なくしものはなんですか? 第三部 決着編
月宵
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シナリオ形態
ショート
難易度
Easy
判定方法
エキスパート
参加制限
総合600以上
オプション
参加料金
100 SC
参加人数
4人~8人
優先抽選
50 SC
報酬
200 EXP
5,000 GOLD
10 FAVOR
相談期間
4日
抽選締切
2021/10/01 10:30
プレイング締切
2021/10/05 10:30
リプレイ完成予定
2021/10/15
関連シナリオ
  1. オープニング
  2. 相談掲示板
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ
 馬車から降りた咎人一同は、イルが出現したあの場所を再び目指す。夜道にいくつもの松明の光、揺らめく人影、簒奪者イルは相変わらず意味のない剣の振り回しと『僕はダレ?』の呪を唱え続けている。
 変わった点があるとすれば、名前のみ告げていること、そして泥か煤かで顔や鎧が汚れていることだろう。

「出ていけ! 死ね!」
「お前らが、お前らが、お前らがぁ!」
「魔人はこの世界にいらないのよ」
 何をイルがされ続けたかは、わからないが現在も続くいしつぶての雨と、抉れた地面の雑草の燃えかすが過去を教えてくれる。

 誰より先に気付いて、背の翼を逆立て今にも大声を出しそうなケイウス(ma0700)を後ろ手を組んで眺めていたアルベリヒ(mz0060)が制する。
「落ち着け、こちらが熱くなったらつけ入れられる」
「わかってる、わかってはいるんだ」
 恐らく今の咎人の誰よりも、ケイウスは怒りを表現しているだろう。それとは真逆にマイナ・ミンター(ma0717)は暴動に手慣れたかのように背後より町民達に声をかけた。

「ペヘロさん、ガルボさん、ビアンさん、ナールさん、チーノさん、ボングーさん」
 それは今、この場でイルに罰を与えていた人間達の名前であった。予め依頼人である町長に、参加している人物の名前を聞いておいたのだ。
 マイナにとって『領民と言う名前の民はいない』。生前の自分がかつて行ったように彼女は説くのだ。
 声の主に煩わそうな瞳が一斉に向く。

 次に彼女は、名と共に職業、如何なる貢献をしたか、被害にあったとあればそこまで語る。
 町長から聞いた話では、直接この町が簒奪者に被害を受けたことはないらしい。だからこそ、この様に恐れ知らずな行動が取れるのかも知れないが。
 
「ペヘロさんは、町中を駆け回り様々な仕事の補助をなされました。未だ、隣町の魔人に被害を受けたお母様の為に」
「……っぐ」

「ビアンさんは、果樹園を経営し豊かな果実を町に並べて下さいました。しかし、その町は壊滅し卸し先がなくなってしまった、と」
「何よぅ……私たちを脅して、騎士につき出そうっていうの!?」
 事細かな情報の仔細に、より一層警戒心を強める彼らに、マイナは緩く首を横に振った。

「いいえ、そんなことは致しません。ただ、貴方がたの手は、多くの物を生み、優しく育む為の手です。それを血で汚すことを、私は、為政者として許容できません」
「これは私たちの仕事。貴方がたの怒りは、預かります」
 その言葉に幾人かの人が視線を地面に落とす。彼らの心に響く何かがあったのだろう、だが幾人だけだ。

「そう、だからこれも仕事の内なんだ。何処かの咎人が、魔人退治をほっぽってどっかに行っちまったからな」
 ガルボと名指しされた町の自警団の男の一人がこう言った。
「そ、それは」
「不安なのが、オレらだけだと思ってんのか? 町の外を徘徊するアイツに怯えてる町の人は他にもいるんだぜ。だったら早く追っ払うべきだろ? なぁ、ミンターさんよ?」
 マイナに詰め寄るガルボに、ケイウスが助け船を出す。
 
「けど敵として倒す為なら、そんな攻撃には意味が無い。俺達に任せて、すぐにここを離れてくれないかな」
「出来るの? 一回ココからいなくなった癖に」
「違うよ、アレは手がかりが――」

