クイックシルバー 2.5章 この闇夜を救う女神よ
月宵
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シナリオ形態
ショート
難易度
Hard
判定方法
エキスパート
参加制限
総合600以上
オプション
参加料金
100 SC
参加人数
4人~8人
優先抽選
50 SC
報酬
300 EXP
5,000 GOLD
10 FAVOR
相談期間
5日
抽選締切
2022/05/30 10:30
プレイング締切
2022/06/04 10:30
リプレイ完成予定
2022/06/21
関連シナリオ
  1. オープニング
  2. 相談掲示板
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ
 窓ガラスからのオレンジ色の斜光に染まる廃工場。連続殺人鬼クイックシルバー(略称QS)と凶悪な強盗犯とその取り巻き、そして不可視の狂信者。
 QSを知る人物ならば知っているはずだ。
 これから行われる殺戮を…
 
 ●有為転変

 ガッシャアアン
 
 盛大に割れる窓ガラス。蒼いいつものリングコスチュームを纏い、腕をクロスさせ、桜庭愛(ma1036)がリング(廃工場)にあがる。
 
「私の名前は桜庭愛。こーみえても女子プロレスラー」
 乱入者に戸惑う取り巻き達。当たり前だが、目立つ目立つ。無論、これは目的でもあるのだ。

「まぁ、そんなウソの女神よりこの美少女レスラーを信仰しなさいよ」
 出番前、愛は少しムッとしていた。偽りの女神にしか、目が行かない老人。
 彼女にはわからない。何故!?此処に『美少女レスラー』がいるのに。
 
(狂信者のお爺さんの目を覚まさせないといけないのです)

「そうか、あの気配はこっちかぁ」
「……………」
 が、彼女の効果が聞いたのは取り巻きのみ。強盗犯は物怖じせず、QSに関しては無視である。
 勿論、怪しさ抜群の愛に狂信者が姿を表すワケもない。
 愛を皮切りに、続々と他の咎人も工場へと侵入を行う。

 どこからともなく弦を弾く音。
 
 気付いた取り巻きの一人が、矢を『運良く』回避し、QSのいる中央から後退させる。
 その行動は窓の外から正射必中の構えで待ち構えていたエレノア・ハーベスト(ma1133)にとって、運悪いことこの上なし。
 が、目的はこなせた。なるべく、QSに強盗犯達の瞬殺をさせぬ位置に誘導は出来たようだ。

「斯様な場所に子供がうろつくとは面妖な」
 
 全体を見渡しつつ、レティクル越しに彼女は、未だに視線を必死に動かす子供を見ていた。
 
「何かを探しておるのか、何かがみえておるのかはてどっちじゃろな」
 

 高柳 京四郎(ma0078)は、普段以上に感覚を研ぎ澄まし視線を右往左往させる。探すは、姿を眩ました狂信者。
 
「いないな、もっと奥かな」
「さて、闇と共に歩きましょうか。血の雨が降る前に」
 
 窓から上空よりその背中の翼で舞うは、ソテル(ma0693)。
 誰よりも、高くそして客観的に視線を配る夕暮れの一番星はQSを眺めた。

 彼の話は聞いていた。が、ソテルから言えば恋愛など生殖器の付属物。QSなぞ、システムエラーの類いと言ったところか。が、それを非難する気なぞ毛頭ない。ソテルは、退屈せず面白ければ、それで良い。

 割れた窓より、くるりと一回転し姫小路・由梨(ma0849)が分身達の目の前に着地する。
 これまたリングコスチュームを纏いシルバーのカールした髪を一払いQSへと告げる。

「ごきげんよう♪QSさん☆」

 そんな由梨の正面より、QSの分身が距離を詰める。その手は変形しており、電磁力で工場の金属片を集め高速で回転させている。
 そう、まるでチェーンソーの様に唸りをあげて彼女に迫る。

「お待ち下さいQS」
 その声と姿に、今まで沈黙をしていたQSの表情に変化が起きる。自ら傍らへと、いつの間にか現れた見知った顔である川澄 静(ma0164)には彼の攻撃の手は動かなかった。
 
「何、邪魔しに来たの?」
「そのつもりは御座いません。ですが……」
  と、更に声を小さくQSの耳を拝借する。
 『この廃工場には子供が隠れている』その事実に、一瞬は驚きを目を見開くも、瞬間、わいた疑心に口元をきつく噛み締める。
 敵対したこともあるのだから、当然だろう、と静も思う。だからこそ、彼女は目線で子供の居場所を示唆する。
 そこで漸くQSも納得をしたのか、スキルを中断する。
 先ずは、初手完了と言ったところか、と静は胸を撫で下ろす。

