ザ・ゴールデンアワー
運営チーム
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シナリオ形態
大規模作戦
難易度
Normal
判定方法
エキスパート
参加制限
総合600以上
オプション
参加料金
0SC
参加人数
1人~∞人
報酬
100 EXP
2500 GOLD
5 FAVOR
相談期間
5日
プレイング締切
2021/08/26 10:30
リプレイ完成予定
2021/09/13
関連シナリオ
-
  1. オープニング
  2. 相談掲示板
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ
●ドッカンバトル! エルドラドで一番つえーやつ

 黄金界エルドラド、壱の島――

「青い空、青い海……い~いですねえ! さながら南国の楽園! 本日はここで血を血で洗うバトルロワイヤルが開かれるとのことです! それでは拳で語り合うバカンスをエンジョイしていきましょーう!」
 テロップとSEでバラエティ風に囃すのは簒奪者MCグランギニョール(mz0066)。その能力『一刺しの演出』によって浮遊させる撮影器具達をお供に、奴は乱痴気騒ぎを覗き込んだ。
「おや、咎人の姿が見えませんね~~これはどうやら隠れて戦闘をやり過ごす者が多いようです……!」
 寝起きドッキリのように小声でヒソヒソ。MCの言う通り、「隠れて戦闘をやり過ごす」「戦闘は極力避ける」という者が多かった。おかげで壱の島はけっこ~静かなモンである。
 このまま静かに平和に終わるのか? いやいや、それを許さないのがMCだ。

 どかーん。

 ド派手な火柱が向こうの方で上がった。爆発トラップ……をMCが『演出的にちょっと手を加えたモノ』だ。隠れる=視界の悪い場所を進む=隠されて見つけにくいトラップに出くわしやすい、そういう理屈なのである。そして罠が作動したということは、そこに誰かいるという証明で。

 時間が止まっていたかのような壱の島は、目まぐるしく状況が動き始める――。

 どかんどかんどかーん。アホみたいな火薬量の爆発に吹き飛ばされてゴロゴロゴロ。それでもアンジュネージュ(ma0941)はフッと笑って立ち上がる。たとえ、ギャグみてーな黒焦げアフロになろうとも(まあ次のコマで治るし)。
「罠が在る……なら、やるしかない!」
 説明しよう! RPGにおいて、斥候技能を持たない場合は耐久力を武器に漢サーチするのが一種の妙味を引き出すのである!
 そういうわけでアンジュネージュは咎人や簒奪者とではなく、罠と戦い合う道を選んだ。漢解除――捨て身の特攻を以てして。
「せっかくだから~~~……この怪しい場所に! 突撃! 漢鑑定いきます!!」
 全てはエンジョイする為に。怪しそうな藪へ飛び込むアンジュネージュ。閃光、カッ! 爆発、ドワオ! シールド、パァン!

「皆様。罠発見時の花火の色は赤。次に10秒後、妨害系なら黄色を、生命を削る罠の類なら緑色の花火を打ちあげます。罠のないルートをナビゲーションしますので、……」
 灯冥・律(ma0151)は通信機にそう話しかけたが、砂嵐ばかりが聞こえてきた。そう、エルドラドでは「通信術式使用禁止」なのである!
「……困りましたね」
 まあでも、花火という爆発があれば「そこに何かある」と仲間は察してくれる……だろう。信じよう。律は大型バイクGB-プルガトリウムで再び走り始める。彼女もバイクもボロボロだった。なぜなら彼女もアンジュネージュ同様、『漢解除』の者だったからだ!
 爆発に吹っ飛ばされる、落とし穴に落ちる、ローションぬるぬるの坂を転がり落ちる――ギャグ漫画みたいな黒焦げアフロになっても律はひたむきに、バイクで走り続けた。恐れはなかった。
 かくしてとうとう、N回目の爆発トラップに律は空へと吹っ飛ばされる。
「あれだけ罠にはまればそうなりますか。……優勝は、どうなるんでしょう?」
 キラン、と星になる。

「……行こうな、旦那様」
 項をひと撫で、レジオール・V=ミシュリエル(ma0715)は素顔を隠し海神島へ走っていた。
(方向はこっちかな……)
 他のほとんどの者がそうであるように、レジオールもまた戦闘を避ける心算だった。となれば敵になるのはトラップだ。目を凝らせば、『在る』。ならば破壊せんと聖氷斧槍「キオノスティヴァス」を振り下ろせば――カチッ。何かが作動して、何もないはずの空から有刺鉄線が乙女の首に絡み付き、絞首刑のように吊り上げる。魔改造されたロープトラップだ。
「おやあ、かかったかかった大物だ!」
 目の前にはMCが。レジオールは不滅意志によって有刺鉄線を強引に引きちぎると刃を構えた。
「退け、――アンタの胴体が別れる」
「はい退きます! なんせ私、今おっかけがヤベーので!」
 帽子をもたげ、MCはたったかたーと駆けていく。やれやれとレジオールが息を吐いた数秒後、殺意にみなぎる咎人らがMCをぶっ潰す為にダーッと走っていった……轢かれた……。

(英雄……。知り合いを殴るのが英雄か? わしの思っとるのとちゃうな)
 水上バイク・ウォーターライダーで海を行くのはトイ・ルーマン(ma0629)。
(わしは咎人の争いに興味はない。目指すは一点あのMC! あいつや)
 海から陸地を見やる。と――バイクが水中の機雷に触れたようだ、よりにもよってMCの罠――水柱と共に吹っ飛ばされて宙を舞いつつ、トイは舌打ちをした。
「しゃあない……『夏衣の加護』!」
 着水、ひとまず地上へ。そうすれば騒ぎが聞こえた。どうにもMCがいるらしい。ちょうどいい。トイは巡行移動と速攻チャージによって高速でそちらへ向かった。
 かくして奴はいる。トイは牙を剥いた。
「MCグランギニョールゥウウウウウウウ!!!」
 無限練武。天空の狼爪を振りかざし、MCの首を刎ね飛ばす。
「グエー!」
 ギャグみたいな量の血を吐くMC。
「からの頭突き!」
 生首を操作するMCが『頭突き』をかましてくる。衝撃にシールドごとトイの意識がぐわんと揺れた。
「捕まえてごらんなさ~い!」
 そのままMCは自分の生首をだむだむドリブルしながら砂浜を走り出す。
「ゴルァ! 待てや!」
 トイは殺意MAXでそれを追った。あと百回は殴っても気が済まない。
「簒奪者……見つけた……」
 砂浜のMCへ狙いを定めたのは咲良 恋(ma0166)。
「お前を狙ってるのは……私だけじゃ……ない……」
 アイツを放っておけば厄介な罠がそこかしこにしかけられてしまう。ならば妨害あるのみだ。白い砂浜を踏みしめ、スマッシュ。斧槍スカーレットフレーバーを振り抜けば、「どえー!」とMCの身体が面白いぐらいに真っ二つ。モザイクのかかった中身が砂浜にべちょべちょべちょっと飛び散った。
「おまえは……逃がさない……」
 リングアウトを狙いたいが、現実的に実現させるならノックバックさせる・移動させるスキルが必要か。ならば罠を展開されぬよう追いかけ回して邪魔しきるのみ。
「全く手荒ですねえ!」
 MCは笑いながら指を鳴らした。一刺しの演出――水中に在った機雷がポポポポーンと複数飛んでくる。恋は防御の姿勢を取った。
 閃光、大爆発。痛いけれど、耐えてみせる。
「ごめんなさい。しぶといのだけが取り柄なの。邪魔なさらないで」
 華澄・エルシャン(ma0612)もまた、そうやって耐えた乙女の一人だった。神魔の翼を翻し、バラバラになってしまった仲間の分まで奮闘する。ブレイバーソードを羽根のように軽やかに扱って、MCの頭上からダイヤモンドアタック。「祭りを楽しむ」と華澄の表情は溌溂としていた。
「MCさん、CMよろしくて?」
「どうぞ!」
 MCは両断された右半身左半身をくっつけながら言った。では、と乙女はカメラに向かい。
「私、天獄演芸場の贔屓筋ですわ。一度いらして。お噺に語り、音楽。素敵でしょ? バズらせていいのよ? MCさん? 失礼! 隙あり!」
「あー! 折角くっつけた右半身と左半身がー!」
 笑いながらもMCは、しかける予定だったトラップをどこからともなくポイポイ投げつけてくる。妙に爆発物が多いのは十中八九趣味だ。
「……っと……油断も何もありゃしない。梅は咲いたか桜はまだかいな」
 華澄は歌って踊る。もちろん本気で戦っている。
「強く楽しく美しく。頑張って! 皆様!」

「わー、みんな盛り上がってるね」
 シトロン(ma0285)はマイペースに島内を進んでいた。あっちのド派手な音、どうやら咎人と簒奪者がバトっているらしい。まあこっちに火の粉が降り注がないのなら、わざわざ首は突っ込みに行かない。
「ボクとしてはむしろここをゆっくり探検したいんだけどなあ……ボクはボクなりに楽しむよ!」
 折角の南の島風なロケーション。お祭り騒ぎな浮かれた空気をその身に感じつつ、その足取りは優勝狙いというより散策だ。幸いにして非戦闘スニーキングを行う者が多かったので戦闘をふっかけられることもなく。また、罠の漢起爆勢のおかげで罠に悩まされることもほとんどなく……と思いきや。
 カチ。あれ? 何か踏んだ? 何が起きるんだろう……ドキドキしていると、空からポトリとシトロンの手に棒アイス。「あたり」という付箋つき。これもMCのトラップなんだろうか。まあいいやラッキー。冷たいソーダアイスを食べながら、シトロンは再び歩き出す。

「みんな仲良く楽しくバトルロイヤルするですよ」
 瑠璃香(ma0653)はベリトるりか、通称ベリカ。小さく幼いベリト(mz0054)風だ。
「つーか、一番桃いのはベリカが桃一色なのですョ。紅一点がMCなら桃一点はベリトかベリカ……真の桃一点の座はベリカのものなのです」
 そういうわけで瑠璃香はベリトをしばく気でいたが、彼女の姿はなく……代わりに召喚されたドールがわんさか、瑠璃香を取り囲んでいた。
「アぁん? ベリトはどこいったですか! ……ハ? リタイヤした? 主人が撤退ならお前ら人形も撤退に決まってるだろうがボケカス!」
 般若の面をスチャリと着ける。般若ベリカ略してニャリカ。殺意と共にトライアンフの槍を構え、襲いかかって来るドールへ吶喊。轟然と得物を振り回す。さながら戦国のバサラ的な。
「MC! 紅一点をお前が奪うからベリト帰っちゃただろうがぁ!」
「恐怖! 冤罪ふっかけてくる小動物!」

 そんなMC、そしてベリトのドールを同じく相手取るのは風花雪乃(ma0597)だ。
「自分の強さを信じてる。簒奪者になんか勝たせない。さあお祭りよ」
 雪乃はあえて単騎だった。どこまでいけるのか、お祭りなので遠慮なく盛り上がる心算で。
「おお! すっごい数。華麗に一掃! って場面ね。これでどう? 唸れ!」
 見やる先にはドール達。乙女はスフィアバーストをありったけ溜めると、突き詰められた破壊のイデアを炸裂させた。暴風のような魔術に、ドール達が引き裂かれていく。
「隙あり爆弾!」
 と、雪乃へ投げつけられたのはMCからのトラップ用爆弾だ。
「あいたた……! さすがに強い! でもまだ……! 煌めけ星よ! 負けないわ」
 動ける限り勝ちを目指す。雪乃は星喰いの魔法でMCを木っ端に砕く。だがシールドが砕けた乙女へ、ドール達がさっきの仕返しと言わんばかりに群がってきて。
(あ~っマズイかも)
 苦笑ひとつ。親指を立ててドールの中に沈んでいく。アイルビーバック……。
(みんな、グッドラック! エゲリア様、ごめんなさい!)
 戦いが終わったら、金魚すくいとかやりたいなぁ。


●体が闘争を求めているので俺より強い奴に会いに行く
「押忍! 東江流琉球古武術、東江武蔵、参る!」
「アルパカこそが最強! それを証明する絶好の機会だ。誰が相手だろうが関係ねぇ……生き残るのはこの俺、アルティメット・パッカーよ!」
 向かい合うのは東江 武蔵(ma0410)、アルティメット・パッカー(ma0337)。
「血沸き肉躍るバトルロイヤル……おもしろい。俺はこういうものを待っていたぞ!」
「いいぜ! 野生じゃ全てがバトルロイヤル! 生きることは戦うことってなァ。どこからでもかかってこいや!!」
 武蔵は強さを求める武闘家として。パッカーは最強の戦士として。
 競うは、必然であった。
「お前……強者なのだろう? 気配でわかる。こういう奴と戦えるとは……胸が高鳴るぞ!」
 月長石の気を纏い、武蔵は大剣ドラゴンスレイヤーを振り抜いた。
「アンデスの風が俺を加速させる、どこまでもな――幻惑のアルパカステップ、見切れるかお前に!」
 パッカーはその身をひねり直撃を免れんとする。だが武蔵の剣にはシールドを破壊する金剛石のイデアが込められていた。掠っただけでも、シールドは砕け散る。更にブレイクキルの追撃がパッカーを追い込んだ。
「クッハ! 滾ってきたぜ。こんなところでくたばるワケにゃいかねぇ。やーーーってやろうじゃねぇか!」
 パッカーがナイフとハンマーで繰り出すのは、全く同様の技だった。ダイヤモンドアタック――特別ルールによってシールドブレイク中もスキルが使用できる――今度はパッカーが武蔵のシールドを粉砕した。
「おらァ! まだまだまたまだまだまだいくぜッ!! 全力を尽くすッ!」
「上等だ――立ちはだかるなら、打倒するまでッ! 行くぞぉ!!」
 最終的に二人はなぜか武器もなしに素手で殴り合いを始め、クロスカウンターによる相打ちで勝負は決まった。「ヘヘ……お前やるじゃねえか」「フッ……お前もな」なんて男の友情が生まれた。