 二人の話を見守って観察していた高柳 京四郎(ma0078)は即座に気付いた。
 咎人が簒奪者を放置した、と言ったガルボだがそれはデタラメだ。自警団であり、此方の名前まで知っている男が町長から、詳しい話を聞いてない筈がないのだ。
 つまり、あのガルボと言う男が周りを煽動した、その様に京四郎は見ている。
(もう少しだけ、様子を見るべきか)
 
 見守るものはもう一人マイナの従者、マリエル(ma0991)そのヒトだ。良識に訴えるマイナ、罵声を浴びせないながらも、怒りを表明するケイウス。
 彼女には、そんな二人がとても眩しく、どこか隣の異世界のことにすら思えた。
 やはり、自分はどこか壊れているのではないだろうか、そうあのイルの様に……

「なぁ、大事なもん無くして、殺されて辛い気持ちはわかるぜ? でもさ、そいつが、イルがお前等に何をした?」
「何を言ってるのさ、魔人は魔人だよ?」
 子供と大人の中間、チーノと呼ばれた青年に御伽 泉李(ma0917)が話し掛ける。何より誰よりも、彼が簒奪者という存在に憎しみを抱いていた、そんな感じがしたからだ。

「イルは悪い神様に無理やり起こされただけだ………自分が『生きたい』って願って、こうして生き返って、ダチに会いに来て武器や憎悪を向けられたらどう思う?」
「魔人にそんなものないだろ! だから簡単に殺せるんだ!」
 チーノには、泉李が何を言いたいのか一向にわからない。色々なものを魔族、魔人によって失っていた彼には、簒奪者に心があるなんて思ってもいないのだ。
「お前達に何がわかるんだよ?」
「ああ、わかる。別の世界で大切な人を喪った俺達にお前等の気持ち、わかんねぇと思うか?」
「なぁ、痛いのも、悲しいのも、辛いのも皆嫌なんだ、辞めようぜ?」
「最初にやったのは、ボクじゃない! アイツら魔人だ!」
 少し残念そうに、泉李は息を小さく吐いた。恐らく彼にとって自分は異物で、異端にしか見えないのだろう、そして、今は彼の中でその思想が変わることはない。
 だが、それは泉李の決心を変えるものではない。チーノの背後に視線を運ぶ。そこには、咎人と彼らの喧騒など知らず、相変わらず街道の草を意味なく薙ぐイルの姿。
 
(コイツのダチんなるって俺は決めたんだ)

 再び京四郎は、全体を見渡す。憂さ晴らしも混ぜた煽動者相手に、良識と感情で説く、ケイウスとマイナ。恨みつらみから、暴走する正義に自ら意義をぶつける泉李。
 話は平行線を辿っているようにも思え、膠着状態が続き、一般人達をここから退かせるのはこのままだと時間をかなり要すると彼は見た。

(仕方ない、か)
 
「……貴方がたがやっている事をそれは魔族に抵抗が出来ない……もしくは抵抗しても跳ね除けられてしまう持たないミンスクの方々が、魔族にされている事と同じような行為に想えるが?」
「なんだと? オレらがおんなじ?」
(……京四郎さん?)
 誰と指定もなく、前に出てきた京四郎はその台詞を述べた。マイナは彼の態度が普段と明らかに違うのに疑問を覚える。
 普段と明らかに口調が異なる
 。
「相手が魔人だからと言って、自分が魔族と同じ事をして良いという道理には、ならないのではないかな?」
 京四郎にはねめつける、明らかに自分への怒りの視線を覚える。その手元には、未だ握られた石。

「ウルセェ!」
「馬鹿、やめろ!!」
 行動に気付いたガルボが止めたが、時既に遅し。京四郎に石が投げつけられた。通常なら咎人は余裕でこれくらい回避出来る。もし当たっても、シールドで弾かれる。

 ガツッ
 だが、京四郎は避けなかった。尚且つ『自ら身体で受けた』のだ。わざと相手を挑発し、額に石をぶつけさせた。
 怪我以上に、多量の出血が彼に化粧を施す。無言のままに威圧する。
 マイナはその様子に息を飲み、石を投げたであろう者からはヒッと悲鳴があがる。
「よかったですね、彼が咎人で」

