくかという事だけで」
 死ぬ時のことなどまだ想像もつかない、と、ぼんやりとそう答えるフェディスに、静は真剣な表情で頷いた。
「スカウト、と言う話ではありません。ただ、選択肢として知っておいていただければと」
 咎人になるなら死ぬ事もできずに戦い続ける事にもなる。それが相当に厳しい事であることはよく分かっているのだから、本人が積極的に成りたいと言わない限りは静から異世界人をはっきりスカウトはしないと決めている。
「私は咎人として戦い続けます」
 そして、自分のその意志だけは伝えると、静はそれ以上は何も言わなかった。
 フェディスもそれに対しここでは、神妙に頷くのみで応じる。
「そういえば、シュンさんとリッキィさんはどうするんだ?」
 そこでそんなことを言い出したのは遊夜だった。
 二人は自分にお鉢が回ってくることは完全に予想していなかったのか、それこそまずは面食らった顔を見せて。
「……そっか。俺が咎人になりゃあとりあえず遠慮する理由もねえんだよな」
「いや。いやいやいやいや。そう手放しで勧められるものでもないよ。静君もだから、なってくれとは言わないわけだろう。私も同感だ。ある意味無間地獄だからね、うん」
 据わった目で考え始めるシュンに、リッキィが慌てて言う。
「私がこの世界に転生する気は……ないよ。この世界の技術は確かに興味深いが、他の世界への興味もまだまだ尽きないからね。そして、私が君の幸せを願うのは、君が私の大切な人に似ているからで、君の事は……」
 リッキィはそれから、ぎこちなくそこまで告げて、その先を濁した。
「……やっぱ、諦める理由は無くねえか。要は他に好きな奴が居たって話だろ。忘れさせるなりそれごと愛するなりしてみせりゃいいって事じゃねえのか」
「いや。しかしだねえ。君の生きるべき世界は本来ここなのだから。君の幸せや運命の相手と言うのはここにあると考えるべきじゃないのか。いや、異世界間恋愛を否定するわけではないけどね? 私と言うイレギュラーがそこに変な作用をするのは本意では無いというか」
 踏み込むシュンをどうにか受け流そうとするリッキィ。
 切欠となった遊夜、それから響は何を口出すわけでもない。何か面白いことになってきたなあと見守るばかりである。
「俺がこの世界でちゃんと生きて、そんで死ぬまであんたが好きだったら文句ねえか?」
「……いやまあ、まずは君が本来の人生を全うするというのは結構だが。本当にそれまで気が変わらないのか、というと私もそこまで期待して待てる自信はないよ?」
「分かった。つまり俺が死ぬまで、お互い考える時間はあるってこったな」
「……」
 やがてそんな感じで話が──纏まったかどうかはともかく、この場ではリッキィの反論は尽きたようではあった。
 遊夜と響は思わず顔を見合わせていた。
 フェディスとイルギッタ、そしてシュンとリッキィ。まだまだ今後は気になるところだ。
(ここまでやきもきする関係性は他の世界にない気がする)
 遊夜は内心で微苦笑した。
 この世界からもまだもうしばらく、色んな意味で目が離せない……だろうか。



 一方そのころ、ブラウリング領。
「やっほー、イルギッタさん! また会えて嬉しい!」
 そこで目的の相手を見つけると、シトロン(ma0285)は元気よく手を振って駆け寄っていく。呼ばれた相手であるイルギッタ・ブラウリングは、何とも複雑な気分でそれを迎えた。
 避ける……つもりは無い。というか、「落ち着いたら甘いものでも食べよう」といったことを言い出したのは自分だという記憶はイルギッタにもちゃんとある。
 覚えてたのかそんなこと、というのが戸惑いの理由なのだろう。そしてそう思ったのは、どうせ忘れるだろうといい加減な気持ちで約束したのではなく、期待しすぎるべきでは無いと自制していたからなのだろう、と。
「天獄界の甘いもの、持って来たんだよ。一緒に食べよう!」
「ええ……まあその、そうですね。では、お茶の用意をいたしますので、案内します」
 そんな瞬間的に渦巻く様々な想いを知ってか知らずか、相変わらずの天真爛漫ぶりで話しかけてくるシトロンに、ぎこちなくイルギッタはそう答える。
 こちらから約束しておいて、その辺のベンチで適当に、と言うのはイルギッタの貴族としての矜持が許さなかったので、自室に招いて使用人にお茶を用意させる運びになった。
「……ご壮健のようで何よりです」
 そうしてティーセットを挟んで向かい合うと、イルギッタはまずそう伝えた。
 実際、元気な姿を見ることが出来てほっとしたのは事実だ。
「うん。えっとね、宇宙はもう大丈夫なの。ボクも頑張ったんだよ!」
「そうですか。……この世界も、貴女方によって守られた事、改めて御礼申し上げます」
 にっこりと報告するシトロンに、イルギッタはやはり丁寧に返す。
 そこから軽く、互いの近況を話す流れになった。
「そっかあ、フェディスさんと話せたんだね!」
 そうして、何の拍子かその話になると、シトロンは我がごとのように喜んで。
「家族がいるって良いなあ」
 と、つい無邪気に口走る。
「……」
 イルギッタはそう言われて──件の兄が、似たようなことを言われて似たような反応をしていたことなどもちろん露知らず──押し黙る。
 皮肉でないのは勿論、何か諭すつもりでもないのだろう。怒る気も無ければ、そう単純なものじゃないと反発してもみっともないのも分かってしまう。
 ただ素直に「そうですね」と言えるほど気持ちの整理がついているわけでも無くて。
「……なぜ今、そんなに楽しそうなのでしょうか」
 だからふと、そんなことを聞いていた。
「正直なところ、あまり貴女の様な方を楽しませるような性格を自分がしているとは思えないのですが」
 聞きたくなったのは、自分に自信がなかったからだろう。今の自分で、兄に、自分がしたことにどう向き合えばいいのか分からない。
 ただ、口にしてから、単純に不思議だなとも改めて思った。シトロンは明らかに自由気ままと言った気風で、お堅い自分とは合わなそうに思えるのだが。
 シトロンは聞かれて、顎に手を当てて少しの間うーんと考えて、
「巨神機、好き? ボクは好き! 自由に動かせると楽しいの!」
 やがて、逆にそんなことを聞いてきた。
「……兄から何か言われましたか?」
「?」
「……いえ、何でもないです。まあその、巨神機乗りとしての話がしたいということでしたら、嫌では、無いです」
 不意に、奇しくも兄と同じ事を聞かれるものだからまた変な反応をしてしまった。
 ただ、繰り返し聞かれると──そう、自覚は、する。自分は巨神機に乗っているのが好きなのだろう。その瞬間に生きがいを感じている。
「まだシャットアウトやはぐれ魔獣もいるし、困ったらいつでも呼んでね! また一緒に巨神機乗って戦いたいから!」
 そんな、素直になり切れないイルギッタの態度からどこまで読み取っているのか。シトロンは明るく笑ってそう告げた。
(……困りごとがあれば、ですか)
 別に咎人の必要性など気にしなくても来ても良いのでは、とは、やはり素直に言えるような性格ではなかった。
「この地を守っていただくのに助力いただけるのであれば、咎人の力は歓迎します」
 拒絶はせずにそう答えるのが、今の彼女の精一杯だ。
 そうしてやがて、天獄界で交わしたちょっとした願いからの時間は、お茶請けも尽きるとお開きの時を迎えるのだった。

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