鏡神学園オープンスクール
運営チーム
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シナリオ形態
グランド
難易度
Normal
判定方法
エキスパート
参加制限
総合600以上
オプション
参加料金
150 SC
参加人数
1人~50人
優先抽選
50 SC
報酬
400 EXP
10,000 GOLD
15 FAVOR
相談期間
5日
抽選締切
2022/01/22 10:30
プレイング締切
2022/01/27 10:30
リプレイ完成予定
2022/02/15
関連シナリオ
-
  1. オープニング
  2. 相談掲示板
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ
●天空学科オープンスクール
 天空学科は成体のパジャモと切っても切れない関係にある。
 必然的に大型動物が飛び回っても構わないように、オープンスクールは鏡神学園の校庭にて催されることになった。
「わふーい。みんな、元気いっぱいだね!」
 葉山 結梨(ma1030)は自らが伴う黒パジャモの『ウェスペル』に声をかける。
「お仲間がいっぱいだよ、ウェスペル。これだけ広々としていれば緊張もしないね」
 などと話しかけているが、一方のウェスペルは暖かい日差しにウトウトした様子だ。
 成体になっても子供の頃の『パジャモ感』が抜けていない個体らしい。
「――いいパジャモだな」
 急に話しかけられて少し驚いた。天空学科の寮長、シャルルである。
「その佇まい、既に天空旗士の技を学んでいると見える。ついこの間学園に来たばかりだというのに、珍妙な連中だ」
「わう? あー……うん、どうも?」
 それだけ言って、もう用はないと言わんばかりに去っていく。
 ポカンとしていると、焔城大牙(mz0043)が「よっ」と声をかけてきた。
「変な奴だよな、シャルル。一応アレで褒めてるんだと思うぞ?」
「うっそぉ。威嚇されてるのかと思ったよ。でも、ウェスペルを褒められるのは悪い気しないけどね」
 言われてみると、もしシャルルが敵意を持っていたら、ウェスペルも反応するだろう。
 こうしてのんびりウトウトしていることが、シャルルの気持ちの証明かもしれない。

「シャルル寮長、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
 更級 暁斗(ma0383)が挨拶をしてもシャルルの返事はない。
 眉間に皺を寄せたまま、ジっと暁斗を見ている。
「……お前も天空騎士か? ならばもう俺が教えることはないだろう」
「いえ、まだ初心者でして」
「そうか。なら、手綱をしっかりと握るといい。戦闘中は武器を使うために手綱を放すこともあるだろうが、こいつがパジャモに指示を出す要だ」
 なんだかんだとしっかり騎乗法について教わる。
「あとは無理をしないことだ。パジャモが乗り手を導いてくれる」
「なるほど。……よろしくね、パジャモ。僕を乗せて飛んでくれるかい?」
 暁斗が声をかけると、パジャモが元気よく返事をする。
「パジャモはモコモコなんですね。柔らかい羽です……。見た目は少し怖いですが、本当は優しい神獣なのでしょう」
「パジャモは怖くない」
 キッパリと言い放つシャルル。そこは個人の感想でいいと思うのだが……シャルルはパジャモ=怖い、という感想が気に食わないようだ。
「……そうですね。ふわふわで、優しいんですよね」
「そうだ」
 心なしか眉間の皺が薄まった。
 たぶん、すごくパジャモが好きなんだろうな……と、暁斗は察した。
(この人は自分に似ているかもしれない)
 ほとんど表情が変わらない二人。暁斗は心の中でつぶやいた。

「武蔵もこっちに来たのか」
「京四郎は天空学科希望? 俺はまだ考え中なんだけどね」
 高柳 京四郎(ma0078)と葛城 武蔵介(ma0505)は肩を並べて歩く。
「俺は憑依させたりただ戦わせるのは性に合わなくてな。一体になって共に戦えるこの学科を選んだんだよ」
「京四郎は自分からグイグイ前に行くタイプだしね。俺はどうしようかな……」
 別に天空学科がイヤ、というわけではない。
 むしろ親しい友人たちと今度は『学友』になれると聞いて、そんな生活に内心わくわくしている武蔵介なのだが……。
「教科書が……揃わなくてね……」
「……わかるぞ、その気持ち」
「制服もまだだから、この格好だしね」
 武蔵介の制服は鏡神学園のものではない。
 自前で用意出来る中では『それっぽい』方なのであるが。
「制服か……」
「京四郎は似合うんじゃない?」
 彼の一張羅と言えば、どんなロールでもホワイトだ。
 この学園の制服も白系統であるからして、似合いそうな気がする。
 なお、学生服であると同時に軍服も兼ねるものだから、鏡神学園の制服に年齢は関係ない。
「……お、葉山さん」
 知り合いの姿を見つけ、京四郎が片手を挙げた。
 意図したわけではないのだが、オープンスクールには知り合いが多い。
「まあ、今日はのんびりみんなで楽しもう」
 京四郎の言葉に武蔵介は頷いた。

