それは、ロンデニオン要塞防衛戦において大きな戦いではなかった。
戦場全体からみれば、蟻の一穴。
されど、その穴が穿たれば魔王軍は戦場に大きな楔を撃ち込む事ができる。
撃ち込まれた楔は傷を広げていき、やがて陣を崩壊させる。
ヴェルナー・ブロスフェルト(mz0019)は、敵の狙いが咎人部隊『ベゾッフェン』だと見抜いていた。
部隊の東から襲来した魔王軍。その数は決して大きくはない。部隊全体で制圧に動けば、襲来する魔王軍を押し止める事は可能だろう。だが、それこそが敵の狙い。ベゾッフェンが布陣していた場所に魔王軍の別働部隊を突入させれば、要塞防衛の為に布陣している魔法騎士団の陣形を乱す事ができる。
ベゾッフェンへ細かく、そしてネチっこく魔王軍の尖兵を送り込んでくる。
敵の誘いに乗るわけにはいかないが、防戦一方という訳にもいかない。
「少数精鋭で敵指揮官を撃退するべきでしょうか。このやり方、おそらリベラで出会った……く」
「わふぅ!」
思案するヴェルナーに対して、アルマ(ma0638)は足に飛びついた。
これでも戦闘中なのだが、アルマには相変わらずマイペースのようだ。
「アル。良い子に……今はしなくていいから一発でも撃て。いいな?」
アルマの後を追って来たザウラク=L・M・A(ma0640)は、アルマへ諭すように話し掛ける。
それを聞いたアルマは元気いっぱいに飛び跳ねる。
「わぉん! どっかんするです! こんどこそやっとくです!」
アルマはベゾッフェンへ攻め寄ろうとするオークの一団へスフィアバーストを放った。
爆発に巻き込まれるオーク達は、その体を大きく跳ね飛ばされる。
現在、ベゾッフェンにはゴブリン、オーク、コボルトの混成部隊が一斉に襲い掛かってきた。現時点ではベゾッフェンの現存部隊でも対応可能であるが、時間が経過すれば増援が襲来する可能性も考えられる。
「毎度すまんなヴェルナー……まぁ、その分働くんで許してくれ」
「そうしていただけると助かります」
弟であるアルマの行動をザウラクは、さり気なく謝罪する。
既に風物詩となっている光景であるが、今はロンデニオン要塞防衛という大きな戦の最中。少しの選択ミスが戦局に大きな影響を与える恐れもある。その影響なのか、ヴェルナーはいつもより口数は少ない。
「ベゾッフェンの人たちは私が守ります!」
敵の襲来を察知した吉良川 奏(ma0912)は、貴き者の旗を発動する。
奏を中心に展開される守護結界は、ベゾッフェンの隊員達を包み込んでいく。
奏はベゾッフェンがこの場所を死守しなければならない事を知っている。それならば、奏は御旗を掲げる戦士のようにベゾッフェンを守り抜くと覚悟していた。
「吉良川さん、ありがとうございます。ですが、あなた自身も気を付けて下さい。この敵は本当に『嫌な性格』をしていますから」
「……ヴェルナーさんは、敵の指揮官をご存じなのでしょうか」
ヴェルナーの口調が気になり、奏は問いかけた。
嫌な性格と断言した以上、特定の人物を想い描いているに違いない。それも強い確信を持って。
「はい。その人物は……」
「エディ、だろ? ここでまた、あいつが関わっている、のか。御苦労なこと、だな」
「パパ!」
奏にパパと呼ばれた――水無瀬 遮那(ma0103)は、面倒そうな顔を浮かべている。
遮那の傍らには川澄 静(ma0164)の姿もあった。
「エディ・ジャクソン。エリス王国で私達が遭遇した簒奪者です」
「エディ・ジャクソン……」
奏は静が口にした名前を繰り返した。
自分の記憶に刻み込むように。
「本当に変な奴、だ。咎人を主人公と呼んで、た」
「彼のことです。こうしたら楽しいと思ったことを仕掛けてくるはず。例えば、私たちがピンチに陥る状況……とか?」
静は一つの推測を述べた。
エディは自身を読者と称した上で、咎人を主人公と表現していた。まるで咎人が小説の主人公であり、それぞれにストーリーが存在しているような言い回しだ。さらにエディは読者と称して『ストーリーへの要望』のように咎人へ介入をしてくる。言い換えれば、愉快犯のようにも思えるのだ。
それに対してヴェルナーは別の見方をしていた。
「それは……どうでしょう。今回は彼の意図ではない気もします」
「どういう事でしょうか」
「あくまでも勘ですが」
ヴェルナーは前置きをした上で、静に説明する。
以前、ヴェルナーがエディに出会った際に『王都で会おう』という内容の言葉を残していた。エリス王国の王都を言い表しているのだが、それはエディがエリス王国で何らかの暗躍をしている事を意味している。つまり、エディにとって本命は王都であり、今回の襲撃は別の意図を持っているとヴェルナーは考えていた。
