天国
小湊拓也
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シナリオ形態
ショート
難易度
Normal
判定方法
カジュアル
参加制限
総合600以上
オプション
参加料金
100SC
参加人数
3人~6人
優先抽選
50SC
報酬
200 EXP
5000 GOLD
10 FAVOR
相談期間
3日
抽選締切
2021/04/18 10:30
プレイング締切
2021/04/21 10:30
リプレイ完成予定
2021/05/06
関連シナリオ
-
  1. オープニング
  2. -
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ
「このクソブタ! ブタはブタ小屋へ行け!」
「ブタ小屋なんて高級物件、この特大ゴミ虫ちゃんには分不相応でしてよ?」
「そうね、ゴミ捨て場でのたのたしてなさいよ。このっ、このっ」
「ほれほれ。ここかの? ここが、これがイイんかのう? ヴォルどんってば、いけない子じゃて」
「ブタは×××場へ行っちゃいなさいよォ!」
「ど変態! 悦んでんじゃないわよ!」
 何人もの少女たちが、巨大な肉塊のような男に罵声を浴びせ、殴る蹴るの暴行を加えている。
 ザウラク=L・M・A(ma0640)は、まず頭を掻いた。
「あー……うん、まあ理解した。俺はシスコンでブラコンだが」
 自覚があれば何でも許されるわけではない。それはザウラクも、わかってはいるつもりだ。
「……ヴォルガンテ伯爵よ、お前はロリコンな上にマゾヒストか。お見事。それしか言葉がない」
「何とも……業の深い事……」
 氷鏡 六花(ma0360)が、冷ややかに息をつく。その吐息だけで、この場の全てが凍り付いてしまいそうだ。
「ヴォルガンテ伯爵。私、貴方のような人を知っているような気がします。何やら懐かしい……まあ、それはともかく。貴方を、邪神の呪縛から解き放って差し上げます」
「……さ、カナタ様。汚らしいお遊びは、そこまでになさって」
 レジオール・V=ミシュリエル(ma0715)が、罵倒と暴行に興ずる少女の1人を抱き寄せる。筋肉の締まった、強靱な細腕で。
「貴女たちも……御無事で、良かった。お怪我がないようでしたら、お逃げなさい。このような汚物の近くにいてはなりません」
「ふふふ、今からレジオールどんのキッツいのが炸裂するのじゃ。震えて期待するが良いぞ、ヴォル伯爵どん」
 レジオールに抱かれたまま、カナタ・ハテナ(ma0325)が笑う。
「さあさあ、皆で楽しいお仕置きタイムなのじゃ。シアンどん、ハティどんも、このいけない子に最高の御褒美をぶち込んで差し上げるのじゃぞ」
「ご、御褒美とは……」
 シアン(ma0076)が、呆然としている。
「事態が今ひとつ把握出来ないけれど……その子たちが、酷い目に遭っているというわけではないのかな。少なくとも、今の時点では」
「……お、お前。そこの、お前」
 巨大な肉塊のような男……簒奪者ヴォルガンテ自称伯爵が、鼻血まみれの醜い顔をシアンに向ける。
「見るからに天然で、事あるごとに『ボク何かやっちゃいましたぁ?』とか言ってそうなお前! トラックにでも轢かれて来たのかお前! 一見何の取り柄もなさそうで、しれっとハーレム作ったりしちゃってそうなお前! ボクからこの子たちを奪うつもりだな、くそっ! くそう! させるもんか、負けるもんか!」
「えっと……ごめん、何を言っているのか理解出来ないんだけど……もしかしたら、邪神に助力を求める呪文なのかな」
「ああ、わからなくていいぞシアン」
 ザウラクは言った。戦いが始まる前から、もう疲れた。
 戸惑いつつもシアンが、梅助 『煉獄』を抜き構える。
「……何にしてもヴォルガンテ伯爵。きみに子供たちを傷付ける意図が無いのなら……対話の、余地が」
「ありません、そのようなものは」
 少女たちを避難させながら、レジオールが言い放つ。
「こやつは単なる生ける汚物! それが小賢しくも人の言葉を発しているだけ。対話など!」