 マリエルが敢えて冷めた視線を彼等に向けながら、暗にこう促すのだ『これが魔人であったなら、貴殿方どうなっていたでしょうね』、と。
 彼ら一般人は血の気が引いていく、松明の熱を感じさせない程の悪寒がはしる。
 自分達が何に恨みをぶつけていたか、思い出したのだ……

「相手が何者か、貴殿方は把握していないのですよね。危ないですよ」



 彼らはこの場を引いた。ガルボがこちらが手を出した事に、自分達の分が悪いと感じたのか早々に退散した。咎人達は、イルから少し離れ束の間の休息をとった。
 マリエルに薬を貰い、京四郎は止血し、手当てをしつつ……
「無茶苦茶しやがって」
「行うなら、一言言っておいて下さい」
「うん、ごめん……努力はするよ?」
 文字通り頭を冷やし、泉李とマイナより説教を貰っていた。

「ケイウス、君が感情的でいてくれて助かった。逆に俺は冷静になれた」
 今まで後ろ手にしてた両腕をアルベリヒが戻すと、手元にはしっかり短銃が握られていた。あの最初の警告はなんだったのだ、と言うジト目のケイウス。
「全然冷静じゃないよね、ソレ」
「威嚇射撃にはするつもりだった」
 危険を知らせるために、と普段と変わらぬ表情で言い切るアルベリヒに、彼を怒らせるのは絶対止めようとケイウスは誓った。
 

●それは送りの儀式のようで
 改めてマリエルは、イルを見据える。彼を調べれば、調べるほど、自分との類似性を感じてしまうのだ。彼はヒトの為に作られた、その彼が嫌われてしまうのが辛い。
 さっきの冷静な自分はどこへやら、結局人形に徹しきれていないのだな、と自分が自分を嘲笑う。
 だが、感傷には浸ってはいられない。
 あの時は、一度も姿を見れなかったイルと言う青年にマリエルはお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。マイナ様のメイドをしております。マリエルと申します」
 同じく、傍らには初顔合わせになるケイウスが松明を片手にイルに声をかける。

「初めまして、イル! 初めて会うけど、俺は君の事をよく知ってるよ」
 ただ、どれだけ好意を、礼節を見せようとイルの様子は変わらない。

「僕イル……僕はダレ?」
 だが、それでも自らを求め続けるあの言葉をイルは紡ぐ。
 マイナ、マリエル、ケイウスは首飾りを手に持つ。それは、今もなおイルがつけている首飾り……彼自身のデバイスに相違なかった。
 イルの視線が動いた……ような気がした。

「イル…そうお前はイルだ。人間達を愛し人間になる事を願った、な」
 京四郎、アルベリヒ、そして泉李は得物を構える。そのサイゴを一瞬でも早くする為に……

「聞いてくれ、イル。俺達は『君』を探してきたんだ」

 敵の目標なんて、イルにはない。ただがむしゃらに剣の刃が空を切る。

 最初に口を開いたのはマリエル。自分もかつて経験した、その泡沫の記憶と恐怖から、彼を救うために。
「イルさんは人工知能でした。ヒトの役に立つため、ですが。その結果世界に滅びを招いてしまいました」
「僕は……ジンコウチノウ、イル、滅び?」
 言葉を繰り返す、しかし新たなイルと言う歴史の歌詞が加わったことに、咎人達は希望を見出だす。

 斬撃はマイナの横を掠めるが、彼女は構わず話を続ける。例え、貴方が歴史が忘れ去ろうとも、善行も、悪行も。心の痛みとともにその手に残るのだから。それは誰にだって変わらない。
「しかし、貴方は新たに世界にヒトを作り、神と呼称され慕われました。ですが、魔物を操った貴方は同時に魔王と呼ばれました」
「僕は……魔王、神、イル、世界を滅ぼした……救った?」
 話し掛ける度に、イルの繰り返す言葉の種は増え、気のせいか刃の軌跡が更に鈍くなっているのを感じる。