「たとえば、誰かからの指示で攻撃しているのでしょうか?」
「その可能性も考えられます。エディとしても一定の役割を果たせば撤退すると私は考えています」
奏の問いかけにヴェルナーは答える。
貿易都市『リベラ』を陥落させる為に策を弄したエディらしからぬ作戦だ。まるで与えられた役割を適当に果たそうとしているやり方。今回の戦いは本気ではない、そう感じさせる。
「簒奪者側も一枚岩ではないのでしょう。ですが、問題はエディが何処に居るかを捜索する事です」
ベゾッフェン隊員が拠点防衛に尽力する中、咎人達が取るべき方策はエディの捜索であった。
エディの能力は『トーンフォレスト』と呼ばれる短距離移動用ゲートである。イデアゲートと異なり、イデア体以外もゲートでの移動が可能である事から魔王軍の展開に利用されている。今回の襲撃もトーンフォレストで魔王軍を出現させていると考えれば、エディを見つけて撃退すれば敵の襲撃は収まるはずだ。
如何にエディの身柄を迅速に発見するか。それがベゾッフェンに課せられた問題なのだが、咎人達は特性を活かしたアプローチで解決しようとしていた。
「ヴェルナー。エディならアイツが見つけてくれる」
ザウラクは空を見上げる。
そこには神魔飛行で上昇していく天魔(ma0247)の姿があった。
●
魔王軍が襲来しているのはベゾッフェンが布陣する位置から東。
コボルト、オーク、ゴブリンは東にある三つの丘からそれぞれ進軍してくる。
仮にエディがトーンフォレストで魔王軍を移動させているとすれば――。
「時間経過だけでも居場所は特定できるが、それでは被害が拡大するな」
天魔は神魔飛行で上空へと移動しながら、状況を整理していた。
敵の出現パターンからエディは三つの丘を移動しながら魔王軍を出現させている。
本当にベゾッフェンを翻弄するなら、三つの丘を囮にして本隊を伏せておけばいい。東から襲来する魔王軍にベゾッフェンが対応している間に本隊が別の場所に出現して攻撃されれば、かなり苦戦するはずだ。だが、今の所その動きは上空へ浮上する天魔にも発見できない。
つまり、エディは三つの丘から魔王軍の兵を逐次投入する形で出現させている。
「この戦いへ強制参加させられた……そんな所か」
天魔はエディ・ジャクソンなる簒奪者について情報だけを保有していた。
策を弄しながらトーンフォレストを使いこなす厄介者。思考はかなり特殊な部類と見受けられる。
そんな簒奪者が本腰を入れずに戦っているのだ。お互い、益にならない戦いはさっさと終わらせるべきだ。
「そこまで本腰を入れていないのであれば、頻繁な移動は行っていないな」
天魔は望遠鏡で丘付近を捜索する。
幸い、小高い木々は見受けられない。かなり上空まで行かなければならないかと思ったが、それ程上空へ行かずとも済みそうだ。
天魔は望遠鏡の調整を行い、丘へピントを合わせる。
(北は……なし。南も数体のオークのみ。そうなると……)
天魔は望遠鏡を中央へ向ける。
そこには数体のゴブリンに紛れて、明らかに人間らしき姿が捉えられる。
黒いローブらしき物を纏い、手には本が握られている。
情報通りなら、あれが――。
「エディ・ジャクソン、か」
天魔は望遠鏡から目を離し、地上にいる咎人へサインを送る。
目標は中央の丘だ、と。
「さて、エディの居場所が分かった。誘導するが……」
天魔は独り言を呟いた。
望遠鏡で見かけたエディは、やる気ない笑顔の中を浮かべている。
読者を自称する簒奪者を前に、天魔は言いようのない違和感を抱いていた。
●
「パパ達は簒奪者の撃退、お願いしますね!」
奏は遮那達を送り出して、後から声をかける。
天魔の情報でエディが中央の丘にいる事が判明した咎人達は、中央の丘に向けて移動を開始していた。襲ってくる敵を強行突破して一気にエディのいる丘へ目指して突き進む。天魔も上空からエディを監視しつつ、中央の丘へ向かっている。
その中で奏はベゾッフェンと共に残る事を決意していた。
「危ない!」
オークに接近されていた隊員を守る為、奏はフォローガードを発動。
オークの棍棒が振り下ろされ、奏のシールドが僅かに削られる。だが、反撃もままならない状態だった隊員は尻餅をついただけで、大きなダメージはなさそうだ。
「こちらの敵は任せて下さい! 一旦、後退を」
クラッシュアックスで応戦する奏。
オークに一撃を浴びせる事ができたが、オークが押し返された事に気付いた周辺の兵士が動き始める。
コボルトとゴブリンが二方向から奏に向かって走り寄る。
「二方向から……でも、逃げません!」