 強靱な細腕が、クラッシュアックスを振り下ろす。
 その落雷にも似た一撃が、跳ね返された。
 ヴォルガンテの巨大な肥満体が、槌矛を振るいながら起き上がったのだ。
 レジオールが、よろめいて踏みとどまる。
「この……っ……!」
「……ひとつ言っておく。ボクを汚物と呼んでいいのは、13歳未満の美少女美幼女だけだ」
 巨大な槌矛を、ヴォルガンテはブンッ! と構え直した。
「それ以外の連中は、ボクの視界に入る資格すら無いんだよ消えて失せろ!」
 直後。爆発が、ヴォルガンテの巨体を吹っ飛ばしていた。
 魔法の、爆撃。
 ハティ・パラセレネ(ma0220)の綺麗な片手で、魔符が1枚、消滅してゆく。
「見事……」
 吹っ飛んで壁に激突し、倒れ、即座にユラリと立ち上がるヴォルガンテに対し、ハティはまず感嘆の言葉を発した。
「巨体から想像出来る通りの怪力と耐久力、想像もつかぬ敏捷性……その力でヴォルガンテ伯爵、お前は村々を救ってくれた。まずは感謝をする。そして敬意を表する」
「崇めろ、崇めろ、ボクを崇めろ!」
 ヴォルガンテが、大量の脂肪を荒々しく震わせる。
「このヴォルガンテ、生きとし生けるものの頂点に立つ至高の存在である! 全ての口利く種族、物言わぬ種族、ことごとくボクの前に跪いてこそ世の安寧は保たれる」
 言いつつしかし、ヴォルガンテ自身が跪いていた。カナタの眼前にだ。
「そんな至高の存在たるヴォルガンテの、さらに上に立つのがキミたちさ。ぼ、ボクの、この無様な贅肉をぉ、さあ絨毯にしてくれたまえ。ボクを叩きのめして打ち倒して、その上にさぁ立つんだよぉおおお」
「そ、そこまで言うなら」
 シアンの煉獄が、ヴォルガンテに叩き込まれる。痛烈な斬撃。
 鮮血をぶちまけ、倒れ伏したヴォルガンテが、即座に立ち上がって怒り叫ぶ。
「お前じゃない! お前じゃあない、オマエじゃなぁあああああいッ!」
「……そのような心根はともかく、だ」
 ハティが軽く、頭を押さえた。頭痛に耐えているようだ。
「ヴォルガンテよ、お前は戦った。人々を救った。その点は紛れもない事実……何事も為さぬ聖人君子よりも、行動をする極悪人こそが偉大なのだ。戦い、駆け抜けた者のみが尊いのだ。戦わず、駆けるどころか歩きもせず……」
 ハティの口調に、強烈な侮蔑の念が宿る。いや、それはもはや憎悪に等しいか。
「ただ救いを求めて人身御供を捧げ、救われた後で……捧げたものを、惜しむ。取り戻して欲しいと願う。何という卑怯未練……そのような恥知らずどもと比べたら」
「……そう言うな、ハティ」
 ザウラクは言った。
「別に手足が不自由というわけじゃあない、なのに動けない歩き出せない連中、っていうのは確かにいるんだよ。そいつらのために、まあ出来る事はしてやろうじゃないか」
 言いつつ、ドラゴンスレイヤーを構える。
「俺たちには……少なくとも、自分で歩く力が与えられているんだからな。あの神様たちから」
「……そんな事は、わかっている」
「あっ、あのー!」
 避難したはずの少女の1人が、ひょいと大広間を覗き込んでくる。
「た、助けに来てくれて、ありがとうございます! でもその、ヴォルガンテ伯爵を出来たら、こ、殺さないで欲しいんです……どうしようもないクソブタ野郎ですけど、私たちの恩人なのは間違いなくて」
「おおおん、アリシアちゃあぁああああん」
「……下郎が、口を閉ざしなさい。お前には、喋る事も許さない」
 猛り狂うヴォルガンテに、レジオールがクラッシュアックスを叩き付ける。
 オークやゴブリンであれば真っ二つの肉塊と化す一撃、だが簒奪者の巨体は血を噴いて揺らぐだけだ。
「……邪魔……するなよ……」
 揺らいだ巨体が即、反撃に出る。
「アリシアちゃんがぁ、ボクのことクソブタって呼んでくれたんだぞ! もっともっとキモデブ野郎とか特大ウジ虫とか動く粗大生ゴミとか呼んでくれるかも知れないんだぞ! 邪魔するなよぉおおおおっ!」
 巨大な槌矛が、隕石の如くレジオールを襲い、ザウラクを直撃した。