(罠は一度きり、先行は不利。息を潜めるのが最優先……今回ばかりは一人きりだ、同じクラスタでも気を許せん)
(結界が聖杯を中心に収縮するなら、目指すところはそこになるかな……ヒールスポットは利用するにして、ブースターはもしもの時に……状態異常対策は持ち込んだし、回復は神威がある、さあどこまでいけるか)
 奇しくも――
 フリッツ・レーバ(ma0316)、七掛 双儀(ma0038)、二人の思うことなすことは全て似ていた。
『一匹狼』である彼らは、その鋭敏な視覚で罠を掻い潜り、戦闘を避けるように息を潜めて海神島へ駆けている。
(狙うは優勝)
(優勝をエゲリア様に捧げてみせる)
 そんな二人がばったりと鉢合わせたのは何の偶然か。
 ――すぐ近くには海神島への橋がある。
 先に進めば背中を晒す。だが先に進まれては優勝が遠のく。
「……どうかな、一緒に仲良くゴールを目指そうか?」
「そういうのはゴール目前で出し抜く奴が言うセリフだと相場が決まっている」
 結論は、やはり『同じ』。
「相手が誰は関係ない。そういう戦術を用意してある」
 いつものように削る必要はない。どれだけ強いかも考慮しすぎずともよい――先手はフリッツ。ウィンドブーツで風を踏み、クラッシュアックスによる一陣一閃。それはさながら突風だ。
「なるほど。なら、こっちも遠慮なく全力を出させてもらおうか」
 折角のお祭りだ、楽しもう。空中で受け身を取って着地した双儀はそのまま地を蹴った。二刀流の剣より放たれるガードクラッシュ――鬼気森然と、『鬼』の目は防御も回避も抵抗も許さない。
「……久しぶりに全力を出すというのもとても良いものだね」
 追撃。双剣の阿修羅が舞い、シールドが砕けた乙女を無惨に引き裂かんとする。
「戦士を名乗る以上、この場だけは譲れんっ!!」
 フリッツは砕けたシールドの残滓を集め、紙一重でそれを防御した――瞬間、アクティブシールドの神威を以て再び双儀を吹きとばす。こうなれば彼の剣は届かず、もう一度の追撃も行えない。……もしもう一発もらっていたら、負けていた。
 かくして状況は双儀の有利に見えたが、形勢逆転だ。彼は近接攻撃しかないのに、アクティブシールドで動けない。だが彼が動けるようになった瞬間はどうなるか。フリッツの火力では双儀を削り切るのは難しそうだが――と、そこへ。
「撃ちます。しゃがんでください」
 二丁拳銃の銃声。フリッツが思わずしゃがんだ瞬間、銃弾が双儀へと。狙撃、更にクイックショット、ありったけの弾丸を。
 ――今のは誰の仕業か。二人が見やる先には、硝煙立ち昇るオートマチックピストルS.SWEETを二つ構えた銛夜 狩那(ma0192)が、エルドラドの潮風にざんばらの黒髪と襤褸衣を靡かせ立っていた。
「敵は撃ち、競争相手は死なない程度に撃つ。……同じエゲリア神の信徒として、援護します。たとえ知り合いでも、負けませんよ」
 狩那は優勝するつもりはなかった。では彼女の目的は何か。知名度を上げること、そして、妨害だ。
「この橋は渡らせません……エゲリア信徒の仲間以外は。二対一で申し訳ありませんが、お覚悟を」
「……やれやれ、どうしたものかな」
 炯々と、鬼は赤い目をぬらりと細める。「このひと、強い」――狩那はそう直感するものの、決して臆することはなかった。表情を引き結ぶ。

 勝負の決着はまだ、分からない。


●MCグランギニョールゥァア゛ーッ(ドガシャア)
「さすがにカレー楽しむ前にリタイアは嫌だな……」
 ガルフ・ガルグウォード(ma1034)は罠がなさそうな木陰に身を隠すと――カレーを調理し始めた。
「突撃! 隣のお昼ごはん!」
 そこへスライディングしてきたのはMCだった。
「ほうほうほうカレーですか! いいですね!」
「いやー仕事柄お盆はゆっくりできなくてね……よかったら食べてくかい? あ、毒とかは入ってないんで♪」
「毒入りでも激辛でも喰らうがバラエティ! いざ実食です! ……すばらしい! カレーと言われて想像するあの味、まさにカレーのイデアですね!」
 とまあ、そんなこんな、二人の話は盛り上がり。
 今は食後のコーヒータイム。
「うんうん、分かるよ。俺の上司も人遣い荒くってさ……」
「お互い大変ですねえ。まあでも楽しんでいきましょう!」
「そんじゃ名残惜しいですが……――手合わせ、願えるかい?」
 不敵な笑み、手にはナイフ。
「そうですねえ」
 MCが見渡せば、彼狙いの咎人らが他にも現れて。
「いいでしょう、30秒だけお相手してあげましょう。そしたらまた逃げまーす!」

 ――『簒奪者殲滅』。

 文字通り「簒奪者、サーチアンドデストロイ」な作戦。
 その元に結託した咎人は――壱の島には、すっごく多かった。
 簒奪者殲滅を掲げる彼らは当然ながら同士討ちはしない。なので彼らはほぼ消耗することなくMCのもとへ辿り着いた。罠に気を配っていた者はことさら消耗が少なかった。

「簒奪者発見。ファイアーフラワーを使わないと」
 バイクX-DUFFERを走らせていたアウラ・セラビア(ma0747)は、MCの姿を視認すると空へファイヤーフラワーを放った。作戦通り、「敵発見」の合図である。
 土煙を上げてブレーキ。MCの進む先に立ちはだかるアウラは、大剣ドラゴンスレイヤーを構え簒奪者を見澄ました。その眼差しに、挑発のイデアを込めて。
「しばらくの間お付き合い願います。――ディフェンダーのアウラ、参ります」
 簒奪者に優勝を奪われるものか。奴らの足止めを一秒でもできるなら、たとえ自分が失格になっても構わない。――挑発はMCには効かなかったが、ベリトのドールには有効だった。ワッ、と一斉にドール共が襲いかかって来る。
「ドールは私が足止めします。皆様はMCを――守りは支援します」
 ハウリング。堅固のイデアを、仲間にも。
「僕、護るから……負けないで! 一緒に頑張ろう!」
 そのそばに駆けつけたのはメリゼ・リンクス(ma0442)だ。「簒奪者は仕方がないとしても、仲間同士で戦いたくないから」とその心はひたむきだ。
「簒奪者が聖杯を手に入れちゃったら困るよね!」
 鼓舞の想いを込めて、展開するのはサンクチュアリ。結界を張りつつ、立て続けに手近なドールへ聖樹の禁を。いずれもマジックポットによって即時発動してみせる。
「どこまでやれるかな……やれるだけやってみようっ」

「い、いつもと違って、皆さんとの連携は確約されてない……。こ、怖いけど……で、でも、簒奪者さんだけは、止めなきゃ……」
「ふえぇ。みんな強そう。新兵にはキツイなあ。でもセシル頑張るよ。強くなくても丁寧に狙うとか。脚止めるとか……。うん。やれる」
 リナリア・レンギン(ma0974)、セシル・ナターリア(ma1150)は、自らを奮い立たせる。アウラによるハウリングの加護を受け、MCへ挑む。
「ほ、奉納点で負けててアイシス様の機嫌が良くないとの噂だし……アイクラの良いところを見せないと後が怖いかも……が、がんばります!」
 やるからには勝ちたい。勝つ為には簒奪者の優勝を邪魔せねば。リナリアは火輪の長杖を振るった。マジックアロー――MCのシールドは『紙』だ。たった一発でもブレイクする。だからこそ、ブレイク時に使用できる神威が非常に有効だ。
「す、隙あり!」
 通常攻撃に加え、ブレイクキャスト。他の咎人も追撃の神威を叩き込む。
「ブエー!」
 豆腐みたいにバラバラになるMC。肉片がビチッとリナリアのシールドに散る。「ひっ」と肩をびくつかせるリナリア。それでも頑張らねば。スキルチャージも用意してきた、手数をありったけ撃ち尽くす心算だ。……攻撃の度に返り血やらが飛び散るのは勘弁願いたいが。
「あれが簒奪者。ぱっと見セシルたちと同じようなのになあ……ともあれ、よろしくお願いしまっす! う、わわわ! 早っ! 強っ! バキュンだ!」
 セシルもてんやわんやしながらも奮闘していた。MCは体が千切れたまま笑いながら、トラップを操作して放り投げてくる。すぐそばで立て続けに起きる大爆発に転がりながらも、セシルはリカーブボウA-specを引き絞る。連続で放つのは二本の矢、クイックショットに狙撃だ。
「これは力試しっ……参加することに意義があるよね。アイシス様、どうかご加護を!」
 共に戦うリナリアを始め、アイシスクラスタがちらほらいるのは心強い。新参にできることは確かに少ないかもしれない、それでも何もできないわけじゃない。

「おーほっほっほっ、御免あそばせ。親愛を込めてアナと呼んでくださいまし。義によって助太刀致しますわ」
 アナルデール・ウンディーニ(ma0116)は最前線にいた。抜群のプロポーションを華麗なる水着で飾り、真夏の日差しの中を思う存分躍動する。嗚呼、これが夏。前世では味わうことができなかった煌めきよ。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ですわ」
 鎧袖一触。ドールの攻撃をその回避力を以て掻い潜り、頭を踏みつけ八艘飛び、手にした刀で切りつける。海神島までスキルは温存する心算だ。これぞ陰謀策略入り乱れる貴族社会で鍛えられしクレバーぢからである。
「最期に残るのは一人だけですわ。しかし――まずは簒奪者を全力でボコりましょう。雌雄を決するのはそれから、ですわ」
 全てに勝つ。アナルデールはそう決めている。その目はきらきらと、エルドラドの日差しよりも輝いていた。

「盛り上がってまいりましたー!」
 MCはトラップを操作して攻撃してくる。トラバサミがガッチャンとメリゼの尻尾をかすめた。
「ひゃあっ! ……危なかった……! 気をつけなくちゃ」
「お嬢さん、ナイス水着ですね! 映えてますよ!」
 と、MCがカメラを向けている。メリゼは「え?」首を傾げた。
「お嬢さん? 僕、男だけど……」
「おや失礼……女性用水着だったのでてっきりお嬢さんかと。どのみちお似合いですよ!」
「女性用、……わぁぁ! 知らなかったよぅ」
 メリゼは生まれて初めて水着を着たのだ。なので知らなかったのだ。真っ赤になってスカートを抑えつつ「リタイヤ! リタイヤします!」と宣言。これ以上カメラで映されるのは、ムリ!
 その直後ぐらい、アウラもセシルもMCが投げてくる爆弾にドカーンとフッ飛ばされて。
「やれるだけやりました……悪くない失格です」
「あーあ。アイシス様ぁ。ごめんなさい! 負けちゃいましたぁ」
 仲良くお空にキラン。

 手薄になればMCは戦闘から離脱して、アラホラサッサーと海神島へと走っていく。待てやコラァと咎人達が追いかける。
 勝負はこれから。はてさて、英雄祭の結果はどうなるのか? 誰がこの戦いの頂点に立つのか?
 カメラに映るMCが、ブイサインをこちらに向けた。