奏は不退転の決意で、陣取った。
ここで撤退すればロンデニオン要塞防衛に大きな懸念を残す可能性がある。この戦闘自体は決して重要視されていないにしても、この地を魔王軍に抑えられれば、ロンデニオン要塞の攻撃が容易になる。一箇所が崩壊されば、なし崩しに他の陣地も撤退を余儀なくされる。
決して、この場所は奪わせない。
「まだまだ、やれますよ!」
奏はクラッシュアックスをフルスイング。
迫るゴブリンとコボルトを一瞬だけ足止めする事に成功する。
だが、明確なダメージを与えられた訳ではない。
足を止めたものの、ゆっくりと奏に向かって歩み寄る。
それぞれに手にボロボロの剣を携えて。
「吉良川さん、ご無事ですか」
奏の背後から現れたヴェルナー。
歩み寄ってくる二体にアサルトライフルの銃弾を浴びせかける。
それを合図に他の隊員からもアサルトライフルの銃弾が叩き込まれる。体に何カ所も風穴を開けられた二体は、力を失って倒れ込む。
「ありがとうございます」
「お礼は後にしましょう。今はこの場所を守り抜く事を考えて下さい。ですが、あなた一人ではない事も忘れないで下さい」
奏はベゾッフェンを守り抜こうとしていた。
だが、現実は奏を守る者も傍らにいるのだ。
支え、支え合う。
その繰り返しが勝利を呼び込むのだ。
「はい、そうですね」
奏は素直にそう答えた。
●
「君がエディか。初めまして。……ああ、私の事は覚える必要はないぞ?」
中央の丘に到着した天魔は、エディに向かってそう声をかけた。
移動速度は遅いものの、神魔飛行で中央の丘へ向かった為に道中で足止めを受けずに済んだ分、少しだけ早く到着できたようだ。「いいですね、不遜なる主人公。読者として湧き上がる物があります」
天魔を見つけたエディは見るからにテンションが上がっている。
やはり、この戦いそのものがエディにとって『やらされている戦い』になるのだろう。
「主人公?」
「そう、主人公。ボクはね、キミ達にはキミ達のストーリーがあると考えているのです。そのストーリーを堪能するのが、読者であるボクの存在意義なのです」
(聞いてはいたが、本当にそのままか)
天魔の前で嬉々として語るエディ。
その傍らで数体のゴブリンが唸り声を上げる。
「私が主人公の物語は生前に終わっている。2度目をやる気はない。それと忠告だ。読者が介入して良作となった創作物は殆どないぞ?」
「それは考えの相違です。読者の意見をどう扱うかも一つの技術です。決まった線路に乗るだけの主人公ではないでしょう?」
読者の意見。
それが天魔に嫌悪感を抱かせる。
つまり、エディは意見をするが、その意見をどう扱うかは咎人次第。早い話が好き勝手に介入はするが、それに対する責任は一切取る気が無いというのだ。
「わふーぃ。エディさん、しょーじききらいじゃないですけどー」
そこへアルマが滑り込んできた。
地上から移動してきた咎人達も合流できたようだ。
「他の主人達も到着ですね。正直、気の進まない仕事でしたが、やはり主人公と触れ合うのは悪い気がしません」
「きゅぅ。きみをどっかんすると、ぼくはよしよししてもらえるです」
アルマはエディに対して悪感情を持ってはいない。だが、エディを撃退すれば褒めて貰える事を知っている。その為、エディを容赦なく吹き飛ばすつもりのようだ。
一方、兄のザウラクは辛辣だ。
「……お前、いい加減鬱陶しいぞ。死に戻るか、消えるか、簒奪者?」
「うん、実に分かりやすい主人公です。感情を露わにするのは良いのですが、その恫喝は演出的にどうなのでしょう? もっと悲劇的なシーンがあった後で発言した方が効果的ではないでしょうか」
ザウラクは怒りの感情を向けるが、エディは他人事のような言葉で返してきた。
その言葉が更にザウラクを怒らせる。
気に入らない。それ以上に面倒で厄介な相手だ。
目の前にいるザウラクもエディにとっては小説の登場人物。エディだけは影響がないと思っているかのようだ。
「……アル、やれ」
「わふぅー! どっかんするですー」
アルマはゴブリンに向けてスフィアバースト。
大きな爆発が発生。
その間隙を縫う形で静と遮那が動き出す。
「義経さま、今です!」
「おや、また会ったねぇ? 似非読者の簒奪者、だったっけ? さぁて、祝福が呪い。受けるが良い!」
金眼で睨みながら、遮那は聖母の抱擁を発動。
呪詛を込められた弾丸が、スウィートバレットより発射される。爆発の最中に発射された弾丸はエディに突き刺さる。呪詛はエディの体を蝕むが、エディの顔色は変わらない。