「なるほど、あれがパシャモ……思ってたのとちょっと違うなあ」
 神獣と聞いて伊藤 毅(ma0538)が思い浮かべたのは、ワイバーンやペガサスと呼ばれるようなものだ。しかし、実際のパジャモはカラフルなグリフォンという様相である。
 成体になってもクリクリの眼差しは健在で、カッコイイというよりはカワイイ。
「で、三十路過ぎのおっさんが来てもいいところなのかね?」
「問題ない。鏡神学園は学ぶ、戦う為の場所だからな。志と年齢は無関係だろう」
 いつの間にかシャルルがいてそのように解説した。
 実際見たところ、明らかに成人の学生もいる。
 シャルルやオーウェンも……実年齢よりは老けて見られる方だ。
 ここに毅が混ざっても、さほど違和感はないだろう。
「なるほどね。じゃあ、まずは愛機を点検してみますか」
 まだ自分のパジャモがいないので、学園のパジャモを見繕うことにする。
 成体のパジャモは大人しく、そして賢い。
 身体を撫でたりしても暴れたりすることはなかった。
「羽の下は結構筋肉質なんだな……そりゃそうか。こいつはいきなり乗って飛ばせるようなもんなのかね?」
「ああ。戦闘機動となると別だが、ただ飛ぶだけならパジャモが勝手に導いてくれる」
「なら話は早い。一回乗ってみますか」

「騎乗には信頼関係が大事だからね。まずはこちらに慣れて貰おう」
 ということでパジャモをブラッシングすることにした透夜(ma0306)。
 学園のパジャモは大人しく受け入れてくれ、そのふわふわ感を存分に楽しめた。
「よーしよし、この辺が気持ちいいのかな?」
「もう少し下だ」
 パジャモが喋ったのではない。シャルルだ。
「そうだ。そのあたりを喜ぶ個体が多い」
「そ、そうなんだ……ありがとう。ところで、パジャモって何を食べてるの?」
「雑食だが、主に甘いものが好きで果物などを好む。餌をやるつもりか? なら適量に留めておけ。学園のパジャモは既に十分な餌を供給されているからな……これくらいならいいだろう」
 スっと、懐からパジャモ用の果物を取り出すシャルル。
「くれるの? ありがとう!」
「……………………」
 ジっと、透夜を見つめるシャルル。
 眉間の皺がググっと深くなっていく。
「色々いるんだな」
「え?」
 この世界に透夜のような生物がいるのだろうか。
 シャルルからすれば、神獣の類のようにも見えたのかもしれない。

「此度は天空学科を見学させていただく、よろしく頼む」
 真面目という概念を具現化したような羽鳴 雪花(ma0345)は、しっかり丁寧にシャルルに頭を下げた。そして、
「よろしく頼む、パジャモ」
 パジャモの方にも頭を下げた。
 くりくりとした大きな目が雪花を映している。そして、大きな頭を雪花にこすりつける。
「パジャモは言語を使わないが、非常に賢く、こちらの意図を理解する能力が高い」
 シャルルが補足する。つまり、こちらの気持ちが伝わったということだろう。
「素晴らしい触り心地だ。触ったら喜ぶ場所などはあるのだろうか?」
「首から背中にかけてのあたりだな。可動域の問題でパジャモはそこを自分で掻くことができない。よって、乗り手が撫でると喜ぶことで知られている」
「なるほど、かゆいのか……では少し強めのほうがいいだろうか?」
「ああ」
 ぐいぐい撫でまわすと、パジャモの大きな目がゆっくり細まっていく。
「ふふ……気持ちよさそうだ」
「ん」
 シャルルがスっと懐から果物を取り出す。食べさせてもいいということだろうか。
「パジャモはただの獣ではない。敬意を以て接することが大切だ。お前であればパジャモも受け入れてくれるだろう」
 言いたいことだけ言うと、シャルルは去って行った。
「……寡黙なのか饒舌なのか、よくわからない方だ」