「お兄様……!」
「……気にするなレジオール。盾になるのが、俺の仕事だ」
 ザウラクは、よろめいた。
 ドラゴンスレイヤーを防御の形に構え、完璧に受けた。そのはずだった。
 凄まじい衝撃が、しかし防御の上から容赦なく叩き込まれて来た。ザウラクの全身、頑強に機械化した身体が、バチバチッと漏電を起こし火花を飛ばす。
 その間。ヴォルガンテの巨大な肥満体が、ひしゃげたように歪みつつ吹っ飛んでいた。
 その柔軟・強固な脂肪肉に、魔力で出来た投槍が突き刺さっている。
「アリシアさん、でしたね……その優しいお心、どうか大切にして欲しいと思います」
 魔法の槍を放ったのは、六花である。
「ですが私たちは、貴女がたの恩人ヴォルガンテ伯爵の命を貰い受けなければなりません。どうか御理解を……いえ、理解を強要するのは傲慢ですね。それでも簒奪者に対しては、命を奪う、以外の選択肢は存在しないのです」
「そう……なんですか……?」
「君のような優しい子に会えた。それがな、このヴォルガンテという男の最後の幸運だ」
 ザウラクは言った。
「と、いうわけで伯爵閣下……お前はもう、あの子たちに近寄るな。お触り厳禁、というやつだ。アリシア、君は逃げろ。戦線に入るんじゃないぞ」
 アリシアが、いくらか躊躇いがちに逃げ去って行く。
 それを、ハティが睨んだ。
「……恩人を助けに、飛び込んででも来れば良いものを」
「あの子たちは要救助者です。被害者です」
 レジオールの口調が、眼差しが、敵意に近いものを帯びた。
「……悪く言う事は、許しませんよ」
「許さない、か……自分の意見を表明するのに、誰かの許しを得ようという気はないのでな」
「ご立派です」
 レジオールの鋭利な美貌が、微かに歪んだ。冷笑か、あるいは怒りの形相か。
「許されざる言動を晒した結果、いかなる事態に陥るか……そこは貴女の自己責任という事で、よろしいですか? ハティ様」
「よせ、レジオール……ハティもだ」
 ザウラクが割って入る。ハティの言葉は、止まらない。
「ここで不自由なく過ごしていながら、恩人に罵詈雑言を浴びせる……あの少女たちに私は、寛大な心を持つ事がどうしても出来ない。ヴォルガンテが容姿端麗な男であったら、ああはなるまいよ。外見の美醜がそれほど重要なのか? と思ってしまうな」
「なあハティどん。外見って、めっちゃ重要ぞ」
 トリルノートを構えながら、カナタが言った。
「どこの世界でも、それは世の理。仕方がないんじゃよ。とゆうわけでヴォルどんや、カナタからのワンポイントアドバイスを聞くがよいぞ。子供に好かれたいなら、その見た目は致命的じゃからの……ああ心配無用、地獄のようなダイエットをせよと言うわけではない。努力不要、服を替えるだけで子供たちに好かれる異世界デビュー法を教えて進ぜる。そう、ゆるキャラじゃよ! まわし装備のもふもふデブねこの着ぐるみを着て『おすもうにゃん』と名乗るが良いぞ。そうすれば子供の方から寄って来るのじゃ、モテモテじゃ」
「……わかってない。キミは可愛いけど、全くわかってないんだなあ」
 ヴォルガンテは、人の神経を逆撫でする醜悪な笑みを浮かべた。
「ボクはねえ、モテたいワケじゃあないんだよ。キミみたいな可愛い子たちにねえ、好かれたいワケじゃあない。むしろ嫌われたい! 憎まれたい、蔑まれたい! 汚物を見る目で見られたい! 罵られたい! 殴られたい、踏まれたい! 身も心も蹂躙されンぎゃぷぅ、ひいっ、ぶきゃああああ」
「……ヴォルどん、レベル高過ぎじゃ」
 カナタは、トリルノートをぶっ放していた。銃身が猛回転し、烈火を放つ。ヴォルガンテの巨体が、銃撃に穿たれて苦しげに切なげに躍り跳ねる。
「うん、まあ、その面白ダンスを披露しながら死ぬがよかろ。殺したらもったいない珍妙生物ちゅう気もするが……何やかやで魔族退治の人助け。最後にいっこだけ良い事をしたのう、ヴォルどんや」
「ヴォルガンテ伯爵……お前のような汚物が、存在する。生きている。その罪は、どれほど善行を重ねたところで帳消しにはなりません」