「似非読者? 酷いです。私は主人公が如何にストーリー上で素晴らしい輝きを見せるか。その輝きを最高の物にする為に、これだけの努力をしているというのに」
遮那の前でもエディは態度を崩さない。
この手合いは厄介だ。普通の相手なら始末すれば済むが、相手は簒奪者だ。殺しても平然と戻ってくる。
「今日は貴方と話している暇はありません。すぐに終わらせます!」
静はエディへマジックアローを放つ。
アルマもそれに続いてマジックアローで攻撃するが、エディは落ち着いた様子でトーンフォレストを開く。
「頃合いですね。役目は十分に果たしたでしょう。
それよりも、皆さんは不完全燃焼でしょう。この程度の舞台で満足する主人公達ではないはずです。私が最高の提案を準備しています。もう少々お待ち下さい。……それでは」
トーンフォレストで姿を消すと同時に、エディはゴブリン達を差し向けた。
咎人達もエディを撃退すればベゾッフェンへの攻撃が止む事を知っている。下手に深追いすれば罠を張っている恐れもある。ここは、ゴブリンを倒して退くのがベストだろう。
「何をどうしようが、結局やる事は変わらんのだが……まったく」
ザウラクは毒づきながらも蛇腹刀「El Sabik」でゴブリンに一撃を叩き込んでいた。
●
「無事に簒奪者を撃退できたようですね」
咎人達が中央の丘から撤退してきた事を確認した奏。
これで敵の増援は来ないだろう。本格的にロンデニオン要塞防衛戦が開始されるまでは、小競り合い程度で済むはずだ。あくまでも戦いの最中の小休止に過ぎないが、それでも奏には長期休暇のような安心感があった。
「そのようです。早々にエディを発見した事が幸いでした」
ヴェルナーも早期戦闘終結に一安心の様子だ。
補給部隊が心配だとも言っていた。連絡が着かないらしい。既に隊員を向かわせているものの、何事もなければ良いのだが……。
「納得が、いかない」
「パパ、お帰りなさい」
遮那が丘から帰還してきた。
その顔は撃退したものの、勝利を喜ぶ顔つきではなかった。
奏は傍らにいた静に問いかける。
「ママ、パパはどうしたの?」
「エディが撤退したのは良かったのですが、思い返せばエディ自身から直接攻撃を仕掛けて来なかったのです。義経さまは、エディの攻撃を対応する為に準備していたのですが、自分で攻撃して来ない点が腑に落ちないそうです」
遮那はエディが思う以上に不完全燃焼だった。
ピンチを演出してその隙を狙うべく、鮮血の衣を準備していた。
だが、攻撃を仕掛けてきたのは配下のゴブリンのみ。エディ自身は攻撃をせず、トーンフォレストで撤退していった。エディ自身がやる気の起きない戦いだったというのは分かるが、あまりにも不自然過ぎる動きだ。
「攻撃手段がない、という可能性は捨てきれないが……。それを印象付ける為の行動も考えられる」
話を聞いていたザウラクは、思考を巡らせる。
エディの行動は、何らかの意図があったかもしれない。
だが、それを今確かめるのは不可能だ。
(精神的な楔。そう考えるべきだな。次に遭遇するまでは、持っているかも分からない謎の攻撃手段を気にする羽目になったか。ブラフとして仕掛けたなら一流だな)
ザウラクは改めてエディが厄介な相手だと認識させられた。
「久しぶりだな、ヴェルナー殿。相変わらず見事な指揮だ。生前と変わらん」
戻った天魔はヴェルナーへ声をかける。
「生前と? 何処かでお目にかかっていたのでしょうか?」
「……そうだと良い、と思っただけだ」
天魔はこのヴェルナーが自身の知るヴェルナーと同一人物ではない可能性があるのを思い出した。
別の世界。存在し得た可能性だけ世界が存在するなら、天魔が知らないヴェルナーは無数に存在する。咎人になってからこのような話に天魔は苦労させられる。
「……また生前の事を聞いていいか? ロッソやソサエティ、そしてハンターといった言葉に聞き覚えはあるかね?」
「その言葉は聞き覚えがあります。ですが……」
「ヴェルナー殿が知る物と同一かは分からない、か」
「そうなります。記憶が曖昧なのも困ったものです。できれば同じ世界であったなら良いのですが」
ヴェルナーは社交辞令とも取れる言葉を口にした。
仮にそうだとすれば、『あの世界』はどのような結末を迎えたのか。
辛い未来であるなら、ヴェルナーのように記憶を失った方が幸せだったのか。
「そうだな」
「わぅ! ヴェルナーさん、どっかんしたのでいいこいいこしてほしいですー」
天魔が言葉を変えそうとした瞬間、アルマが飛び込んできた。
エディを撃退したので褒めて欲しいようだ。
「はい、良く頑張りました」
「えへへ、やったですー」
満足そうなアルマを目にした天魔は、ここでようやく緊張の糸が切れた事に気付いた。