「それはCMの後で――チャンネルはそのまま!」



●対アラタ
 咎人達がクロウ王の合図と共に弐の島に転移した時点で、結界は収縮を始めていた。
 今はまだ余裕があるものの、いずれこの島全てが結界の外になるだろう。
 そうなればリングアウト(失格)となり、その前に『海神島』へと向かう必要があった。
「この構造は……なるほど。興味深いわね」
 この島へと転移してきた咎人のうち、橘・六花(ma0201)は失格になる仕組みを理解すると、まずは簒奪者を排除すべくその捜索を開始する。
「ふむ? まずはイスカを探さなければ……」
 瀬織 怜皇(ma0752)は、現状を確認すると周囲に最愛の妻がいないか、探索を始めた。
 その一方で怜皇は、持参した高性能カメラ『トリュビュート6000』を取り出し、いつでも撮影の用意を始めている。
「まさにお祭りという感じの雰囲気だな、これは」
 その怜皇から離れた位置に転移したサガ=リーヴァレスト(ma0985)は、妻の姿が見えないことに気づく。
「さてと、キサラと合流できればありがたいところだが」
 そう言いながらもサガは妻との合流を目指しながら、道を進んでいく。
「取りあえず合流を目指すか。ソロじゃやれることはたかが知れてる」
 麻生 遊夜(ma0279)はエアボード「PARTY DECK」に乗ると、足でスイッチを押してエアボートを加速させる。
 遊夜はエアボートに乗りながら、鋭敏視覚や物体透視のスキルを活かして周囲の索敵を行い、警戒を怠らない。
「まずは聖杯の島を優先! 全力で生き残る!」
 鳳・美夕(ma0726)もまた聖杯の島こと海神島を目指すべく、海神島への道を疾走する。
「みんな、やる気満々だねえ。わふわふ」
 葉山 結梨(ma1030)は鋭敏視覚で周囲を見渡し、咎人達がそれぞれ海神島を目指していく姿を見て、そんな所感を口にする。
 もちろん結梨も鋭敏視覚を駆使して咎人達との交戦を避けながら、海神島を目指す。
「こちらもいいお天気ですねぇ♪」
 その一方、エルデシア=ティスタ(ma1039)のような咎人もいる。
 エルデシアも一通り話は聞いていたものの、既にその内容は右の耳から左の耳へと抜けていた。
「植物さんも元気元気ぃ、可愛い動物さんはどこかしらぁ?」
 エルデシアの意識は、この島の観光へとシフトしている。
「すまない。一時協力してもらえないだろうか。足が無くてね」
 三糸 一久(ma0052)は、たまたま近くでハイランドマウントを走らせていたエリーゼ(ma1080)に、相乗りを頼み込む。
「エゲリアクラスタの所属員を確認。エリーゼ、支援を開始します」
 一久の要請をエリーゼは承諾し、一久を乗せて海神島への道をひた走る。
 この弐の島と『海神島』は、他の島と同様に大きな橋で繋がれており、陸路で行くならこの橋を通るしかない。
「周りは罠や敵だらけ。怖いなぁ……これでは怖くて進めないよ」
 ユーグヴェル・ミラ(ma0623)は鋭敏視覚を駆使して周囲を見渡しながら、ため息を漏らすも、どことなく楽しそうだ。
(咎人を焼いていい機会なんてそうそうないものねぇ……)
 ユーグヴェルはバトルロイヤル形式を遵守し、自分とは異なるクラスタ所属の咎人達ごと簒奪者を倒すつもりでいる。
 そして簒奪者の氷堂アラタ(mz0055)は、陸路よりその橋へ向かっていた。
「……あ。ザッハークを連れてくれば飛べたのか……」
 氷堂アラタ (mz0055)自身はバカンス中ということだったが、参戦した以上はセオリーに従い動いている。
 そのアラタの姿を、エアボードに乗って滑るように移動し、交戦を避けながら進んできた遊夜が発見する。
「チッ、こんなとこで……タイミング悪いな、おい」
 遊夜はアラタの姿を視認すると、舌打ちしながら空に向けてファイヤーフラワーを発動。
 遊夜の指定した空間に、突如光の花が咲き、ついで花火特有の大きな音が響き渡る。
 遊夜のファイヤーフラワーは、周囲の咎人達へ『簒奪者発見』を報せる合図だった。
 宙に咲く花火と鳴り渡る音を察知した咎人達は、遊夜が示した場所へと集結していく。
 最初にその場へ到着したのはユーグヴェルだった。
「巻き込みを気にしなくていいって最高だよね~」
 ユーグヴェルはまだ他の咎人達がアラタの周囲にいないことを確認すると、そんなことを言ってムーンストーンオーラを発動。
 淡い輝きのオーラを纏ったユーグヴェルは、スペルブーストで自身の射程を伸ばし、高速詠唱で集中を高め、カウントを終えたファントムソードを発動する。
 ユーグヴェルが指し示した空間内に魔法で創られた幻影の剣が顕現して周囲を薙ぎ払い、アラタのシールドを切り裂いた。
「俺はやれることをやる。簒奪者に好き勝手させたくねえな」
 雪ノ下龍晴(ma0133)は簒奪者の野望を阻止するため、このイベントに参加し、今はアラタのもとに到達している。
「まだ弱いけれど、古式ムエタイでやってやる」
 龍晴は生前習得した戦闘技術をもとに、左足を一度振り上げて一歩前に踏み出し、体の重心を低くとる構えから地を蹴った。
 龍晴は一気にアラタの至近まで踏み込むと、星華凍幻を発動。
 ビーストナックルを嵌めた拳が輝く氷の刃を伴った一撃と化して、アラタのシールドに激突し、その周囲に星の華めいた凍える刃が咲いては散っていく。
「バカンス中という言い分は通用しないか……」
 続々と集結する咎人達を前に、アラタも反撃に移る。
 突如複数の咎人達の足元から、氷の剣が顕現し、咎人達へと突きあげる。
 咎人達は飛び退いて回避するか、シールドで防ぐ一方、その一撃に耐え切れずシールドを破られる者もいた。
 咎人達を串刺しにした氷の剣が消えるのと前後して、サガもこの場に到達する。
「一応元の世界ではそれなりだったんだがな、勝手が違うか」
 サガはそんな思いを抱きつつも、アラタの排除に協力すべく、星喰いを発動。
 深紅の瞳より敵のシールドを蝕む攻撃魔法が放たれ、アラタに命中すると、そのシールドの強度を強奪していく。
 そしてスパイクハーフを駆る水無瀬 遮那(ma0103)が、馬蹄の響きと共に到着した。
「発見した簒奪者はエディじゃなくて、アラタのほう、か」
 遮那は周囲を見渡し、この場所にいる簒奪者の正体を確認すると、馬上よりSR-エリミネイターを構える。
「まずは、狙わせて貰う、よ!」
 そう叫ぶと遮那は狙撃を発動。
 狙撃銃より射出された銃弾状イデアは宙を飛び渡り、アラタのシールドに着弾の火花を上げた後、シールドを破砕した。
「アラタ! 貫く、よ!」
 間髪入れず遮那はブレイクポイントを発動。
 シールドを破られたアラタに向け、放たれた必中の一射はアラタの身を穿ち、ダメージを負わせる。
 その間に、花火を見てこの場所まで駆けてきた美夕、そして六花も到着する。
「戦場で足は止めないよ! 簒奪者に容赦はしないよ!」
 美夕は疾走の速度を緩めることなく、不退なりし一輪を発動して自身の射程を延ばした上で、アラタへと躍りかかる。
 属性の力を纏った緋色の舞姫が、美夕の四肢を覆ってその武器と化し、繰り出す手刀より斬撃と化した闘気が吹き伸びて、アラタの身を切り裂き、その生命を削る。
「ジャイアントキリングを狙って、全力で行くわ」
 六花は二重詠唱を発動した後、フリーズを発動。
 二重詠唱の効果もあり、行動を阻害する呪詛を込めた魔法攻撃が立て続けに放たれ、アラタに命中すると損傷を蓄積させると共に、その回避を鈍らせる。
「ふん、騒がしいのう。わしの前に立つ奴は、全員拳骨じゃぁあ!」
 それまで穏便な手法を心掛けて、海神島へ向かおうとしていたウルカス・サグダイア(ma0632)も、この場へ到着するなりアラタへと突っ込んだ。
「どらっしゃぁああっ、わしの槍の錆になれぃ!」
「次から次へと……!」
 ウルカスはトライアンフの槍を手元へと繰り込むと、ブレイクキルを発動。
 一気にアラタへと肉薄したウルカスが先端の赤い布を翻し、突風の速度で繰り出した槍はアラタの身を穿ち、さらなる損傷を負わせた。
 ここでアラタのシールドが回復し、アラタは凍り閉ざす銀を発動する。
 直後、アラタの正面にいた咎人達を貫く一撃が放たれ、咎人達の中から負傷者が出る。
 咎人達とアラタの攻防が続く中、エリーゼや一久もこの場に到達する。
 エリーゼは素早く周囲を見渡し、現状を確認すると、アラタに向けロックオンを発動。
「対象をロックオンしました。脅威度Aと判断。トリルノート、トリガー」
 エリーゼはGAT-トリルノートを構えると、フェアリーバレットを発動。
 『トリルノート』の銃身が唸りをあげて回転し、翡翠の輝きを帯びた弾幕がアラタへとぶちまけられ、そのシールドを打ち据える。
「僕は優勝には興味がないよ。まず無理だろうしね」
 そう言いながらもカウントを終わらせていた一久は、アラタに向け新世界の創造を発動。
「では、この夜は戦友の為に!」
 一久の叫びと共に、常夜にも似た小規模の世界がアラタの周囲に顕現すると、アラタを呑み込み、強制的な欠落を押し付ける。
「わうー。ぴりぴりしてるー。やな場所だ」
 さらに結梨も花火を見たためか、この場所に到達した。
 現場を鋭敏視覚で見渡した結梨は、殺伐とした雰囲気に眉をひそめながらも、自身のやるべきことを行う。
「――フィンブル、解放。全能力を以って、対象を討滅します」
 心為纏刃・フィンブルを顕現した結梨は、不退なりし一輪を発動して属性の力を纏わせると、アラタを射程内に捉えたところで、星華凍幻をさらに発動する。
「氷対決か。涼しくていいじゃないか」
 光を帯びた氷の刃が結梨より吹き伸びて、アラタのシールドへと斬撃を浴びせ、その周囲を凍える刃が咲き、砕け、輝きを散らす。
「まぁまぁ、簒奪者さんってあれかしらぁ?」
 このあたりでエルデシアもアラタのいる場所へ流れてきたのか、おっとりとした口調で首を傾げていた。
 その一方で、エルデシアは負傷した咎人の元へと向かい、カウントを終えたヒールで負傷の治療を始めている。
「さて? とりあえず逃げましょう」
 この頃には妻を探していた怜皇も、アラタの姿を視認している。
 怜皇はアラタの攻撃に巻き込まれないよう、『トリュビュート6000』で撮影しながら一定の距離を保っていた。

●対ズロイ
 陸路を進んだ咎人達がアラタとの交戦状態に突入する中、GB-プルガトリウムを駆り、海神島を目指していたソテル(ma0693)がズロイ(mz0063)とその『従魔』を発見していた。
「楽しい花火大会の幕開けですね! 大会をキラキラさせましょう!」
 ソテルはズロイの姿を見て嬉しそうな声をあげ、神魔飛行でズロイのもとへと飛翔しながら、ファイヤーフラワーを発動。
 ソテルの指定した上空に光の花が咲き、ついで大気を轟音が震わせ、ソテルが発した『合図』を周囲に伝えていく。
「どんどん打ち上げましょう! あぁ、キラキラして凄く楽しい!」
 ソテルは自らが打ち上げた花火を見上げ、嬉しそうに次のファイヤーフラワー発動へと移行し、ズロイの所在を周囲に報せ続ける。
「わぉ、アレ簒奪者じゃん……。誰かとかち合った所でヘルプに入るか」
 それまでエアボード「PARTY DECK」を駆って進んでいたルル・ロシェ(ma0422)は、途中から神魔飛行で空を飛び、橋を避けて海上を進んでいたが、海上を進むズロイの姿を発見すると、今後の行動を思案する。
 その一方、この場に到着した叢雲・暁(ma0112)の雰囲気はルルと異なっていた。
「エンジョイ&エキサイティングこそスサノオクラスタ!」
 暁は『サメ』やズロイが相手でもテンションは変わらない。
 老若男女は問わないが、昨今の風潮に配慮して差別も区別も行わず(by暁)。
 ――鬼に会っては鬼を剥き。仏に会っては仏を剥き――。
「イケメンに会ってはイケメンを剥きに行く。よっしゃ~! ポロリさせてやるZE~!」
 暁は蒼剣「ジグレイン」を抜き放つと海面より飛びあがり、一気にズロイへと迫ると剣を振り下ろす。
 ズロイは避ける様子もなく暁の斬撃を受け止め、そのシールドが削られたところで暁がその横を通り過ぎ、着水する。
「どーも、スサノオクラスタの友衛 守人です。呉越同舟、簒奪者殲滅までは協力させていただきます」
 友衛 守人(ma0083)は簒奪者の殲滅に協力する方針を固めており、ソテルの打ち上げた花火に近い位置にいたこともあり、ズロイのもとへ駆けつけていた。
「折角の祭りです、護衛稼業の宣伝を兼ねて参加させて頂きます」
 今は他の咎人達の前衛を務めるべく前に出て、抜き放った豪鉄を翻してダイヤモンドアタックを発動。
 一気に水面を割って飛びあがり、ズロイへと急速に迫る守人の前に、ズロイが騎乗するサメ型従魔(以下『サメ』と略)が割り込み、ズロイを庇う。
 それに構うことなく、守人の輝くオーラを纏った豪鉄の一撃がサメへと命中し、サメのシールドを切り裂いた。
 そして水泳フィンと水泳スキルを駆使して、海を泳いできたリダ・クルツ(ma1076)もこの場に到着する。
「橋の上と渡った先が狙われやすいと思ったから、渡りきる前に海にダイブして近くの岸から上がるつもりだったが……」
 その前に橋近くで咎人達とアラタとの戦いが始まったので、リダは海から島に向かうことを選んた結果、ズロイと対面する形となり、今に至る。
「ここは俺も協力しよう。強さにこだわりは無いが鮫の従魔が気になるところだな」
 リダはこの場でズロイの排除に協力することを決断し、迷宮の石人形で防御を向上させると、サメとの間合を詰めていく。
「どりゃあああぁ――!」
 水面より跳躍したリダは、振り上げた守護刀「寥」を真っ向から斬りおろし、サメのシールドをさらに削る。
 そこへ神魔飛行で飛んできたルルが、サメやズロイに向け毒瓶を使用する。
「いやー、オレは戦うのが好きって言うか、イタズラが好きなだけ」
 その言葉と共に投げこまれた毒瓶より毒が拡散し、範囲内にいたズロイやサメを包む。
 ズロイは毒を払いのけたが、サメは毒に蝕まれ、生命が削られていく。
「極力、力は温存していきましょう!」
 このとき川澄 静(ma0164)は、ウォーターライダーを駆り、白く波立つ海面の上を飛び石のような機動を見せて、この場まで到達していた。
 水上バイクが海面を切り裂いて突き進み、巻き上げる飛沫が静の後方に虹色の輪を描く。
「ズロイさま、場を荒らされるのは迷惑なのでお覚悟を!」
 静は海上を水上バイクで疾走しながら、ズロイ側からの攻撃をあえて待ち受ける。
 そして静の思惑通り、サメが咎人達に向け口を開けると、光の奔流を放つ。
 宙を貫いて走り抜けた光の奔流が射線上にいた咎人達へと命中するが、静は感化を発動し、リダもパリィを発動して対抗する。
 静はサメの放った攻撃属性へと自身の耐性を変化させ、シールドへのダメージを軽減することに成功し、リダは光の奔流に刀を打ち付け、弾き飛ばすことを試みるも、飛ばしきれずにシールドを削られる。
「昇華で強敵への完全耐性の周りに与え、私は高みの見物です」
 変化させた耐性が元に戻る前に、静は昇華を発動。
 静の体が巨大化し、周囲に広がる世界と同化することで一時的に自身の存在を変化させると共に、周囲にいる味方に自身と同じ属性の耐性を付与していく。
「序盤は協力し合おうじゃないか! 妙な連中の優勝は阻止したいし」
 この場に到着した躑躅(ma0256)もまた、簒奪者を優勝させないという点においては周囲の咎人達とは意見が一致している。
 躑躅は水深の浅いところにバリケードを設置し、サメからの射撃や視線から躑躅を守る壁代わりにすると、再演された不運を発動。
「おーっほっほ! さぁ、ボクの為に蹴落としあうのですわー!」
 テンションの高い笑い声をあげ、躑躅はサメに付与されていた毒の効果を一度解除した後、さらにその強度を増した毒で上書きした。