 レジオールが、冷たく言い放つ。
「無様に死ぬ。それだけが、お前に出来る唯一の贖罪であると知りなさい」
「……醜い者は、生きているだけで罪。か」
 同じくらい冷ややかに、ハティが嘲笑った。
「何とも単純……スサノオの剛力種らしい、とは言えるかな。悩みなど無さそうで、羨ましい」
「ふふ。私も貴女を羨ましく思いますよ、ハティ様」
 レジオールの美貌に、いささか剣呑な笑みが浮かぶ。
「思った事を、空気も読まず口に出してしまう……その、剛胆。まさしく恐れ知らず」
「ふむ。何を、恐れろと?」
「……教えて、差し上げましょうか」
 おいおい、やめろよ……とザウラクが言う前に、動いた者がいる。
「おふたりとも。熱く……ならないで。ね?」
 六花だった。たおやかな細腕が、一触即発の両名を抱き寄せる。ひんやりとした繊手が、レジオールの頰を、ハティの頰を、優しく撫でる。
 撫でられた2人が、青ざめ、身震いをした。
「つ、冷たい……」
「ねえハティさん。貴女は、倒すべき敵に対しても敬意を失ってはならないと考えていらっしゃる……一方レジオールさんは、女性の敵に決して容赦をなさいません。どちらも正しい、と私は思います。今は、それで良いではありませんか」
「た、正しさに拘泥する気はありません。さ、寒い寒い」
 震えながら、レジオールは言った。声に、かちかちと歯のぶつかる音が混ざる。
「は、ははハティ様は……救われるべき子供たちにまで、敵意に近いものを抱いておられる。それは、ゆ、ゆ許せません」
「わ、わわ笑わせるな。あの小娘どもが、救われるべき無力な被害者とでも思っているのか」
「うーむ。あの子らは確かに、メスガキの素質ありじゃのう充分に」
 カナタが、顎に片手を当てている。
「いずれ誰かに、わからされるかも知れんて。それもまあ成長じゃの……ところで今は、六花どんがわからせ係のようじゃが、そろそろ勘弁してやってはどうか」
「あら、あらあら。ごめんなさいね、おふたりとも。あまりにも手触りの素敵な頰っぺなもので、つい」
 六花に解放された2人が、ザウラクの腕の中に倒れ込んでくる。
「さ、ささ寒い寒い。お兄様、寒いです……」
「お、おい、お前あまりザウラクに必要以上に擦り寄るな」
「あ、貴女こそ、もうそろそろお兄様から離れなさいな……」
 ザウラクは、2人を曖昧に抱き止め続けるしかなかった。
 カナタと六花が、それを観察している。
「のう六花どん。何やら別のこじらせ案件が発生しとらんか? これ」
「え……わ、私のせい、なのですか?」
「おおい。まだ、かかりそうかな」
 シアンが、槌矛の一撃を喰らい吹っ飛んで来た。
「そ、そろそろ戦ってくれると嬉しいんだけど」
「そうだった、すまん。行くぞ、レジオール。ハティ」
 ザウラクは軽く、2人の肩を叩いた。
 威圧的に槌矛を振るい構えながら、ヴォルガンテが吼える。
「わからせなんて必要ないんだよ! キミはっ、ボクに! ご褒美だけくれればイイんだもぉおおおおおん!」
「うん、わかった。そろそろ黙れ」
 ザウラクは、ドラゴンスレイヤーを叩き込んでいった。ヴォルガンテの巨大な肥満体が、へし曲がった。
 へし曲がったヴォルガンテが、しかし血反吐を吐きながら槌矛を振りかざす。
「お前! お前も今何かハーレムっぽい事してたな、くそう許さん!」
「……精気が、有り余っているのですね」
 ヴォルガンテの傍らに、いつの間にか六花がいた。
「いくらか吸い出して差し上げます」
 ハティとレジオールを震え上がらせた冷たい繊手が、簒奪者の醜い顔面を優しく撫でる。
 言葉通り、何かが吸い取られた。
 ヴォルガンテが悲鳴を、そして怒号を、張り上げる。
「ひっ! や、やめろ触るな! 邪悪なもので胸と尻を膨らませた女はボクに近付くなぁああああああッ!」
 槌矛の一撃が、横殴りに六花を襲う。
 六花の優美なる肢体が一瞬、闇に変わった。ザウラクは、そう思った。
 槌矛が、その闇を擦り抜ける
「……私の身体は、闇。貴方の、単純な怪力で……壊れるものでは、ありませんよ」