「うわーーーーー! 何このもふもふしたの!?」
 待機中の学園パジャモは、一列に並んでいた。
 暖かい日差しを浴びつつ、お互いの体温で温まる為である。
「アッアッアッ、なんだあのかわいい生き物は!? とっても大好き(な感じの生き物)パジャぇ……パジャモか」
 何を言ってるんです?
 きっと分歳 志馬子(ma0996)当人もよくわかっていない。
 謎のジャイアント・オブ・モフモフのカタマリに駆けよる自分の姿を客観的に認識したのか、スっと背筋を正して咳ばらいを1つ。
「んんっ、ま、まあかわいいんじゃない? こういうの好きでキャーキャー騒ぐ女とかいるんでしょ? あたし? 別に違うけど?」
 不特定多数の誰かにアピールしつつ、パジャモに近づく。
 するとパジャモの方から志馬子を包囲し、おしくらまんじゅうにしてきた。
「ぎゃあああああ! がわいいっ! あ……あったけぇー……ッ!」
 様子がおかしくて心配されたのかもしれない。
 志馬子の姿はでっぷりしたモフモフ達の中に消えた。

「この子がパジャモかモフモフして可愛らしいね」
 山神 水音(ma0290)はさっそく可愛がりつつ、騎乗の感覚を掴むことにする。
「さぁ、早速だけど乗せてもらうね。君もよろしくね」
 とりあえず乗って、地上を歩かせてみる。
 馬やバイクなら騎乗の経験があるが、それらと比べても感覚は大きく異なる。
「やっぱり馬とかと比べると乗り心地が大分違うね。歩くと揺れるかな」
 四足の馬や、タイヤで走るバイクとはまた違う。
 二本足でのしのし歩くのだから当然かもしれないが。
「よし。それでは飛んでみてくれるかな?」
 翼を広げたパジャモが応じるようにひと鳴きする。
 水音はこのあと模擬レースに参加する予定だ。
 今のうちに、ある程度は飛行に慣れておきたい。

「こち……私、パジャモ……プテちゃん、いう……します……」
「…………」
「ん……この子、ぬいぐるみ……ティラちゃん……」
「…………」
 Maris N Rhyme(ma0619)とシャルルの会話は『間』が多い。
 というかシャルルはまだ一言も返事を返さず、ジっと見ているだけだ。
「お前も天空騎士……それも既にかなり腕が立つな? どんな手を使った?」
「どん……な……?」
 そんなこと訊かれても、難しいことは分からない。
 そこらをお散歩していたらなんか『石』っぽいものを拾っちゃったんですが、それをうまく説明するのは難しい……。
 黒パジャモのプテちゃんに助けを求めるように目を向ける。
「……まあいい。そのパジャモはプテちゃんというのか」
「プテちゃん……かこいい、しますので……ちゅーもくのまと、しちゃう……ます、でしょうか……っ」
「そうだな」
「色んな人……パジャモさん、仲良し……できる、いっぱい……嬉しい、想う……です……」
「ああ」
 そっけない返事だが、Marisの話を聞き流したりはしていない。
 パジャモを大事にしているということはシャルルにも伝わっているようだし、シャルルがパジャモをリスペクトしているのも、Marisに伝わっている。
「ぬいぐるみ……ティラちゃんも、一緒……宜しくお願い……ます、ます……」
「よろしく……俺はレース開始まで巡回している。困ったことがあれば声をかけろ」
 会話終了、と言わんばかりに立ち去っていくシャルル。
「ふう……ご挨拶、できました……ですっ!」
 プテちゃんが『よくがんばった』と言わんばかりにひと鳴きした。

「おー。パジャモってゆーんだねぇ~♪ よろしくねぇ~♪ パジャモー!」
 ブリジット・レジェフォール(ma1099)は可愛らしいパジャモに挨拶する。
 そのまま近づいて抱き着きたいところだが、その前に一応確認しておこう。
「……この子って、急に抱き着いたりしたら怒るかな?」
「問題ない。個体差はあるが、学園の個体は人馴れしているからな」
「許可はもらった、と……それでは改めまして。パジャモー!」
 手を振りながら駆け寄り、ふかふかの羽の中にダイブ!
「わぁー♪ ふかふかでもふもふだねぇ~♪ 気持ちがいいー!」
 実際に飛びついてみてわかる、パジャモの力強さと安定感。
 ブリジットのような小柄な女の子が飛びついたくらいではビクともしない。
「おっきいねぇ~……? 僕、背が小さいけど……うまく乗れるかなぁ?」
「問題ない。むしろ小柄な方が重量や風の抵抗を受けにくく、パジャモの負担も少ないだろう。故に、天空学科は女性が活躍してきた学科でもある」
 仏頂面もいいところだが、シャルルなりに励ましているのか。
 いや、単に事実を述べているだけかもしれない。
「ふ~ん……? よーし、それじゃあ今日は頑張ってみようかな!」