●ズロイ脱落
 静の発動した昇華によって、サメの攻撃属性に対する完全耐性を付与する空間がいまだ存在していた。
 これにより静の空間内にいる咎人達は、サメからのダメージを受けることなく、攻撃を続けている。
「おーっほっほ! ……この口調飽きてきた。やめよ」
 躑躅がそれまでの口調から本来のものに戻ると、サメの攻撃で負傷した咎人に向け、ヒールを発動。
「ボクは支援職なので後方でスキル飛ばしたりして、のんびりさせて貰うさ!」
 躑躅は咎人のライフを回復させながら、バリケードを壁にする姿勢を変えていない。
「わたしの狙いは遠距離スキルをぶつけた衝撃での海への落下です。余裕綽々の彼が泳げなかったら面白そうですね」
 ズロイを海に叩き落すため、ソテルは魔法力のチャージを続けている。
「クラスタに思い入れはありませんが、勝ちを望む者がいるのなら……」
 その一方でソテルは、海神島へ向かう咎人達を密かに応援している。
「時には勝利よりも大事なことがある。それは! 様式美!」
 暁は何かの様式美をこの場で成立させたいようだ。
「自然にやっちゃうのとは別に、人為的にやっちゃうのも味があるよね、というお話なんだよ!」
 何が暁を駆り立てているのだろうか?
 このころには静も元の姿に戻り、夏衣の加護を発動していた。
 水中で呼吸できる効果を得た静は、そのまま海中を進み、サメやズロイの真下へと潜り込んでいく。
「――で本領を発揮するのがNINJAだよ!」
 そして暁がサメに向けダイヤモンドアタックを発動。
 一気にサメの懐へと飛びあがった暁より、離れざまに翻った『ジグレイン』が、サメのシールドを断ち割った。
 サメを剥き身にした暁が着水したのと入れ違いに、サメの真下へ潜り込んでいた静はブレイクキャストを発動する。
(これは海神島で使うつもりでしたが、ここでも使わせてもらいます)
 静の突き出したスペルライターより、追撃となる魔法の一撃が撃ち放たれ、水面を突き破るとサメの腹を抉り、肉を削りとる。
 血飛沫をあげて身悶えするサメに向け、守人が追撃をかける。
「目標は我々のクラスタの優勝です。私が最後まで残る必要はない」
 そう腹をくくった守人は、すでに自身が失格することも視野に入れている。
「暑いのなら私の太刀で冷やしてやろう。――イヤーッ!」
 気合いと共に、守人は星華凍幻を発動。
 飛びあがった守人より振るわれた氷の刃の軌跡が陽光を弾き、すれ違ったサメと守人の影が離れた瞬間、星の花めいた輝きが周囲に散り、サメの血がしぶいた。
 凍える刃の軌跡をひいて守人が着水する中、追撃をかけたリダはふと思う。
「そういえばこれはクラスタ対抗だったけ……」
 そう考える一方、この場にいる咎人達はクラスタを越えて、ズロイやサメを倒すため共闘している。
(海神島に着いたとしても、花火が無いから駆け付けるしかできないな)
 眼前のズロイ達を排除した後のことも考えながら、リダは突進を発動。
「でりゃああぁ――!」
 咆哮と共に『寥』を構えたリダがサメに向かって吶喊する。
 勢いを乗せたリダの一撃がサメの身を切り裂き、そのまま後方へと吹き飛ばす。
 サメに乗っていたズロイは振り落とされるも、跳躍して飛ばされたサメの上へと落下し、再び騎乗する。
 そしてカウントを終えたソテルがスフィアバーストを発動しようとするも、範囲内ではルルがサメを押さえ込む姿勢を見せていた。
「くっ……オレに構わずやれ!」
 そう言いながらも、ルルはジェスチャーで暗に自分に対する攻撃をサメにぶつけると、ソテルに伝えている。
 それを信じ、ソテルはスフィアバーストを発動。
 爆発が巻き起こり、そのただ中にいたサメやルルにその威力が炸裂するも、サメを押さえ込んでいたルルは転嫁を発動していた。
「なんちゃってー」
 軽い口調と共に、ルルから転嫁された攻撃がサメにぶつけられ、ついにサメは力尽きた。
 絶命したサメは血霧を撒いて落下し、派手な水飛沫をあげ、遅れてズロイも海面へと叩きつけられる。
「参りました。私はこれで投了です」
 海面へと浮上したズロイが両手をあげて降参の姿勢を示した頃、縮小を続ける結界がズロイや咎人達を押し包み、通過する。
「お疲れさん、あとは流れ解散ってことで。あんた達のご武運を願うよ」
「私はここまでのようですね、貴方がたの勝利を祈っていますよ」
 ルルや守人は結界の外に押し出されながら、海神島へ向かうことができた咎人達に対し、そんなエールを送っていた。

●アラタ脱落
 咎人達とアラタとの攻防は、いつしか海神島へと至る大橋の上へと移りつつある。
 再び咎人達の足元から氷の剣がそそり立ち、咎人達のシールドを切り裂き、ライフを削っていく中、咎人達はなおもアラタに追いすがる。
「さて、頑張るかねぇ?」
 遮那は馬を操り、アラタとの距離を保ちながら闇月の涙を発動。
「撃たせて、貰う!」
 叫びと共に、遮那の狙撃銃より呪詛の力を付与した一射が放たれ、着弾したアラタのシールドを穿つと共にその力を纏わせ、体力を奪っていく。
「皆さ~ん、この周囲に残る簒奪者さんはこちらの方ですよぉ~♪」
 エルデシアは何となく周囲の流れに合わせ、そんなことを周囲の咎人達に報せていく。
 その一方で、エルデシアはアラタの攻撃を受け、負傷した咎人達のもとを回り、カウントを終えたエメラルドシャワーを発動。
 エルデシアの指定した場所を中心に、咎人達のライフが回復していく。
「なんにせよ、あいつらを最初に落とさんことには安心できんからな」
 そう言いながらも遊夜はアラタを射程に捉えると、挑発を発動。
 遊夜の存在感が増し、アラタの中で遊夜を優先して攻撃するよう仕向けると、遊夜の頭上に突如氷塊が出現した。
 現れた氷塊が遊夜へと落下すると、遊夜はアクティブシールドを発動。
 構えた大楯「トロイア」の力が一時的に増幅し、氷塊を防ぎ止めると共に、敵を弾き飛ばす波動を打ちだすも、アラタは射程外にいたため吹き飛ばすにはいたらない。
 それでもアラタを釘づけにする時間を稼ぐことはできた。
「どこまでやれるか試したい。最後まで希望をすてずにいくよ!」
 美夕もアラタを海神島へ向かわせぬよう、粘り強い戦いを続けている。
「諦めない限りチャンスはある。だから諦めない!」
 不退なりし一輪を再度発動して跳んだ美夕の体が風を撒き、アラタへと振り抜かれた美夕の蹴りに、緋色の舞姫が纏って斬風と化し、アラタのシールドを切り裂いた。
 攻撃を終え、着地する美夕と入れ替わるように、ユーグヴェルが前に出る。
「風向きよーし!」
 ちょうどアラタの周囲から、他の咎人達が距離をとるべく後退したのをユーグヴェルは見逃さず、攻撃に適した位置を調整した後、ムーンストーンオーラの効果があるうちに、スペルブーストで射程を伸ばし、高速詠唱でカウントを終えたファントムソードを発動。
「優勝争いに興味はない。僕はただより多くを燃やしたいだけさ」
 ユーグヴェルの呟きと共に、威力を高めた幻影の剣がアラタに襲いかかり、斬撃を浴びせてシールドをさらに削り取る。
「敵を斃すのはいいけど、そうじゃないのは、やだなあ」
 他の咎人達が奮戦をみせる中、結梨は少し考える。
「まあ、うん。とりあえず、叩き潰しちゃえばいいよね」
 思い切りがいい結梨はそんな結論を出すと、不退なりし一輪で射程を伸ばし、星華凍幻を発動。
 輝く氷の刃をまとった『フィンブル』が、アラタのシールドを捉え、凍える刃が咲いては散る中、シールドも破砕される。
「シールドブレイクを確認したわ。そのままブレイクキャストで追撃するわよ」
 結梨がアラタのシールドを破ったのを見て取った六花は、ブレイクキャストを発動。
 海鳴りの杖より放たれた六花の魔法攻撃が、効果的な追撃となってアラタに命中し、損傷を負わせる。
「敵の罠も学習スキルで模倣したり利用できないか検証したかったけれど、この辺りでは見当たらないわね」
 六花は敵の罠を使って敵を嵌めることも考えていたが、周囲にない以上は仕方がない。
「僕は我が方の勝利の為に動くとするよ」
 今が好機と判断した一久は、まず脅威なる創造を発動。
 顕現し、射出された半透明の武器がアラタの身を捉え、ダメージを負わせたところで、一久は矛盾反転をさらに発動。
 一久の攻撃を受けたアラタの防御を低下させる。
「1人でも簒奪者を道連れにできれば良いかな」
 そして駄目押しとして、一久は幻影弾を発動。
 閃いた発射焔は1回だがアラタの身に着弾し、肉を穿つ音が3度響いた。
「ハチの巣にしてやるぜ! ヒヤッハア!」
 一久の攻撃の後に、エリーゼもハイテンションで続く。
「……失礼しました。バグでし」
 常ならぬ口調の叫びをあげたことをエリーゼは謝罪し、顔を伏せる。
 ――噛みましたね?
「……噛んでません」
 どこかへ抗議する声を漏らしたエリーゼは、再び前に向き直ると『トリルノート』を構えてロックオンを発動。
 アラタを捕捉したエリーゼは、さらにフェアリーバレットを発動。
 『トリルノート』が咆哮し、翡翠の輝きを帯びた弾幕がアラタへと浴びせられ、アラタは弾痕を穿たれる。
「これが今の俺の全力だ!」
 龍晴は攻撃を畳みかけるべく、腰を落とした姿勢から再びアラタとの距離を詰めていく。
 片方の肘を突き出し、腕を水平にする構えのまま、龍晴はアラタの懐へ飛び込むと、星華凍幻を再度発動。
 輝く刃を纏ったビーストナックルが、アラタの身に叩き込まれ、ダメージを負わせると共に、その周囲に星の華めいた煌めきを散らす。
「撮影、ですね!」
 一連の攻防の様子を、怜皇は距離をとって高性能カメラを構えながら見つめていた。
 怜皇は撮影できた内容が今後役に立つと判断し、極力戦闘には加わらず、撮影を長引かせることに重きを置いている。
「フォローガードで誰かを死守するような状況でもありませんね」
 その一方で怜皇は冷静に戦況を分析しており、カメラを向ける先では、サガがマジックアローで牽制しながらアラタと交戦していた。
「優勝を狙えるとは思ってはいないが、腕試しにはちょうどいいか」
 サガはこれがお祭りであるという意識を残しながらも、簒奪者と交戦する今の状況に手応えを感じている。
 そしてカウントを終え、予め周囲にいる咎人達へ退避するよう頼んだ上で、サガはスフィアバーストを発動。
「気をつけはするが、巻き込まれてくれるなよ? スフィアバースト!」
 サガが周囲にそう告げた次の瞬間、アラタのいる場所で爆発が巻き起こる。
「よいぞよいぞぉおおっ、滾って来たわぁああああっ!」
 その威力がアラタへと炸裂し、爆発の余韻が周囲に残る中を突破し、ウルカスがアラタへと肉薄する。
「疾くいねいっ! ぬおりゃぁあああああ!」
 咆哮と共に、ウルカスは両手に構えた槍をアラタへと繰り出した。
 突き出されたウルカスの槍はアラタの身をかすめ、手傷を負わせる。
 ここで結界がアラタや周囲にいる咎人達のいる場所から海神島の方角へと抜けていき、アラタを含めその場にいる全員の失格が確定した。
「もうちょっと燃やしたかったなぁ」
「チッ、ここまでか……まあ、暴れられてスッキリしたわい」
 ユーグヴェルは残念そうな声をあげ、逆にウルカスは晴れ晴れとした表情を見せる。
「あらあらぁ、わたくしはここまでですかぁ♪ それでは皆さん、頑張ってくださいねぇ~」
「鍛えないと駄目か、後はお願いします」
 エルデシアはマイペースを崩さず、龍晴とともに海神島へ向かうことができた咎人達を応援する。
「やれやれ、何とかなったか……。簒奪者の相手は疲れるな、本当に」
 他の咎人達と共にアラタを脱落させた遊夜も、ようやく一息をつく。
「バカンスを楽しむつもりでしたが……疲れましたね」
 撮影に専念していた怜皇もまた、全身に疲労をにじませていた。