戦場全体からみれば、蟻の一穴。
されど、その穴が穿たれば魔王軍は戦場に大きな楔を撃ち込む事ができる。
撃ち込まれた楔は傷を広げていき、やがて陣を崩壊させる。
ヴェルナー・ブロスフェルト(mz0019)は、敵の狙いが咎人部隊『ベゾッフェン』だと見抜いていた。
部隊の東から襲来した魔王軍。その数は決して大きくはない。部隊全体で制圧に動けば、襲来する魔王軍を押し止める事は可能だろう。だが、それこそが敵の狙い。ベゾッフェンが布陣していた場所に魔王軍の別働部隊を突入させれば、要塞防衛の為に布陣している魔法騎士団の陣形を乱す事ができる。
ベゾッフェンへ細かく、そしてネチっこく魔王軍の尖兵を送り込んでくる。
敵の誘いに乗るわけにはいかないが、防戦一方という訳にもいかない。
「少数精鋭で敵指揮官を撃退するべきでしょうか。このやり方、おそらリベラで出会った……く」
「わふぅ!」
思案するヴェルナーに対して、アルマ(ma0638)は足に飛びついた。
これでも戦闘中なのだが、アルマには相変わらずマイペースのようだ。
「アル。良い子に……今はしなくていいから一発でも撃て。いいな?」
アルマの後を追って来たザウラク=L・M・A(ma0640)は、アルマへ諭すように話し掛ける。
それを聞いたアルマは元気いっぱいに飛び跳ねる。
「わぉん! どっかんするです! こんどこそやっとくです!」
アルマはベゾッフェンへ攻め寄ろうとするオークの一団へスフィアバーストを放った。
爆発に巻き込まれるオーク達は、その体を大きく跳ね飛ばされる。
現在、ベゾッフェンにはゴブリン、オーク、コボルトの混成部隊が一斉に襲い掛かってきた。現時点ではベゾッフェンの現存部隊でも対応可能であるが、時間が経過すれば増援が襲来する可能性も考えられる。
「毎度すまんなヴェルナー……まぁ、その分働くんで許してくれ」
「そうしていただけると助かります」
弟であるアルマの行動をザウラクは、さり気なく謝罪する。
既に風物詩となっている光景であるが、今はロンデニオン要塞防衛という大きな戦の最中。少しの選択ミスが戦局に大きな影響を与える恐れもある。その影響なのか、ヴェルナーはいつもより口数は少ない。
「ベゾッフェンの人たちは私が守ります!」
敵の襲来を察知した吉良川 奏(ma0912)は、貴き者の旗を発動する。
奏を中心に展開される守護結界は、ベゾッフェンの隊員達を包み込んでいく。
奏はベゾッフェンがこの場所を死守しなければならない事を知っている。それならば、奏は御旗を掲げる戦士のようにベゾッフェンを守り抜くと覚悟していた。
「吉良川さん、ありがとうございます。ですが、あなた自身も気を付けて下さい。この敵は本当に『嫌な性格』をしていますから」
「……ヴェルナーさんは、敵の指揮官をご存じなのでしょうか」
ヴェルナーの口調が気になり、奏は問いかけた。
嫌な性格と断言した以上、特定の人物を想い描いているに違いない。それも強い確信を持って。
「はい。その人物は……」
「エディ、だろ? ここでまた、あいつが関わっている、のか。御苦労なこと、だな」
「パパ!」
奏にパパと呼ばれた――水無瀬 遮那(ma0103)は、面倒そうな顔を浮かべている。
遮那の傍らには川澄 静(ma0164)の姿もあった。
「エディ・ジャクソン。エリス王国で私達が遭遇した簒奪者です」
「エディ・ジャクソン……」
奏は静が口にした名前を繰り返した。
自分の記憶に刻み込むように。
「本当に変な奴、だ。咎人を主人公と呼んで、た」
「彼のことです。こうしたら楽しいと思ったことを仕掛けてくるはず。例えば、私たちがピンチに陥る状況……とか?」
静は一つの推測を述べた。
エディは自身を読者と称した上で、咎人を主人公と表現していた。まるで咎人が小説の主人公であり、それぞれにストーリーが存在しているような言い回しだ。さらにエディは読者と称して『ストーリーへの要望』のように咎人へ介入をしてくる。言い換えれば、愉快犯のようにも思えるのだ。
それに対してヴェルナーは別の見方をしていた。
「それは……どうでしょう。今回は彼の意図ではない気もします」
「どういう事でしょうか」
「あくまでも勘ですが」
ヴェルナーは前置きをした上で、静に説明する。
以前、ヴェルナーがエディに出会った際に『王都で会おう』という内容の言葉を残していた。エリス王国の王都を言い表しているのだが、それはエディがエリス王国で何らかの暗躍をしている事を意味している。つまり、エディにとって本命は王都であり、今回の襲撃は別の意図を持っているとヴェルナーは考えていた。