「わかった、ならアタシもなるべくあいつらの注意を引くように動くね」

 ●
 雑多と混沌が支配する中央。一体何が起きている、なんて少女にはわからない。ただ恐怖と不安、それだけしか今は手元に残らない。
 いきなり目の前に少し歳上の金髪の少女が、その後ろから大柄なグラサン姿の大男が現れ、驚愕に声を出しそうになる。
 
「マリエルといいます。私は敵じゃありません。あなたを助けにきました。ほら危ないものはもってませんから……」
「おぅ、大丈夫か嬢ちゃん。もう安心していいぞ、俺達が来たからな」
 マリエル(ma0991)は自ら口に指をあて、シッと沈黙を願う。その手には確かに武器はない。
 一方で、麻生 遊夜(ma0279)は少女に視線を合わせるようしゃがんで話を聞く。
 
「それでどうしてここに? 何か探してるみたいだったが」
「あのね……かくれんぼ、ここ。けど、まだユウちゃんが……」
 嗚咽混じり、で少女の言葉は聞き取りにくく要約すると、こうだ。
 自分達はかくれんぼをしていた。ここは人気もなく隠れ場所が多いから、最高の場所だったらしい。
 
 だが、強盗達とQSが来たために急いで自分はとどまり、同じく隠れているユウと言う友達を探していた、と言うことだ。
「つまり、もう一人いるわけですね……わかった、お姉ちゃんが探してくるよ」
 こくり、少女は目に涙を浮かべつつもしっかり頷いた。
 そう柔らかくマリエルが伝えれば、瞬時に通信にて遂行者の顔つきに戻る。
『アルベリヒさん、状況は?』
『静が伝えてQSの子供への被害はなくなった。だが、狂信者は見つかっていない』
 
『子供は保護した、これより避難させる。他の反応はこの辺りにはないな』

 
 そう遊夜が応える。ただの人探しではない。不可視と隠れた子供を見つけなければならない。その為ある程度、場を凝視し吟味するため普通に場を見渡すより狭い範囲を長く探すことになるだろう。
 
 こうして、連絡通信を終えた三人。マリエルは再び、スポットワープⅡで瞬時にこの場から去る。

「俺達もここを離れようか。そうら、これは御守りだ」
 それは遊夜が渡すにはあまりに似合わない、花の模様のついたウサギのぬいぐるみだった。
 だが、少し少女はそれに安心したのか、少し顔を綻ばせた。

「よし、慎重にな」

 ●
「怯むな! 何人いようが殺っちまえば一緒だろぉ!!」
 煩わしさしか覚えていない強盗犯は、取り巻きの一人に指示を出す。その力は彼の足元へ、満足そうに男は笑む。

「では、そちらをいただいてワタクシは失礼致しますよ。我が女神」
 
 聴こえるは、狂信者の恭しき嗄れ声。強盗犯の強化を一瞬コピーするため姿を表し、そして一瞬にて姿を消す。
 
「早いです!? 一瞬でしたよ」
「やっぱり、此方から探さないと駄目みたいだな」
 しかも、厄介なことに移動速度も上がっている筈だ。

「余所見してるヒマあんのかぁ!?」
 硬質化した拳を地面に振り下ろし、強盗犯が地面へと衝撃波を放つ。QSと辺り一体の咎人を巻き込みその体勢を崩す、筈だった。
「させません」

 ガキンッ
 静の逢魔神銀の一喝で、出現した壁に攻撃は吸い込まれ、更に呪法と化してを強盗犯へと技を跳ね返す。
「煩わしいことすんな!」
 が、それは効くとこかなわず、と言ったところか。
 
「お覚悟は……よろしくて?」
 満面の笑みで、由梨が強盗犯へと一気に接近、飛び込みからのドロップキックを見舞う。いかつい顔に迫る鋭い刃。

 ガシッ
 しかし、それは逆に足首を掴まれ、そのまま地面に縫いつけられる。
「クッ……このわたくしが他人から寝技を食らうなんてっ」
 抜け出そうと身を振ってもがくが、抵抗むなしくガッチリ嵌まってしまって簡単に抜け出せそうにない。
 