〇結果
「ぐ……こうも多人数に追い回されると、きついな……」
 島外に飛ばされたアラタは砂浜に大の字に倒れながら空を仰ぐ。
 ふと見ると、近くにはびしょぬれになったズロイが肩を竦めていた。
「あんたもやられたのか」
「ええ。ベリト様はだいぶお早く離脱されたご様子」
「だろうな。残るはMCとオリーヴィア、それからエディのやつか」
 こうして咎人達は、弐の島へ転移した簒奪者達を全て脱落させることに成功した。
 その代償として失格した咎人達の後押しを受け、海神島へと至った咎人達がどのような結果になったのか。
 それが判明するには今少しの時間が必要だった。




 南国パライダスでのんびりとリゾート気分を満喫。
 木陰に設置されたベンチに寝そべり、トロピカルジュースを片手にブルジョア気分を味わう。
 ああ、まさに天獄。戦いの日常を忘れて、優雅にこの一時を楽しむ。
 
 ――などという事は、一切ない。
 咎人達は魔力リソースである『ゴールデン・ホーリー・エルドラストーン』を奪い合うバトルロイヤル。
 炎天下の最中、ジリジリと焼けていく肌。他人を蹴落とし、自らを勝者へと導かんとする。
 仲間? ハッ、最後には裏切るんだろ。
 やるべきは――。
 裏切れ。
 騙せ。
 陥れろ。
 聖杯は、一つしかないのだから。
 
「おおー、皆、ヤル気みなぎってるねぇ……?」
 ツェツィーリア(ma0719)が降り立ったのは参の島。
 既に壱の島や弐の島にも咎人が散っている。どれ程の咎人が英雄祭へ参加しているのだろうか。
 ツェツィーリアに分かっているのは、海神島にある聖杯を手に入れられるのは一人だけ。そこまでの道程は罠あり襲撃あり。昨日の友は今日の敵、昨日の敵は今日も敵。信じられるのは自分一人だけなのだ。
 さらに――。
「って、物見遊山気分できたけど……簒奪者込みなの? 本気で? わお」
 棒読みながらも現実を直視するツェツィーリア。
 この英雄祭は咎人だけが参加するのではない。日頃、咎人に敵対する簒奪者も聖杯を狙っている。つまり、咎人達は簒奪者を優先的に排除しながら、他の咎人を蹴落とさなければならない。
 他の咎人と協力すると同時に出し抜く必要があるのだ。
「まずはエゲリアちゃん勢をサクッと見つけて……ん?」
 ツェツィーリアは協力者を捜索すべく、妖精飛行で上空へと舞い上がる。
 飛行と称しているが、浮遊に近いスキルだ。浮上スピードはそれ程早くないが、捜索という点においては便利だ。
 おまけに地上の罠も回避して移動ができるのだが、それ程の利便性なら他の咎人も気付くはず。
「おーい、ご主人~」
 主人を捜し求めて妖精飛行を試みるコスモス(ma0504)。
 動物に懐かれる44センチの小さな妖精で荒事を好まないタイプなのだが、今回主人を助けるべく参加。だが、妖精飛行の最中にツェツィーリアと目が合ってしまう。
「…………」
「…………」
 二人の間に流れる気まずさ。
 ライバルであるものの、簒奪者が介入する以上は下手に攻撃を仕掛けたくない。否、するべきではない。
 微妙な空気が流れる中、それを打ち消すかのような第三者の気配を察知する。。
「!」
 コスモスが振り返れば、上空に暗山 影次(ma0609)の姿があった。
「合図ついでに、失礼いたします……よっと!」
 地面に向けて放たれるスフィアバースト。
 チャージされた魔法力が爆発となって炸裂。周囲の空気を激しく揺さぶった。
 爆発の最中、影次は自分に向けられる視線に気付いた。
「相すいません、人を待っているもので……」
 影次は上空へ飛行するだけではなく、仲間に向けて居場所を知らせるようにスフィアバーストを放ったのだ。
 仲間達はその爆発を目指して移動すれば良い。
「考えているねぇ」
「いや、それ程でも……」
 ツェツィーリアの言葉に謙遜する影次。
 これで仲間達は爆発に向けて動き出すはず。
 ――そのはずだった。
「…………え?」
 コスモスの呟き。
 それに続けるように、再び別の爆発が発生する。
 影次とはまったく別の場所での爆発だ。
「別の爆発? これでは仲間がどちらの爆発に向かえば良いか分からなくなってしまいます」
 飛行して仲間を捜索する行動が被るように、爆発もまた他の咎人と行動が重複したのだろう。
 この参の島も、海神島行きを巡って熾烈な争いが始まりそうだ。
 

「スニーキングミッションは嫌いじゃないが、流石にブルっちまうな」
 竜胆 咲斗(ma0626)は、先程の爆発音を耳にしてこの状況の厳しさに気付いた。
 仲間へ合図を送る為にリモート爆弾を爆発させたのだが、それよりも前に爆発音が聞こえた。爆発箇所は別の地点。もし、簒奪者と遭遇したとするなら無理もない。だが、別の爆発のせいで仲間への合図が誤認された恐れもある。
 竜胆は周辺に注意しながら、海神島に向かって動き始める。
「俺みたいに弱い奴は、頭を動かさなきゃな」
 自らに言い聞かせる。
 既に三つの島で海神島行くを巡る戦いが繰り広げられている。
 咎人同士の強さが個々によって異なる以上、正面から戦うのはあまりにもリスクが大きい。勝利を引き込むなら、卑怯と言われようとも『出し抜く事』を考えなければならない。
「さて、どうするか……」
 そう言い掛けた竜胆の思考を、後方からの音が途切れさせる。
 木陰に隠れて様子を窺うと、夕凪 春花(ma0916)が騎乗するX-DUFFERがエンジン音を鳴らしながら走り込んで来る。
「何人たりとも私の前は、走らせません!!」
 アクセルを回し、更にスピードを上げる春花。
 海神島にある聖杯を手に入れる為には、真っ先に海神島へ到達する事を第一目標としていた。戦闘を避けつつ、障害物となる物はX-DUFFERの前輪で弾き飛ばすつもりだ。力業とも思えるが、成功させれば他の咎人を大きく出し抜く事ができる。
(思い切った行動を取るなぁ。けど、そう甘くはないと思うぜ)
 竜胆は春花に見つからないように身を潜める。
 砂浜はバイクで走行するには難しい。ならば島の中を最短距離で移動する事になるのだが、島の内部は森が広がっている。つまり、バイクの進路には木々が行く手を遮っている事になある。
「くっ!」
 春花は樹木を回避する為にハンドルを何度も切り返す。
 思うようにスピードが乗らないX-DUFFER。それは格好な攻撃の的となる。
「失礼」
 春花の横からKody(ma1151)が現れる。
 新参者と自認しているKody。自分の実力が他より劣っている事は理解している。しかし、同時にその新参者がどこまで通用するかを見極めたいという欲求も併せ持っていた。
 Kodyは春花がハンドルを切るタイミングに合わせて横から突き押した。
 バランスを崩す春花。
 突き飛ばされた先には――。
「きゃっ!」
 春花の姿が一瞬で消える。
 気付けば、地面に掘られた落とし穴に嵌まってしまっている。落とし穴トラップが発動したようだ。
「怪我は……無さそうですね。すいません、先を急ぎますので」
 春花の無事を確認したKodyは、海神島に向けて歩き出す。
 しかし、同時にKodyを襲う違和感。
「これは……」
 次の瞬間、爆発が巻き起こる。
 爆発トラップが発動。周囲に爆風が巻き起こる。
 影から見守っていた竜胆は、島中に仕掛けられた罠の多さに引き気味だ。
「こりゃ、ホントえげつない……って、また爆発か。こりゃ爆発を合図にするのは厳しそうだな」
 既に他の場所からも爆発音が聞こえてくる。
 仲間の終結に一抹の不安を抱く竜胆であった。
 

「ここは広い場所ですね。このような状況でなければ嬉しいのですが」
 スタートと同時に神魔飛行で上空を飛んでいたエイリアス(ma0037)。
 既に眼下では喧噪と爆発音が木霊している状況の中、島の地形を確認していた。事前に開示されていた島の地図通りではあるのだが、厄介な点は海神島へ繋がる橋が一本だけである事。海を泳がずに移動するとなれば、橋の入口に咎人が集まる事になる。これは咎人同士が同じ箇所を目指す事になり、場合によっては戦闘へ発展する恐れもある。
 さらに、問題はもう一つある。
「皆さん、本当に同じ島に来ているのでしょうか?」
 エイリアスの視界には壱の島、弐の島がある。
 英雄祭に参加した咎人は、それぞれの島に割り振られている。咎人達は仲間内で英雄祭に参加していたとしても、同じ島に必ず配置されるとは限らない。最悪の場合、自分以外は別の島へ割り振られている恐れもある。そうなれば、同じ島で存在しない仲間を捜し求める事も考えられる。
「致し方が無い事ですね。何を優先するか」
 エイリアスは最悪な展開も想定しながら、一旦地上へ戻る。
 上空へ上がるという事は他者からも発見されやすくなる。
 それは、咎人だけではない。
 別の存在からも発見される恐れがあるのだ。
 
 ――参の島、砂浜。
「聖杯を求めて集う各世界の主人公達。自らが世界の中心だと信じて疑わない彼らは、未来を疑わず進んでいく。
 これは彼らが紡ぐストーリーの一端に過ぎませんが……読者としては見逃せない機会ですね」
 降り注ぐ太陽の光が似合わない簒奪者――エディ・ジャクソン(mz0067)が、参の島へと降り立った。
 トーンフォレストの能力で生み出されたゲートから出たばかりの為、太陽の光が目に飛び込んでくる。
 エディは、これから発生するであろう展開に期待を寄せながら歩み出した。


「アイツめ、遅刻とはいい度胸だ。後で酒を奢らせよう」
 ロレンツォ・オルジャーニ(ma0174)は、姿無き相方を思い浮かべて愚痴る。
 海神祭では参加者が三つの島に分散されるものの、どの島に行くかはランダムとなる。事前に合流の取り決めを行っていても、同じ島に振り分けられるかは分からない。もし、別々の島に振り分けられたなら、合流するのであれば海神島へ向かう他無い。もっとも、相方も無事に海神島へ到達する事が前提となるが。
 ロレンツォもまさにその状況となってしまった。既に結界に注意しながら相方を捜索するも、その姿は見えない。
 いや、実は相方が海神祭に参加すらしていない可能性もある。むしろ、ロレンツォの予想は後者だ。
「こりゃ、強制単独参加になったみてぇだな……」
「少佐殿? 少佐殿ぉ!? 個人参加など聞いておりません!?」
 木々の間からも見え隠れする白い金属質の体。
 BOX-D型(ma0284)が必死で少佐殿を探しているようだ。この様子からBOX-D型も相方の姿を見つけられないようだ。
 ただ、慌てぶりは明らかに異常だ。少佐殿を必死で探すあまり、木の陰を覗いたり、小石をどかしたりと右往左往している。
「……ふぅ、いませんね。きっと少佐殿は何処かでどったんばったん大騒ぎでもしているんでしょう。
 過ぎた事は仕方ありません。そこの貴方!」
「俺か?」
 突然、BOX-D型に指差されるロレンツォ。
 この時点で厄介な事に巻き込まれた気もするが、逃げるには機を逸してしまった。
「貴方は何のフレンズ?」
「……は?」
「あ、失礼。本機を役立てると良いと思われます。ささ、遠慮なく」
 半ば強引にロレンツォの傍らに歩み寄り、同行を試みるBOX-D型。
 ロレンツォからみれば強制的にジョーカーを引かされるイベント。何処かの貧乏神を彷彿とさせる展開に、ロレンツォの警戒心は爆上がりだ。
「ちょ、ちょっと待て」
「何でしょう? 本機は量産機ではありますが、拠点防衛用機体として作られている為に防御力は定評があります。ハハハ!」
 セールストークも忘れないBOX-D型。
 だが、ロレンツォにその思いは届かない。
「その大きな体は何とかならないのか?」
 ロレンツォはBOX-D型を見上げる。
 実はBOX-D型は3メートルの高さを誇る。遠くからみれば一目瞭然。白い機体である為、森の中でも一発で発見できるのだ。
「無理です。それから本機は足が遅いです。よろしければ引き摺って行っていただきたいです」
「それ、足手纏いじゃねぇか。一体、重さはどれぐらいあるんだ?」
「体重は量産機の秘密です」
「秘密って……!」
 呆れるロレンツォ。
 だが、ロレンツォは次の瞬間、BOX-D型の腕を引っ張る。
「うわっ、もっと優しく引っ張って!」
「黙れ。静かにしろ」
 BOX-D型の身を屈ませるロレンツォ。
 ロレンツォの視界には入ったのは、一機の青白い馬。
 その馬の上には女性が騎乗している。
 ここから少し距離は離れている為、ロレンツォ達は発見されていない。だが、馬の進行方向は海神島へまっすぐ向かっている。
「あれは何でしょう?」
「あれは多分……。見つからずに海神島へ行くしかないな」
 ロレンツォは迂回して海神島を目指す事にした。
 発見されれば厄介な展開になる。安全策を取っていきたい。
 もっとも――。
「あ、置いて行かないで下さい。置いて行ったら、見捨てられたと大騒ぎしますよ?」
「…………」
 緊張感を感じさせないBOX-D型と共に何処まで行けるのか。
 ロレンツォ自身も疑問だった。
 