 たおやかな片手が、ヴォルガンテの巨大な腹部に密着する。
「脂肪と筋肉で出来た、御自慢の鎧……貫いて差し上げます。昏き闇よ、黒く鋭き魔槍となれ。そして穿ち、貫きなさい」
 六花が、ヴォルガンテから吸い取ったもの。
 それが魔力に変換され、光の槍と化し、巨大な肥満体を貫通していた。
 光が突き刺さった状態のまま、ヴォルガンテはよろめき、だが倒れず踏みとどまる。
「まっ負けない! ハーレムは、ボクのっ、ボクだけのもの! ああもちろん、お前らなんか入れてやらないけどなぁあああ! あ、キミだけは入れてあげるよ」
「ハーレムは、の。最低じゃ」
 カナタの銃撃が、ヴォルガンテをまたも踊らせた。


 戦いは、続いた。
「おーい! こっちじゃ、こっち」
 カナタが、少し離れた所で跳ね回る。
「ヴォルどん、ライト能力者を探しとるんじゃろ? 見当違いの事をしたモノじゃ、あの子らの中にはおらん……何故なら、カナタがライト能力者なのじゃ。ほれほれ捕まえてごらん? あっかんべーのお尻ぺんぺんなのじゃ」
「うおおおおん! ぼ、ボクのお尻ぺんぺんしてぇえええ」
 駆け出したヴォルガンテが、次の瞬間、爆発に吹っ飛ばされた。
 ハティが、魔符をかざしている。その魔符が、爆撃の魔力を放出し終えて消滅する。
 高々と吹っ飛んだヴォルガンテの巨体が、落下して行く。
 その落下地点で、レジオールが待ち構えていた。
 光まとうクラッシュアックスの一撃が、飛来する巨大な肥満体を迎え撃ち、叩き斬る。
 ヴォルガンテは墜落し、大量の臓物を床にぶちまけた。
 レジオールとハティが、目を合わせずにハイタッチを交わす。
 反目していても、戦闘時には呼吸が合う。それが、この両名だ。
 思いつつ、シアンは煉獄を構えた。
 ヴォルガンテが、臓物を引きずりながら立ち上がったからだ。
「まだっ……まだぁ……」
「ヴォルガンテ伯爵、私は思うんだ」
 語りかけながら、シアンは踏み込んだ。
「この世で最も、起こしてはならぬ事態。この世そのものが滅びようとも、起こしてはならぬ事態……それは『子供が死ぬ』事である、とね」
 剣を繰り出す。元々、当てるつもりのない軽い斬撃。
 それに、ヴォルガンテは騙された。槌矛が、構えられる。
 その構えとは別の方向から、シアンはすでに煉獄を一閃させている。
「きみは……子供たちに、危害を加えずにいてくれた。それだけは、感謝する」
 ヴォルガンテの太い首筋から、鮮血が噴射する。
 首を刎ねる、には至らなかった。もう一撃か、とシアンが思った、その時。
 カナタの銃撃が、ヴォルガンテの切断されかけた頸部を完全に引きちぎっていた。
 硝煙立ちのぼるGAT-トリルノートを脇に置いて、カナタが可愛らしく握り拳を作り、猫科のポーズを取る。
 ヴォルガンテの生首が、嬉しそうな、本当に幸せそうな笑みを浮かべた。
「終わった……か」
 倒れたまま呟くザウラクを、六花が膝の上に抱き上げている。
「……無茶をなさいましたね、ザウラクさん。私たちの盾として。ありがたいですが無理は駄目ですよ」
「いやあ。思ったよりも、あいつが強くてな」
 破損したバイザーヘルメットの下で、血まみれの素顔が微笑む。
 そんなザウラクを、レジオールとハティが心配げに見つめている。レジオールは、泣き出しそうである。
 ヴォルガンテの屍に、ザウラクは語りかけていた。
「お前が、もう少し……やりようを、間違えなければな……子供からも大人からも、真に愛されただろうに」
「改めて、思うよ」
 シアンは呟く。
「彼ら簒奪者と、私たち咎人に……何の違いも、ありはしないと。我々だって、何かひとつ間違えば彼のように」
 少女たちが恐る恐る、大広間を覗き込んでくる。
 今は、この子らを安心させなければならない。シアンは微笑みかけた。
「もう大丈夫だよ。一緒に帰ろう」
 彼女たちから見て、自分らとヴォルガンテにいかほどの違いがあるのか……とシアンは思った。

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