 プロレスラーにはまさに屈辱の所業。目の前を強化された拳が通り過ぎる。
「チッ、外したか」
 殴りつけた床には大穴が穿たれ、由梨は息を飲む。

 ●
 発砲音が一斉に鳴り、QSの分身の一体を取り巻き達が狙う。だが、銃を纏う光弾を悠々と避け、それは無傷で浮遊していた。
「くそ、バケモノ何じゃじゃないか!?」
 
(奴のスキルやらは気になるが…まずは子供が先、次にあの老人だ)
 翻弄される取り巻き達の背後。遊夜はボディーガードを持ちいて、少女と脱出の隙を伺っていた。

「よし、今だ」
 少女はぬいぐるみを抱き締め、二人は走り出す。
 なるべく早く、だが勘づかれず静かに……それを気にしすぎたのかも知れない。

 ガシャッ
 
 遊夜の足が『運悪く』積み重なった段ボールに当たり、崩してしまう。
 
(まずいっ)

 当然の騒音に三人の取り巻きが遊夜に気付く、彼は咄嗟に少女を背中に隠した。この自分のがたいなら、背後の存在には気付かないだろうと踏む。
 取り巻き達は振り向き、新たな存在を知らせるために口を開く。

 それが運のつきだった。
「そうは問屋が卸さぬわ」
 エレノアの矢が取り巻きの一人の背後を居抜き、シールドを割る。そのまま追加で一発。だが、その弾道は外れてしまう。

 ガツッ
 次の瞬間。取り巻きの腹に風穴が空くのを遊夜とエレノアは確認した。
 
「っ……がはっ」
 
 そして事切れた。QSの分身の一体が、鉄の固まりを弾のように発射し、それが取り巻きの腹部を貫通したのだ。
 分身達の猛攻は終わらない。また一人鉄の破片でシールドが割られれば、他の分身がその辺りの金属の塊を磁力で圧縮し、まるでモーニングスターのように扱う。

「ヒッ……や、やめ」

 ドンッ

「お、おじさ何が……」
「見るな、嬢ちゃんは見ない方が良い」
 グシャリ。嫌な水音に遊夜は眉をひそめる。あまりに圧倒的な力で、QSは取り巻き達を捩じ伏せる。
 ただ佇むQSのワンピースには、その惨状に似合わず純白を維持していた。

「行くぞ、向こうで仲間と合流して脱出だ」

 ●
 ガシャン
「京四郎さん……」
 黒戒の影で潜みつつ観察をしていたソテルは、傍らの京四郎を横目て眺めていた。
「……何も言わないでくれソテルさん」
 感覚を研ぎ澄まし、遠くを眺めた結果『運悪く』足元を疎かにし、京四郎は目の前の金属片にけっつまずいたと言うお話。
 これでは、狂信者の情報は難しい。余ってしまった黒紋縄は強化された強盗犯辺りに使おうか、とソテルは思案する。

 静はマジックポッドを用いて、即座にマッドハンドを唱える。指定位置は迷ったが、他の咎人達が調べていない背後の辺りに呪いを撒く。
 闇に誘う手が、静にそれを教えてくれる。まるで、手招いてくれるかのように。
 静は耳に手をあて、即座に周りに聴こえぬ声で通信で伝える。

『私から見て丑寅の方角。最初からそこに居たように感じます』

 ●
 その情報はマリエルの耳にもしっかりと届いた。彼女は言われた場所までワープする。そこには、詰まれた空段ボールの山。
 
「……義眼「オーディン」限定起動」
 
 金色の瞳の瞳孔を開けば、搭載されたレンズが自動でピントを合わせる。
 段ボールを透かしたその影、確かに一人の男の子がいた。

『いました! 恐らくこの子がユウくんです』
 ユウと思わしき幼い少年は、こんな状況だと言うのに寝息をたてていた。

 若干気が抜けたが、マリエルがほんの軽く揺すると、パチリと目を開けた。

「あー、みつかっちゃった?」
 まだ、寝ぼけているらしい。彼はまだ少女より幼いようだ。詳しく説明しても、まだわからないかも知れない。
 ならば、とマリエルは柔らかな微笑みを浮かべてこう言う。