 簒奪者の捜索。
 島内にいる咎人達にとって、優先課題と言えた。
 仮に自分が勝利できなかったとしても、簒奪者に聖杯を奪わせてはならない。
 まずは簒奪者を発見して、早々に退場いただくべきと考える咎人が多かった。
「……むっ」
 森を歩くエディを最初に発見したのは、天鏖丸(ma0880)であった。
 事前に聞いていた情報は、天然パーマで眼鏡をかけた男。脳天気に森を歩く様は、すべてが他人事を言わんばかりの態度だ。
 天鏖丸は、巨大な鎧を纏いながらエディの前へ立ちはだかる。
「待て!」
「おや。相手を威圧せんとする佇まい。いいですね」
 仁王立ちの天鏖丸を前にエディはほくそ笑む。
 これから自分が何をされるのか。そこに期待しているようだ。
「汝が前に控えしは、忿怒の鬼武者、天鏖丸なり!!」
「いいですね。忿怒、つまり怒りを己の原動力とされているのですから、キミは何かに対する怒りを抱えているのでしょう。その怒りとは何か。他者への復讐? それとも無力なる自分? 非常に興味あります」
 臆する様子のないエディ。
 その態度が天鏖丸を激昂させる。
「罷ァりィ通ォォォォるゥ!!」
 天鏖丸の突撃。
 巨大な弾丸となり、ドラゴンスレイヤー片手に突っ込んでくる。それはまるで壁が迫ってくるようだ。
 だが、それにもエディは動じない。
「もっとキミの事を知りたい。ですが、別の機会としましょう」
 天鏖丸の前に突然現れるゲート。
 突撃で止まらない天鏖丸は、そのままゲートの向こうへと吸い込まれていく。
「ゲートの先は結界の外です」
 天鏖丸はゲートを使って強制的に退場させられたようだ。
 結界の外に出たら脱落である。つまり、このゲートは今回に限って必殺の能力を有している。
 だが、天鏖丸が上げた叫び声は周囲の咎人にも伝わっている。
「ああ、出オチは避けられたというのに」
 極楽 鳥花(ma0455)が、木陰から顔を出す。
 転移直後の奇襲を警戒し、周辺の罠を気を付けて慎重に進んでいた鳥花。しかし、慎重に事を進めていたとしても運が悪ければ問題は向こうからやってくる。
「おや。猫耳の青年ですか。自覚はないかもしれませんが、キミのような存在は特定の層へ強烈なアピールとなります。特に程よく尻尾を動かしながら、『にゃーん』と……」
「にゃーん」
 エディに言われるままに、鳴き声を口にする鳥花。
 その様子にエディも深く感心する。
「いいですね。少し気恥ずかしさを感じさせ、頬を赤く染めると更に良いでしょう。ところで親戚に年上の男性はいませんか? その方と一緒ならば、薄い本の主人公となって大受けでしょう」
 エディが謎の発言を繰り返している。
 だが、この妄想はありがたい。エディは蒐集衆の一人。鳥花一人で倒せるかは懐疑的だ。この勝手な妄想で時間が稼げれば、周囲の咎人が集まってくるだろう。
 その鳥花の予想は、比較的早く叶う事になる。
「なんか、メガロとか百花とかゴイスーなクラスの人ばっか……ん?」
 茂みから姿を見せた吉兆(ma0987)は、軽く見回した後に事態を把握する。
 目の前にいるのは、事前に聞いていたエディ・ジャクソンらしき男。
 敵であるならば、止めぬ訳にはいかない。
「へぇ、噂の『読者』と名乗る奴か」
「侍? 忍者? いずれにしても、これまた主人公らしい方ですね。キミの物語は、どういうものでしょう?」
「ハッ、お前に聞かせる『話』はねぇよ」
 梅助を構える吉兆。
 意識をエディに向ける。
 熱き眼光が、エディの体を射貫くかのようだ。
「良い目です。見たところ、キミは感覚的に動くタイプの主人公ですね。後悔した事はありますか?」
「後悔なんてなぁ、振り返った奴がするもんだ。俺は前だけを見てきた。これからだってそうだ。
 それに、俺はアイシス様ラヴだからな、俺はその為に疾走るぜ」
 吉兆はいつでも全力で駆け抜けてきた。
 馬鹿やって、好き勝手やって、生き抜いてきた。
 今は咎人となっているが、その生き様は変わらない。
 それは、吉兆の戦い方にも如実に現れている。
 ――つまり、特攻。
「ダイヤモンドォー!! アターック!!」
 ダイヤモンドで輝くオーラを纏った一刀。
 それは、隠し立ても策もない。ただ、力任せで全力に振り抜いた一刀である。
 天鏖丸の突撃と同じ。エディはそう考えていた。
「真っ直ぐな態度。悪くはないのですが……」
 吉兆の前に現出する小窓。
 小さなトーンフォレストのようだ。
 それが吉兆が振り抜いた梅助の軌道上に現れる。
 梅助はエディに命中する前にトーンフォレストに吸い込まれる。吉兆には手応えがない。まるで虚空を斬ったような感覚だ。
「チッ!」
 梅助の刃はトーンフォレストから引き抜かれる。
 同時に吉兆はすぐにその場を飛び退いた。
 見れば足元に別のトーンフォレストが現出していた。
 明らかに吉兆を城外へ放り出す算段のようだ。
「動きも良い。何故、足元のトーンフォレストが分かりました?」
 エディは素朴な疑問を問いかける。
 吉兆は、それに対して堂々と断言する。
「勘!」
 

 エディ出現の一報は、咎人達の間にも駆け巡る。
 海神島へ向かっていた咎人も足を止めて簒奪者排除へと動き出す。
「MCじゃないのか。それでも放っておく訳にはいかんか」
 仲間との合流を目指していた獅子王 砕牙(ma0892)。
 複数の爆発音で仲間との合流が遅れていたものの、その影響で後方から来るエディを止めるには絶好の位置にいた。
「英雄祭っていうぐらいだからな。踊る阿呆に見る阿呆」
「同じ阿呆なら踊らにゃ……って、やってる場合か。一応、知らせておくか」
 橘 可楽(ma0899)は空に向けて空砲を放つ。
 三本締めのタイミングで放つ空砲は、仲間に到着を知らせる合図だ。MC以外は牽制するつもりだったが、他の咎人相手なら手を抜く余力はない。
「そこの二人! 簒奪者は近づいてるわ。急いで!
 もう、バカンスって聞いてたのに。何処がバカンスよ!」
 二人を発見した分歳 志馬子(ma0996)は、愚痴を呟きながら呼び掛けた。
 志馬子はエディを単独で倒せるとは思っていない。仲間を多く連れてエディを排除すべく後方支援を行うつもりだ。その為、近くに咎人には声を掛けて回っていた。
「分かってるって。折角の祭りだ。楽しまなきゃ損だ」
「どんな祭りよ! ちっとも休めやしない!」
 可楽の言葉に志馬子は愚痴で返した。
 
 一方、別の方角では――。
「皆が簒奪者と戦ってる隙にカナタは海神島まで進んでおくかの」
 カナタ・ハテナ(ma0325)はエディ発見の一方を受けても、敢えて前へ進む事を選んだ。
 他の咎人を発見すれば、全力移動で迂回して戦力温存。時には罠や待ち伏せを警戒しながら慎重に移動していた。すべては海神島にある聖杯。エディを他の者が止めてくれるというのなら、カナタは遠慮なく聖杯を入手するべく進ませてもらう。
「今日に限っては誰が相手でも……友でも容赦せんのじゃ」
 たとえ鬼畜とも非情とも呼ばれようとも、カナタは手を抜く気はない。
 カナタにとって、この勝負はそれ程拘るべき物なのだ。
 その甲斐もあって、カナタは海神島
「ここまで来たのじゃ。あと一息……」
 橋の欄干に手をかけるカナタ。
 だが、後方からの気配を察知してその場から飛び退いた。
 同時にカナタの頬を掠めるように、何か硬い物が通過した。
「隠れて障害排除、スナイパーらしい仕事だけど……あれを避けるかねぇ」
 物陰からグィド(ma0767)がSR-エリミネイターを手に現れた。
 グィドはエゲリアクラスタを勝利に導く為、橋近くで息を殺していた。橋を渡ろうとする他チームを狙撃する為だ。背中からでもポイズンシュートが決まっていれば、エゲリアクラスタの仲間が追い抜く事もできるはずだ。
 グィドもまた、卑怯と呼ばれようとも自らが担う役目を全うする覚悟があった。
「運とサバイバル能力と立ち回りを駆使して戦ってきたのじゃ。ここも行かせてもらうのじゃ」
 GAT-トリルノートを構えるカナタ。
 このまま力業で押し切るつもりのようだ。
「本当は、援護向きの仕事なんだがなぁ」
 水着姿で、腕にバンダナを巻いたグィド。
 時間を少し稼げば、仲間が来てくれると信じる他ない。
 そう、時間さえ稼げれば――。
 

 簒奪者の発見から咎人達の対応は早かった。
 中にはエディのトーンフォレストによって強制退場させられる者もいるが、エディは単独で動いている。時間経過と共に、エディを確実に、そして着実に追い詰めている。
「侵掠する事、火が如く――斬り捨て御免、押し通る!!」
 終の彼岸刀を横に薙いだ藍紗(ma0229)。
 切っ先の軌道に気付いたエディは、足を止めて一撃を回避する。
 一対一であれば厄介かもしれないが、咎人達は連携しながら物量でエディを海岸へと追い詰めていった。
「疾き事、風の如くっス! どけどけーッ!」
 足を止めたエディの背後から、梅助を握るイサラ(ma0832)の一刀。
 速攻を発動して素早い一振り。足場が砂地ではあるが、エディの急所を突いて屠らんとする一撃だ。
「……! ボクにも分かります。キミ達は侍ですね」
 イサラの一撃はトーンフォレストの小窓で防がれる。
 一撃はエディの体へと届かなかった。
 エディを追い詰めてはいるものの、エディの顔から余裕が消える事はなかった。
「集団で一人を狙う。卑怯と言われようとも、課せられた任務を遂行しようとする意志。ボカぁね、良いと思いますよ」
「進めるとこまで進む! これがサムライの意地ってヤツっスよ! ……って、褒められても嬉しくないんだけど」
 エディに意識を集中しながら、梅助の切っ先を決して逸らさないイサラ。
「サムライの意地、ですか。場合によっては自爆行為にも見える突進ぶりです。ですが、最近は流行らないですよ。自己犠牲は。
 読者は目が肥えているんです。安易は自己犠牲は顰蹙を買います。今は如何にすべてを救うかが受けますね」
「それはおぬしの理。誰が何と申そうと、『押して圧す』。それが剛剣の極意じゃ。スサノオ剣法と見知るが良い」
 エディの意見をバッサリと却下する藍紗。
 攻めに攻めを重ねて相手を圧倒する。
 徹底した攻撃的剣法。エディの言う読者受けが何なのかは知らないが、聞きかじりの素人にすべてが理解できる程、スサノオ剣法は甘くない。
「綿津見は つわもの集ふ 黄金界……。既に他の咎人もここへ向かっておる。神妙に致せ」
 藍紗はすり足で半歩、前へ出る。
 時間経過で迫るのは仲間の咎人だけではない。参の島を覆う結界も規模を縮小しつつある。
「そうもいきません……というべきですが、潮時も弁えているつもりです。何事も程々が良いのです」
 エディの言葉と同時に現出するトーンフォレスト。
 そこから飛び出してくる幾つか塊――それが、スモークグレネードだと気付くまでに一瞬の間があった。
「!」
「失礼しますよ、サムライガール達」
 大量の煙が発生し、藍紗とイサラの視界を遮った。
「しまった!」
 悔いても遅い。
 既にエディは海岸線を走り出している。
 蹴り上げる砂が一瞬だけ見えた後、煙がすべてを覆っていく。
 エディを逃した。
 その場に居る者は誰もがそう思っていた。
 だが、次の瞬間――エディは思わぬところに出現していた。
「なに?」
 藍紗の目には自ら海へ飛び込むエディの姿があった。
 その場所は既に結界の外。つまり、エディは自ら結界の外へ飛び込んだ事になる。
「何を考えているッスか?」
 イサラの言葉。
 だが、その言葉にエディは海に体を沈めながら答えた。
「これが一番、盛り上がる選択だからです。そう、これが一番最適なんです」
 エディの姿が消える。強制的に島の外に転送されたようだ。
「逃げた……え? バウンティハントは……?」