「ふーん、学校ね。オレ生前そういう機会なかったから? 新鮮だねー」
 などとつぶやきながらルル・ロシェ(ma0422)が目を付けたのは黒パジャモだ。
 パジャモ亜種の一つで、のほほん気味のパジャモの中ではキリっとしているのが特徴。
「おー。こいつイイ目してんね。ヤル気ありそうじゃん?」
 特に鋭い目つきの黒パジャモを発見する。
 黒パジャモ自体が珍しいというのもあるのか、他のパジャモが一塊になっているのに対し、黒パジャモは群れから離れたところにいた。
「黒パジャモは他の個体より扱いが難しいぞ」
「あんたは確か寮長の……」
「シャルルだ。覚えなくても結構だがな」
「へぇ、あんたシャルルっていうんだ」
 聞き覚えのある名前にルルが笑みを浮かべる。
 シャルルの方は『それがどうした?』と言わんばかりに眉をひそめている。
 この件にあえてルルから触れるつもりはなかったが、ともあれ若干の親近感を覚えた。
「普通のパジャモじゃ面白くないじゃん? オープンスクールもただ説明聞いててもつまんないし、オレは模擬レースに参加してみよっかなー。めっちゃ速いんでしょ、黒パジャモって」
「ああ。だが、先述の通り扱いは難しい……と、口で言っても聞かないという顔だ」
「わかっちゃう?」
「好きにするといい。何事も経験だ」
 背を向け、去っていくシャルルに声をかける。
「あんたもレースには出るんだよな?」
「そのつもりだ」
 ふーん……と、その背中を見送りながらルルは笑みを浮かべる。
「せっかくなら寮長サンと競ってみるのも悪くないねー?」

 小山内・小鳥(ma0062)も既に天空旗士の力を手に入れている一人だ。
 騎乗するのも自前の黒パジャモで、学園側で用意されたパジャモは必要ない。
 とはいえ、まだまだパジャモへの騎乗は不慣れなようで……。
「はわわわ……!? ちょっと……転んだだけで、大丈夫ですー」
 パジャモに跨り、いざ大空へ! ……と、助走をつけていたところで小鳥が振り落とされてしまったようだ。
 慌てた黒パジャモが駆け寄ってくるが、小鳥も咎人。
 落馬もとい落鳥くらいで怪我をすることはない。
「心配かけちゃいましたね……ごめんなさいですー」
 言えない……パジャモのモフモフ具合に気を取られて落ちたとは……。
 気を引き締めて今一度しっかりと手綱を握り直す。
「よし……今度こそ行きますよー。そーれぇー!」
 合図に従い、黒パジャモがテイク・オフ。
 翼を広げて大空へと舞い上がった。
「わあー……」
 風を切る。そして、重力から解き放たれる感覚。
 飛び込むものすべてを青空は祝福する。だが、この世界の空はまた一味違う。
「きれーですねー……」
 大きな雲がのんびりと浮かぶ向こうで、青色のグラーデションがどこまでも広がる。
 邪魔する物のない空。この世界の空は、飛ぶ者のために存在するのだ。