「たとえば、誰かからの指示で攻撃しているのでしょうか?」
「その可能性も考えられます。エディとしても一定の役割を果たせば撤退すると私は考えています」
奏の問いかけにヴェルナーは答える。
貿易都市『リベラ』を陥落させる為に策を弄したエディらしからぬ作戦だ。まるで与えられた役割を適当に果たそうとしているやり方。今回の戦いは本気ではない、そう感じさせる。
「簒奪者側も一枚岩ではないのでしょう。ですが、問題はエディが何処に居るかを捜索する事です」
ベゾッフェン隊員が拠点防衛に尽力する中、咎人達が取るべき方策はエディの捜索であった。
エディの能力は『トーンフォレスト』と呼ばれる短距離移動用ゲートである。イデアゲートと異なり、イデア体以外もゲートでの移動が可能である事から魔王軍の展開に利用されている。今回の襲撃もトーンフォレストで魔王軍を出現させていると考えれば、エディを見つけて撃退すれば敵の襲撃は収まるはずだ。
如何にエディの身柄を迅速に発見するか。それがベゾッフェンに課せられた問題なのだが、咎人達は特性を活かしたアプローチで解決しようとしていた。
「ヴェルナー。エディならアイツが見つけてくれる」
ザウラクは空を見上げる。
そこには神魔飛行で上昇していく天魔(ma0247)の姿があった。
●
魔王軍が襲来しているのはベゾッフェンが布陣する位置から東。
コボルト、オーク、ゴブリンは東にある三つの丘からそれぞれ進軍してくる。
仮にエディがトーンフォレストで魔王軍を移動させているとすれば――。
「時間経過だけでも居場所は特定できるが、それでは被害が拡大するな」
天魔は神魔飛行で上空へと移動しながら、状況を整理していた。
敵の出現パターンからエディは三つの丘を移動しながら魔王軍を出現させている。
本当にベゾッフェンを翻弄するなら、三つの丘を囮にして本隊を伏せておけばいい。東から襲来する魔王軍にベゾッフェンが対応している間に本隊が別の場所に出現して攻撃されれば、かなり苦戦するはずだ。だが、今の所その動きは上空へ浮上する天魔にも発見できない。
つまり、エディは三つの丘から魔王軍の兵を逐次投入する形で出現させている。
「この戦いへ強制参加させられた……そんな所か」
天魔はエディ・ジャクソンなる簒奪者について情報だけを保有していた。
策を弄しながらトーンフォレストを使いこなす厄介者。思考はかなり特殊な部類と見受けられる。
そんな簒奪者が本腰を入れずに戦っているのだ。お互い、益にならない戦いはさっさと終わらせるべきだ。
「そこまで本腰を入れていないのであれば、頻繁な移動は行っていないな」
天魔は望遠鏡で丘付近を捜索する。
幸い、小高い木々は見受けられない。かなり上空まで行かなければならないかと思ったが、それ程上空へ行かずとも済みそうだ。
天魔は望遠鏡の調整を行い、丘へピントを合わせる。
(北は……なし。南も数体のオークのみ。そうなると……)
天魔は望遠鏡を中央へ向ける。
そこには数体のゴブリンに紛れて、明らかに人間らしき姿が捉えられる。
黒いローブらしき物を纏い、手には本が握られている。
情報通りなら、あれが――。
「エディ・ジャクソン、か」
天魔は望遠鏡から目を離し、地上にいる咎人へサインを送る。
目標は中央の丘だ、と。
「さて、エディの居場所が分かった。誘導するが……」
天魔は独り言を呟いた。
望遠鏡で見かけたエディは、やる気ない笑顔の中を浮かべている。
読者を自称する簒奪者を前に、天魔は言いようのない違和感を抱いていた。
●
「パパ達は簒奪者の撃退、お願いしますね!」
奏は遮那達を送り出して、後から声をかける。
天魔の情報でエディが中央の丘にいる事が判明した咎人達は、中央の丘に向けて移動を開始していた。襲ってくる敵を強行突破して一気にエディのいる丘へ目指して突き進む。天魔も上空からエディを監視しつつ、中央の丘へ向かっている。
その中で奏はベゾッフェンと共に残る事を決意していた。
「危ない!」
オークに接近されていた隊員を守る為、奏はフォローガードを発動。
オークの棍棒が振り下ろされ、奏のシールドが僅かに削られる。だが、反撃もままならない状態だった隊員は尻餅をついただけで、大きなダメージはなさそうだ。
「こちらの敵は任せて下さい! 一旦、後退を」
クラッシュアックスで応戦する奏。
オークに一撃を浴びせる事ができたが、オークが押し返された事に気付いた周辺の兵士が動き始める。
コボルトとゴブリンが二方向から奏に向かって走り寄る。
「二方向から……でも、逃げません!」
奏は不退転の決意で、陣取った。