「それで、イルを慕っていた人間と引き離されて……自分のような存在を造られないように願って死んでいった」
 ケイウスが歩を進める。イルは剣を横に薙ぐが、それは既に攻撃と言うものではなくなってきている。
 松明の炎に照らされる二人は、既に戦いの意思を感じさせない。
「それから、次は普通の人間として生まれてヒトと友達になりたいと思っていた」
 トモダチ。
 完全に、イルの動作が止まる。カタリ、カタリ、と腕の震えに剣が揺れて金属音を鳴らす。
 思い出した、ではないだろう。だが、釣り針の返しのようにイルに引っ掛かったそれが、今までの行動を許さない。
 マリエルが手に胸をあて会釈し、泉李が手を差し出す。

「イルの願いは歪められた。なら俺達で叶えてやればいいんだよ」
「そう、あなたは友達です。私達の、人間の友達です。そう望まれたあなたは、そうありたいと、思いませんか?」
 マリエルにかつての恐怖と孤独はない。それは、背後の主とその友、二人のおかげだ。ならば、今度は私が、人間の私が友達になるべきだ、と。
 
「イルは皆の未来で、希望で、俺の友達だ」
「…………ァ……僕は、イ……ル……ヒトの友達…」
 イルは剣を振り上げ、手を伸ばした無防備な泉李に振り下ろ――
 嫌だ。

 武器を持つ腕の手首をイルは強く握りしめ止めたのだ。しかし、力が元よりないイルでは、殆んど猶予はない。
「イル!?」
 明らかな様子の違い。最初に動いたのはアルベリヒ。銃口を真っ直ぐ向けて、イルへ一発。
 ピシリ、イルのシールドに細かな亀裂が雷のように刻まれる。そして、前回のように戻ることはない。
 まるで、彼が壁の破壊を望むように。

「今だ」
 同時に動いたのは、京四郎とマイナ。彼女が杖を振り上げると光球が炸裂し、彼の居合いが見る間も許さずシールドへと刃を全身全霊を持ってぶつける。
 
「お前の事は俺達が忘れないで居てやる……だから安心して眠れ、イル」
「貴方が誰かは私たちそれぞれの手の中に。どうぞ、安らかに」

 それは飴細工なのだろうか。ガラスと表現するには、あまりに脆くシールドは砕け散った。
 まだ、イルがただの簒奪者の頃に纏うシールドの強固さを知るアルベリヒとマイナは、その儚さに一縷の虚しさすら感じた。
 破壊の衝撃にイルの体がたじろぐが、それでも足は立つことを彼に命じる。
 

 チャンスはこの一度しかないかも知れない。泉李は更にイルへと手を伸ばす。
 ケイウスから、イルの過去を教えて貰えた時より彼は思っていた。
 人間を愛し、愛されたいと願い肉体すら手にいれるまで至った程の想いを持つ彼ならば、立場さえ違えば必ずダチになり、語り合い笑いあえた筈なのだ、と。
 前髪に隠れたイル瞳を見つめる。未だに光もない眼差しで、正気とは言えないが、抵抗するように目頭に皺がよる。
 はやく、なんて言葉が泉李には届いた気がした。
 泉李は漸く、イルの押さえていた手に触れ、その手を握り締め体ごと引き寄せ――――

「さ、一緒に家に帰ろうぜ?」

 槍を前に突き出す。その肉と鎧ごと。
「カハッッ」
 気道から口に喀血するそれはまさしく、生きている証拠。そのまま、力なく泉李の肩にもたれ掛かった。流れる熱い血に身を汚し、泉李は血にまみれる背を気にせず撫でる。
 
「残念だな……せっか、く友達……出来た、のに」

 これで……最期なんだ……
 
 液体混じりの掠れた声。声のする方に泉李が顔向けるが、そこにあったのは光の粒。そして肩にのし掛かっていた質量は消失したのであった……


●それはエゴの塊か?
 こうして、咎人達は町長に徘徊する簒奪者を倒したことを報告。例によって、深く感謝してくれた。そして、イルを襲った一般人とは、その後会うことはなかった。
 一同はエンブリオのあの浮き島へと帰っていった。そう、手掛かりを元にイルの記憶を求めたあの場所へ