「え……パジャモってケーキ食べるんだ?」
 意外なパジャモの食性に驚く結梨。パジャモは果物が好きだが、パジャモ用の果物を用いたケーキなどのお菓子を食べることもあるらしい。
「結梨ちゃーん!」
 声をかけてきたのは鳳・美夕(ma0726)だ。
 知人、というかお互いに義姉妹として認め合う仲である。
「美夕、いいところに。なんと……パジャモはケーキを食べるらしいよ!」
「へぇ~、そうなんだ! オシャレなものを食べてるんだねぇ……このこのー♪」
 美夕も既に天空騎士の力を手に入れている一人だ。
 自前で黒パジャモを用意しており、その喉元や背中のあたりをわしわしと撫でまわす。
 ついでにそのへんで売っていたので、ケーキもいただいてきた。
「わふ……普通に人が食べてもおいしそうだね」
「ほんとだね……! かわいいカフェとかで出してそう~!」
「レシピはそんなに難しくなさそうだし、自分で作れそうかなー」
 などと女子二人でケーキを与えていると、大牙が歩いてきた。
「あれ、美夕さんだ。こんちはっす」
「あれ? タイガもここなんだね。もしかしてレースに参加しにきたの?」
 二人がケーキを買った売店の傍で、模擬レースの受付をしているのだ。
 大牙の目当てはまさしくそれで、顔見知りを見かけて足を止めたらしい。
「そうそう。美夕さんも参加するの?」
「うん。それじゃあ私達、ライバルだね! ふっふーん! 負けないよー?」
「う……うっす。俺も頑張ります」
 特に何も意図していないが、美夕が近づくと大牙はちょっと下がる。
 まだ女性にグイグイ来られると照れ臭いらしい。
「ところで、さっきからパジャモに何食わしてるの?」
「これ? ケーキだよ。そこの売店で売ってたー」
「え! 鳥なのにケーキ食うの!?」
 結梨が指さすと、大牙も驚愕する。
 『贅沢な鳥だな』と言わんばかりにパジャモに苦笑を向けるのであった。
「美夕さんのパジャモって自前?」
「そうだよ。黒パジャモの葉月っていうの。よろしくね」
「よろしくな。……もう飛んでみた?」
「うん! 空を飛ぶのは気持ちいいねー! でも、これまでずっと地を駆けて戦ってきたでしょ? だからまだ慣れないな~」
「わかります。飛びあがる時、背筋がゾウゾクする」
「するする! 学園の天空旗士の人たちはすごいよね~!」
 雑談に花を咲かせていると、レースにエントリーする京四郎と武蔵介と遭遇した。
「やあ。山神さんと鳳さんもレースに参加するのかな?」
「ウェスペルがレースに出たいって言ってるからねー」
 京四郎が『ケーキ……?』と言っている間に、武蔵介は大牙に声をかける。
「大牙も天空学科に入るつもりなの?」
「正直まだ悩んでいるところだけど、俺、銃とか魔法ヘタッピなんだよね……」
「消去法で天空学科しかない、ってところか」
 それにしても、なんだかこうして普通に話しているのが不思議な感じだ。
 人幻界では戦いばかりだったので、学生というのも悪くないと感じる。
「今度は同級生か。これからも仲良くして貰えると嬉しいよ」
「こちらこそ。……そう言えば俺、学生の途中で死んだんだっけ」
「丁度いい、というのは不謹慎かな?」
「いや。俺もそう思っていたところだよ」
 鏡神学園で学生になれるというのは、ある意味咎人だからこそだろう。
 人幻界では色々あったが、この世界では心機一転。
 大牙の新しい一歩に付き合いたいと、武蔵介は想った。


●パジャパジャレーシング!
「パジャモによるレースにはいくつかのレギュレーションが存在する。今回はオープンスクールなので細かい部分は省略するが、レース内容が学園非公式のものであることは承知しておくように」
 寮長シャルルにより、レース参加者に注意事項が伝えられる。
 パジャモによるレースの基本はタイムアタック。即ち、ゴールまでの順位を競うものだ。
 道なき空中でのレースとなるため、代わりに浮遊島などにチェックポイントを設け、そこを順番に通過していく速さを競う。
 妨害や障害物の有無で細かいレギュレーションが変わるが、今回は『適当』でOKだ。
「今回は飛行に不慣れな者もいるだろうが、そういった者に対する妨害は危険行為と見做す。レース参加者は妨害の有無ごとに、腕に異なる色の認識布を巻くように」

「入学前からいきなり実技とは、こちらとしても好都合だな」
 フリッツ・レーバ(ma0316)は実戦派だ。
 既に天空騎士のロールを獲得し、黒パジャモも用意済みの今、オープンスクールに求めるのは説明会ではなく『現状での腕試し』である。
「自分達がどれほど飛べるのか、試し、測るには丁度いい」
 これまでもバイクや馬を用いた騎乗戦闘は何度も経験している。
 だが、飛行となれば未知の領域。少しでも実戦に近い形での飛行経験が欲しい。
(今のところこの世界は平和のようだが、突然実戦に駆り出される可能性もあるからな)
 既に天空騎士である以上、それなりにこなせる自信はある。
 しかし、やはりこの世界の現地民や、寮長シャルルとの経験差は如何ともしがたい。
「今回は技を盗ませてもらうとしよう」

「よろしくね、パジャモ。僕を乗せて飛んでくれるかい?」
 騎乗体験を経て、暁斗もレースに参加する。
 パジャモにまたがり、手綱をしっかりと握りしめた。
「おや。お隣は大牙さんでしたか」
「お、おぉ……」
 パジャモに跨った大牙は緊張している様子だ。
 彼は天空旗士ではないし、体験はしてもまだ飛行に不慣れである。
「正直遅いだろうから、俺のことは置いて行ってくれ……」
「そこはパジャモの気分次第ですね。僕も『妨害なし組』ですし」
 無理をしても仕方ないし、パジャモに無理をさせるのも本意ではない。
 暁斗はパジャモの飛びたいように飛ばせてやるつもりだった。
「パジャモ、頼んだよ」