ここで撤退すればロンデニオン要塞防衛に大きな懸念を残す可能性がある。この戦闘自体は決して重要視されていないにしても、この地を魔王軍に抑えられれば、ロンデニオン要塞の攻撃が容易になる。一箇所が崩壊されば、なし崩しに他の陣地も撤退を余儀なくされる。
決して、この場所は奪わせない。
「まだまだ、やれますよ!」
奏はクラッシュアックスをフルスイング。
迫るゴブリンとコボルトを一瞬だけ足止めする事に成功する。
だが、明確なダメージを与えられた訳ではない。
足を止めたものの、ゆっくりと奏に向かって歩み寄る。
それぞれに手にボロボロの剣を携えて。
「吉良川さん、ご無事ですか」
奏の背後から現れたヴェルナー。
歩み寄ってくる二体にアサルトライフルの銃弾を浴びせかける。
それを合図に他の隊員からもアサルトライフルの銃弾が叩き込まれる。体に何カ所も風穴を開けられた二体は、力を失って倒れ込む。
「ありがとうございます」
「お礼は後にしましょう。今はこの場所を守り抜く事を考えて下さい。ですが、あなた一人ではない事も忘れないで下さい」
奏はベゾッフェンを守り抜こうとしていた。
だが、現実は奏を守る者も傍らにいるのだ。
支え、支え合う。
その繰り返しが勝利を呼び込むのだ。
「はい、そうですね」
奏は素直にそう答えた。
●
「君がエディか。初めまして。……ああ、私の事は覚える必要はないぞ?」
中央の丘に到着した天魔は、エディに向かってそう声をかけた。
移動速度は遅いものの、神魔飛行で中央の丘へ向かった為に道中で足止めを受けずに済んだ分、少しだけ早く到着できたようだ。「いいですね、不遜なる主人公。読者として湧き上がる物があります」
天魔を見つけたエディは見るからにテンションが上がっている。
やはり、この戦いそのものがエディにとって『やらされている戦い』になるのだろう。
「主人公?」
「そう、主人公。ボクはね、キミ達にはキミ達のストーリーがあると考えているのです。そのストーリーを堪能するのが、読者であるボクの存在意義なのです」
(聞いてはいたが、本当にそのままか)
天魔の前で嬉々として語るエディ。
その傍らで数体のゴブリンが唸り声を上げる。
「私が主人公の物語は生前に終わっている。2度目をやる気はない。それと忠告だ。読者が介入して良作となった創作物は殆どないぞ?」
「それは考えの相違です。読者の意見をどう扱うかも一つの技術です。決まった線路に乗るだけの主人公ではないでしょう?」
読者の意見。
それが天魔に嫌悪感を抱かせる。
つまり、エディは意見をするが、その意見をどう扱うかは咎人次第。早い話が好き勝手に介入はするが、それに対する責任は一切取る気が無いというのだ。
「わふーぃ。エディさん、しょーじききらいじゃないですけどー」
そこへアルマが滑り込んできた。
地上から移動してきた咎人達も合流できたようだ。
「他の主人達も到着ですね。正直、気の進まない仕事でしたが、やはり主人公と触れ合うのは悪い気がしません」
「きゅぅ。きみをどっかんすると、ぼくはよしよししてもらえるです」
アルマはエディに対して悪感情を持ってはいない。だが、エディを撃退すれば褒めて貰える事を知っている。その為、エディを容赦なく吹き飛ばすつもりのようだ。
一方、兄のザウラクは辛辣だ。
「……お前、いい加減鬱陶しいぞ。死に戻るか、消えるか、簒奪者?」
「うん、実に分かりやすい主人公です。感情を露わにするのは良いのですが、その恫喝は演出的にどうなのでしょう? もっと悲劇的なシーンがあった後で発言した方が効果的ではないでしょうか」
ザウラクは怒りの感情を向けるが、エディは他人事のような言葉で返してきた。
その言葉が更にザウラクを怒らせる。
気に入らない。それ以上に面倒で厄介な相手だ。
目の前にいるザウラクもエディにとっては小説の登場人物。エディだけは影響がないと思っているかのようだ。
「……アル、やれ」
「わふぅー! どっかんするですー」
アルマはゴブリンに向けてスフィアバースト。
大きな爆発が発生。
その間隙を縫う形で静と遮那が動き出す。
「義経さま、今です!」
「おや、また会ったねぇ? 似非読者の簒奪者、だったっけ? さぁて、祝福が呪い。受けるが良い!」
金眼で睨みながら、遮那は聖母の抱擁を発動。
呪詛を込められた弾丸が、スウィートバレットより発射される。爆発の最中に発射された弾丸はエディに突き刺さる。呪詛はエディの体を蝕むが、エディの顔色は変わらない。
「似非読者? 酷いです。私は主人公が如何にストーリー上で素晴らしい輝きを見せるか。その輝きを最高の物にする為に、これだけの努力をしているというのに」