 ――同時刻。海神島へ続く橋付近。
 海神島へ繋がるそこでは、カナタとグィドが熾烈な争いをしている『はずだった』。
 まさに過去形となっている理由は、それが第三者の介入により突然の終焉を迎えている為だ。
「ここで、出会うとはのう」
 そう言い残して倒れるカナタ。
 傍らには風に靡く長い髪をそのまま。馬に騎乗し、倒れたカナタを見下ろしている。
「海神島……。そこへまっすぐ行く……そして、斬る」
 エディと同じ簒奪者であるオリーヴィアは、誰よりも海神島へ向かう事を目指していた。
 だが、それでは海神島へ勝ち残る可能性が低くなる。そこでエディは自らを囮にしてオリーヴィアを単独で進ませる作戦に出ていた。
 『自己犠牲は流行らない』と言い放っていたエディ自らが、自己犠牲的な作戦を進めていた事になる。
「…………行かなくちゃ。行って……斬る。……それだけで、いい」
 オリーヴィアは海神島へ続く橋を渡り始める。
 海神島に青白き疾風が、吹き荒れる。



「おや。エディ様」
 転移魔法で砂浜に送られたエディがスタっと着地する。
 その全身はズロイと同じくびしょぬれだった。
「お前……まだまだピンピンしてるじゃないか」
「いやあ、はは。でもボカぁは仕事はしてますよ? 結構な人数、逃げ切れずリングアウトしたはずですからね。あそこからでは、走っても間に合わない計算なので」
「それでは我々よりは仕事をしておりますな」
 上着を脱いだズロイからドリンクを受け取り、エディは笑顔で礼を言う。
「あとはMCとオリーヴィアだ」
「ですね。さてさて、ここから応援でもしましょうか」




 海神島に、各島で生き残った咎人たちが続々と到着した。その内の一人が、鐵夜行(ma0206)だ。
「あの姉ちゃん、オリーヴィアって名前だったんか」
 木の陰からこっそりと相手の様子を窺っている。先日、イルダーナフの平原で、夜行を含む咎人の一行が散々な目に遭わされたのである。ひとまず花火を打ち上げ、オリーヴィアの存在を知らせた。移動して相手に見つからないようにしつつ、
「イルダーナフではボコボコにされたけど、今度はこっちの番だ!」
 何としてでもリングアウトで失格にさせたい。
「でも、真正面から戦っても勝てねぇしなぁ……」
 うーん、うーんと腕を組んで唸る夜行。やがて、その頭上に豆電球がぴかりと光る。
「……そうだ!」
 その場に留まり、剛力種の少女はイデアを集中させた。


 まず簒奪者の優勝を阻止し、それから咎人同士で優勝争いをする。多くの咎人の方針はそれであった。夜行が打ち上げた花火を見て、あるいは飛び出した所が戦場で、何人かの咎人がオリーヴィアと相対する。
「わたくしはオリーヴィア。死の淵を駆ける者。ようこそお前たちの墓場へ。この鎌の錆になる覚悟はおありです? いえ、お前たちが死ぬと血も消えてしまうので錆びないのですが……」
 夏の雰囲気に中てられているのか、簒奪者の方もややシリアスが足りていない。
「簒奪者を優勝させないためにも、頑張らないと」
 雰囲気の帳尻を合わせるように、レシ・サシェドーズ(ma0378)が凜々しい表情でドラゴンスレイヤーを構えた。赤と青の混ざる長い髪が夏の風になびく。
「何はともあれ、簒奪者には御退場頂く為にも頑張ります」
 同じ意気込みでフィリア・フラテルニテ(ma0193)がエルダーカードを取り出した。
「援護しますか?」
 小柄な妖精種、リル・マコルカ(ma0108)がひらりとやって来て共闘を申し出る。
「サムライの意地、篤と御覧に入れて見せましょう」
 白綾(ma0775)も梅助と豪鉄を手に腰を落とした。
「出来れば知ってる人と勝負したいっすからね。だからまずは邪魔そうな人からどっか行ってもらうっす」
 白玉 纒(ma0300)は、梅シリーズの刀を両手に持って張り切っている。彼女はロックオンで簒奪者に狙いを付ける。特定の誰かを狙う理由がまだないオリーヴィアは、鎌を引いて刃にイデアを集め始めた。
「弱点を見つけて戦いを有利に……!」
 レシがエレメントプラスで炎を纏う斬撃を浴びせた。オリーヴィアは素早い身のこなしでそれを回避する。
「隙ありっす!」
 ウィンドブーツで足元に風を起こした纒が刀を振りかざして突っ込んだ。
「というわけで……必殺、うさぎぼんばーっす!!」
 レシの攻撃に気を取られていたのか、オリーヴィアはそれを避け損ねる。シールドで受け止めるが、大部分が損傷した。白綾が斬り掛かるも鎌で後ろに受け流される。
 その時、翡翠の輝きをまとった矢が飛来した。間一髪で気付いたオリーヴィアは回避するが、不規則な軌道を描くそれは射手の位置を特定させることを妨げた。
 射手の小鉄(ma0990)が、物陰からフェアリーバレットで狙撃していたのだ。
「こそこそやって悪いな、これが俺のやり方でな」
 次の矢をつがえる。無理は百も承知だが、どうせやるなら優勝を狙っている彼は、まずは安全に簒奪者を討伐することを意識して立ち回っていた。
 フィリアがカードを投げた。それは形を失い、魔力となってオリーヴィアに命中する。リルがフリーファイトで追随し、更にもう一射を浴びせる。
「さて……? なんだか想像以上に大乱闘、ね? ……まぁ、対人が苦手なわけではない、のよね、私」
 草薙胡桃(ma0042)が呪縛の一針を取り出した。アルティナ(ma0144)のマジックランスでシールドを砕かれるオリーヴィアを見て、
「ところで……どうしてこんなところに簒奪者? 注射は得意? なら、ぷすり、と」
 お邪魔虫……簒奪者から距離を取りつつ、その針を投擲する。仕込み針は青白い少女に刺さったが、動きの制限までは行かなかった。もう一本を取り出し、纒やレシ、白綾がオリーヴィアと打ち合っている所へ投げつけた。
「!?」
 少女簒奪者が目に見えて動揺した。胡桃はすかさず、慈悲なき審判を撃ち込み、シールドを割った。アルティナのマジックランスも突き刺さる。遠距離と言う意味なら、小鉄やアルティナも厄介だが、何よりもオリーヴィアの逆鱗に触れたのは、自分を弱体化させたところに追撃した胡桃である。距離は取ってはいるが、攻撃の軌道によりすぐに見つかった彼女は、格好の的だ。簒奪者は鐙を蹴って飛び降りると、全力移動で胡桃の元に駆けつける。彼女は見た。自分を睨む血走った銀色の瞳を。
「お ま え か」
 怪談じみた怨嗟の台詞を吐きながら、胡桃に大鎌を振り下ろす。
「あ、ちょっと……!」
 一度目でシールドが割れ、二度目を防ごうとして足が滑った胡桃は、大鎌が触れた次の瞬間、結界の外に弾き飛ばされた。
「あわわ……!」
 纒が顔面蒼白になる。オリーヴィアが振り返り、ぎょろりと一同を睨めつけた。
「次は……誰ですの……?」
 完全に怪談の怪異である。


「さて、精々やってみましょうか」
 卜部 紫亞(ma0107)は海神島に到着すると、木の上に潜伏した。枝の中は暗い……とは言え、纏っている黒い衣装はなんだか異彩を放っていて目立つような……否、異彩を放っているからこそ敢えて見ないフリをしようとする常人もあるかもしれない……。

「さて、カメラの画像からあの騒々しい人を探し当てましょうか」
 七掛 二夜(ma0071)はディープシャインコートに身を包み……包み? 参加していた。際どい水着を楽しみたい。あと、折角だからMCを構い倒したい、と言う動機で参加している。
 MCは案外すぐに見つかった。丁度、罠に細工しているところだ。二夜を見て逃げ出そうとするのを引き留め、
「いつも重武装で戦っている女性の水着姿……需要あると思いません?」
「真夏の島で少女が際どい水着とは! 確かに需要は高いかもしれませんねえ! その後に何が起こるかは神のみぞ知ると言うところでしょうか! 少女はこの非道なトラップ溢れる島で生き延びられるのか?」
「何でもいいから邪魔なの」
 その時、上の方から声がした。見上げると、卜部紫亞がブランカーロケットをこちらに向けている。MCはそれを見るやすたこらと逃げ出した。二夜に向かってロケットが射出される。彼女は幸いにもそれを間一髪で回避した。爆発で生じた煙幕に紛れて、巡行移動で逃げ出す。
「……一人っていうのも良し悪しね」
 紫亞はそれを見送りながら溜息を吐いた。

「あっぢぃぃぃ……絶対コレ水中のが涼しい」
 御伽 泉李(ma0917)は夏衣の加護を自分に付与すると、海に入って海神島を目指した。
(ってもなぁ……興味ねぇし……神さん達も何考えてんだか……っつーかホントに考えてんのか?)
 かなりノリと勢いのイベント参加に見える。疑いの眼差しをちらりと空の方へ……そちらにいるかは定かではないが……守護神たちがいるであろう天獄界へ向けつつ、彼は島に向かって歩き続けた。やがて、海神島に到着し、上陸する。森の中に足を踏み入れ、
「でもまぁ、外に居るよかここのが涼しいし景色も……あー……いいのか?」
 きょろきょろしながら景色を見ていたその足が、トラップを踏んだ。
「あ?」
 ちゅどーん!!!!
「どわー!?」
 幸いにも大した火力ではなかったが、やる気のないサバイバル参加者が更にやる気をなくすには十分だった。ひっくり返った彼は、足音を聞いて上体を起こす。
「……」
「……」
 片耳の折れた犬の獣人種、テオ・デュークロー(ma0639)だ。同じアイシスクラスタであることは、巻いている色つきの布でそうと知れた。
「………え~と……大丈夫か? 手貸すか?」
「あ、う、うん……」
 テオの手を借りて立ち上がる。そのままなんとなく言葉を交わすと、どうやらテオも優勝争いに参加する気がないらしいことがわかった。泉李の方も正直寝ていたい旨を話すと、テオはこくりと肯き、顔を覆う。
「……無理すぎる。……俺のダチって全員スサノオクラスタなんだよな……」
「おお……」
「簒奪者相手ならまだしも、咎人に武器向けられる気がしねえ……ダチに攻撃でもされた日にはマジで暫く立ち直れん自信がある……」
「そ、そうだな……」
 面倒、が大部分を占める自分とはまた違う悩みがあるらしい。戦闘に巻き込まれたくないとか、大枠では泉李と同じ行動原理ではある。
「それで、今は逃げ回ってんのか?」
「トラップを壊しながらな。MCとか言う奴が仕掛けたらしい、結構やばい罠もあるから油断できない……その上で、基本誰かと会ったら逃げるスタンスなんだ。それじゃ、俺はこれで」
「ああ、気を付けてな……」
 泉李は手を振って、自分と同じように戦いに巻き込まれることを倦んでいる背中を見送った。

「お~、みんな~、がんばれ~」
 伊藤 毅(ma0538)は駄菓子をつまみながら撮影に専念していた。ここに辿りつくまでの間、負傷した咎人にポーションを渡して送り出すなどしている。
「海神島に辿りついたってことは、そろそろ決着か」
 これをカメラに納める機会を逃すわけにはいかない。彼は喧噪の方へ移動した。その時、前方で赤い派手なスーツの男が視界に入る。彼はしゃがみ込んで何かしていた。毅の視線に気付くと、「見つかっちゃった」とばかりに大袈裟に驚いて去って行く。
「ん? 何かあるのか?」
 毅は興味を惹かれてそちらの方へ。彼が男のいたところへ踏み出したその時、足元でグランギニョール改造の高威力爆発トラップが発動し、毅は結界の外に放り出された。

「海だ……すごーい! なんかテンション上がるよねっ♪」
 最上 維鈴(ma0550)は島の外に広がる海面を見て声を弾ませていた。見つけたトラップを片っ端からスリンガーで撃って壊しながら進んでいる。基本的に逃げの一手だ。
「邪魔なものはお掃除してけばいいんだよっ」
 呑気な犬の様なテンションで海神島を回っているそう言えば、結界が狭くなるんだっけ。あんまり海の傍にもいられないなぁ、と、ちょっぴり残念に思いながら移動しようとしていたその時……。
 ガチッ! と高い音がして、足を取られた。転び掛けて、何とか体勢を立て直す。ロープトラップかと思ってそちらを見るが……。
「うげっ、虎ばさみとかきいてないぃぃ」
 誰だ! こんな改造をした奴! 維鈴は慌てた。抜け出そうともがいている間にどんどん結界の端がこちらに迫って来る。
「そ、そんなあぁぁ」
 無常にも、結界は彼が外になるように縮まってしまい、虎ばさみに足を取られた少年はがっくりと肩を落としたのだった。

「うわああん! ワタちゃんとサラちゃんどこなのー!?」
 オリカ=リト(ma0181)は友人とはぐれて泣いていた。正直、英雄祭の詳細も全然よくわかっていない。けれど、ワタちゃんとサラちゃんがお肉を食べたいというので参加した。リトはイチゴが食べたい。
 オリカ=リト。身長四十センチ、外見年齢十歳、体格細身、天敵は蜂。か弱いを絵に描いた様な娘である。そんなか弱いか弱い妖精種の女児が一人で海神島に来てしまったのだからさあ大変。ここには彼女の様に「運の良さ」で辿り付く咎人ももちろんいるが、戦闘力に長けた咎人たちも多い。しかも、なんかどえらい簒奪者もいるとかいないとかいるとか聞いている。
「きゅ……」
 がさりと音がする度に、その細い肩をぴくりと震わせる。身体が強ばって逃げられない。ああ、誰かが近づいて来る。ぷるぷる震えて、若い姫林檎を思わせる緑の目に、朝露の様な涙をいっぱいに溜めていると……。
「おや、お嬢さん、大丈夫?」
 葛城 武蔵介(ma0505)だった。アイシスクラスタの布を巻いている。攻撃されるのではないかと震えているリトを見て、宣誓するように手を挙げた。
「俺の手は大切なものを愛おしむため、俺の目は真実を見つめるため、俺の声は想いを伝えるために在る。俺は遊びでも咎人を撃つなんてごめんだね」
「きゅ……大丈夫なひと……?」
 どうやら、リトに対する戦意はないらしい。武蔵介はにこりと笑い。
「ああ、大丈夫な人だ」
 リトに手を差し出した。その後、武蔵介に元気づけられた彼女は、また友達を探すために飛び立った。