「――それではこれより模擬レースを始める!」
 シャルルが声を上げる。合図を出すのは彼とは別に用意された旗持ちだ。
 旗が振り下ろされたらレース開始の合図。
 無数のパジャモが駆け出し、一斉に翼を広げて大空へと舞い上がって行く。
「うおおお……やっぱり遅ぇええーーーー!?」
 大牙の不安が伝わってしまうのか、パジャモに勢いがない。
 墜落の心配はなさそうだが、今のところビリである。
「おー! 飛行機みたい~♪ すごぉーい!!」
 いや、大牙と同じくらいゆっくり飛んでいる咎人がもう一人。
 ブリジットは記録など関係なく、単純にコースを回ってみるつもりだった。
「パジャモの上は気持ちいいねぇ~……うん?」
「ど……どもっす」
 ほとんど同じ速度で飛ぶ大牙と並走する形になり、目が合う。
 ブリジットはゆるく飛びながらひらひらと片手を振って挨拶した。

「行くよ、ウェスペル!」
 結梨は愛鳥と呼吸を合わせることを意識する。
 大切なパートナーだが、まだ飛行経験が少ないことは否めない。
(ウェスペルの得意な飛び方を理解しないとね)
 その期待に応えるように、ウェスペルはぐんぐんスピードを上げていく。
「やるね、結梨ちゃん! でも、葉月も負けてないよ!」
 黒パジャモの『葉月』が凛々しい雄たけびを上げる。
 負けじと加速する美夕。二体の黒パジャモが競り合うように空を舞う。
(がんばれ、葉月! 怪我をするのは怖いけど、やるからには目いっぱいがんばらないとね!)
 無理をさせるつもりはない。
 けれど、無理のギリギリまで攻めなければ楽しくない。
 せいいっぱい頑張ったからこそ、どんな『結果』も受け入れられるのだ。
「ウェスペル!」
「葉月!」
 騎乗者の想いを託された黒パジャモは、一直線にチェックポイントに突っ込んでいく。

「参加する以上は……トップを目指して頑張りましょうねー」
 小鳥はチェックポイントをいち早く通過していた。
 天空騎士としてスキルも身に着けている彼女は、テクニック面で他参加者に差をつけている。
「バスターフラッグですー!」
 輝きを増した黒パジャモが更にチェックポイントを通過する。
(すごーい……パジャモは思った通りに飛んでくれる)
 まるで自分の身体の一部のように、思い通りの最短ルートを飛んでくれる。
 ただの騎乗動物ではなく、『神獣』と呼ばれるだけのことはある。
「なかなかやるな……だが、こちらにも面子というものがある」
 小鳥を追い抜いたのは寮長のシャルルだ。
 同じくスキルを使用しているのかパジャモの翼が輝き、空に光の尾を引いていく。
「ふぇ……は、早いですー。でも……ま、負けませんよー!」

「さすが寮長。速さもだけど、安定感がすごいな」
 透夜はシャルルの背中を追いかけながら、そのコース取りを真似してみる。
 後ろにつけば、前を行く者の姿がよく見える。寮長ならなおさら参考になるというもの。
「さあ、いいタイムを狙って行こうか。互いに頑張ろう」
 といっても、無理をするつもりはない。
 今は『飛ぶ』という感覚を楽しむのがメインだろう。

「今の私がどこまでやれるか試すいい機会だ」
 雪花はまだパジャモに乗ったばかり。
 今回は速さよりも事故を防ぎ、安全かつ確実にゴールを目指したい。
 スピードを抑えて飛んでいた雪花だが、そこでパジャモのちらりと振り返った。
「……もっと飛ばしたいのか?」
 パジャモの癖を興味深く観察していた雪花だから気づけた。
 言葉はなくとも、パジャモには意思がある。
 誠実に向き合っていれば、その想いを感じ取ることもできるだろう。
「よし、心得た。力を見せてくれ、パジャモ!」

「模擬レースとはいえ競技なら全力を出さないとね!」
 水音は訓練の成果を出し切るように飛行を指示する。
 といっても、実際に飛ぶのはパジャモであって水音ではない。
 騎乗者の意思を汲み取ってくれるとはいえ、大切なのは声掛けだと考えていた。
「ここが勝負どころだよ。さぁ、全身全霊で行こう!」
 合図を出すのは実戦でも効果があるという。
 言葉はなくとも鳴き声で応じるパジャモを駆使し、水音もチェックポイントを通過した。