 そこは丘、と言うには少し高さが足りないかも知れないがイルが守り続けた都市を一望出来る申し分ない場所だ。
「おーい、石はこれで良い?」
 ズリズリと石を縄で括って引き摺り、ケイウスがやってくる。彼は、自らアルベリヒと共に墓作りに志願した。
「肯定。硬質、耐久性、共に高位を示しています」
 イルの遺言を伝えたあのロボットが、アルベリヒに手伝いを依頼され、彼はこれを承諾し、イルのサーバージャンクを持ち出してきた。
「これを埋めれば代わりにはなる、かもな」
 京四郎はパーツ、それから新たなデバイスを一つのケースに納め、スコップ片手に墓へ向かう。元より姿がないイルが埋められるもの、はこれくらいだろう。簒奪者の身に付けたものは、その身と共に消えてしまう。

「よし、これでどうだ」
 アルベリヒは紙をケイウスに差し出す。差し出された紙を覗き込むと、こう文字が書かれていた。
『我ら人間の友、イル ここに眠る』
 ケイウスは、きっとイルも喜ぶ、と笑みを浮かべて頷いた。
「後は、古代文字に直して彫るだけか」
「じゃあ、俺は墓標を建てておくよ」


 三人が完成させた墓は大きくはないが、そこは確かにイルと言う存在が、この世界に根づいていたことを教えてくれる。
 
「今度こそは邪神にも利用されず安らかにな……また会いに来てやるさ」
「また来るよ。今度は俺も、君の友達として」
「次はちゃんと帰って来いよ。待ってるぜ」
 ある者は墓に手を置き、ある者は手のひらを合わせ、またある者は空で十字を切り、それぞれイルに祈るのであった。手にデバイスを持って。

「生まれ変わりが、あるのなら。また合いましょう。イルさん」
 マリエルは、イルの墓石を眺める。神、時に魔王と呼ばれた、元は人に仕えるAI。彼にとって人の負担になるのも耐え難い事。それなら自身が疎まれる選択もするのではないだろうか、魔王とはそう言う事だったのかも。
「イルさんは、何を考えていたのでしょうか……お嬢様?」

 だが、結局それがわかる機会は訪れない。傍らの主は、少しだけ悩んだ後にこう語ってくれた。生まれ落ちて死ぬまでに『私が何であったか』を答えるのは難しいこと、だか。

「私にとって、京四郎さんやマリエルが何であるかは、答えるのは易いですよ」
 芯を持つ眩しいほどのマイナの笑顔。まだ、自分はあれほど確定的に何とは言い切れない。自分も、あんな風になれるのだろうか、と。そよ風に揺れるブロンドの髪に手ぐしを入れる主人を見ながら、ただマリエルは微笑んだ。


「なぁアルベリヒ……お前も俺の友達んなってくんねぇか?」
 
 イルの墓から離れた所で一人、アルベリヒは片手にシュミドールを携え、休憩を取る様子だった。声をかけた泉李に振り返り、普段と変わらない……いや気持ち半音階落としたような返答をする。

「構わない。だが、俺の過去がイルの様なものだとは限らないが」
 記憶のない簒奪者が、過去善人であったように、その逆もまたあるのだ、それが自分ではない保証はアルベリヒには全くなかった。
 そんな不安を泉李は鼻で笑う。

「前に言わなかったか? そんときは俺も一緒に責任持ってやる、ってな?」
「そうだった、かもな……その槍の世話にはなりたくないな」
 珍しく分かりやすい苦笑いを、新たな友に溢すアルベリヒ。葉巻を一本取り出して、吸い口を切りながら、それこそ雑談のように彼に切り出した……


「きみは咎人と簒奪者に違いがあると思うか?」
「違いなんてねぇよ。アイツも俺達も、大事なもんを護りたいだけだ」
「そうか……そうかも知れないな……」

 葉巻の吸い口にくるり、くるりと火を回せば、くゆる煙。まるで餞のように風に乗って薫りが空を舞い上がる……

END
 
 
 

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