 リトと別れると、武蔵介は一際目立つ赤い人影を発見した。MCグランギニョールその人だ。トラップらしい仕掛けの上に何やらしゃがみ込み、細工を施しているらしい。
「面白い事やるなら俺も混ぜてよ」
 それを妨害するべく、軽薄な口調でその背中に声を掛ける。MCは逃げ出した。その前方に、もう一人の男が現れる。唯塚 あまぎ(ma0059)。MC関連の事件に幾度か関わった咎人だ。
「ご無沙汰、とは言っても……俺のことまでは覚えてないか」
 あまぎの手には、形作られつつあるイデアの杭があった。今回は堂々とMCを狙っても死傷者は出ない。ならば、攻撃あるのみだ。
「どういう風の吹き回しなんだ、悲劇や惨劇とは程遠い舞台だろうに」
「とんでもない! 悲劇や惨劇とは程遠くても、取れ高があるならば撮影しない手はないのです! さあ、ご覧ください! 仲間を守るために、邪魔者を排除しようとする咎人の勇姿! なんとも泣かせますねえ!」
 口より上がない男がケタケタと笑う。真っ赤な唇が大きく開かれる。そうかと思えば、MCは踵を返して逃げ出した。
「あ、待て!」
 武蔵介と二人で追い掛ける。その時、遠くで花火が上がった。簒奪者遭遇の合図。発見したのはオリーヴィアか。MCはそちらの方へまっしぐらだ。仲間に加勢するつもりなのか……?
 しかし、二人は知らなかった。オリーヴィアは自分が追われると恐怖を感じて反撃してくることを。それは仲間の簒奪者も例外ではないことを……。
 やがて、二人はMCを追って、簒奪者との交戦現場に飛び込んだ。
「あ! オリーヴィアさーん! 今いいシーンですね!!(驚きのSE)」
 MCのウキウキした声の一拍後、武蔵介とあまぎは耳をつんざくような悲鳴と共に斬撃に襲われるのだった。

「ギィヤーッ!!!!!!!!!!!!!」
 遠くで、凄まじい恐怖の叫び声が上がる。驚いた鳥がバサバサと飛び立った。
「な、何だ……? 固有種の鳥……?」
 泉李は身構えながら辺りを見る。こんな悲鳴が上がるような事が起こる島に留まりたくない。正直帰りたい。寝ていたい。溜息を吐きながら歩き、テオが破壊したらしい罠の痕を見て、出くわした咎人の仕事ぶりを思うのであった。


「って、少し最初から飛ばし過ぎたっす~……きゅぅ~……」
 ランアウトで距離を取りながら戦ったものの、やはりオリーヴィアの異様な脚力によって追いつかれた纒は、滅多切りにされて強制リングアウトを喰らった。飛んでいるフィリアたちは、追撃系の攻撃をしてないこともあってまだ攻撃対象にはなっていない。これでブレイクキャストなりポイントなり使った日には、木を登ってでもこちらに斬り掛かってくることだろう。
「これでもくらえ……!」
 レシのエレメントプラスによる水を纏う斬撃がオリーヴィアを襲う。相手はそれを回避して、レシの元へ踏み込んだ。斬撃に対して耐性のあるレシであるが、連撃に耐えきれず脱落。彼女を斬った返す刃で、オリーヴィアは白綾にも襲いかかった。サムライの意地で受けて立つが、離脱のタイミングがなく、立て続けに斬撃を浴びてこちらもリングアウトした。オリーヴィアは周囲を見る。あと厄介なのは、マジックランスが強力なアルティナ。どこからともなく狙撃してくる小鉄。地味に攻撃力が高いフィリア。リルは上手いこと潜伏できており、標的にされていない。妖精種としての特性を上手く使いこなしている。
「天使だからと言って、常に空にいるとは限らないのですよ」
 低空飛行のアルティナが挑発する。
「では次に血祭りに上がるのはお前ですわ。覚悟なさ……」
 その時、がさがさと草木の鳴る音がした。全員がそちらに目をやると……、
「あ! オリーヴィアさーん! 今いいシーンですね!!(驚きのSE)」
 あまぎと武蔵介に追われたMCグランギニョールが飛び込んできた。

「ギィヤーッ!!!!!!!!!!!!!」

 突然、全速力でこちらに向かって来る三人の男性が登場して、オリーヴィアは悲鳴を上げながら鎌を振るった。回避を許さぬ必中の一撃。MCごと三人を横薙ぎにぶった切る。全員のシールドが木っ端微塵に砕け散った。斬られ慣れているのか、グランギニョールはするりと鎌の軌道からすり抜け、ゲラゲラ笑いながら滅多切りにされる咎人二人を撮影している。
「いいですね! か弱い少女が自分の身を守るために、大の男を滅多切りにする様! なんといじらしい抵抗! その細腕でどこまで自分の身を守れるのでしょうか!(どよめくSE)」
 やがて、二人は場外へ弾き飛ばされた。オリーヴィアは肩で息をしている。
「ハァハァ……び、びっくりした……ま、またグランギニョール様やっちゃった……」
 いつの間にかMCは消えていた。突然の豹変ぶりに、他の咎人たちも絶句して彼女を見つめている。別の意味で緊迫した空気がその場に満ちていた……。「また」ってことは、いつも身内斬ってんの?
「いつも仲間を切り捨てているなんて、ヒドい人もあったものですね」
 アルティナが悪戯っぽく囁いた。

「……まあ、俺にしては頑張った方だな」
 死ぬ寸前で結界外に弾き飛ばされたあまぎは、溜息を吐きながら空を見上げた。一緒に飛ばされてきた武蔵介が、
「散々な目に遭ったな。いるか?」
 ライフカプセルを差し出す。全身が痛いあまぎにそれを断る理由はなく、
「ああ……ありがとう……」
 申し出を受けた。


 その時、見覚えのある白い髪をした少女の姿がオリーヴィアの視界を過ぎった。鐡夜行……正確には本人ではなく、夜行が踊り狂う影で呼び出し、操るトークンである。
 心身……と言うか心の方が消耗していた簒奪者が、偽物に気付くはずもなく、彼女は即座にその場を離れてトークンを追った。偽の夜行は時折振り返り、誘いかけるように逃げていく。
 既に海神島に到着してから、咎人を何人も脱落させるだけの時間が経っていた。結界は思っているよりだいぶ狭まっている。トークンを追うことに腐心するオリーヴィアは、そのことを失念していた。夜行の影が結界外へ飛び出す。
「逃がしません……!」
(オリーヴィア、俺たちは普通にルール通りに行動しよう。敵を減らして生き残る。ただそれだけでいい)
 その時、彼女の脳裏にはアラタの声が蘇った。ルール通りに生き残る。それは……結界の中に留まると言う意味で……。
 しまったと思った時には時既に遅く、彼女は結界の外に飛び出した。

 オリーヴィアを脱落せしめたことを示す花火が上がったのは、それから程なくしてのことだった。


 さて、邪魔な簒奪者を排除したからには、もう共通の敵はいない。ここから先は咎人同士のバトルロイヤルだ。潜伏していたルー・イグチョク(ma0085)、夕凪 沙良(ma0598)、リムナンテス(ma0406)も狭まる結界を逃れて続々と集まる。
「わたくしったら、なんて運が良いのかしら。ここまで残っちゃったわ」
 リムナンテスは物陰からひょこりと顔を出した。ウォーターライダーで海上も地上も突っ切って到着した。その後、逃げも隠れもしてここまで生き残っている。
 折角だから、絢爛華麗……美しさを罪とするような、神魔種の新しい神威もお披露目したい。手にはきらりと黒曜石の指輪も光っている。着飾った神魔種の少女。愛らしさが威力になるのだとしたら、だいぶ凶悪なアタッカーである。あくまで意識はお披露目のまま、スフィアバーストの詠唱を始めた。
 地上では、フィリアがマジックポッドで詠唱を短縮したマッドハンドを展開する。ルーの足取りが重くなった。そのフィリアたちに、小鉄がアストラルフレアを撃ち放つが、爆発の位置がずれて虚空を焼く。そのタイミングで、リムナンテスも華麗なるスフィアバーストを解放した。高威力の魔法攻撃が空中で炸裂する。巻き込まれた方はたまったものではないし、ルーがその術者を警戒するのは十分だった。沙良との撃ち合いでリルが脱落する。
「負けました」
「……避けられぬ相手か……音もたてず、静かに、斬るべし……」
 マッドハンドで足を取られても、誇大する幻想の強化を受けて、ルーは真っ直ぐにリムナンテスに迫った。
 ガンブランドを向けて引き金を引こうとする。避けようとしたが、その時花一華の方が翻された。避けきれないことを悟ったリムナンテスは、手を胸の前で組んでお祈りのポーズ。
「待って! 今のナシ、やり直し!! お願い、わたくしの幸運……!」
 星の下で運命の好転を祈るが、残念な事にそれは通じなかった。明鏡止水。シールドで凌ぐことを許さない一撃が叩き付けられる。
「あぁ~ん、水着が汚れちゃうから帰る~~」
 結界から弾き出されたリムナンテスの泣き言が、蒼い海の上を滑って行った。

 リムナンテスを押し出した結界は、その後も範囲の縮小を続けた。潜伏場所がなくなった小鉄がルーの攻撃で脱落。元々逃げに徹していたフィリアは移動した拍子にリングアウト。
「簒奪者さえ居なければ気兼ねなく楽しめるイベントでしたね」
 ここまで粘れたのは、本人としては良い結果だっただろうか。
 これで、残ったのはルー、沙良、アルティナの三人だけとなった。空気が張り詰める。
「避け損ない、受け損なうまで、繰り返す! 勝つのはァ! オレだ!!」
 ルーが吼える。対する沙良は、赤い狐のマークが映える純白のライフルをいつでも撃てるように構えている。ルーがシールドを無視する明鏡止水を使えるように、沙良の方もまた生命力を直接蝕む聖母の抱擁を準備している。
 その二人の間でのらりくらりと飛んでいるアルティナには転嫁がある。どちらかが自分に攻撃してきても、それを移し替えてしまえば良い。最後には弱った方を狩り取るまでだ。誰が先手を取れるか。それで勝敗が決するかに思われた。

 一触即発の中、真っ先に動いたのは沙良だった。

 聖母の抱擁による一撃。ルーへ神威を放つためのイデアが収束し…………。


 霧散(ファンブル)した。


「え?」
 こんなことってある? 先手を取ったところで運を使い果たしたとでも? いくら普段から冷静な彼女でも、この展開には驚愕するしかない。幻想を抱くルーが素早く迫り、研ぎ澄まされた一撃を。沙良のシールドを、まるでない物であるかのように振る舞うそれは、彼女の身体を結界の外に弾き飛ばした。
 アルティナは咄嗟にマジックランスを放つ。鋭い一撃は、シールドをなくしたルーの身体に突き刺さるが、倒しきるまでには至らない。包帯の隙間から彼女を見る赤い目。結界は既に狭く、逃げ場はない。ルーは神威の回数を更にもたせる術を知っている。それでも最後の一撃が、アルティナに叩き込まれた。彼女がリングアウトし、英雄祭の優勝者はルー・イグチョクに決定した。
「……」
 危ないところだった、と思う。ルー自身の実力ももちろんだが、優勝を決定づけたのは運だった。しかし、勝者となった事に変わりはない。彼は聖杯を取って、天高く掲げる。
 強い日差しに、黄金の盃が輝いた。
「ご覧ください! たった今、血で血を洗う熾烈な争いが決ッ! 着ッ!!」
 ヌっと、どこからともなくMCが現れる。瞬間、ルーは身構えた。
「それでは勝者にインタビューをば……おっと!? どうやら歓迎されないご様子! 容疑者は血を見すぎて興奮していらっしゃるようです!!」
「お前……今まで、どこにいた……?」
「ずっと皆々様の傍に……おぉっ!? ジョークです、ジョーク! いいものを撮影させていただきましたのでこちらとしては満足で。ええ、ええ。ここいらでお暇するとしましょう。それでは視聴者の皆々様、ごきげんよう! ……あポチっとな」

 その瞬間、MCは爆散!(1カメ)

 その瞬間、MCは爆散!(2カメ)

 その瞬間、MCは爆散!(3カメ)

 構えたままのルーの目の前で、MCはどこかに消え去った。
 いや、恐らく黒煙が彼方へ弧を描いているところを見るに、島の外にぶっ飛んでいったのだろう。
「…………なんだぁ、コレ…………」
 実に締まらない。
 だが改めて――勝者は決まった。
『優勝は、ルー・イグチョク!』
 正規の実況者であるクロウの一声により、英雄祭は決着した。

(執筆:ガンマ、岩岡志摩、近藤豊、三田村薫)

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