「うひゃー! 飛んでる飛んでる! すごいすごい!」
 練習飛行はしているが、それでも慣れない志馬子。
 レースをやるというので参加したが、無理に速度を出すつもりはなかった。
「もふもふな上に思い通りに飛んでくれるとか、おまえはえらいねぇ~」
 飛んでいるパジャモの背中を撫でまわす。わしわし、わしわし。
「無理しなくてもいいから、自由に飛ぶんだよ! それー!」

(このコース……よくできているな)
 毅は飛行しつつ、このレースコースに隠された意図を察していた。
 このコースはただ速さを競うためのものではない。
 チェックポイントからチェックポイントへの接続に明確な意図があるのだ。
「そーれ、インメルマンターン! からのスプリットS! 宙返りだ!」
 毅とてレースの主旨が『速さ比べ』であることは理解している。
 単にスピードを出すだけなら、このような曲芸飛行は単なる無駄と言えるだろう。
 だが、このコースのチェックポイントは随所にこういった曲芸……否。実戦で役立つようなテクニックが自然と身につくようにな配置になっているのだ。
「これなら何度も繰り返しコースを飛行すれば、様々な飛び方が身につくな」
 実際の空中戦では、速ければいいというものではない。
 敵の攻撃を回避したり、敵を追い詰めりする機動が必要になる。それをレースの中で学ばせようというわけだ。
「……思ったより楽しめそうだ」

「大牙はだいぶ後ろの方みたいだね」
 武蔵介は後方を気にしながらつぶやく。
 あの位置から上がってくることはもうないだろうが、安全に楽しめればよいだろう。
「宜しく頼むよ……行けぇ~!」
 加速していく武蔵介が狙うのはシャルルだ。
 彼は妨害OKの布を巻いているし、何より当レースの先頭を往くものである。
 強化を打ち消し、ファーストアクションを封じる『虚無理論』を付与すれば、シャルルのトップスピードは大きく減少する。
 天空騎士のスピードはファーストアクションの強化スキルによるところが大きいからだ。
「ほう……まさか俺に妨害を働こうとするやつがいるとはな」
 シャルルはにやりと笑う。怒っているわけではない。むしろ『骨のあるヤツ』として、武蔵介の挑戦を受け止めているようだ。
「寮長さんの速度が落ちた……ここですー!」
 前に出ようとする小鳥。だが、このチャンスを狙うのは彼女だけではない。
「レース……プテちゃん、かこいい……お見せする、ます……っ」
 黒パジャモの『プテちゃん』に跨るMarisも、多数の移動スキルを搭載している。
 爆発的な加速を見せて、妨害でよたったシャルルを一気に追い抜いた。
「スキルを使えるのはあんただけじゃないよ?」
 ルルもMarisに続き、スキルを使ってどんどん加速していく。
「なぁお前悔しくないの? もっと速くイケんだろ?」
 先頭まであと少し。ルルは自らが跨った黒パジャモに囁きかける。
 コイツは反骨心で選んだパジャモだ。ここ一番の踏ん張りには期待できる。
「やれやれ……これでは本気を出さねばならないな」
 寮長シャルルはこれまで『手加減』をしていたのだろう。
 オーラを纏ったパジャモが更にグンと加速。追い抜いたルルに更に追いつき並走する。
「へえ、やるじゃん?」
「最早素人と侮るまい……ついてこられるか?」
「とーぜん!」
 シャルルの飛行には一切の無駄がなく、きわめて合理的だ。
 パジャモと心を通い合わせようとする咎人が多いのに対し、シャルルからはパジャモを気遣ったり、様子を窺うような瞬間は存在しない。
 それはシャルルが相棒をないがしろにしていることを意味しない。
(完全なる一心同体……これが寮長の飛行か)
 背中を睨み、フリッツは彼の軌跡をそのように評価した。
 相棒の限界も癖も把握し尽くし、更には経験を重ねたことで表現される合理性。
 それは一種の芸術作品のように美しい。
「今の私がどこまでやれるか……私に遠慮は無用だ。思いっきり羽ばたいていけ!」
 小手先の技術でどうにかなる相手ではないからこそ、全力で行く。
 フリッツの叫びに応え、パジャモは更にスピードアップしていく。
 全力を出す。そうすれば結果はどうあれ、次に生かせるはずだ。
「速度を妨害しても更に早くなるのか……すごいな」
「ああ。さすが、寮長を任されるだけのことはある」
 あっけにとられる武蔵介。京四郎と共に後を追うが、なかなか追いつけない。
「寮長さん……速い、します……ですっ」
「悪いな。新入生に負けたら沽券に関わる」
 先頭のMarisにスっと追いついてしまったシャルル。
 ぐんぐん進むパジャモ達の前に、ゴールでもあるスタート地点が見えてくる。
 Marisは全力を出しており、その速度は並の天空騎士を圧倒していた。
 だがそれよりもさらに、シャルルの方が上手だったというだけである。
「ゴールイン! 優勝は寮長、シャルル!」
 判定を下す声に僅かに遅れ、Marisが着地する。
「プテちゃん……かこいい、お見せする、したかった、です……」
 がっくりと肩を落とすMarisに、背中越しにシャルルが語り掛ける。
「本気の俺に並びかけたんだ。そのパジャモをよく労ってやれ」
 シャルルはこの学園で最も優れた天空騎士と言っても過言ではない。
 寮長に敗れることは恥ではない。むしろ、内容としては十分すぎる成果である。
 ……と、シャルルは背中で語り、そのままどこかへ飛び去って行った。