「うん、みんな集まっているよ。ここ、ちょっと危ないから。お姉ちゃんの力で出よっか」
 力? と一瞬首を傾げるもまだ眠いのかユウは目を擦りつつも、コクりと頷いた。

『では、私は彼と先に脱出致します。皆様もお気を付け下さい』
 こうして、マリエルとユウは手をつなぎこの工場の外へと無事脱出するのであった…

 ●
 一人目の脱出を完了させ、残すは遊夜が守る少女。そして、狂信者の発見を残すのみとなった、

 由梨は未だ強盗犯の拳から抜けられず、その指に肘を何度も打ち立て少しでもダメージを稼ごうとするが、強化された拳には蚊ほども入らない。
「こんなこと、って」

 パキパキ、由梨のシールドを砕こうと段々と強盗犯の握力が増していくのを彼女は感じる。思い出すのは、彼の男の、足を捻り切ると言う行為。
 
 焦りに周囲を見渡せば、背後にそれはいた。
 QSはただ、強盗犯の背中に手のひらを伸ばす。

 バチリ
 彼を護っていたものを一瞬にして破壊すると、流石にその拳を由梨から離した。
「感謝いたしますわ」
 素早く体勢を立て直す由梨。QSはそれ以上強盗犯に何かをすることはなかった。
(なんて力なんですの)
 一体今まで、彼はいくらの痛みを与え続けていたのだろう、そう考えると由梨は肌があわ立つのを覚えた。

 が、そのQSの力に静は少し違和感を覚えた。
 前戦った時より遅い?
 それに戦いの最中、彼自身のシールドも微かだが薄くなっているようにも思える。
 もしや、分身を維持するとシールドや、QS自身は若干弱体化するのではないだろうか、と彼女は考えたが。

(鏡華さま、今日の私たちは貴方よりも優先すべきことあるので……)
 何よりも子供の保護を優先する。そして、マリエルからの通信を終えた直後、それは呪いの中に侵入した。

「これより戌亥の方角、あれこそが狂信者です!」
 自ら役目はこれで終えた。後は、少女を自分が迎えに行くだけだ。こうして、静はいち早く戦線を離脱した。

 ●
「おじさん、ぬいぐるみ貸してくれてありがとう」
「ああ、気を付けてな」
 やがて、静が遊夜と少女を迎えに来た。遊夜が少女の手を放すと、泣きはらした笑みを浮かべつつもバイバイと手を振って見送った。
 二人が消えたの見えば、安堵しつつも、まだやることがある、とその場から駆け出した。

 ●
 指を向けられた方向に京四郎から見えるものはなかった。だが、今は信じるしかない。
 
 「ソテルさん。捕縛の行動は任せてくれ」
 
 先制ノ書にて一気に加速し、誰よりも早く、そのシールドを変質させた鎖を投げつけた。
 が、実体のない鎖は見事弾かれてしまう。
「くっ、ダメだ」

「まっかせなぁさいっ!」
 シールドバッシュ、と言う名の愛のパンチが空間にいる何者かに刺さった。
 
「うぐっ」
 シールド破壊まではされなかったものの、その衝撃に倒れ老人は姿を表す。みすぼらしい、この東京ならどこにでも居そうなありふれたホームレス。違うと言えば、手にある古い火傷くらいなものか。

「逃がしはしません」
 ソテルのダブルクロスが、くの字に曲げたその身体に呪いを刻む。
 慌てて、狂信者は再び消えようとするも、その術は呪いによって打ち消される。

「さぁ、楽しい尋問の始まりですよ。覚悟なさいよ」
 愛に寝技を決められ、狂信者はなくなくタオルを投げた。そこに、遊夜がやって来たのはこの捕物帖が終わってからのこと。

「おぅ爺さん、随分と探したぞ。悪いがちっと話に付き合ってくれや」

 ●終焉
 先程、全ての子供を救出し終えたと、QSに告げると『もう、良いよね』と彼は呟く。

「一気に終わらせるから」
 この工場の隅っこか、外に逃げた方が良いよ、と今から『殺』る事を咎人に告げた。
「けど、咎人はシールドあるね。一撃だから大丈夫かな」
「それならば、わたくしと共にツープラトン致しませんこと?」
 プロレス用語で意味はわからずとも、由梨の協力の提案に『勝手にしたら』とQSは了承した。

「舐めやがって、このアマがぁ!!」
 罵声をぶつける強盗犯だが、その強化の効果は切れたのか、空をきり勢いはない。
 
 新たな強化をいれようにも、残った取り巻き達のシールドは分身に一瞬にして砕かれた。
 QSの周りに雷電が渦を巻くのを見て、由梨を除いた咎人達は、それぞれ避難をする。