遮那の前でもエディは態度を崩さない。
この手合いは厄介だ。普通の相手なら始末すれば済むが、相手は簒奪者だ。殺しても平然と戻ってくる。
「今日は貴方と話している暇はありません。すぐに終わらせます!」
静はエディへマジックアローを放つ。
アルマもそれに続いてマジックアローで攻撃するが、エディは落ち着いた様子でトーンフォレストを開く。
「頃合いですね。役目は十分に果たしたでしょう。
それよりも、皆さんは不完全燃焼でしょう。この程度の舞台で満足する主人公達ではないはずです。私が最高の提案を準備しています。もう少々お待ち下さい。……それでは」
トーンフォレストで姿を消すと同時に、エディはゴブリン達を差し向けた。
咎人達もエディを撃退すればベゾッフェンへの攻撃が止む事を知っている。下手に深追いすれば罠を張っている恐れもある。ここは、ゴブリンを倒して退くのがベストだろう。
「何をどうしようが、結局やる事は変わらんのだが……まったく」
ザウラクは毒づきながらも蛇腹刀「El Sabik」でゴブリンに一撃を叩き込んでいた。
●
「無事に簒奪者を撃退できたようですね」
咎人達が中央の丘から撤退してきた事を確認した奏。
これで敵の増援は来ないだろう。本格的にロンデニオン要塞防衛戦が開始されるまでは、小競り合い程度で済むはずだ。あくまでも戦いの最中の小休止に過ぎないが、それでも奏には長期休暇のような安心感があった。
「そのようです。早々にエディを発見した事が幸いでした」
ヴェルナーも早期戦闘終結に一安心の様子だ。
補給部隊が心配だとも言っていた。連絡が着かないらしい。既に隊員を向かわせているものの、何事もなければ良いのだが……。
「納得が、いかない」
「パパ、お帰りなさい」
遮那が丘から帰還してきた。
その顔は撃退したものの、勝利を喜ぶ顔つきではなかった。
奏は傍らにいた静に問いかける。
「ママ、パパはどうしたの?」
「エディが撤退したのは良かったのですが、思い返せばエディ自身から直接攻撃を仕掛けて来なかったのです。義経さまは、エディの攻撃を対応する為に準備していたのですが、自分で攻撃して来ない点が腑に落ちないそうです」
遮那はエディが思う以上に不完全燃焼だった。
ピンチを演出してその隙を狙うべく、鮮血の衣を準備していた。
だが、攻撃を仕掛けてきたのは配下のゴブリンのみ。エディ自身は攻撃をせず、トーンフォレストで撤退していった。エディ自身がやる気の起きない戦いだったというのは分かるが、あまりにも不自然過ぎる動きだ。
「攻撃手段がない、という可能性は捨てきれないが……。それを印象付ける為の行動も考えられる」
話を聞いていたザウラクは、思考を巡らせる。
エディの行動は、何らかの意図があったかもしれない。
だが、それを今確かめるのは不可能だ。
(精神的な楔。そう考えるべきだな。次に遭遇するまでは、持っているかも分からない謎の攻撃手段を気にする羽目になったか。ブラフとして仕掛けたなら一流だな)
ザウラクは改めてエディが厄介な相手だと認識させられた。
「久しぶりだな、ヴェルナー殿。相変わらず見事な指揮だ。生前と変わらん」
戻った天魔はヴェルナーへ声をかける。
「生前と? 何処かでお目にかかっていたのでしょうか?」
「……そうだと良い、と思っただけだ」
天魔はこのヴェルナーが自身の知るヴェルナーと同一人物ではない可能性があるのを思い出した。
別の世界。存在し得た可能性だけ世界が存在するなら、天魔が知らないヴェルナーは無数に存在する。咎人になってからこのような話に天魔は苦労させられる。
「……また生前の事を聞いていいか? ロッソやソサエティ、そしてハンターといった言葉に聞き覚えはあるかね?」
「その言葉は聞き覚えがあります。ですが……」
「ヴェルナー殿が知る物と同一かは分からない、か」
「そうなります。記憶が曖昧なのも困ったものです。できれば同じ世界であったなら良いのですが」
ヴェルナーは社交辞令とも取れる言葉を口にした。
仮にそうだとすれば、『あの世界』はどのような結末を迎えたのか。
辛い未来であるなら、ヴェルナーのように記憶を失った方が幸せだったのか。
「そうだな」
「わぅ! ヴェルナーさん、どっかんしたのでいいこいいこしてほしいですー」
天魔が言葉を変えそうとした瞬間、アルマが飛び込んできた。
エディを撃退したので褒めて欲しいようだ。
「はい、良く頑張りました」
「えへへ、やったですー」
満足そうなアルマを目にした天魔は、ここでようやく緊張の糸が切れた事に気付いた。