●天空を往く
「――ふむ。今日はこんな所か。飛行騎乗の要領は早めに押えねばな」
 レースの結果としては上々。
 優勝できなかったとしてもきちんと完走できて、順位も悪くないなら十分な成果だ。
 フリッツは自分の中でそのように結論付け、パジャモをいたわる。
「むーーーっ! 次は、負けないんだから!」
 一方、対照的に美夕は悔しさを爆発させていた。
 妹分の結梨にあと一歩のところで敗れてしまったのだ。
「結梨ちゃん、次は負けないからね!」
「それはどうかな~? ねー、ウェスペル?」
 怪我がないか等のチェックをしつつ、愛鳥を撫でる結梨。
「せっかくだし、みんなをご飯に誘おっか」
「いいね。タイガにも声かけよっかな?」

「今回は楽しかった。また一緒になったらよろしく頼むよ」
 レースを終え、透夜は愛鳥を労う。
 優勝は逃したが、パジャモで飛行する経験を積むという目的は達成できている。
 学科を決めるためのオープンスクールとしては十分だろう。
「ふふっ、ありがとね。よぉ~~しよしよしよしよしよし……って、うわー!! こっち見んな!!」
 パジャモを撫でまわしまくっていた志馬子が人目を避けるように周囲を威嚇する。
 この鳥の可愛さにメロメロなのは志馬子だけではないので、別にそんなに周囲を気にする必要はないのだが……。
「そこはほら、プライドってもんよ」
 等と供述していたとか。

「パジャモ、おつかれさま~」
 最初から急ぐつもりゼロだったブリジットは、無事に事故なく完走。
 十分に空を飛ぶ感覚を楽しんだ後、パジャモを労った。そして……。
「ふぁ、ぅ……なんだか眠くなってきちゃったぁ……えへへぇ~……♪」
 大きなパジャモの身体に沈み込みながら、寝息を立てるのであった。
 成体のパジャモも寝るのは大好きで、足を折りたたんで大きなクッションのようになった休憩ポーズは、ブリジットをふかふかに包み込むのであった。

「今日は見学させてもらってありがとう。とても楽しいひと時だった」
 雪花が挨拶すると、シャルルは『ああ』とだけ返事をした。
 基本的に咎人そのものとの関わりにはさほど興味がないらしく、パジャモが絡まない会話でシャルルとキャッチボールは期待できない。
「シャルル、質問してもいいかな?」
 武蔵介が質問したのは複数の学科に所属することだった。
「生徒は基本的にひとつの学科に所属する。だが、これはそうしなければならないというルールがあるのではなく、普通はひとつの学科の内容を学ぶだけで手いっぱいだからだ。お前たちは見たところかなりの素養がある。複数の科を跨いで学んでも問題はあるまい」
「ありがとう。その場合、寮は好きなところでいいのか?」
「ああ。都度引っ越すのも面倒だから、部屋は地に足着けることを推奨するがな。学科の対抗戦と寮には直接的な関係はない」
 話を聞いて、武蔵介はますます天空学科に興味を持ったようだ。
「京四郎も大牙も居るなら天空学科の寮に入ろうかな……ってことでいい?」
「ああ。俺はこの学科にする予定だったし今決めてよければ俺も入寮を希望したい」
「構わないが……くれぐれも問題は起こすなよ」
 シャルルの顔には『面倒くさい』と書いてあった。
 寮長としての役割をこなすが、それはそれとして、人付き合いが苦手なのだろう。

 こうして天空学科のオープンスクールは無事終了となった。
「俺も天空学科にしとくか……他に選択肢ないしな……」
 というわけで、大牙も天空学科に属することになったことも、付け加えておく。



(執筆:ハイブリッドヘブン運営)

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