「花びらが舞うように優雅に、時に獣のように獰猛にっ」
 大男の脛に白花舞い散る一撃を加え体勢を崩せば、そのまま寝技に突入する。
 腕を首に巻きつけ、全体重を相手へと預けてチョークスリーパーをかける。
「こ…この…殺してや゛」
「QS今この時で――」

 瞬間、刹那、この際どんな言葉でも構わない。QSの手元で白い球が弾けて由梨の目の前にはひたすらの白が広がっていた。
 パリン
 自らシールドが飴のようにくたけた音を彼女はどこかで聴いた。

 ●
 全てを終え、各自別行動をしていた。マリエルは、QSの最後の攻撃で受けた由梨の火傷を薬で治している。
「うっ、これは名誉の負傷ですわ」
 
 京四郎と遊夜、そして愛は捕獲した狂信者に話しかけていた。
 逃走をはからぬ様に、チェーンロックを幾度と重ねがけし、更に愛のトルマリンショック(寝技)で固めている。
 が、狂信者自身のシールドのせいかあまり効いている気はしないが。

「狙った様に現れたがQSの居場所とか解るのか?」
「ヒヒヒ、ええ。ワタクシと女神は運命で繋がっているのですから!!」
 不気味な笑いを上げながら、自分は前にオヤジ狩りにあっていた所をQSに助けられたと言う。
 
「その時ワタクシは気付いたのです! あの美しき女神を導くために、ワタクシは産まれてきたのだと!!」
「嗚呼、この闇夜を救う女神よ」
 聴いてもいないのに、心酔するがの如く空を眺めて狂信者は語る。

「大人しくしろ、全く変なじいさんだな」
『京四郎。この老人に聞きたいことがあるんだが……』
 通信で入ってきたアルベリヒの声を京四郎は拾い、わかった、と頷いた。

「狂信者。何故QSに関して詳しいんだ?」
 京四郎は、アルベリヒが話した話を繰り返す。女性と変わらぬ見た目のQSを『彼』と彼と呼んでいる。
 それは、つまりQSを男性と知っていると言うことだ。
 
「何で男と知っている? QS本人から聞いたとかか?」
「…………」
 狂信者はそれに関して何も応えなかった。それこそ、如何なる虚言も吐けた筈なのに、何も言葉を残さない。それは、愛がどれだけ技をかけても、遊夜が脅しをかけても変わることはなかった。

 工場から出てきたQSは静へと視線を向け一言。
 
「子供は大丈夫なの?」
「はい。一応、彼らに怪我がないか看護師の方をマリエルさまが呼んできてくれました」
「そう……ありがとう」
 一瞬だけ安心した笑みを向ければこの場を去ろうとするQSを静はひき止めた。

「鏡華さま、アルベリヒさまを殺そうとする理由次第では協力できるかもしれませんから、理由を話してくれませんか……?」
 
 QSはどこか諦めたような笑いを浮かべ、首を横に振った。この度にキラキラとシルバーのチョーカーが煌めく。
 二人の傍らで、ソテルも話を聞いていた。
 寝て起きたら世界が終わり咎人になっていた身としては罪を重ねればなんて話は酷いデマだ。それを言ったとしても、QSの考えが変わることもないのだろう。
 きっと、この世界で咎人が新たに生まれる、なんて先ずない気もするが、頑張るならそれは応援はしたいところだ。例え、無理難題としても。
 
「断る。きっとワケを聞いてもわからないし、もし知りたいならそっちのアルベリヒにでも聞いたら?」

 それだけ皮肉を告げて、雷と共にQSはこの場を去った。
 
「咎人には死が不可欠、QS君は殺されたいのかも知れませんね」
 
 ハァ、とアルベリヒの溜め息が聴こえてくる。無論、さっきの話は彼も聴いていた。
 
『静。作戦の一つと見て聞き流すが、俺は死ぬつもりはない。まだ、記憶も戻ってはいないからな』
『アルベリヒさまは鏡華さまをどう思っていらっしゃいますか?』
『わからない。ただ、何故か彼に悪い感情は抱かないな』

 殺されかけ今も命を狙われていると言うのに、と複雑な感情を彼は吐露する。
 静は考える。どうにかして、彼の心の闇を知り、救うことは出来ないのだろうか、と。
 
 ところで、と通信にソテルが割り込む。

『アルベリヒ君って幾らで買えますか?』
『……きみは何が言いたいんだ?』
『ふふふ、ちょっとした冗談ですよ』

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